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第十話 失われた記憶を求めて! その5

「ああ、気をつけてくれよ。ここには面倒くさいモノが〝出る〟んだ」



「はう、ここには〝いる〟! 確かに面倒くさいかも……」



 おいおい、なにがいるんだよ! それがなんなのか詳細を語れぇー! とにかく、警備員の瀬部倉と一緒について来た鳴神姫が、浪岡自然公園内にある図書館の地下五階に存在する特異な場所――殉教者の遺品倉庫内になにかが〝いる〟と警戒する。



「おやおや、俺の好物のアヒルちゃんが一緒じゃないか!」



「ヒ、ヒィ!」



「フフフ、殉教者の遺品倉庫内にはキッチンもある。そこで調理と洒落込もうじゃないか、ジュルリ♪」



 ああ、なるほどね。アヒルが大好物だって存在の正体は瀬部倉のことだったのか――ああ、そんな瀬部倉が言っているキッチンも遺品のひとつらしいってことを後から知る。うお、瀬部倉の両手には、包丁というより、剣と言っても過言じゃない大型の肉切り包丁が握られている!



「ここに雇われる前、俺は中華料理店でアルバイトをしていたんですよ。皆さん、北京ダックを食べますか?」



「コココ、コラァァ! 私は食べ物じゃないわ! むぅ、こうなったら仕方がない。あ、愛梨ちゃん、恋人のカードを!」



「あ、うん、これね」



「一旦、恋人のカードの中に逃げ込むわ」



「おわ、アヒルちゃんが光の粒子に! 逃げられたかぁ……」



 カッと光の粒子に自身の身体を光子変換するアフロデューテは、その刹那、愛梨の所有物であるタロットカードの恋人のカードの中に吸い込まれる。アハハ、アヒルが大好物だっていう瀬部倉から逃げるには丁度いいかもしれないわね。



「フフフ、おふざけはそこまでにしておきましょうか、瀬部倉さん。さて、ここにあるといいですね。アナタの封印された過去を紐解く鍵となるモノが――」



「う、うむ……」



「ああ、遠慮なく探しちゃってもいいですよ。邪魔者が出没するかもしれませんけど、ウフフフ……」



「おう、遠慮なくそうさせてもらうぞ! よし、沙希、手当たり次第、探すぞ!」



「そうは言うけどさぁ。仕方がない、探そうか――」



 おふざけはそこまで! と、瀬部倉の頭のカプッと噛みつく白蛇王。ま、とにかく、そんな白蛇王の許可が出たわけだし、遠慮なく殉教者の遺品倉庫内を探索させてもらうとしようかしら!



                   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「うわ、この女神像だけど、手に取った途端、寒気がっ!」



「ふむ、とりあえず、清められてはいるけど、どれもこれも曰くつきのモノばかりじゃないか! 何気に危険な場所かもしれない」



 清められている代物ではあるが、どれも曰くつきのモノばかり!? と、タツの相棒であるエリザベートが、そんな危機感を抱く。ふむ、殉教者の遺品倉庫って場所は、彼女の言うとおり、危険な場所なのかもしれないわね。私も、さっきから奇妙な気配をひしひしと感じているし――。



「あ、その女神像の持ち主は、今から六百年ほど前、魔女狩りに遭い拷問の果てに亡くなった女性が肌身離さず持っていた……」



「あ、ああ、言わなくても判るわ。う、うんうん……」



 さて、殉教者の遺品倉庫内には、大天使教会のリーダーである白蛇王が古今東西、宗教に問わず自らの信仰のために命を失った者達の遺品を集め保管している場所である。ああ、でも、殉教者の所有物ではないモノも多々、保管されている。タツが手に取った女神像も、そのひとつなんだろう。



「折れた剣がある……うお、騎士の亡霊!」



「やあ、私の名前はリチャード。その剣に憑いている地縛霊です」



「うへぇ、なるほど、ここになにが〝いる〟って言ったいたわね。その正体が判ったかも!」



 ここになにかが〝いる〟――と、瀬部倉と鳴神姫が警戒していたけど、その意味が判ったかも! ここには、私が手の取って折れた剣に憑依しているリチャードと名乗る地縛霊を自称するモノ達が〝いる〟わけだ……ってことは、他の保管物にも!?



「また幽霊か……」



「え、また幽霊?」



「いや、なんでもない。こっちの話だ」



「ふーん。さてと、なにか気になるモノはあったかしら、狼姫?」



「おう、沙希! 全身に包帯が巻いてある面白い人形を見つけてきたぞ!」



「ちょ、それは人形じゃない! ミイラよ、ミイラァァ! 古代エジプトのミイラだァァ~~!」



 タツは幽霊絡みのイベントに巻き込まれまくってそうね。さ、それはともかく、狼姫が古代エジプトのミイラっぽい物体を持ってくる。ちょ、そんなモノどこにあったわけ!?



