第一話 使い魔との出会い その4
ありていに説明すると、名井有人は正体不明の謎めいた存在である。
誰も彼の素顔を見たことがないってところもあるとは思うけど、度の過ぎたオカルトな知識で日本はおろか世界中の同じ穴のムジナであるオカルトマニアを魅了する存在ってわけだ。
無論、私も彼の度の過ぎたオカルトな知識に魅了されてしまったオカルトマニアのひとりなのよねぇ♪ おっと、そんな名井有人に狼姫の物語についての詳細をメールで尋ねたところ三分もかからないうちの返事が返ってきたきたわ! むぅ、カップラーメンが仕上がる時間より早いじゃん!
「ええと、何々……『ハロー! 我が友よ♪ さてさて、僕は狼姫の物語にあまり興味はないんだ。ラストが改竄されてしまっているからね。勧善懲悪なものに(・3・)』」
むぅ、狼姫の物語に興味がない? 名井有人が送ってきたメールの内容は、そんな感じである。ちょ、そりゃないわ!
「あ、またメールが届いた!」
今度はどんなメールなんだろう? それはともかく、名井有人からのメールが再び届く。私の愛用のスマホがガガガッと激しく震動し、それを伝える。
「ふむ、『興味はないけど、一応、結末だけ簡単に教えておこう。悪の化身たる狼姫は、朝廷が差し向けてきた正義の味方である藤原紀典によって討たれ世羅江野村に平和が訪れました。めでたし、めでたしって感じの勧善懲悪な話で終わるんだよ。だからねぇ僕は興味がないんだ(´A`)』」
悪党は正義の味方に倒される勧善懲悪なストーリーが成り立っているわねぇ。うーん、私もイマイチだなぁ、そんな終わり方だし……。
「あ、またメールだ! 今度はなにかしら……『ああ、スマソ。忘れていた。狼姫の件だけど、姫鬼山の頂上にある祠の中に生きたまま封印されているって伝説があるみたいだ。興味があるなら出張ってみるといい。それじゃまたね(・∀・)ノシ』」
「沙希ちゃん、狼姫が生きたまま封印されている祠があるってホント!?」
「うん、名井有人のメールの内容ではね」
名井有人の話が本当なら、すっごく興味深い話だわ! しかし、千年も生きていられるのかなぁ……。
「狼鬼って存在はさぁ。鬼とか人外だし、千年くらい飲まず食わずでもへっちゃらなんじゃないかな? もしも本当に存在していたのならさ」
「うう~ん、飢えて気が狂ってそうな予感もする……」
そう早苗姉ちゃんが言うけど、実際は飢えて気が狂ってそうだ。仮に封印を解いたら、いただきますーってな具合で私は食べられちゃいそうだ、ひゃ~!
「ま、いいや。とりあえず、出かけるとするかぁ!」
「うん、そうだね!」
(あ、判ってると思うけど、姫鬼山にね!)
(なんだか楽しみだね♪)
「ああ、そうだ。悠太も一緒にGO!」
「えーなんで俺も!?」
「いいから!」
「む、むぅ……」
さてと、なんだかんだと、私と茜は胸中で口裏を合わせる。姫鬼山へ出張ってみよう! ああ、ついでだから悠太も連れていくかな――私の秘密を知っているわけだし♪
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あ、姫鬼山って、あのサマエルって外国人も向かった山じゃん!」
「そういえば、そうだよね。あのコとどこかで会うかもしれないわね」
鬱蒼とした森林と獣道のような山道が目の前に見受けられる姫神山の麓に、私と茜、ついでに悠太はやって来る。ここは、あのサマエルとかいう外国人が向かった山だわ……間違いない!
