第十話 失われた記憶を求めて! その8
「そういえば、この本は異次元書房から発行されたモノだわ、サキちゃん」
「うえー、あのいかがわしい出版社の発行物なのかぁー!」
「いかがわしいってどういうことよ?」
「うーん、だけど、変なファンがついているのよねぇ。だから潰れることがないとか――」
魔女と魔法少女の歴史って本だけどさ。いかがわしい内容が目立つ本ばかりを出版している奇特な出版社こと異次元書房という出版社から発行されている本の一冊だ。さて、この出版社にはコアなファンもけっこういたりするのよねぇ。私がちょくちょく閲覧するネットのオカルト系掲示板オカルトジェネレーション――略してオカジェネに居座るエティエンヌとか魔法少女ヒカルとか、キ○ガイ発言が多い迷惑な輩であるクソコテ達には、異常なほど大好評だったりするのよね。あ、私の場合はネトゲで知り合ったオーディンと名乗る自称、魔術師から進められてハマったって感じかな~?
「さ、そんなことより、魔法少女ディオナと魔犬アレスについて、どんな詳細が載っているのかしらね」
ま、出版社のことはさておき。今は魔女と魔法少女の歴史って本に記されている魔法少女ディオナと魔犬アレスについての項目を読んでみなくちゃ!
「ええと、生きた時代は三世紀後半。古代ローマのガリア属州――今のフランスとかベルギーあたりで活動していた魔法少女みたいね」
「あ、異教の司祭としてローマ帝国に迫害されてたって書いているよ、沙希ちゃん!」
「むぅ、あの映像はローマ帝国とやらの兵士に迫害されている場面だったのか!」
「魔犬アレスについても書いてあるわね。ふむふむ、ディオナがトラキアで出会った古き神々の化身らしいわね」
デュオナは異教の司祭としてローマ帝国の迫害に遭っていたのか! 魔犬アレスについては古き神々の化身らしいけど……ん、アレスという神がギリシャ神話に出てきたよね? そういえば――。
「うーん、それは判ったがわらわの記憶はちっとも戻らん! ぐぬぬぬ、モヤモヤするなぁ!」
あのディオナと魔犬アレスのことをある程度、知ることができたけど、肝心の狼姫があれじゃなぁ……。
「さて、お次はサキュラって人物についてだ!」
「あ、サキュラ様はネフなんとかって神官とお友達でした」
「ネフなんとか? うーむ、とりあえず、紀元前に活躍したっぽい魔法少女について調べてみるかぁ」
「沙希、古代魔法少女って項目があるわよ。そこを読んでみましょうか――」
ま、とにかく、古代魔法少女という項目があるわね。そこらへんを見てみるとするか――。
「あ、サキュラに関する詳細を発見! でも、同じ名前の人物が複数いるわ。ミイラちゃんが仕えていたのは、どのサキュラって人物だろう?」
「そんなサキュラと呼ばれていた者のひとりが、後に魔獣聖母と呼ばれるようになったって書いてあるわね」
「なにぃ、魔獣聖母だと!? ケルベロスやヒドラなどの魔獣を生み出した怪物共の母よ、そいつは!」
ムム、愛梨とサマエル、そしてアフロディーテがサキュラについての詳細を発見する。さて、そんなサキュラという名の魔法少女は複数存在するようだ。むぅ、リュシムナートが仕えていた〝サキュラ〟は、そのうちのひとりかとは思うけど、まさか同一人物なのでは!?