「むぅ、これは本物のミイラね」



「マジか、エリザベート! ん、このミイラは手足を荒縄で縛らているぞ」



「あら、本当ね。さてと、このミイラはリュシムナートって名前らしいわね。ほら、このペンダントに、そんな名前が刻まれているわ。ヒエログリフって象形文字かな?」



「ん、リュシムナート!? はう、まさかっ!」



 エリザベート曰く、ミイラは本物のようだわ。リュシムナートって名前が刻んであるヒエログリフが見受けられるペンダント身に着けているわね……わお、思い出したわ! 私の部屋に置いてある空っぽの木棺に同じ名前のヒエログリフが刻んであるわ! ま、まさか!



「そのミイラが本来、眠っているはずの木の棺は、私の家にあるんですけど……」



「ほほう、それは興味深いね。さて、そのミイラについてだけど、古代エジプトの新王国時代のモノだってこと以外は、皆目、検討がつかない謎のミイラなんだ。ああ、ちなみに、そいつの性別は女性のようだ」



「そうなんだ。アンタにも詳細がイマイチなんだね」



「うーん、太陽神アメン・ラーに仕える神官とか巫女さんのミイラなんじゃないかな、沙希ちゃん?」



「まあ、そう考えるのが妥当かもね。でも、なんで手足が拘束されているのが、すっげぇ気になるわね」



 うへぇ、白蛇王にも詳細はイマイチな謎のミイラなのかぁ。ん~茜の言うとおり、太陽神アメン・ラーの神官や巫女ってことにしておくとしよう。白蛇王にも詳細がイマイチな謎のミイラだしね。あ、貴族のミイラって線も考えられるかな?



「うお、そのミイラを引っ張り出してきたのか! そ、そいつは〝生きている〟んだ!」



「しかし、ビックリしたよ。まさかミイラが突然、動き出したからね! フフフ、ある意味でトラウマになる光景を僕は目撃してしまったよ……」



「ま、とりあえず、俺が捕まえて手足を拘束したんだ。その荒縄で――」



 生きているミイラと遭遇だなんて、なんという興味深い展開なんでしょ♪ ああ、生きているミイラ――リュシムナートの手足を荒縄で縛ったのは瀬部倉のようだ。動き回らないようにってか? しかし、何故、蘇ったんだろう? そこらへんも興味深いわ。



「う、コイツ……体温があるっ! 本当に生きているぞ!」



「な、生きているだろう? 何故、生き返ったのかはさっぱりだが、五日ほど前、突然、動き出したんだ。まあ、ここではミイラが動くなんて〝普通〟の出来事だからな。俺は驚かんぞ、わっはっは~☆」



「うむ、ここでは普通って、おい! うわ、触っていたら動き出した! それになにか言っているわ!」



 えええ、殉教者の遺品倉庫内ではミイラが動くなんて普通の出来事だって!? むぅ、そんなことより、古ぼけた包帯の上から体温を感じる。リュシムナートは生きている……ああ、そうこうしているうちに、そんなリュシムナートが動き出す。ついでに、なにか言っているわ。古代の言葉ってヤツ?



「な、なんて言っているの? 誰か判る?」



「さあ、判らないわ。ラテン語とかなら……」



「私にもさっぱりだね」



「俺にはさっぱりだ」



「右に同じく!」



「うわあ、警備員のアンタ達にも判らないんじゃお手上げだわ」



 ミカエル先生も白蛇王も、それに警備員の瀬部倉やラファエルにも、なんて言っているのかさっぱりなご様子だ。ムムム、これじゃリュシムナートはなんて言っているのか判らないままだ。お手上げだわ、まったく……。



「「私を自由にしろ!』って言っているぞ、沙希」



「え、判るの、狼姫!?」



「あ、今度は『私を起したのは誰だ!』って言ってるわね」



「ヒュー、エリザベートも判るのか! 流石は分霊とはいえ、女神様だせ!」



 ムム、意外だわ! 炉の女神ヘスティアの分霊であるが故に古代言語に関しても万能なエリザベートはともかく、まさかミカエル先生や白蛇王にも、なんて言っているのか理解不能であるリュシムナートが口にする古代言語を狼姫にも理解できるだなんて――。



「ん、『その声はサキュラ様では!?』って言っているぞ」



「サ、サキュラ様!? 誰よ、そいつ! 私は沙希……山崎沙希よ!」



「おう、それより、コイツかもしれん! この鉄の十字架は、本来はこの像の一部だった気がするんだ。ほら、この像の右手になにかが握られていた痕跡があるしな」



 サキュラ様ってなによ!? リュシムナートが私のことをそう呼んでいるって狼姫が言う。うーん、そのサキュラ様ってなんのことなんだか気になる一方で狼姫が三対六枚の翼を持つ美しい女神像を、どこからか持ってくる。さて、あの鉄の十字架は、元はこの像が持っていたとか言っているわ。もしも本当のことなら、狼姫の過去を紐解く鍵が見つかったのかもしれないわね!

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