「お、沙希じゃないか! こんな鬱蒼とした場所でなにしてんの?」
「わ、貞春叔父さん! それに夏美叔母さん、秋子叔母さん、冬彦叔父さん!」
私達がいる場所の背後は、途中から砂利道となっているとはいえ、○○県S市の都心へとつながる立派な公道だったりするのよね。さて、一台の赤い自動車が停車する。んで、キザな色男って感じの背の高いオッサンが降りてきて私に声をかける……ふう、叔父の貞春叔父さんだ。ああ、ついでに他のお父さんの弟妹達も一緒のようだ。
「わあ、叔父さん達がそろっているなんて珍しいね。お爺ちゃんの家に行くのかな?」
「俺は夏美が行こうっていうから来ただけさ」
「それは私もよ。仕事が忙しいっつうーのに……」
「ああ、俺は無職だから暇だから来た」
「は、はあ、そうなんだ……」
「それより紗希、宿題は終わったわけ?」
「ううう、まだ途中かも……」
ふう、なんだかんだと、貞春叔父さん達が一緒にいるなんて珍しいにもほどがあるわ。私のお父さんも含めると、みんな何故か世羅江野村を嫌っているっぽいしね。むぅ、これは悪いことが起きる兆しかもしれないわね。
ああ、とりあえず、簡単に説明しておくかな。貞春叔父さんはホストクラブ等の風俗系飲食店を経営者、夏美叔母さんは教師、秋子叔母さんはBL系漫画家、そして冬彦叔父さんは無職。ちなみに、貞春叔父さんが四十歳、夏美叔母さんが三十七歳、秋子叔母さんが三十四歳、冬彦叔父さんが三十二歳だったかな? ああ、私のお父さんこと山崎源太郎は四十六歳である。
「ん、そういや、どこへ行くんだ? まさか姫鬼山に登ろうとか?」
「あはは、そのまさかかも……」
「う~ん、悪いことは言わない。あの山には行かない方がいいぞ! 俺は小学生の頃、すっげぇ恐い思いをしたんだ!」
ビンゴですよ、貞春叔父さん。ん、冬彦叔父さんが子供の頃、恐い思いをしたって言い出す。なにかあったのかしたね?
「確か三日くらい行方不明になったのよね、コイツ……」
「まあ、行方不明になったとはいえ、今考えると冬彦が五体満足で無事に発見されて良かったわ。ここは昔から入山者が神隠しに遭うって伝説があるしねぇ……」
「か、神隠し!?」
夏美叔母さん、秋子叔母さんが続けざまに、そんな話をする。入山した者が神隠しに遭うって伝説があるのかぁ……ますます興味が湧いてきたわ!
「まあ、そんなわけよ。絶対に姫鬼山には……って、いないわ!」
夏美叔母さんは姫鬼山に入山するなって言いたかったんだろうけど、そう言い終わる前に私と茜、それに悠太は、件の姫鬼山の鬱蒼とした森林の中に駆け込んでいるのだった。
「ヤベェな、俺と同じ目に遭わなきゃいいが……」
そんな杞憂する言葉をつぶやく冬彦叔父さんの顔色は真っ青だ。それに全身を激しく震わせている……お、大袈裟だよ、あはは♪
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「うお、姉ちゃんがホッキョクグマに変身した! 茜さんは豹かよ……うわあああ、俺の身体が狐に――ッ!」
「フフフ、変身もいいものよ、悠太♪」
「でもさぁ、沙希ちゃん。悠太くんの狐はともかく、私達は日本には生息していない動物だよね? め、目立ちそうで逆に恐いんですけど!」
さてさて、姫鬼山の鬱蒼とした森林の中の駆け込むと同時に、私はホッキョクグマの姿に変身する。ああ、ついでに茜を豹に、悠太を狐の姿へ変化させる。
「でも、どうして動物の姿になんか……」
「動物の方が野山を行き交うのに最適かと思ってね」
変身した理由は、そんな感じかな? でも、日本に生息していない動物なのよねぇ、ホッキョクグマと豹は――。
「つーか、ここは地元住民も滅多に訪れない場所らしいから気にしない、気にしない♪」
「う~ん、そうだけどさぁ……」
いんだよ、細けぇことは! ここだったらホッキョクグマや豹の姿でも通報されたりしないだろうしね。さぁて、先へ進もうか!