「同一人物だったりして!」
「うーん、とりあえず、複数人存在するサキュラのひとり――西暦170年代のローマで活動していた者以外は生没不明みたいね。おまけに活動時期も紀元前というだけで……曖昧だわ!」
「ふむ、西暦130~140年のローマは五賢帝の時代ね。哲人皇帝と呼ばれたマルクス・アウレリウスの治世だったかな?」
「ま、とりあえず、活動時期が掲載されているのは、そのサキュラのみね」
「あ~あ、過去に戻る手段があればいいんだけどなぁ。死霊秘法にも精神のみを過去へ……時間逆行させることができる薬があるって書いてあるけど、詳細が載っていないのが痛いわ」
それしか載っていないのかよ! ふう、文句を言ったところで仕方がないかな。過ぎ去った過去の出来事を知るは無理に近いわね。死霊秘法にも精神のみ過去へ逆行させる薬のことは載っているけど、肝心のつくり方が載ってないのよねぇ。
「ん、名井有人からメールだ。何々、『ああ、件の薬の名前は遼丹。その薬を精製することができれば、きっと過去へ行けるよ、沙希。あ、でも、ボクの知っている範囲で注意事項があるとすれば、件の遼丹を使ったら面倒な輩に追われることになるってことかなぁ(・∀・)』……な、なんで私達の会話の内容が!? う、盗聴ってヤツ?」
名井有人って盗聴が趣味なのかしらね。てか、プライバシーを覗かれて怖いなぁ……。
「時間逆行ができる薬があるの、沙希ちゃん!?」
「う、うん、名井有人の話ではね。死霊秘法に載っているモノのことかは判らないけどさ」
「てか、過去へ時間逆行すると面倒な輩に追われるって名井有人って奴が送ってきたメールに記されているんでしょう、沙希? なんとなくだけど、私には判るわ」
「え、判るの!? 詳細を希望するわ、サマエル!」
「恐らく、ティンダロスの猟犬よ。私が持っている魔道書に書いてあったわ。時間の流れに逆らおうとする者に襲いかかる次元の魔物ってね!」
名井有人からメールの内容が正しければ、遼丹とやらを精製することができれば過去へ行けるらしいわね。でも、仮に過去へ時間を逆行できた場合、面倒な輩に追われてしまうっぽいわ。サマエル曰く、そいつはティンダロスの猟犬という次元の魔物らしい。
「そういえば、件の遼丹の製造法を知っているかもしれない奴がいるぜ。聖なる猫の会のメンバの中に――」
「キョウタロウ、その話はマジなの!?」
「うむ、そういったモノを製造することだけがお得意の知り合いがいるんだ」
「ちょ、そいつに会わせてよ!」
「OK! んじゃ、そいつ住処へ行くとしよう。案内するぜ」
サマエルの愛猫兼使い魔のキョウタロウには、件の遼丹をつくることができる知り合いがいるようだ。早速そいつと接触したいところだわ。え、せっかちだって? 仕方がないじゃん。探究心という名の導火線に火がついてしまった以上、消せるわけがないじゃん! さ、なんだかんだと行動に移るかなぁ~☆
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あ、あれぇ、姉ちゃんは? それに三嶋は?」
「ああ、彼女達なら出かけたぞ。まったく、ノロノロしているから置いてけぼりを食らうんだ」
「うう、せっかくアイスコーヒーを用意したのに……追いかけるぞ、アポロン!」
「まあ、待て……おっと、アイスコーヒーに入れるガムシロップは五個が標準だぞ。それにな、私は氷にもこだわっているんだ。そんなわけで星型やハート型の氷をつくれんのか!」
「ちょ、ガムシロップを入れすぎっ! てか、わがままを言うなぁー!」
自宅の茶の間から立ち去った私達を追いかけようとする悠太だったけど、アイスコーヒーへのこだわり(?)を語るフェレットのアポロンに邪魔をされて中々、追えない状況なのであった。
「てか、姉ちゃん達はどこへ行ったんだ?」
「多分アイツのところだろう」
「アイツ? し、知り合いなわけ?」
「うむ、私と同じギリシャ神話の神々の一柱だ。ま、分霊であるが――」
「てか、誰なんだよ! 俺は三嶋を……いやいや、姉ちゃん達を追いたくてうずうずしているだァァ~~!」
キッと大声で、そう言い放つ悠太は、アポロンを両手でつかんでブンブンと振りまわす。
「まあ、そう焦る……ディオニュソスだ。沙希達は彼に会いに行ったはずだ」
悠太に両手でつかまれ激しく振り回されつつも離さないアイスコーヒーの入ったコップをすすりながら、アポロンは冷静な物腰でディオニュソスの会いに行ったと悠太に語る。ま、そうなるかな? キョウタロウの知り合いというのは、オリンポス十二神の一柱であるデュオニュソスである。ま、分霊ではあるが――。
「そんなデュオニュソスはどこにいるんだ?」
「ん、割と近くにいるぞ。それじゃついて来い!」
「お、おう!」
キュッとお気に入りの帽子をかぶる悠太は、一足先に自宅の茶の間から立ち去ったアポロンの後を追う。
「ハハ、ここが……ぶべらっ!」
「あ、ゴメンなさい!」
ドガアアッ! と、自宅の外へ飛び出した途端、悠太は黒いセールスレディと正面衝突する。ちょ、適当に謝るだけかい! そんなことより、悠太と正面衝突した黒いセールスレディだけど、突然、グハッと吐血し、うつ伏せに倒れたわ……な、なにが起きたわけぇ!?
「ふ、ふうう……やるじゃん! この私を不意打ちするだなんて……流石は魔法少年!」
不意打ちもなにも、偶然、悠太とぶつかっただけじゃん。てか、魔法少年って言ったぞ、コイツ! 何者なんだ――う、我が家のお向かいで喫茶店を営んでいる小向さんの自宅兼店舗のショーウインドゥの硝子に、件の黒いセールスレディの姿が映っていないんだと、どういうこと? まさか、こいつは――っ!?




