第十一話 悪魔と天使と新人魔法少女 その10
「ほほう、麻呂の愛用の琵琶に勝るとも劣らぬ見事な出来栄えの琵琶が飾ってあるでおじゃる」
「おお、兎がしゃべった! つーか、俺を元に戻してくれよ!」
「おおうっ! 琵琶から手足が……に、人間の顔もある!」
「こりゃまた滑稽だねぇ、クククク」
「ああ、琵琶の顔なんだが……ぬ、沼倉じゃないかー!」
「ムムム、誰だよ、お前!」
「俺っすよ、沼倉! お前のダチ公の安田靖彦だ!」
「嘘をつくな、バッキャロー! 俺のダチ公のヤスは男子だぞ! お前みたいなちんちくりんな女のコのダチ公なんていねェェ~~!」
「うーん、これには色々と事情があってなぁ……」
「なにが事情だよ! うおおお、こんな変な姿で人前に出られりゃしないぜェェ~~!」
さて、ヴィジュアルバンド部の奥にある部屋――楽器倉庫と化している旧校長室に、私達は足を踏み入れる。んで、そこで奇妙な生き物と出会う。手足の生えた人間の顔のついた楽器の琵琶って感じの生き物だ。どうやら、ヤスの友人こと沼倉が、楽器倉庫内に保管されていた琵琶と一体化しちゃった存在のようだ。しかし、誰の仕業なのかしらね?
「馬夫、アンタの仕業ね?」
『知るか! 俺はなにもしていねぇよ、ブルル!』
「あああ、その声は師匠ではありませんか!」
「え、師匠!? つーか、ここから出してくださいよ。アンタはすっげぇ悪魔なんでしょう?」
『いやー、無理だねぇブルル。お前をその琵琶と分離させることはできるのは、きっとマジカナだと思うぜ。一体化しちまったのは、多分、アイツの仕業だと思うしな、ヒヒヒン』
ヤスの友人こと沼倉を琵琶と一体化させたのも、馬夫こと音楽の悪魔アムドゥスキアスを旧校舎内に召喚した元凶であるマジカナらしいわね。てか、手足の生えた楽器の琵琶という外見の怪生物……いやいや、沼倉が馬夫のことを師匠って呼んでいるわね。
「おいおい、あの悪魔と知り合いなんすか!」
「悪魔って言うな! 師匠は、スランプに陥った俺を救ってくれた恩人なんだ!」
「へぇ~、師匠ねぇ……」
スランプに陥った沼倉を救った恩人でもあるねぇ。馬夫は悪魔のクセに、悩める人間に手を差し伸べるとか、実はイイ奴なのかもしれないわね。
「ウフフ、琵琶太郎さんの身柄は預かっておきましょう。マジカナを捕まえたら、琵琶と分離させてもらいましょうかネ」
「お、お願いします! てか、琵琶太郎ってなんだよ! 俺は沼倉卓也だァァ~~!」
「ん、そういえば、妖怪に似たようなモノがいたような気が……」
「沙希、琵琶牧々(びわぼくぼく)のことじゃないかな?」
「そ、そうそう、それよ……多分!」
琵琶牧々って妖怪は、頭が琵琶で身体が法師って感じの妖怪だったわね? ヘルメスに教えられて、やっと思い出したわ。確か、付喪神の一種だったわね。
「ウフフ、悪魔ホイホイ君が新しい悪魔の居場所を探知しましたヨ! 旧校舎三階の視聴覚室にようですネ」
「旧校舎三階の視聴覚室かぁ、あそこは自主制作アニメ部の部室だったかなぁ?」
「へえ、そんな部活まであるのかよ、沙希!」
「ウフフ、私が顧問を務める歴史の裏舞台部のようなマニアックなジャンルの部活ですネ」
「そ、そうですか? あ、そういえば、自主制作アニメ部の部長の若本さん達は、最近BLにはまっているらしいわ」
「う、うえぇ、男子には近寄りがたいジャンルだなぁ」
「あ、私が大好きなジャンルだ! フフフ、男同士の友情が深まって……ムグムグ!」
「だぁー、ディオニュソス! それ以上は言わない!」
ん、私の愛用のタブレット型パソコンにインストールされている魔法少女専用アプリのひとつである悪魔ホイホイ君が、ズギュウウウンと反応を示す。マジカナって輩によって召喚された悪魔その2の居場所は、どうやら旧校舎三階にある視聴覚室のようだわ。
「な、なんてハレンチな部活なんです! 不健全ですね!」
「うーむ、人の趣味にあれこれケチをつけても仕方がないと思うんですけど……」
