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第九話 男装魔法少女と炉の女神 その7

「オイオイ、河谷ト玉沢ガヤラレタヨウダゼ。マッタク、弱ェナアイツラハ――」



「クククク、奴ラハ俺達、姫神塚古墳ニ集ウ怨霊ノ中デハ最弱ノ存在ヨ。ソンナワケダ。ロクナ修行モシテオラン三流ノ霊能者程度ニ退治サレテモ仕方ガナイ」



「フン、我々、怨霊ズノ面汚シダナ。ダカラ、今ノ時代ノ怨霊ヲ仲間ニ引キ入レルナト言ッタノダ」



「ハハハ、アイツラハ特別サ、先輩達! ツーカ、現代ノ怨霊ヲナメナイデホシインデスケド!」



「フ、確カニナメラレチャ困ルナ。サテ、ドウスルンダ、我ラ怨霊ズノ先輩達? ココニ向カッテイルヨウダゼ。河谷ト玉沢ヲ滅シタ霊能者ガ――」



「フフフ、無論、返リ討チダ! 返リ討チニシテヤンヨ! 生者共――ッ!」



 と、数年前に落盤事故が起きたせいもあり、現在は立ち入り禁止区画となっている玄室を根城にする不浄なる者共は、自分達を退治しにやって来た霊能者――正確に言うと魔術師を返り討ちにするため策謀する。しかし、この世にいつまでこの世に留まっている気なんだろう? つーか、なにがしたいんだ、コイツらは!?



「姫神塚古墳に着いたぞ! ええと、玄室があるのは――」



 さて、俺――太田辰巳とエリザベート、それにクロベエとデメさん、ついでに浩史さんとはっちゃんは、姫神塚古墳へ徒歩、五分ほどで行ける浪岡自然公園の北口へとやって来る。



「うーん、こうして見ると、マジで女にしか見えないなぁ……」



「浩史さん、ニヤニヤ笑っててキモいよ。つーか、俺に気があるんだろう?」



「この男はホモだ。私を見てもなんの反応がないからな」



「ぐ、ぐわぁ、俺はホモじゃねぇ! 変な勘違いをするなァァ!」



 浩史さんは真っ向からホモじゃないって否定するけど、マジで疑いたくなるよ。さっきから彼の視線を妙に感じるしね。ちなみに、俺はエリザベートがつくった戦闘服を身に着けている。見た目はフリルがいっぱいついたゴスロリな衣装だが、日本刀の斬撃を受けても傷ひとつつかない堅牢な鎧として機能するそんな戦闘服を――。



「フフフ、似合っているなぁ、浩史ィ~♪」



「に、似合ってなんかいねぇよ! つーか、なんで俺まで女装しなきゃいけねぇんだァァ!!」



「ウフフ、可愛いわよ☆ もっと自分に自信を持たなきゃ♪」



「妥協しろ! この俺だって着ているんだ」



「この姿になって思ったんだが、僕は可愛いってね♪」



「く、くうううっ……」



 ああ、浩史さんも俺と同じ衣装――エリザベートがつくったゴスロリな衣装を身に着けている。変身効果で性転換している俺と違って浩史さんは男のままだ。その姿を見ていると笑いが込みあげてくるよ、プーックックック♪ ああ、そうそうエリザベートとデメさん、それに黒狐のクロベエとペンギンのはっちゃんも同じ格好だ。



「ん、ゴロスリ集団がいるぞ、可愛い……ん? ああ、その中に浩史がいるぞ、プギャー♪ つーか、女装の趣味があったのかよ、浩史?」



「あ、ホントだ、浩史だ! 引きこもりで女装癖があるとか、なにやってんの、ギャハハハッ♪」



「う、うわあああっ! 山本に前田! ななな、なんでいるんだよ!」



 確かに俺達はゴスロリの集団かもな。デメさんが援護要員として俺達と同じ日本刀の斬撃にも耐える堅牢の鎧でもあるゴスロリな衣装を着たゴルゴン三姉妹を呼んだみたいしね。ああ、そういえば、浩史さんの知り合いっぽいOL二人組の姿が見受けられる。昼飯を買ってここへやって来た、みたいな――。



「さ、行動に移るわよ! 邪魔者がやって来たわけだし!」



 ドーン、ドーン! と、連続で姫神塚古墳の玄室へ続く通路からなにかが空中に向けて射出される。まさか、アレは!?



「お、落ち武者の亡霊!? てか、実体化しちゃいないか?」



「あらあら、時代錯誤な恰好をした連中が舞い降りてきたわね」



「時代錯誤ダト!? フン、マアイイ。我ハ井上鉄左衛門(いのうえてつざえもん)! 我々、怨霊ズヲ調伏シニヤッテ来タ霊能者ダナ、オ前ラハ?」



「ワシハ高瀬甲衛門(たかせこうえもん)! オ前ラニ恨ミハナイガ、ココデ死ンデモラウゾ!」



 うっわぁ、ボロボロに朽ちた鎧兜を身にまとう血まみれの落ち武者の亡霊が二体、俺達の行く手を阻むように舞い降りてくる。さっき姫神塚古墳の玄室から射出されたモノの正体はコイツらっぽいな。んで、井上鉄左衛門と高瀬甲衛門と名乗る。時代錯誤な奴らだな。



「「ギャー!!」」



「うお、アイツらが見えるのかよ、お前ら!?」



「「う、うん!」」



「な、なにィィィ!?」



「浩史さん、あの二体の怨霊は実体化している。見えて当然だよ!」



「な、なんだと、タツ!? うく、山本と前田を逃がさなくっちゃな!」



 浩史さんの知り合いであるOL二人組にも、落ち武者の姿をした怨霊の姿が見えるようだ。アイツらは完全に実体化している。見えて当然だ。危険だ、OL二人組を早いとこ安全圏へ逃がさなくちゃ!



