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第九話 男装魔法少女と炉の女神 その5

 なんの苦も無く自由気ままに暮らせる楽園があるとしたら、我が家の庭と通じるデメさんことデメーテルの固有結界――花と穀物、そして果実がたわわに実る木々が生い茂る植物の楽園である夢幻花園だろうか?



 さて、どうでもいいけど、夢幻花園は男子禁制の女の園なんだよなぁ。そんなわけで、ここに足を踏み入れた男は、ほぼ例外なく性転換してしまうところなんだが、俺――太田辰巳宅の真向いの家に住んでいる山田浩史さんだけは、何故か性転換することなく入り込むことができたわけだ。不思議だなぁ……の一言である。




「うく、猫の姿をした怨霊が憑いていたようだね。おっと、そんなことより……ボクの右手が穢れる! 聖水で清めなくっちゃ!!」



「おわあああ、そんなモノを投げ渡すなっ!」



 むぅ、ナルキッソスは悲鳴をあげる。んで、浩史さんの胸に開いた穴の中から、グギギッと取り出した黒いオーラをまとう血まみれの猫の姿として実体化した怨霊を俺に投げ渡す。



「そいつをこの封印の鳥籠(とりかご)の中に閉じ込めるんだ、ペルセポネー!」



「お、おう! うりゃあああ!」



 ふう、ナイスタイミングだぜ、エリザベート! と、そんなエリザベートが持ってきた封印の鳥籠の中に、俺は勢いよく黒いオーラをまとう血まみれの猫の姿として実体化した怨霊を――浩史さんに取り憑いていた怨霊を閉じ込めるのだった。



「む、むぅ、あの猫はまさか!?」



「ん、知っているのか、クロベエ?」



「ああ、あれは赤錆丸(あかさびまる)……伝説の呪術師!!」



 伝説の呪術師赤錆丸!? クロベエは、あの怨霊についての詳細をなにか知っていそうだ。詳細を聞かなくちゃな!



「ニャバババ……誰カト思ッタラ貴様ハクロベエ! グギャオオオ、見ツケタゾッ! 我ガ怨敵……俺ヲ殺シタ因縁ノ相手!」



「ぼ、亡霊猫がしゃべった!? ついでにしゃべる黒い狐もいるぞ、うわああー!」



「きゃああ! なんで、また私のスカートの中に潜り込むわけ!」



 浩史さんは悲鳴をあげ、再びステンノーが着こなす白いワンピースのスカートの中に潜り込む。まったく、なにやってんの、この人――あ、顔面を蹴飛ばされて吹っ飛んだぞ。でも、顔はニヤニヤと……。



「俺を殺した、とか言ってるけどさ。お前、あの亡霊猫と知り合いなのか?」



「知り合いなどではない。アイツの話を先代のクロベエ――親父から聞いていたんでな」



「先代? お前の名前って代々、踏襲しているものかよ?」



「まあ、そうなる。さて、あの赤錆丸は、呪術師であると同時に、先代のクロベエこと俺の親父とその仲間――妖狐八部衆が、千年の昔、陰陽師の藤原紀典(ふじわらののりのり)とともに討ち滅ぼした邪教徒のひとりだ! しかし、親父が言っていたことは本当のことだったようだ。赤錆丸は死後、猫の姿となって彷徨い歩いているという話が、まさか実話だとはな!」



「せ、千年も昔の話なのかよ。じゃあ、アイツは千年も世界を恨み続けている怨念の塊ってわけかよ。うわ、性質が悪すぎる!」



 藤原紀典か、千年の昔――平安時代において俺が住む○○県S市を中心に活躍していた、と言われる伝説の英雄だ。なるほどね。あの英雄とクロベエの父親こと先代のクロベエら妖狐八部衆とやらに討ち滅ぼされた邪教徒のひとりが、件の赤錆丸という黒いオーラをまとう血まみれの猫として実体化した怨霊っぽいぞ。



「ウニャオオオオッ! 俺ヲココカラ出セ! ソシテ、ソノ男ノ身体ハ俺ノモノダ! 早ク元ニ戻セェェ!」



「わああ、暴れはじめた! この鳥籠は壊れないんだろうな?」



「もちろんだ、ペルセポネー。この私が言うんだ間違いはない」



「ウフフ、そろそろ私も動くとしましょうか――」



 赤錆丸が鳥籠の中でわめいている。さ、コイツの処遇をどうしたものか――ん、デメさんが動いた。なにをする気なんだ?