「あの部活は私が学生だった頃からある部活ね。そういえば、特撮ヒーロー部も、まだあるのかしら?」
「そんな部活がありましたね。確か、生徒会のコ達に新校舎から追い出された部活一覧の中に――」
「アハハ、生徒会の連中ににらまれると新校舎から追放だもんねー……ああ、思い出した! 某特撮ヒーローのような衣装を身に着けた連中が、私達が今いる旧校舎二階にある理科室に入っていくのを見たわよ」
特撮ヒーロー部って部活もある。ここはホントにマニアックな部活が多いわ。
「あらあら、ウワサをすれば影ってヤツですネ」
「青い特撮ヒーローっぽいスーツを着たデブがいますね、姉様」
「おいィィ! 聞こえたぞ、君達ィィ~~!」
「じ、地獄耳ね。あ、同じクラスの阿部クンじゃん」
ウワサをすれば影ってヤツね、ホント。さて、いかにも特撮ヒーローが怪人等と戦う際に着るメタリックな戦闘服って感じのスーツとヘルメットという格好をした巨漢クンが、ズンズンと私達のもとへやって来る。丁度、ウワサをしていた特撮ヒーロー部に所属する私と同じ二年B組に在籍する阿部力也だ。あ、彼は極度な特撮ヒーローオタクらしいわね。それが高じて特撮ヒーロー部を立ちあげたっぽい。
「ダサッ! それに格好悪い!」
「ガ、ガガガーン……だ、だが、自主制作アニメ部の若本に頼まれたんだぜ! 俺をモデルにしたアニメをつくりたいって!」
「ほう、それは気になるわね」
「戦え! デブレンジャー……とか?」
「ツ、ツチグモ、てめぇ! つーか、女装を始めたのか、お前? あ、一緒にいる白いワンピのコ……可愛い~☆」
「う、女装じゃねぇ、これには事情があって……」
「ヒヒヒッ! いいって隠すなよ。しかし、女装が趣味だったとは意外だぜ、クククク……」
「わ、笑うな! 証拠を見せてやる!」
「ほう、面白ぇ! 見せてもらおうじゃん!」
「はいはい、そこまでー!」
女装じゃなくて、本当に女のコになっちゃってるのよね、ツチグモは――って、言ってところで理解できないだろう。さて、阿部クンはディオニュソスに一目惚れしたっぽわね。あ~、コイツは見た目は女のコだけど、実際は男子なのよねぇ。それを知ったら、どういう顔をするか見物かも~☆
「アハハ、私が可愛いって? 嬉しいことを言ってくれるじゃないか~☆」
「あ、そうそう、阿部クンが可愛いって言った白いワンピのコだけどさ……男子だよ」
「な、なにィィ! 嘘だろ、おい!」
「嘘じゃないよ、フフフフ、その証拠を見せてあげよう!」
「わ、コラ! スカートをたくしあげちゃダメ!」
「む、むぅ……おお、そういや、自主制作アニメ部の若本達が部室に入れないって騒いでいたぜ。誰かが内側から旧視聴覚室のドアに鍵をかけたっぽいぜ」
「視聴覚室の内側からドアに鍵をかけた奴がいる!? まさか……」
ムムム、阿部クンの話が本当なら、悪魔の仕業かもしれないわね。旧視聴覚室こと自主制作アニメ部の部室から、ズギュウウウンとなにかしらの悪魔の反応があるからね。ほらほら、悪魔ホイホイ君がメチャクチャに反応しているし――。
「悪魔の野郎は自主制作アニメ部の連中を追い出して、あそこに固有結界を張ったのかもしれないな」
「そうだろうね。下手に開けて取り込まれたら大変だわ。さっさと行きましょう!」
「はいっす! 悪魔の野郎をさっさと捕まえるっす!」
悪魔の旧視聴覚室内に固有結界を張りめぐらせているかもしれないわね。うーん、また奇妙な世界が、あそこに――と、それはともかく、私ら以外が悪魔の固有結界の中に入り込んだら大変だわ。さっさと旧視聴覚室へ行かなくっちゃね。
「なんだか面白そうな話をしていたな! こっそり後をつけてみるか――」
ムムムム、阿部クンをこっそりついて来たわ。とりあえず、知らないフリをしておくけど、いざとなったら魔眼で阿部クンの気絶させよう。一般人が関わってはいけない世界が広がっているのだから――。




