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第十話 失われた記憶を求めて! その20

「う、神血ってチョコレート!?」



「かもしれない。甘くて美味しいし~☆」



「うわああ、どうでもいいがすごい量だぞ! 身体がチョコレートだらけだ!」



「そういえば、犬科の動物には毒だったね、チョコレートって……」



「「な、なんだってー! うわああああ」」



「な、なにぃ! それを早く言え! 食べてしまったじゃないか!」



 青銅巨人の血液は、甘くて濃厚な液体化したチョコレートかもしれない。な、何故、不可解だわ……あ、でも、美味しい~☆ さて、妖怪とはいえ、狼姫と皇狐は犬科の動物の狼と狐の姿をしているわけだし、チョコレートは毒になるんだろうか? あ、そういえば、アポロンはフェレットだったわね。そんなフェレットにも、確かチョコレートは……。



「沙希ちゃん、発見! どこへ行っていたのさぁ!」



「まったく、人騒がせね!」



 ん、茜とサマエル、それにキョウタロウとリュシムナート、河馬のタウエレトの背中に乗った愛梨とエミリー、それにボロボロにされたタヌキチがやって来る。ん、そういえば、愛梨と合体していたアヒルのアフロディーテがいないわね。愛梨の身体から分離して、どこから行ったのかしら? 



「あ、メーディアさんがやられたワン!」



「うわー、メーディアさんの青銅巨人が動かなくなっているしなぁバウ」



「「「うわあああ、ボスがやられたワオーン!」」」



「アハハ、ご愁傷様ですってところね、ワンちゃん達」



 アナタの犬ですって都合のいいことを言っていたエミリーと柴犬のサクラ、綾崎酒店の主こと綾崎麻衣さんも……うわ、サヴィアとミラ、それに猛犬隊のオネーサン達も一緒だ!?



「ねえ、なんで猛犬隊のオネーサン達までいっしょなのさ?」



「うーん、これには深いわけが……」



 ま、まあ、それはともかく、茜達が無事で良かったわ。さてと、ディオニュソスに改めて――。



「単刀直入に言うわよ、ディオニュソス!」



「ん、なに? 急にシリアスな展開になりそうな物言いをしちゃってるけど?」



「シリアスな展開とか、そんなのどうでもいいわ! 実はつくってもらいたいモノがあるのよ!」



「何々? もったいぶらずに言ってよ!」



「うん、言うわ――遼丹をつくってもらいたい! 時空を遡れる秘薬を――っ!」



「あ、それなら持ってきてるよ」



「え、持ってるの、遼丹を!?」



 キッと私は鋭い声で遼丹(リャオタン)をつくってほしい! と、私はディオニュソスに頼む――え、持っていきている!?



「ちょっと待ってね。ええと、確か、ここに……お、あったあった~☆」



「う、なんで、そんな場所に!?」



「フフフ、細かいことをいいんだよ。あ、ワンピースのスカートのどこに隠し持っていたのか知りたくはないかい?」



「う、激しく遠慮します!」


 ん、ディオニュソスは着こなす白いワンピースのスカートの中に左手をズボッと突っ込むと、青い丸薬っぽい物体が入った小さな小瓶を取り出す……ちょ、なんでそんな場所に!? ふ、ふうう、私は思わずゾッとしてしまうのだった。



「ええ、遼丹! 私も欲しいっ!」



「む、メーディア!? アンタも遼丹を欲しいわけ?」



「もちろん! 私をそいつが欲しくてずっとずっと探していたのよ、ディオニュソスさんを!」



 メーディアは元気そうだ。まったく、しぶといなぁ――と、そんな彼女も欲しているのか、遼丹を!?



「メーディア様、確か過去に戻って忌々しい姉上を抹殺するのが目的でしたっけ?」



「う、うん、それもあるわね!」



「忌々しい姉上? ああ、あのオバサンのことか――あ、メーディアさん、オバサンだったね☆」



「うううう、うっさいィィ! 三十二歳は、まだオネーサンの領域よ!」



「ハハハハ、なんだからよく判らないけど、遼丹を使ったら、どうなるか知らないのかぁ~?」



「わ、判るわよ、そんなこと! ティンダロスの猟犬が襲ってくるんでしょう?」



「え、ティンダロスの猟犬ってなに!?」



 メーディアが遼丹を求める理由は、忌々しい姉――アウストリア・ネフレンカスをこの世から抹殺することらしいわね。でも、この人は馬鹿だなぁ、遼丹を使った場合、訪れる悪夢がどんなものなのか知らないっぽいし……。



「覚悟ならあるわ! それにコイツがある。なんとか切り抜ける自身はある!」



 私には覚悟がある! 悪夢の道を――次元の法則を破る者に容赦なく襲いかかる怪物ティンダロスの猟犬と戦う覚悟が! 最凶最悪にして究極の魔道書である死霊秘法もあることだし、なんとかなる……いや、なんとかなるはずだ!



