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第九話 男装魔法少女と炉の女神 その8

 ゴルゴン三姉妹のひとりであるメデューサは、何故か紙袋をかぶって素顔を隠している。待てよ、ギリシャ神話に出てくる〝あのメデューサ〟だったら、あの紙袋の下には――。



「あうあうあうっ! なんで私があの巨漢の落ち武者と戦わなきゃいけないんですかっ!」



「いんだよ、細けぇことは! さあ、やっちまいな、メデューサ!」



「あんなデカブツなんかアンタの敵じゃないわ!」



「あううう、酷いのです! わあああああ――っ!」



 ドンッと姉のステンノーとエウリュアレーに大男な落ち武者に立ち向かうこととなったメデューサは、悲鳴をあげながら、両手をブンブンと振りまわす。ひょっとして威嚇のつもり!?



「グッフォフォフォ、コノ怪力無双ノ武者、平崎大十郎ニ戦イヲ挑ンデクル命知ラズノ馬鹿野郎ガ、マサカ紙袋デ素顔ヲ隠スヘンテコリンナ小娘トハノウ。ダガ、ワシハ容赦ハセン! 容赦ナク八ツ裂キニスル!」



 熊のような大男の姿として実体化した怨霊は、ジュルリと口許をナメながら、ニヤ~とイヤらしい笑みを浮かべ平崎大十郎と名乗る。んで、自称、怪力無双の武者らしい。うーむ、確かにそう思えてしまうような奴だな。ホントに強そうだし――。



「ひ、やっぱり戦うなんて無理! ここは逃げるが勝ちよ……あああ、紙袋仮面が!」



 ああ、メデューサが悲鳴をあげて逃げ出す。だけど、その際、素顔を覆い隠す紙袋を平崎大十郎に取られてしまうのだった。



「へえ、あれがメデューサの素顔かぁ、可愛いじゃん♪」



「ウホッ! イイ女のコ! だけど、なんで素顔をあんな紙袋で?」



「ん~極度な恥ずかしがり屋ってところもあるが……おっと、危ない! この眼鏡をかけろ!」



 素顔を覆い隠す紙袋の仮面がなくなったことで、当然とばかりにメデューサの素顔が露わに――可愛いじゃん! それはともかく、エウリュアレーが俺と浩史さん用にと眼鏡を手渡す。とりあえず、身に着けておくかな。



「フフフ、身に着けたね。よし、これでメデューサの眼の魔力にやられなくて済むわね」



「め、眼の魔力!? ああ、あのデカブツの様子が変だ!」



 むぅ、ステンノーがニヤニヤと笑いながら、そんなことを言うけど、一体、どんな魔力が!? ん、平崎大十郎の巨漢な身体がピクピクと痙攣している――ま、麻痺ってないか、アイツ!?



「グギャアアア、蛇ガ襲ッテクル! 蛇ノ群レガ……何百匹ノ蛇ガワシノ身体ニ這イアガッテクル! ギャワワ、ヤメロ、ヤメロォォ!」



 今度は幻覚!? 平崎大十郎は悲鳴をあげ始める。ひょっとしてメデューサの眼の魔力って麻痺&幻覚ってわけ?



「今だな、姉者!」



「うん、今ね。メデューサ、ご苦労様。後始末は私達が――」



 後は任せろだって? メデューサの姉ステンノーとエウリュアレーが行動を開始する――ん、そんなふたりは灰色の液体の入ったバケツを持っているんだが!?



「やるぞ、姉者!」



「OK! うりゃあああっ!」



「ズボベラバアッ! ナンダ、コノ液体ハ……ウオオ、液体ガ固マリ始メタ! ヌオ、生キ物ノヨウニ蠢気ながら、ワシノ身体ヲ包ミ込ム、フヌゥゥ!」



 メデューサの麻痺&幻覚の効果を持つ眼の魔力によって一時的に身動きひとつ取れない状態の平崎大十郎の巨漢な身体に、ステンノーとエウリュアレーはドババッとバケツに入った灰色の液体をぶちまける。さて、そんな灰色の液体はまるで粘液状の生物であるかのように蠢きながら、平崎大十郎の身体をあっと言う間に覆うとカチンコチンに固まる。



