第九話 男装魔法少女と炉の女神 その12
「よし、粗方、怨霊共を倒せたぞ!」
「まあ、連中が実体化していなかったら、こっちがヤバかったかもしれないけどね~☆」
「うう、そうだなぁ、義母さん……」
さてさて、俺――太田辰巳一行は、怨霊共を粗方、倒す。これで安心して玄室がある立ち入り禁止区画である姫神塚古墳の内部へと続く入口へと足を踏み入れることができる――かもしれない!
「あ、怨霊がまだいるぞ!」
「むぅ、まだいるのか鬱陶しいわね!」
「ま、待てほしいのであります! じ、自分はアナタ達の味方であります!」
「味方だぁ!?」
「そ、そうであります、少佐殿ォォ~~!!」
う、まだ怨霊がいる。旧日本軍兵士の軍服姿をした若い男の怨霊だ。てか、いつからお前の上官になったんだよ!
「あ、ああ、名乗っていなかったであります。自分は井川修造軍曹であります、少佐殿っ!」
旧日本軍兵士の軍服姿をした若い男の怨霊は、ビッと俺に対し、敬礼をする。てか、俺はお前の上司の少佐殿じゃねぇ!
「少佐殿! この先へ進むなら自分が水先案内を務めるであります!」
「あら、それは助かるわ。ウフフ、この先はどうやら異界化していそうですし――」
「おお、流石であります、大佐殿! お言葉の通りであります。この先は生きている人間なのに怨霊の王を自称するイシュタルという科学者がつくり出した人工的な異界へつながっているのであります!」
ムムム、デメさんは大佐殿かよ! 俺より階級が上の軍人あつかいかっ! それはともかく、怨霊の王を自称する者は死者ではなくて生者――生きている人間とはねぇ。ついでに、この先には人工的な異界につながっているとか面倒くさい展開になったきたなぁ。
「おおうっ! 入口に入った途端、すっげぇ寒気が走ったぞ! なんだ、こりゃあ、ヒイイイィ……」
「ハハ、尻餅かよ、浩史さん……うわ、スカートん中に潜り込むなよ!」
スッと姫神塚古墳に玄室へと続く洞穴のような入口に足を踏み入れた途端、浩史さんは尻餅をつく。んで、俺の着ているゴスロリな衣装のスカートの中に悲鳴をあげながら潜り込んでくる、おいおい……。
「浩史さんって、やっぱりホモでしょ?」
「ち、違う! しかし、お前の尻はまるで女の……ぐぎゃ!」
「ウフフ、それ以上はいけないわ」
「む、むぎゅうぅ……」
ゴッとデメさんの拳骨が、俺のゴスロリな衣装のスカートの中に潜り込んでいる浩史さんの後頭部に――あれぇ、なんか怒ってない?
「さ、さあ、この先へ案内するであります」
「おう、じゃあ、行こう!」
まあ、なんだかんだと先へ進もう。俺は井川修造の後を追い姫神塚古墳の洞穴のような入口の奥へと進むのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「アンタって本当に怨霊なわけ? 明るい奴だから違うかなぁと思ったんだが……」
「怨霊になったのは最近でありますよ。自分は硫黄島で戦死したであります。んで、何十年も浮遊霊として彷徨っていたであります。ああ、そんな自分を『怨霊にならない?』スカウトしてくれたのが、さっき話した怨霊の王と自称するイシュタルって人間であります」
「は、はあ……」
「う、どうでもいいけど、ここはどこだ!?」
「真っ暗闇だわ!」
井川修造は怨霊であると自称するけど、そうは見えない明るい性格の亡霊だ。それはともかく、ここは一体!? 俺達一行はどこへ迷い込んだんだのか!? 人工的な異界なのか? 真っ暗でなにも見えないぞ!
「うお、いきなり古代ギリシャ風の神殿が出現した!? なんだ、ここは!」
ドーン! と、古代ギリシャ風の神殿が突然、目の前に出現する。んで、その雄大な神殿を支えるドーリア式の円柱に取りつけられている照明器具である松明の炎が、俺達を罠へと誘う込もうとしているかのようにユラリユラリと蠢いている。
「これが人口固有結界であります……ん、少佐殿、お気分が悪そうですがどうしたのでありますか!?」
「なんだ、ここへ来た途端、全身の力が抜けて……」
「右に同じく……」
「うう、気分が悪くて動けない……」
「ただでさえ空気の薄い高山のような場所なのに、さらになにが……」
う、突然、頭痛が、それに吐き気もッ……た、ただでさえ、空気が薄い高山のような場所なのに、一体、俺の身体になにが!? ああ、クロベエ、浩史さん、橙子、それにゴルゴン三姉妹も同じ症状に陥っているぞ!?
