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第九話 男装魔法少女と炉の女神 その6

「はわわわっ! ヤバいよ、ヤバいよ! 怨霊君達がついに動き出しそうだわ!」



 さて、強大な悪しき存在の立ち向かおうとするか弱い善良な存在が、敵の根城へと続く道のど真ん中で騒いでいる。行く? それとも行かない? そのどっちかを決めかねて――。



「あああ、怨霊君達をどうしよう! 怖い、怖い、怖い……だ、だけど、私は姫神塚古墳の守護者だった気がする! イマイチ記憶がないけど、アイツらをなんとかするのが責務!」



 と、得体の知れないモノに対する恐怖心と悪を憎む正義感がせめぎ合うそいつは、自称、善良な存在であるが、その一方で成仏できずにこの世を彷徨う亡霊だ。そんな亡霊の名前は鳴神姫。その姿を見た者のもとに幸運が訪れる――なんて都市伝説の主役(?)である。さて、その姿は下半身が半透明な可愛らしい十代前半の巫女さんだ……ん、どこかで見たようなキャラクターだぞ?



「あら、鳴神姫。お困りならお手伝いしましょうか?」



「ひゃ、橙子さん!」



 バアアアアンッ! 白い水干と黒い烏帽子という平安時代の男性貴族の格好をした奇妙な女の人が現れる。白拍子ってヤツかな? さて、鳴神姫のお友達なのかな? ああ、この女は生身の人間のようだ。



「なにやらいつも以上にイヤ~な雰囲気がするわね。アンタのお仲間には怨霊の類が暴れているわけ? ん~面倒だし、まとめて地の底に封じてあげましょうか?」



「断じて違うから! てか、アイツらと一緒にしないでぇー!」



「フン、まあいい。今日こそ、あの古墳に集まっているモノ共を祓ってみせるわ――藤原紀典の子孫として!!」



「え、藤原紀典の子孫? 知らんかったぁ……てか、守銭奴な霊能者かと思っていたわ!」



 さて、○○県S市を舞台とした昔話の英雄――藤原紀典の子孫を自称する白拍子の格好をした女の人の名前は小清水橙子。S市の繁華街、浪岡商店街アーケードおよび浪岡自然公園内が縄張り(?)の占い師である。ちなみに、お年は二十二歳。だけど、背が低い童顔なので実際の年齢より若く見られるのが珠の傷である。



「さてと、今日は一時停戦よ。今日は協力して、あの古墳に巣食う怨霊共を一網打尽にしない?」



「イイですね! やっちゃいましょう!」



 鳴神姫にとって小清水橙子は敵対者である。まあ、一方的に鳴神姫を祓おうと追いかけまわしているのが小清水橙子であるが――と、そんなふたりが一時的だけど手を結ぶ。浪岡自然公園内にある心霊スポットこと姫神塚古墳に巣食うモノを退治するために!



「ん……なに見てんだよ、アンタ達ィィィ!」



 おっと、忘れちゃいけない。鳴神姫は幽霊である。そんなわけで彼女の姿を〝見る〟ことができる者は少ない。それ故に起きることを例にあげるとすれば、鳴神姫と会話をする橙子が独り言をペチャクチャしゃべる怪しい人物に思われることだ。しかも、今の時刻は午後十二時半、真昼間なので彼女らがいる浪岡自然公園内には多数に人間が――わ、気持ちが悪い! って、みんなに避けられているよ!



「ふう、一足先に来てしまった。ああ、ボクの足の速さは天下一品だなぁ♪ ん、君達ィ、今、姫神塚古墳に巣食う怨霊共を一網打尽にするって言ってたでしょう?」



「ゲゲッ……今の話を聞かれた!? てか、私が見えるわけ?」



「もちろんさ☆」



 ん、キザな色男が現れて橙子に声をかける。コイツ……鳴神姫の姿が見えるのか!?



