第十話 失われた記憶を求めて! その10
さて、老師ラビエルに案内されるかたちで私達一行がやって来た場所は、むき出しとなった岩肌のあっちこっちに洞穴が見受けられる岩山だ。ん、そんな岩山のあっちこっちに見受けられる洞穴から、ワラワラと武装した小動物達が飛び出してきたわ!
「う、コイツらが酒泉郷内で争っている二大勢力のひとつ――男性のみで構成された武装集団プラスの構成員なのかぁぁ~~!!」
「ですよ~☆ 可愛らしい集団でしょう?」
「ま、まあ、確かに……っつうか武装した兎の集団という見た目の可愛さとのギャップの激しさに、私はツッコミを入れたくなったわ!」
「沙希ちゃん、少数だけど、栗鼠や小鳥もいるわよ。ああ、子豚や子山羊なんかも――」
「あ、ここにいる連中はみんなオスよ。んで、みんなナリは小さいけど獣人よ」
「そ、そうなんだぁ……」
う、うーむ、今、私達がいる酒泉郷――オリンポス十二神の一柱であるディオニュソスの分霊(?)が支配するお酒好きの理想郷内を二分化し、争う合う武装集団の片割れである男性のみで構成された組織のプラスが、まさか兎や栗鼠といった小動物の雄の集団だったとはねぇ……。
「うおおお、目の前に、わらわの好物がいっぱい……もう我慢できん! いただきまぁぁぐぎゃあ!」
「僕は食べ物じゃないぞ、狼さん! ほあたァァ!!」
「がふっ! ごふっ! うにゅぅ……や、やるじゃないか!」
「おお、子豚ちゃん、強いじゃん~☆」
食欲旺盛なのは判るけど、いきなり狼の姿に戻って子豚ちゃんに襲いかかるなんてフェアじゃないわね、狼姫。さて、子豚ちゃんがヴォンヴォンとヌンチャクを振り回す。ヒュー、華麗なヌンチャク捌きじゃん。ああ、その刹那、狼姫の脳天、額、顎に瞬時にヌンチャクを叩きつけたわ!
「あ、お帰りなさい、キョウタロウさん!」
「おお、猫斗真拳伝承者のキョウタロウさんが戻られたぞ!」
「うおおお、心強い仲間を得たぜ!」
猫斗真拳の伝承者!? サマエルの使い魔である黒猫のキョウタロウは、この酒泉郷では有名人っぽいわね。てか、ここがアイツの出身地なのかな?
「つーか、キョウタロウさん。一緒にいるのはマイナスでは!?」
「うわあああ、マイナスだぁぁ~~!!」
「わ、我々の楽園に女がぁぁ~~!!」
「く、男の楽園になんの用事だ、女共ッ!」
「女は修行の妨げとなる。出て行けェェ~~!!」
「ぬううう、油断した! 女の侵入を許すだなんて前代未聞の不祥事だ!」
ム、ムムム、さっきの悲鳴をあげた黒い兎を筆頭とする武装した小動物達に私達は取り囲まれる。私達はマイナスって女性のみで構成された武装集団だと思われているようね。現にキョウタロウ意外、女だし、そこらへんは仕方がないかぁ……。
「お~前~ら~、そこまでじゃ~。この~娘さん達は、わしの~客人だ~」
「ム、ムムムッ! 老師の客人でしたか! これは失礼!」
「てか、老師、いつの間に肩車を……」
老師ラビエル、アンタいつの間に!? とばかりに、そんな老師ラビエルが、私の肩に座っている! ちょ、重いんですけど! ま、まあ、老師ラビエルの一言で疑いが晴れたっぽいけど、油断はしない方がいいわね。
「ううう、びっくりしたぜ。てっきりマイナスかと思ったぞ! 狼に変身する女と猫と豹が一緒だしなぁ……」
「まったく、勘違いをしても当然です。我々(プラス)の中には肉食獣の姿をした構成員がいませんからね。あ、マイナスの女共は大型の肉食獣の姿に変化することができるんです」
「アイツらは、俺達、小動物の姿をした酒泉郷の住人の天敵なんだよ!」
「は、はあ……」
面子的にプラスの方が不利ね。プラスの小動物達がマイナスの大型肉食獣が敵対したところで太刀打ちできるのか心配になってきたわ。
「ん、そこの貧乳チビの女のコは、ひょっとして熊さん? そして金髪碧眼の貧乳チビの女のコは、アナコンダとか大型の蛇さんかな?」
「お、女のコ? つーか、貧乳チビってなによ! アンタこそ小柄で貧乳じゃん!」
「ちょ、沙希と一緒にしないで! 私はこれから成長するんだからーっ!」
ちょ、おまっ! 貧乳チビってなによ! ぐぬぬぬ、思わずキレそうになったわ。ああ、サマエルも同じ心境のようね……って、おい! 私と一緒にするなってどういうことよ!
