第二話 魔道書を狙うモノ達 その1
登場人物その2
・ヘルメス――死霊秘法に封じられていた神の一柱。沙希のコレクションのフィギュアに宿る。
・太田辰巳――沙希が通う学校の先輩。男女の姿を使い分ける魔法少女。
・クロベエ――太田辰巳の使い魔。赤いマフラーがチャームポイントの妖狐。
・ヤス――沙希を師匠と仰ぐ不良。
・黒い男達――沙希が持つ死霊秘法を狙う謎の集団。
追加予定です><
トラブルメーカーな外国人魔法少女ことサマエルが、なんの因果か誤って目覚めさせてしまった伝説の鬼――狼姫が作り出した異界である固有結界に閉じ込められてから、どれくらいの時間が過ぎ去っただろう?
そんな狼姫に作り出した固有結界は、永遠に続く月夜の草原である。狼姫の深層心理が実体化したものらしいけど、なんだが物悲しさを感じてしまうなぁ……。
「ねえ、いい加減、ここから出してよ!」
「ダメだ! もっと、今の時代について教えろ!」
「む、むぅ……」
狼姫は、自分が眠っている間に起きた物事――歴史や文化などに対し、ズギュウウン! と、激しいカルチャーショックを受けたようだ。
「くそ! わらわはトンでもなく長い居眠りしていたようだ……く、悔しいぞ!」
「い、居眠り!? 封印されていたんじゃないの?」
「封印だと? は、わらわがその気になれば、藤原紀典などという似非陰陽師の束縛なんぞ簡単に破ることができるぞ。いつだったか破って京の都に出張ったしな!」
「は、はぁ……」
「おー、思い出したぞ! そこにいる黒い猫を連れた金髪碧眼の娘と同じ南蛮人と仲良くなったぞ。確か、イエズスなんとかのセンキョウシと名乗っていたぞ……って、あれれ? あの南蛮人はなんて名前だったかな? ぐおー、思い出せん!」
「ん、センキョウシ……宣教師のこと? ってことは戦国時代末期から安土桃山時代にかけて一度、目覚めたわけ?」
「戦国時代? 安土桃山時代? なんだ、それは……ん、食べ物のことか?」
狼姫曰く、単に居眠りをしていただけのようだ。んで、その気になれば、藤原紀典によって施された封印など、簡単に解けるとか――そう? 私には強がりとした思えないんだけどなぁ。さて、狼姫は藤原紀典の封印を破って一度、目覚めたようね。んで、宣教師と名乗る南蛮人と仲良くなったって言っているし、大体、目覚めて活動していた時代背景が判った気がする。
「そういえば、お前達は獣に変身できる人間だったな」
「まあね♪」
「さて、わらわも人間の姿になるとしよう。この姿でいると理性がなくなることがあるんだ」
「え、理性がなくなることがあるって!? わお、人間の姿に変身した!」
さて、狼姫が人間の姿に変身する。その姿は、艶やかで雅で、そして優美な十二単を着こなす金色の獣耳の生えた金髪碧眼の北欧系の白人女性だ。
「フフン、どうだ? 神々しいまでに美しいだろう?」
「は、はぁ……てか、アンタってナルシスト?」
「自己陶酔しちゃってる気がする……」
「か、かぐや姫って感じだ!」
「「えっ!?」」
狼姫はナルシストかもしれない。てか、悠太は魅了されてしまったようだわ。かぐや姫に例えちゃってるし……。
「むぅ、私のことを南蛮人ってさっき言ったわよね? つーか、アンタの容姿も私と同じ南蛮人――白人そのものじゃない!」
「ああ、言われてみれば、そうかもしれん。てか、何故、わらわは南蛮人のような姿なんだろう? ぐぬぬぬ、それが何故か思い出せん!」
と、サマエルが文句を言う。うーん、その前に狼姫は自分の出自を覚えていないっぽいわね。長いこと眠っていたせいかな?
「どうでもいいがクソ眠いぞ! あああ、それに腹が減ったぞ!」
眠い上に腹が減った――と、言って勢いよく狼姫は仰向けに寝転がる。うわ、腹の虫がゴゴゴゴッと悲鳴をあげているわ!
(完全に油断しているわね! 沙希ちゃん、今なら――ッ!)
(うん……や、やってみる!)
むぅ、なんだかんだと、今がチャンスかもしれない! 私は女帝のアルカナカードを上着のポケットから取り出すと、
「ふんぐるい、むぐるうなふ、いあいあ……汝、我と契約を結び使い魔となれ!」
そんな適当に思いついた呪文を唱えながら、女帝のアルカナカードでペシッと仰向け倒れている狼姫の額に押し当てるのだった!
「んんん、なにをするっ……ぎゃああ、身体が熱いぞ!」
ズギュウウウン! と、狼姫の身体が赤い光の粒子となって女帝のアルカナカードに吸い込まれていく! やった、成功だ――狼姫を使い魔にできたぞ!