「名乗っていなかったね。ボクの名前はナルキッソス。S市の地母神の弟子で物好きな通りすがりの正義の味方さ!」



「は、はぁ、地母神の弟子ねぇ……」



「単なるキザな色男かと思った。てか、私らになにか用事?」



「フフフ、よくぞ訊いてくれた! ありていに言おう! ボクは君達の話を聞き協力したい気分になったのさ! ああ、そうだ。ボクの仲間もここへやって来るよ」



 その地母神というのは、恐らくデメさんのことだろう? 属性的には地母神に分類される神の一柱だからなぁ、彼女は――と、そんな地母神の弟子だって言うキザな色男は、あのナルキッソスのようだ。コイツを誘った覚えなんかないぞ、俺は……。



 ちなみにだけど、入り込んだ男性を女性に性転換させてしまう奇妙な場所でもあるデメさんの固有結界――夢幻花園から一歩でも外に出ると性別が元に戻るようだ。ああ、ナルキッソスは元々は男なので当然、出ると同時に元の姿へと戻る。



「ん、この感じは……!?」



 それはともかく、キュピーン! と、ナルキッソスはなにか嫌な気配を――邪気を感じ取る。キッと姫神塚古墳がある方向ににらみを利かせる。



「どうやら気づかれたみたいだ。君達やボクのような存在には、何気に敏感だからね。ああいう連中は――」



「う、なにかが黒い塊がふたつ飛び出してきた!」



「むぅ、あの黒い塊は怨霊だ。く、あのあのカップルに取り憑いたわね。厄介な……」



 鳴神姫と橙子、そしてナルキッソスの存在に姫神塚古墳に巣食うモノ共が気づいた!? ドーンと大砲から弾丸が発射されるかのように姫神塚古墳から、禍々しい黒い塊が飛び出し、それがバッと空中でふたつに分裂し、近くにいたカップルに衝突する。むぅ、カップルに怨霊が憑いたみたいだ!



「ウヒャヒャハハ! 殺ス殺ス!」



「ヒャオオオ! 俺達ノ計画ヲ邪魔シニヤッテ来タ者ハ殺スゥゥゥ!」



 怨霊に取り憑かれたカップルは、ほぼ同時にギュルンと白目を剥く。ああ、ふたり同時に不気味な笑いぎ声を張りあげながら、たまたま散歩にためにやって来たお爺さんと飼い犬のチワワに襲いかかる。お爺さんとチワワ危うし!!



「「「な、なにィィィ!!」」」



 鳴神姫、橙子、ナルキッソスの三人は目の前の光景に思わず驚愕の声を張りあげる。え、なにが起きたのかって? ありていに言おう。お爺さんと愛犬のチワワが怨霊に憑かれたカップルを返り討ちにしたわけで――。



「タ、タダノ年寄リジャナイノカ! アノジジイ……ウグェッ!」



「アウウウ、アノチビ犬ハ何者ナンダ……グハッ!」



 ドシャッ! と、カップルは同時に倒れ動かなくなる。同時ノックアウトだ! お爺さんはともかく、愛犬のチワワも只者じゃない!! 



「うお、なんだ、コイツらは!? 黒い粘液状の嘔吐物を吐いている!? う、まさかアレは――っ!」



 武術の達人かもしれないおじいさん&愛犬のチワワに敗北した怨霊に憑依されたカップルの口と鼻、そして耳の穴から、ドス黒い粘着物のようにジュルリと滲み出してくる。



「よし、退治するなら今だ! 退魔の薔薇を受けろ!」



 憑依したカップルの身体の外に出てきた今がチャンス! シャッとナルキッソスが茎についた白い薔薇の花を投擲する。お、クリーンヒット! ドス黒い粘液状の物体としてカップルの身体の外に出てきた怨霊の禍々しい身体に突き刺さる。



「ウガアアアアッ! ナンダ、コレハッ!」



「ガアアアア! 解ケル、俺ノ身体ガッ……グシャアアッ!」



 ナルキッソスが投げた茎のついた白い薔薇が突き刺さったドス黒い粘液状の物体――怨霊が真白く染まっていく……ああ、灰になってボロッと崩れ落ちたぞ!



「浄化完了だね。ほら、その証拠とばかりに、ボクが投げた白い薔薇が金色に美しく輝いている。だけど、このボクの美しさには敵わないけどね~☆」



 フッとキザったらしくナルキッソスは前髪をかきあげる。怨霊が灰になったのは浄化したからっぽいぞ。



「さ、行こう。邪魔者はアレだけじゃないと思うけど――」



「う、うん、行こう!」



「よし、殴り込みだァァ!」



 怨霊共は、確かにアレだけではないはずだ。さて、鳴神姫、橙子、ナルキッソスの三人は改めて姫神塚古墳へと向かうのだった。



「ん、ナルキッソスの気配がするわね」



「え、アイツもいるわけ? まあいいや、俺達も行こう――姫神塚古墳へ!」



 さて、俺とエリザベート、それにクロベエとデメさん、そして浩史さんは浪岡自然公園の北口へ足を踏み入れる。さあ、姫神塚古墳へ行くぞ!

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