「フフフフ、我ラホドノ怨霊ニナレバ失ッタ肉体ヲ一時的ニトハイエ、再構築デキルノダァァ~~!」



「怨霊歴五百年ノワシラヲ甘ク見ルト痛イ目ニ遭ウゼ! オラアアアアッ!」



 ムムム、失った肉体を再構築できるだと!? それはともかく、怨霊の一体――高瀬甲衛門が刃のボロボロに欠けた日本刀を両手で振りあげあがら、俺達に向かって突撃してくる!



「うわあ、襲いかかってきた!」



「そう慌てる必要はないわ、ペルセポネー。ここは私に任せてもらおう」



「え、なにをするんだ、エリザベート?」



「フフフ、こうするんだ。ひょいっと――」



硝子玉(ビーズ)!? 硝子玉を実体化した怨霊の足許に投げたけど、一体……ああっ!」



 スッとエリザベートが冷静に動く。んで、肩からさげているポシェットの中から大量の硝子玉を取り出し、それを怨霊の一体こと高瀬甲衛門の足許にザッとばら撒く――ああ、大量の硝子玉を踏んだ高瀬甲衛門がズルッと滑って勢いよくうつ伏せに転倒したぞ!



「ウウウウ、転ンデシマッタ! グ、グアアアアアッ!」



「うへぇ、自爆しちゃったよ、アイツ……」



 高瀬甲衛門はうつ伏せに転倒すると同時に、刃がボロボロに欠けた愛刀を手放してしまう。そんな愛刀がヒュンヒュンと宙を舞い勢いよく持ち主である高瀬甲衛門の背中に落下――グシャッ! と、不快な気分になる音ともに、その切っ先が突き刺さる。あはは、自爆してるよ、コイツ。



「ム、無念……ガクッ! ダガ、俺ハスデニ死ンデイル!」



「わ、背中の日本刀が突き刺さったまま起きあがった! 流石は死者だぜ!」



「だけど、アイツは無理矢理、肉体を再構築している。ほら、無理が祟ったようだわ」



「ゴ、ゴアアア、痛ェ! ナンダ、スゲェ痛インデスケド!」



 流石は死者だぜ! とばかりに高瀬甲衛門は背中に愛刀が突き刺さったまま立ちあがる。だけど、エリザベート曰く、肉体の再構築という無理が祟ったようだ。ガクンッと再びうつ伏せに倒れ苦しみ始める。



「なんだかんだと肉体があるってことは痛覚も蘇ったってわけじゃね?」



「ソ、ソウナノカ!? ウオオオ、意識ガ遠退イテキタゾ……ガクッ!」



「あ、今度は黒い霧となって消滅した!」



「死者の死は消滅を意味します。フフフ、お馬鹿さんね。肉体の再構築――実体化なんかするから消滅しちゃうのよ」



 肉体を再構築したんだ。痛覚も当然――あ、高瀬甲衛門の身体が黒い霧となって消滅する。さて、デメさん曰く、死者の死は消滅を意味するようだ。そんなわけで消滅した高瀬甲衛門は本当の意味で死んでしまったのかもしれない。



「ウオオオ、高瀬! ナントイウ失態……ウギャアッ!」



「お前は眠ってろ! ふう、実体化するとハリセンでブン殴れるからいいね☆」



 お仲間の高瀬甲衛門が消滅する様子を見て怯んだ井上鉄左衛門の隙を突くかたちで俺は、奴の顔面を標的(ターゲット)に必殺の鋼鉄ハリセンを叩き込む。くぅ~実体化していると、こーゆー獲物でブン殴っても十分に効果があっていいわ♪ さて、井上鉄左衛門はギュルンと白目を剥いて気絶する。このまま気絶していてほしいところだな。



「おいおい、コイツら弱くないか?」



「じゃあ、次は浩史さんがやってみなよ。増援がやって来たし――」



「おい、任せろ……って、うわああ! でっかいのがやって来た!」



 むぅ、もう増援かよ! 熊のような大男が現れる。コイツも肉体を再構築した怨霊だろう。ボロボロに朽ちた鎧兜を身にまとう落ち武者って感じだしね。



「ヒ、ヒィィ!」



 浩史さんは悲鳴をあげ、俺が着ているゴスロリな衣装のスカートの中に潜り込んでくる。おいおい、さっきの強気な発現はなんだったんだよ!



「わあああ、どこに潜り込んでいるんだよ、浩史さん! つーか、そういう趣味があるんだぁ♪」



「ち、違う! とにかく、俺は本気を出していないだけさ。今に見ていろ!」



「てか、でっかいな。それに強そうだな、コイツ……メデューサ、お前の出番だぞ」



「ひゃっ! 私の出番!? ヒイィィ!」



 ドンッとゴルゴン三姉妹のエウリュアレーが妹のメデューサを熊のような大男の姿として実体化した怨霊の前に突き出す。まさか、彼女が戦うわけ? と、とにかく、様子を見ておこう。

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