「そんなことより、ここに女がいるだなんて意外だな」
「そういえば、男性――雄のみで構成された集団なんだっけ、プラスは?」
あ、あれぇ~? プラスは男性――兎などの小動物の雄で構成された武装集団じゃなかったの!? 彼らの本拠地である岩山のあっちこっちに見受けられる洞穴のひとつから、白いワンピースに麦わら帽子というノスタルジーな格好をした長い黒髪の女のコが出てきたわ。ふーん、人間の構成員もいるんだぁ。
「あ、アイツはディス。つーか、雌なわけがないだろう!」
「えっ!?」
ムムム、それはどういうこと? 私の足許にいる右目の眼帯をした兎が、そんな奇妙なことを――って、もしかして!?
「つまり、こういうことさ」
「「う、うわー!」」
ディスという名前の女のコは、ニコニコ笑いながら、着こなす白いワンピースのスカートをたくしあげる。その刹那、私と茜は悲鳴をあげる。み、見てはいけないモノを見てしまった気がするし……。
「うわ、お父さんの股間にある物体と同じ物体が……」
「う、うわ、変なモノを見てしまった! め、眼が、眼がァ~~!」
「あら、可愛い♪」
「ヤダヤダ! そんなゲテモノを見せないでよ!」
「ど、どうでもいいんだけどさ。パンツくらい穿きなさいよね!」
カーッと顔面を紅潮させるサマエルと狼姫はともかく、ひとつの身体を共用している愛梨とアフロディーテは、真逆なことを言っているぞ。しかし、ディスが女のコではなく立派な男性の象徴を持つ男のコだってことは判った。ふ、ふう、タツと同じ女装趣味のHENTAIさんだったとは――って、おい! パンツくらい穿きなさいよね、まったく!
「む、むぅ、それより、アンタ達に訊きたい。ディオニュソスは、どこにいるのかってことを――」
なんだかんだと、酒泉郷へやって来た最大の理由は、そんな酒泉郷の主であるディオニュソスに会うことである。んで、過去へと時空を遡れるっていう秘薬――遼丹を精製してもらわなくっちゃ!
「ディオニュソスがどこかって? ほらほら、君の目の前にいるでしょう?」
「え、目の前にいるって?」
「もう鈍いんだから! 私が、そのディオニュソスだ!」
「ふ、ふえぇ~アンタが!?」
ちょ、目の前にいる女装美少年がディオニュソスだって!? またしても意外だわ!
「あらあら、ディオニュソスの旦那ぁ、私も気づきませんでしたよ! てか、女装の趣味の目覚めたんですか?」
「お、アリアドネじゃん。久しぶりだなぁ~……てか、老けた?」
「ちょ、旦那ぁ! レディに対する失礼極まりない言葉ですよぅ、まったく!」
アリアドネ? 私達を酒泉郷へと導いた綾崎酒店の店主こと綾崎麻衣の本名ってところかな?
「久しぶりだな、ディオニュソスさん。俺のことを忘れたわけじゃないよな?」
「フフフ、もちろんさ! つーか、この私を誰だと思っているんだ? ああ、そんなことより、アンタに頼みがあってここへ――」
「たたた、大変だァァ~~!! マイナスの猛犬隊が攻めて来たぞォ!」
キョウタロウと知り合いっぽいけど、お友達の間柄なのかしら? そんなことより、マイナスの猛犬隊とやらが攻めて来た!? そう大声で叫ぶ頭に赤いバンダナを巻いた一羽の鳩が忙しなく私の肩に座る老師ラビエルの頭の天辺に飛来する。
「ほ~敵襲とな~?」
「ででで、ですよ、老師! 迎え撃ちますか?」
「むぅ~そうじゃのう~。だが~、すでに~包囲網を~突破されて~いるみたいだのう~」
「はわわわっ! すでにご存じでしたか、流石です!」
「ほっほっほ、わしの~耳を~侮っては~いけないぞ~。さ~て~、オリバーとマイクが~フルボッコに~された~ようじゃのう~。早く~手当をして~やるのじゃ~!」
「ちょっとちょっと、そんな包囲網を突破されたとか云々言う前に、ワンちゃんが五頭やって来たわ!」
一応、包囲網を敷いていたのね。だけど、呆気なく突破されたようだ。うーん、これじゃ迎撃する暇なんて――む、シベリアンハスキー、ボルゾイ、ドーベルマン、コリー、そして唯一の小型犬である柴犬を含めた五頭の犬が、プラスの本拠地である岩山にやって来る。この五頭のワンちゃん達がマイナスの猛犬隊!?