「あの連中は、ああやってメデューサの眼の魔力でやられて動けなくなった者に液化した魔力の石膏をぶちまけて即席の石像をつくってしまうんだ」



「お、恐るべき連携プレー!」



「え、そうかなぁ……」



 と、エリザベートが説明を――なるほどね。アレがギリシャ神話のメデューサの顔を見たら石化してしまうって話の真実ってわけか? ま、どうでもいい話だけどさ。



「ウガアアア、無念! コノワシガッ……怪力無双ノ武者、平崎大十郎ガコンナニモ呆気ナク……グ、グフ、苦シイィィ!」



「ハハ、無駄な抵抗ってヤツだな、姉者」



「てか、馬鹿だなぁ、肉体を再構築させずに幽体のままでいれば良かったものを――」



 ごもっともな言葉である。失われた肉体の再構築化という実体化なんぞせずに幽体のままでいればメデューサの眼の魔力にやられなかったはずなのに――。



「ん、そういえば、浩史さんの知り合いがいたよね?」



「お、おう……あ、いつの間にかいなくなっている」



「さ、なんだかんだと、これで先に進めるわね」



「うん、そうだな、義母さん……うわ、危ないっ!」



「え、きゃあああっ!」



「キエエエエッ! 俺ノコトヲ忘レテイタナ! 死ネヤァァァ!」



 うぬぅ、井上鉄左衛門を再起不能(リタイア)にするのを忘れていたぜ! 油断した、動けないフリをしていたらしくムクッと突然、立あがり、不意打ちとばかりに愛刀をデメさん目がけて逆袈裟に振りあげる! だが、しかし――。



「痛いわねぇ。ダメよ、不意打ちなんて☆ えいっ!」



「ゴ、ゴガアアアアッ! フグウウウウッ!」



 うぬぅ、逆袈裟に斬られたはずのデメさんはニコニコと微笑んでいる。でも、彼女の眼は笑っていない。さて、その刹那、そんなデメさんの背後から大きな拳が現れ、ドゴォと井上鉄左衛門を殴り飛ばす。



「ス○タ○ド!?」



「ああ、あの拳の正体はキュクロプス君のモノです。一時的の召喚しました」



「は、はあ、一時的に召喚ねぇ……」



 キュクロプス君というのは、もしかしてギリシャ神話に出てくる単眼の神? まあ、とにかく、デメさんは召喚も得意技のようだ。あ、でも、なんで平気なんだろう? 逆袈裟に斬撃を受けたのに――。



「フフフ、流石はヘスティアさんがつくったお洋服ですね。まったく破けていませんし~☆」



「まあね。そういう風に設計された無敵の鎧のようなモノですから――」



 うは、すごいゴスロリ衣装だなぁ。井上の愛刀はボロボロに刃が欠けているけど、それでも斬られれば普通なら損傷が激しいところなのに、それが一切ないとか――てか、デメさんの身体にも一切、傷がついていないのもすごいなぁ。



「オ前ラ、強イナ。ダガ、我々、怨霊ノ王ノ前デハ無力ダゼ。グハハハッ!」



 そういえば、今は真白く浄化された状態だけど、姫神塚古墳に巣食う怨霊の一体である赤錆丸も一緒だったな。そんな赤錆丸の話だと怨霊の王というそのまんまのネーミングである大物がいるようだ。



「ああ、忘れていたわ。ナルキッソスが先行するかたちで姫神塚古墳へ向かっていたことを――」



「えええ、アイツも!? まあ、そこそこ強いし、やられることはないとは思うけど……」



「つーか、怨霊に取り憑かれてたりして~☆」



「ハハ、その時は私がボコってやんよ」



 そういえば、ナルキッソス+αが先行するかたちで姫神塚古墳へ向かっていたな。よし、後を追いかけよう。なんだかんだと連中が心配だしね。



               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「うわ、すごい怨念の奔流だわ! これじゃ近寄れないっ! ヒギイィィ!」



