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第十話 失われた記憶を求めて! その15

「ホッホッホ~、動けなくなって~しまったのう~。これではお手上げかのう~?」



 う、老師ラビエルも動けなくなっただって!? ちょ、これはヤバい状況だわ。く、どうする、私――っ!



「ギャワンギャワン~♪ どうだ、動けない気分は――っ!」



「キルケーさん、流石さワン!」



「フフフ、当然でしょう? 私の魔眼は最強よ~☆」



「うう、ううううっ!」



 く、文句を言ってやりたいところだが、全身が弛緩してしゃべることもできないっ! 唯一、動くのは両目だけ……こ、このままじゃ息もできなくなる可能性があるわね。



(沙希ちゃん、全身が弛緩してしゃべれない!)



(わらわもだ! 動くのは両目だけという……く、どうにかしろ!)



 茜と狼姫の声が、頭の中に――彼女らも、私と同じ状況に陥っているようだわ。



(沙希、邪気返しよ! 聞こえているわね?)



(サ、サマエル! そ、そうか、あのフードのオネーサンの眼から放たれる邪気を、こちらも邪気を放って相殺しろってこと?)



(そうよ、それしか方法はないと思う!)



 今度はサマエルの声が頭の中に――ふむ、邪気返しか! フードをかぶった怪しいオネーサンことキルケーの眼から放たれる邪気を、私の眼からも邪気を放って相殺する以外、今の状況を打開する方法がないのかもしれないわね。



(よ、よぉ~し、とびっきり強烈な邪気を放ってやるっ! うがああああーっ!)



 全身が弛緩し、しゃべることができない私は、そう胸中で叫びながら、双眸に邪気を収束させる。ちなみに、憎悪や怒りといった負の感情が魔眼の強弱に影響を与えるので、当然、嫌なことを頭の中で悶々と――がああ、誰が貧乳だゴルァ!! うう、思わず叫びたくなったわ。



「ギャワンギャワン、魔眼の邪気を強めて一気に窒息させてやるワン……ギャ、ギャンッ! め、眼がァァ~! キャイイン、眼が……眼がァァ!」



「せ、成功……相殺できた上に、私の魔眼から発せられる邪気の方が強かったみたいね!」



 パンッ! と、フードをかぶった怪しいオネーサンことキルケーの両目から血が吹き出す! 眼球破裂はとりあえず免れたっぽいけど、これでお得意の魔眼は使えないわね、当分は!



「必殺魔眼返しっ! んで、熊マグナム――っ!」



 キルケーの魔眼を封じることで、身体が自由に動くようになった! 今のうちに叩きのめす――私はキルケーに対し、熊マグナムを放ち彼女を殴り飛ばす。バシャッと、そんなキルケーはワインの湧く泉の中に落っこちて再起不能(リタイア)だ!



「おお、身体が動くぞ!」



「ひゃっほう、動けるって最高!」



「弟子達よ~、今こそ~羅毘斗聖拳の~神髄を~見せる~時じゃ~!」



「「はい、老師ラビエル!! うおおおおーッ!!」」



 私が動けるようになったわけだし、当然、茜と狼姫、それに老師ラビエルと弟子の兎達も――お、兎達の反撃が始まろうとしているわね。さて、羅毘斗聖拳の神髄とは一体!?



「いいか、みんな! 俺が号令をかける! 一斉攻撃だっ!」



「「エイエイ、オーッ!!」」



「んじゃ、早速、準備だ!」



 兎リーダー(?)の掛け声とともに、他の兎達は一斉にヘルメットをかぶる。な、なにが始まるわけ!?



「弱っちい兎が我々と戦おうと言うのかワン! 生意気にもほどがわるワン!」



「そうだ、そうだ! こうなったらキッツ~イお仕置きが必要だワン!」



「フフフ、その後は私らの食糧になるガウ~☆」



「ガウガウ、兎ちゃんの丸焼きを食べたいワ……ぐぎゃんっ!」



 猛犬隊のオネーサン達は、老師ラビエルにお仲間のアリアが敗北する様子を見ていたというのに、まだまだ甘く見ているようね。まあ、それが彼女らに不幸を招いたってところかな? ドギャンッ――と、猛犬隊のオネーサンのひとりが、まるで自動車に跳ね飛ばされたかのように吹っ飛ぶ!



「な、なにが起きたガウ! グギャアアン!」 



「ギャワン! と、飛んできた! 兎ちゃん達がァァ~~!」



 ドガッ! ゴッ! バキィ! と、猛犬隊のオネーサン達が吹っ飛ぶ! 羅毘斗聖拳の神髄――兎の脚力を最大限に活かした神速の体当たりが炸裂したわけだ。



「うお、猛犬隊の馬鹿犬共が兎ちゃん相手に苦戦してらぁ~♪」



「ハハ、ざまぁ!」



「さて、今のうちにディオニュソスさんを拉致るわよ!」



「うんうん……てか、ディオニュソスさんはどこ?」



「女装男子なんだっけ?」



「う、うむ……」



「そっかぁ……じゃあ、アイツじゃね? 胸がまな板だしね」



「よし、捕まえよう。この絶対に引き千切れない魔法の縄――金剛縄(こんごうじょう)で捕獲だ!」



 ん、聞き慣れた声を加えた八つの声が聞こえる。その刹那、私達と猛犬隊の戦いを茂みの中からジッと監視していたと思われる十四の瞳が、キュピーンと一斉に輝く。もしかして、コイツらは――弧狐隊!? むぅ、連中が飛び出してきた! う、誰も気づいていないっ――姿を見えなくすることができる穏行の術を行使中じゃない! 気配が完全にシャットアウト状態だ。私の周りを飛び回っているヘルメスも気づいていないわ!