「亡霊猫さん――赤錆丸さんでしたっけ? アナタはどんな目的があって山田浩史さんの身体に憑依したんでしょうか? そこらへんの理由を語ってほしいわ」



「フン、誰ガ話スモノカヨ……ア、アレェ、ナンダカ急ニ……グフォフォフォ、アノ男ノ身体ヲ使イ姫神塚古墳ニ集マル怨霊(なかま)ヲ解キ放ツノガ目的ダ!」



「あらあら、トンでもない計画を考えているのね」



「ウニャ、シャベッテシマッタ! シ、シカシ、ナンダ、コノ気持チハ心ガ和んンデイク……」



「あ、あれ、コイツどうしたんだ? 黒いオーラが消えて真白くなったぞ、アイツ!」



 赤錆丸は誰がしゃべるか! なんて言ったが、次の瞬間には浩史さんの身体に憑依した理由を語ってしまう。デメさんがコイツに自白の魔術でもかけたのか!? それはともかく、赤錆丸の身体を覆っていた禍々しい黒いオーラが消え失せる。おまけに、血まみれの身体が真白くなっていく。



「あの猫ちゃんの身体は浄化され始めているのよ」



「ここにいる以上、奴は浄化される。真白くなったのは、奴の身体が浄化され始めている証拠さ」



「ナルさんが、あのお兄さんの身体の中から引っ張り出さなければ、きっと永遠にこの世のすべてを逆恨みする禍々しい怨霊のままだったわね。あの猫ちゃんは――」



 浄化され始めた!? と、ゴルゴン三姉妹がそう説明する。なるほどね。黒いオーラをまとった血まみれの赤錆丸の身体が真白くなったのは、そういう理由からのようだ。



「アア、癒サレル。コンナ気分ハ初メテダ。ダ、ダガ、コンナトコロデ成仏ナンテデキルモノカヨ! ススス、崇高ナ計画ヲ完遂スルマデハァァ~~!!」



 鳥籠の中で赤錆丸が暴れはじめる。禍々しい仲間とともに、なにやら計画を立てているっぽいなぁ、コイツ。



「ところで成仏ってなんです?」



「ああ、悟りを開いて天国に旅立つみたいな……感じだったかな?」



「なるほど、そういう意味なんですね!」



「ホントに判っているのか、義母さん? つーか、適当に返事しただろ、今?



「もちろん判っていますよぅ! さてと、イイ作戦を思いつきました♪」



 作戦だぁ? あの赤錆丸とその仲間(?)が一網打尽にする作戦でも思いついたわけ? ん、一応、訊いてみるか――。



「義母さん、なにか作戦でも思いついたのか?」



「ウフフ、知りたいですか? それじゃ現地へ行きましょうか、ペルセポネー」



「現地? まさか……」



「姫神塚古墳ですよ。ウフフ、あの古墳の立ち入り禁止区画である玄室には、あの猫ちゃんのお仲間がいるんでしたね」



 うへ、姫神塚古墳へ行くだって!? そういえば、あの古墳の立ち入り禁止区画にはいるんだよなぁ。赤錆丸のお仲間である怨霊が――。



「よし、親父の因縁もある。俺は行くぞ!」



「あら、クロちゃん強気ね。ペルセポネーとヘスティアも当然、行くわよね?」



「う、うん、義母さんがなにを行うのか気になっているしな」



「もちろんです、姉様!」



「ウフフ、流石は我が子♪ さてと、浩史さん、アナタもご一緒に――あ、拒否っちゃイヤよ☆」



 姫神塚古墳へ一応、俺も行ってみるかな。デメさんが、あそこでなにを行おうとしているのか気になるしね。え、浩史さんも連れて行くだって!?



「い、行きます!」



「ちょ、躊躇ためらわないのかよ、浩史さん!」



「おう、オカルトマニアの血が疼くんだ! それに俺の彼女が死んだ理由も……絶対に行くぞ、うおおおおー!」



 オカルトマニアの血が疼くだって!? 探究心、身を滅ぼすって言葉を知らないのか、この人は! まあ、こういう人が一度、痛い目に遭わないと判らないのかもしれない。



「あ、そうだ。ダフネの冠を持っていきましょう。浩史さんのような普通の人間のは対霊装備となるはずですから――」



 ダフネの冠? ふむ、対霊装備は必要になるよね。入り込んだ男を性転換させてしまう夢幻花園に足を踏み入れたはずなのに、何故か性転換をしない特異の存在とはいえ、浩史さんは普通の人間だし――。



「あ、早速、用意しますね!」



「うお、木がしゃべった!? ば、化け物か!」



「化け物じゃありません! てか、化け物あつかいするお兄さんには、こうやって無理矢理、コイツをみにつけさせてやる!」



「ぐ、ぐわぁ! 痛いっ……頭が絞めつけられるゥゥ!!」



 デメさんの背後に生えている一本の月桂樹がしゃべり始める。ああ、そんな月桂樹の枝がシュルシュルと動き出し、まるで烏賊(イカ)の食腕のように蠢きながら、浩史さんの頭に巻きつく。そうそう、件の月桂樹の名前はダフネ。意思を持ちしゃべる樹木である。ちなみに、広大な夢幻花園には、ダフネと同じく意思を持つ樹木が何気に生息していたりするんだよなぁ――。



「さ、行きましょうか! デメーテル探偵団、始動です☆」



「…………」



 デメーテル探偵団!? おいおい、いつの間に探偵団なんか結成したんだよ! ま、まあ、行ってみるとしよう。姫神塚古墳がある浪岡自然公園へ――

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