『早まったね! そいつは女帝のアルカナカードに封印するのは、ち早かったかもしれない!』
「えっ!? うわ、赤い光の粒子が逆流している――ひぃ、元に戻っちゃった!!」
え、早すぎた? 謎の声の主がそんなことを――ああ、なんてことだ! 女帝のアルカナカードに吸い込まれたはずの赤い光の粒子が逆流するかたちで飛び出し、あっと言う間に収束し、狼姫の姿に戻ってしまう……ちょ、使い魔化に失敗したわけ!?
「お、お前、いきなり、なにをする! ガオオオアアア――ッ!」
軽い爆発音とともに狼姫は、再び金色の狼の姿に変身する。く、野獣形態ってヤツだわ!
「く、私も変身だ! ウガオオオオオッ!」
ホッキョクグマに変身して応戦だ! 人間のままではさらに分が悪すぎるし!
「沙希ちゃん、私も変身するね! ガオオオーッ!」
「わお、自力で豹に変身できるなんて流石♪」
さっきは私が豹の姿に変身させたけど、今度は自力で豹の姿に変身する茜……ヒュー流石は我が友! そして相棒だわ!
「とにかく、応戦だァァ!」
私と茜は、すぐにでも飛び掛ることができるよう四肢の爪を地面に食い込ませながら、相対する狼姫が動くのを待つ――奴を屈服させるんだァァァ!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「フレーフレー! 頑張れぇー! ここで応援しているぞ、姉ちゃん!」
「頑張れ! きっと勝てるよ、君達なら!」
「わ、なんだ!? 緑色の服を着た小さな妖精が俺の左肩に!」
悠太は魔法少年というわけではないので、私と茜を応援するくらいしかできないわけだが……んん、いつの間にか、そんな悠太の左肩には緑色の服を着た可愛らしい小さな妖精が座っている!? うお、ひょっとして――ッ!
「フ、わらわもナメられたものだ。だが、いいだろう……かかって来いよ、クマ公! それに化け猫!」
「化け猫じゃなくて豹だってば! 沙希ちゃん、先に仕掛けるわよ! ガアアアッ!」
悠太と妖精のことはさておき。ガアアアッ! と、唸り声を張りあげる豹――茜は、颯爽と狼姫に対し、飛び掛る!
「は、でかい猫の分際でわらわに勝てると思っているのか!」
「うわ、残像……消えた!?」
「わらわならここだ! ガルルルッ!」
「ギャッ!」
飛び掛ると同時に、ズギャアッ! と、空を裂くような茜の豹爪攻撃が狼姫に直撃――が、狼姫は残像を残すかたちで回避、そして茜の背後に回り込むと体当たりを食らわす!
「首根っこに噛みついてやろうと思ったが、これはお遊びだ、クククク♪」
「お、お遊びだって!? ナメられているわね、ガアアアッ!」
「あらよっと!」
茜はすぐさま攻撃を仕掛けるが、ヒョイと後退するかたちで回避する狼姫――むぅ、やっぱり、お遊び気分で相対しているのかしらね、コイツ!
『沙希、僕からのアドバイスだ! 狼姫は弱っている――今の君ならなんとかできるかもしれない!』
「え、弱っている!?」
む、謎の声の主が、そんなアドバイスを……ちょ、弱っているって、どういうこと!?
『茜、そのまま奴を攻撃しまくるんだ! 奴を疲れさせるんだ!』
「疲れさせる? と、とにかく、攻撃しまくればいいわけね? よし、今度は噛みついちゃうぞ!」
謎の声の主は、そう茜にもアドバイスを――つ、疲れさせろ、だって!?
「なにをゴチャゴチャと! 分身の術を食らえっ!」
「わ、狼姫が分裂した!? 分身の術だって!」
ドンッ! と、狼姫の身体が分裂する――分身の術だ! コイツは忍術のようなモノも使うらしいわね。
「一、二、三……もっといるわね」
「はわわ、囲まれちゃったよ、沙希ちゃん!」
うく、狼姫が分身の術を行使したことで私と茜は、そんな狼姫の本体&分身に取り囲まれてしまう。ヒュー狼の群れに囲まれる気分ってのは、こういうことなのか……SAN値がガリガリ下がりそうだわ。
「わははは、分身の術はどうだ! 狼の群れに襲われる気分を味わえ! フルボッコにしてやんよ!」
「うく、どうすれば……」
く、疲れさせろって謎の声の主は言うけど、狼姫の分身はぞろそろと増え続ける。気づけば十頭以上になっている! こ、この数じゃ本体を見つけるなんて難しいわ……どうする、私!
『沙希、落ち着いて地面を見るんだ! 君なら攻略法を思いつくと思う!』
「え、地面を……な、なるほど、謎の声の主が言っていたことが判ったかも!」
「あ、ああ、なるほどね! 沙希ちゃん!」
私は地面に視線を向ける……お、なんだかんだと、この状況を打開することができそうだ!
「よ~し、やってやるわ! ガアアアッ……熊爪天昇!!」
とまあ、そんなこんなで思いついた必殺技を口にしながら、シャッと取り囲んでいる狼姫の本体&分身――狼の群れの中の一頭を標的にするかたちで突撃し、下段から右手を突きあげる。