「う、なにをするっ……ぐぶっ!」



 うう、弧狐隊のひとりが、シャッと青い光をまとう縄が投げ放ってくる……ううう、私の身体に、そんな縄が巻きつく! ちょ、誰か気づいてよっ……ああ、茂みの中の引きずり込まれる!



「ディオニュソスさんを確保したわ!」



「う、なにィィ! 私がディオニュソスだって? ちょ、違うって!」



「嘘をついちゃダメですよ。女装したって、その真っ平らな胸を見れば判ります」



「お、お前らっ!」



「さあ、私達のアジトへ来てください。てか、少し眠っててください!」



「あ、あうう、急に眠気が!? す、睡魔の魔眼かっ……む、むぎゅう……がくん」



 弧狐隊のひとりの眼が、カッと一瞬、光る。その刹那、急激な眠気が、私に襲いかかってくる。うう、このまま連れさらわれてしまうのか、私は!? つーか、私はディオニュソスじゃないぞーっ!



「あれぇ? 沙希ちゃんがいない!?」



「むぅ、どこへ行ったんだ、アイツ?」



「ディオニュソスと老師ラビエルもいないわよ」



 ディオニュソスと老師ラビエルも、私と同じく弧狐隊に拉致された!? とにかく、ふたりの姿が忽然と消える。



                   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「沙希、起きろ! 起きるんだっ!」



「あ、あうあう……うお、アポロン!? なんでアンタがいるわけ?」



 ム、ムムムッ! 意識を取り戻すと同時に、ニュッと私の顔を覗き込むアポロンの姿が、私の(もや)ががった双眸に移り込む。



「そ、そういえば、ここはどこ!?」



「弧狐隊とやらのアジトだ。私は悠太とともに、お前達を追いかけてきて捕まってしまったわけだ」



「ちょ、追いかけてきたわけ! ん、あのでかい猫も? チーターとユキヒョウもかな?」



「うむ、そうなる。ああ、悠太がここへやって来た経緯だが、お前を探す一方で愛梨という娘にイイところを見せたいから――という理由」



「うむー……」



 悠太達が、私達を追いかけてきた経緯をアポロンから聞く。やれやれ、悠太ったら馬鹿ねぇ。大好きな女のコに対し、自身のイイところをアピールしたいと思うのは男の性ってヤツなのかなぁ? ん、そんな悠太はどこにいるのかしら?



「ねえ、悠太はどこにいるわけ? それにここは……」



 悠太がどこにいるのか気になる一方で、今、私とアポロンがいる場所も気になるわけだ。とりあえず、リッチな家具が見受けられる寝室って感じかな? んで、花柄のシーツが敷いてあるベッドに、私は寝転んでいる。



「わ、お尻が光っている蜘蛛がいる!」



 ムム、天井にお尻の部分が煌々と輝く蜘蛛のような生き物がいるわね。大きさはサッカーボールほどで……い、生きた照明器具!?



「へえ~、あの小僧は悠太って名前なんだ。ああ、地下牢にいるわ」



「ふ~ん、地下牢にねぇ……うわ、真っ白な九尾の狐!」



 大きさはライオンと同じくらいか? そんな大きさはともかく、九つの大きさ尻尾をパタパタと忙しなく揺らす真っ白な巨獣――よ、妖怪の中でも、特に有名な部類に入る九尾の狐の姿が部屋の中に見受けられるわ!



「ああ、私の名前は皇狐(おうこ)。見ての通り、九尾の狐です――てか、初めましてディオニュソスさん~☆ ちなみに、ここは私の寝室です。可愛いでしょ?」



「わ、私がディオニュソス!? 違うわ、私は山崎沙希……しがない人間よ!」



「嘘を吐いても無駄です。ああ、こうして出会えた縁もありますし、ちょっとつくってもらいたいモノがあるんです」



「むぅ、私はディオニュソスじゃないのに……で、つくってもらいたいモノがあるだって!?」



 九尾の狐は皇狐と名乗る。てか、つくってもらいたいモノがあるですって!? その前に私はディオニュソスじゃないっつーの! 勘違いすんな!



「そのコはディオニュソスじゃないよ。胸は真っ平だけど、一応、女のコだよ。あ、そんなディオニュソスは、この私だったりして~☆」



「わ、ディオニュソス! いつの間に添い寝を! つ、ついでに老師ラビエルも――」



 うは、気づけば、花柄のシーツが敷いてあるベッドには、私以外にも寝転がっている者がいる。ディオニュソスと老師ラビエルだ。ア、アンタ達、いつの間に添い寝なんか――っ!

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