「ああ、鳴神姫が吹っ飛んだ!? なにが起きているわけ?」



「ふむ、ボクらには見えない渦のようなモノが渦巻いていると予想。だから、彼女が吹っ飛んだとか?」



 浪岡自然公園の中にある最凶の心霊スポット――姫神塚古墳へ続く道は、公園の北にある一本道だけである。さて、その周辺は夜になると肝試しにやって来る連中がいると聞く。浪岡自然公園内でも特に鬱蒼としている上、心霊写真を撮れるなんてウワサがあるからだろうか? そんな姫神塚古墳へと続く一本い道を進む鳴神姫が、ドーンッと突然、吹っ飛んだので同行者のナルキッソスと小清水橙子は驚く。



「ん~、この先は一種の冥界だね」



「「えっ!?」」



「んで、その境界線の壁に鳴神姫が触れたんだよ。だから吹っ飛んだんだと思う」



 フッと前髪をかきあげながら、ナルキッソスはキザったらしく説明する。なるほどねぇ、この先は一種の冥界かぁ……。まあ、とにかく、生者と死者を分ける境界線ができあがっているのか、厄介だな。



「さてと、この先は一種の冥界ってことで当然、引き寄せられてくるよね?」



「引き寄せられてくる? ひょっとして……」



「わ、あっちこっちに浮遊霊がっ!」



 ムムム、気づけば、三人の周囲にはゾロゾロと集まってきている。成仏できずに現世を彷徨う亡霊共が――。



「君達、この先にはステュクス川と渡し守のカロン君もいないよ。そんなわけだ。本当の冥界になんか行けやしないよ。行けば吸収されてしまうよ、怨霊共に――」



「「「…………」」」



「あらら、ボクの言葉が通じないっぽいなぁ。困ったぞ!」



 と、ナルキッソスが彷徨える亡霊達を説得する。だけど、誰も耳を貸さないどころか一切、聞こえていない様子を見せる。



「あああ、生きてる人間もやって来た!」



「自殺志願者かもしれない。ここで時々、自殺者が出るってお客さんから聞いたことがあるわ!」



「うーん、さらに困ったぞ。でも、生きてる人間なら説得できるかもしれない……君、この先へ行っちゃダメだ!」



 亡霊共に紛れるかたちで生きている人間の姿も――生者も引き寄せる魔力があるようだ。ただし、生きることに絶望した自殺志願者とかネガティブな人間のみだろう。



「あうう、死なせて……死なせて……彼氏を親友に取られたの……もう生きていたくない……グシュグシュ……」



「アハハ、君ィ、そんな理由で生きることに絶望しちゃダメだよ。というか、ボクのように自分自身を好きになればいい♪」



「ちょ、説得になってないわ。この自己陶酔者(ナルシスト)!」



「え、そうかい? まあとにかく、やり直せるチャンスを無駄にする気なのかい?」



「う、五月蠅い!! 私は死にたいんだ……あうっ! よし、この身体を乗っ取ったわ。これで彼女は大丈夫!」



 彷徨える亡霊共の紛れるかたちで現れた生者は、髪の長い小柄な二十代半ばの女性だ。容姿はそこそこ美人で――と、それはさておき、彼氏を親友に寝取られたことで、この世に絶望し、自殺志願者として、ここに引き寄せられたんだろう。そんな女の身体に鳴神姫は憑依する。とりあえず、彼女が憑依している間は、一種の冥界と化している姫神塚古墳へ行くことはないだろうけど、それでいいのかは微妙である。



「うーん、早いとこ冥界化を解かないと危ないわね」



「うん、現世を彷徨っている時点で悪質な気もするけど、怨霊共に食われたら、ここに集まって幽霊達は本当の冥界へ行けなくなるね」



「私はこの女人をここで抑えておくから、橙子さんとキザ男さんは先へ――」



「わ、判ったわ! なんとかしてみる!」



「キザ男じゃない。ボクはナルキッソスだ。まあいい、冥界化を解くために頑張るとするか――」



 鳴神姫は一旦、離脱する。自殺志願者の女性を姫神塚古墳を行かせないよう抑え込むるために――。



「あ、生きてる人間がいる!」



 と、それから数分後、俺――太田辰巳とエリザベート、それにデメさん、クロベエ、浩史さん、はっちゃん、ゴルゴン三姉妹が駆けつける。


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