「師匠、瘴気が漂っていますね。ボクもあまり長いできないかもしれません」
「あらあら、瘴気は生きている人間にとっては害となる空気でしたね」
「あうう、ナル様! 私もここに長居はできません!」
瘴気!? 生きている人間に害を及ぶすモノが、この古代ギリシャの神殿のような異界内に漂っている、だと!? あ、ナルキッソスに右肩に留まっているキバタンのエコーも苦しそうにしているぞ。
「く、対瘴気用マスクをつくっておくんだ! 私や姉上は大丈夫だが他は……」
「フッこのボクも大丈夫さ~☆」
「あら、その割に顔色は悪いわよ、ウフフフ」
フッと前髪をかきわけるキザなナルキッソスだけど、痩せ我慢をしているのが目に見えて判る。顔面蒼白だし、カクカクと微妙に両足が震えている。
「ふう、自分は死んでいて助かったであります! 少佐殿も死ねば苦しまずに済むでありますよ~☆」
「お、お断りだァァ~~!」
井川は実体化しているとはいえ、すでに死人なので、瘴気とやらを吸い込んでも平気な様子である。てか、苦しまずに済むとはいえ、死ぬのはだけは絶対に嫌だっつうの!
「おやおや、苦しそうだなぁ。これを使うかい? アンタ達全員分はあるぜ。ああ、もちろんタダでOKさ!」
「お、おお、ありがたい! うお、誰だ、お前は!?」
ヒュンッ! と、大量のガスマスクが入ったビニール袋が俺の足許に飛んでくる。ありがたいっ――が、その一方で何者は、コイツを!? う、ガスマスクで素顔を多い隠す怪人が神殿の中から黒い外套を翻しながら現れる。
「うおおお、少佐殿! アイツが生きている人間のクセに怨霊の王を名乗る輩――イシュタルであります!」
「え、アイツがイシュタル!? てか、なんでスカートの中に隠れるんだよ! ついでに浩史さんも……オラァ!」
「「ぶべらっ!」」
井川は悲鳴をあげながら、俺が着ているゴスロリな衣装のスカートの中に潜り込む。うお、ついでに浩史さんまで――ったく、この野郎! その刹那、俺はそんなふたりを後ろ回し蹴りをぶちかます! それはともかく、ラスボス的な奴がいきなり出現したぞ! どうする、俺――っ!
「ハハハ、元気がいいねぇ~☆ 流石は生者だ。ネタティブな怨霊ズ四天王とは大違いだよ」
むぅ、ガスマスクで素顔を隠す怪人――イシュタルの拍手喝采が響きわたる。皮肉か、おい! つーか、コイツは男なのか、それとも女なのか? 性別が不明である。あのガスマスクを剥ぎ取ってやりたいなぁ、まったく……。
「お、これイイね!」
「うんうん!」
「てか、タダでもらっちゃっていいのか?
「ああ、いいよ。たくさんあるしね」
「やったぁ~♪」
ムムム、ゴルゴン三姉妹と橙子はなんの躊躇もなくイシュタルが投げてきたビニール袋の中に入っていたガスマスクを身に着ける。俺も一応、貰っておこう。
「ん、フィルター越しに花の香りがするね」
「あ、ホントだ。ラベンダーかな?」
「フフフ、私の好みでね。さて、お前らに問うぞ。ここへなにをしに来たんだ? もしかして怨霊ズ&私を退治しに来たとか?」
俺とナルキッソスもガスマスクを装着する。それはともかく、俺達の目的が、ここへ来た理由がバレているんだが――。
「その通り! なにを企んでいるかはともかく、お前らを討つっ! そして勝手に冥界と現世をつなげた罰も受けてもらうぞ!」
「いいじゃん、細かいことだろう? つーか、でかい声を出すなよ、鬱陶しいな!」
「こ、細かいことなんじゃないぞ、罰当たりがァァ~~!
はっちゃんが怒鳴る。まあ、細かいことで済まされないよなぁ、姫神塚古墳周辺を冥界の一部へ変貌させたわけだし――。
「ま、どうしてもって言うなら、あそこへ来いよ。面白いモノを見せてやる」
「あ、神殿のような建物が、もうひとつ闇の中からっ……あ、お前はどこへ! うお、ロボット……浩史さんが拉致された!」
「うおおー! 俺はいつの間に!」
ムム、いつの間にか浩史さんの姿がイシュタルの足許に! しかも鎖で簀巻き状に拘束にされている。ついでに、下半身が戦車のような形状をしている同型の小型ロボットが、ボディーガードを務めるかのようにイシュタルと一緒にいるんだが――。
「イザナギは預かっておくぜ」
「テカ、アノ男ヲ捕獲シタノハ俺ダカンナ、イシュタル」
「ハハ、判っているっつうの。んじゃ、コイツを返してほしかったら、あの神殿に来いよ。待ってるぜ、お前ら~☆」
「お、おい、待てよ! く、なんて足の速さだ!」
浩史さんをいつの間にか拉致していたイシュタル&下半身が戦車のようなロボットは、まるで韋駄天のような疾風怒涛の素早さを見せると同時に、俺達の目の前から浩史さんを連れ去るのだった。
「ガスマスクの怪人は、あの男のことをイザナギって呼んでいたな、ペルセポネー」
「浩史さんがイザナギ? どういう意味があるんだろう……」
「ま、あそこへ行けば、すべての真相が解けるはずよ」
「てかさ、この神殿の奥から声が聞こえるわ!」
浩史さんがイザナギ? その真相を解くためにも、あのイシュタルが向かった闇の中から現れたもうひとつの神殿へ行かなくちゃいけないな! それはともかく、目の前にある神殿も攻略(?)すべきだろうか? 橙子が、奥から声が聞こえると言っているし――。