「ふーん、覚悟があるねぇ……でも、タダではあげないよ」



「う、やっぱり……」



「当然じゃん。そうだねぇ、こーゆー紙の束と交換しようか~☆」



「ちょ、沙希ちゃん! あれって万札だよ!」



「う、うん、間違いなくね。ありゃ、万札だ……」



 タダで遼丹を譲ってくれるわけがないよね。しかし、万札と交換だなんてが守銭奴か、アンタは! そ、その前に私がそんなお金を持っているわけがない!



「ちょ、万札なんてあるわけがない! 私はまだ学生だし……っつうか、万札なんて初めて見た!」



「わ、私も……」



 私と茜は、顔を見合わせながら苦笑する。むぅ、万札なんて生まれて初めて見たわ――てか、私は学生だし、おまけに裕福な家庭に生まれたわけがないので七桁を超えるようなお金とは無縁だ。そんなわけでお金を集められても、恐らく数万円が関の山だなぁ……。



「おい、沙希! 遼丹を買う金がないのか? 貧乏だな、クククク」



「むぅ、そう言うアンタはどうなのさ?」



「わらわか? 無論、金などもっていないぞ、ワッハッハ~♪」



「む、アンタだって貧乏じゃん! つーか、万札なんて用意できるか、この馬鹿犬っ!」



「うお、何故、殴る! イタタタッ!」



 まったく、狼姫はメチャクチャなことを言う! 自分だって万札が用意できないくせに――そんなわけでイラッとしたので、私は狼姫の頭を拳骨を振り下ろす。



「アハハ、水を差すようで悪いんだけどさ。そいつは私も欲しかったのよね、クククク」



「ナイニャさん! うわ、なに、そのでっかいトランクは……ゲゲッまさか!?」



「そのまさかよ~☆ ざっと一億は入っていると思うわ、クククク」



 バアアアンッ! と、万札がぎっしりと詰まったトランクを持った酒泉郷の迷い込んだ次元セールス社とやらのセールスレディのナイニャさんが現れる。



「ちょ、横取りするわけ!?」



「横取り? ハハ、なにを言っているのかなぁ? これは正式な取引よ、お嬢ちゃん、クククク」



「む、むぅ……」



「は、ビジネスのイロハを知らない小娘は、そこで黙ってみていることねェェ~~! さて、どうする、ディオニュソスさん? これだけのお金があれば、無論、遼丹を売ってくれるわよね?」



「……OK! 売ってあげる。交渉成立だ!」



「フフフ、そう言ってくれると思っていたわ~♪」



「ちょ、ディオニュソス!」



 ガシッとディオニュソスとナイニャさんが握手を交わす。交渉成立って、おいおい! 遼丹をナイニャさんに売っちゃうわけェェ~~!! てか、お金でなんでも解決させようとする大人の醜い部分……嫌なところを見てしまったかもしれない。



「ぬ、ぬあああっ! 万札なら私もすぐに用意できたのにィィ! ここから出られないのが厳しいィィ!」



 青銅巨人の頭の中に閉じ込められた状態ながらも、キィィィというメーディアの金切り声が聞こえる。むぅ、彼女も万札をすぐにでも用意できたのかぁ……うく、私より一手先にいたわけか!



「さぁて、私は現界へ戻ろうかなぁ。何気に忙しいのよねぇ~……んじゃ、シーユーアゲイン~☆」



「ああ、ナイニャさん! うわ、次元の虫食い(ワームホール)! う、逃げられてしまった!」



 ズギュウウウン! と、ナイニャさんの足許に次元の虫食い穴が!? んで、ヒュンとそんな次元の虫食い穴の中にナイニャさんは落下する……逃げられた!? てか、次元の虫食い穴をつくり出すなんて、彼女の正体は一体!?



「あ、そうだ。遼丹なら、材料次第でまたすぐにでもつくってあげるよ。どうする?」



「ちょ、馬鹿にしているの?」



 ナイニャさんから受け取ったトランクの中の敷き詰められた万札を手にしながら、キヒヒヒとディオニュソスは、三日月のような弧を描いたような笑みを浮かべる。うーん、材料次第でまたつくるって言っているけど、また多額のお金を要求してくる予想ができるわね。



「沙希、一旦、戻ろう」



「え、一旦、戻ろうって? わ、どこへ行くのさ、ヘルメス?」



「現界だよ。んじゃ、僕達は帰るよ、ディオニュソス」



「あらら、もう帰っちゃうのかい? フフフ、まあいいや、遼丹のレシピを渡しておくよ。材料がそろったら、またおいで~☆」



 遼丹のレシピをディオニュソスから受け取る。てか、このまま一旦、現界――酒泉郷の外へもどってもいいわけ、ヘルメス!? んー、まあいい、ここにはまた来ればいいことだし……。

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