第八話 魔法少年としゃべる獣達 その5
「ぐ、ぐわぁ! コ、コイツらは実体化もできるのかよ! うおおお、頭に角を生やした奴を突撃してきやがった!」
うおおお、危ないっ! 危なく突き刺されるところだったぜ! さてさて、HG共は自由に実体化することもできるようだ。んで、奴らの中には頭に鋭利な刃物のような角を生やしたモノ、絶滅動物の一種であるスミロドンを連想させる巨大な犬歯を生やしたモノ――とにかく、そんな攻撃力を特化させた姿として実体化し、俺達に襲いかかってくる。
「特訓とはいえ厳しいな。武器を使うしかないか……」
「武器だって? 僕は素手だよ。ああ、爪で引き裂いてやればいいかな!」
「ちょ、どうでもいいけど、アンタ達も人間に変身できるのかよ!」
むぅ、チーターの神倉真理とユキヒョウの芦沢修也も人間の姿に変身できるようだ。うーむ、あれが本来の姿なのかな? ちなみに、神倉は黒髪の美女って感じの容姿だけど、その身を包むSMの女王様を連想させる黒光りするレザーのボンテージな衣装のせいで近寄りがたい雰囲気を醸し出している。一方で芦沢は眉目秀麗なイケメンなお兄さんって感じだけど、気の弱そうな優男って雰囲気がするんだよなぁ……あ、でも、両手と両足の膝から下は倍の大きさで鋭い鉤爪が見受けられる。あれは部分変身ってヤツでユキヒョウのモノに変化しているんだろう。
「なにジロジロ見てんだよ」
「み、見てましぇーん!」
「フン、まあいい。コイツらをボコってさっさと、あの頂上が光る山へ行こうや!」
「ひっ……で、でっかい斧!?」
神倉がギロッとにらんでくる。べ、別にジロジロ見てなんか……そ、それはともかく、頭上から巨大な斧が降ってくる。神倉の専用武器なのか!?
「人間に変身すると、彼女は性格が変わるんだ。きっと、あの〝仕事着〟が原因だと思う」
「は、はぁ……」
「お前ら、さっさと戦えよ! オラアアアアッ!」
「「は、はいィィ!!」」
芦沢がゴニョゴニョと小声で……に、人間に変身すると性格が変わる!? 仕事着って、あの黒光りするレザーのボンテージな衣装のことかな? うげぇ、神倉に怒鳴られた。お、大人しく従っておこう!
「よし、私も人間に変身するわ! このままじゃ上手く戦うことができないし!」
「え、アヒルさん、人間に変身できるの?」
「アヒルじゃないわ! 私は白鳥よ! つーか、アフロディーテ様ってお呼びっ!」
「ア、アフロディーテ様! それでいいかな?」
「うんうん、それでよし! あ、あれぇ~変身できないっ……仕方がないわね」
「は、はわわっ! ふう、この娘の身体との相性がバッチリだわ♪」
「ちょ、出てってよ、馬鹿ァァ!」
「ば、馬鹿とはなんだ、罰当たりめ!」
「…………」
古代ギリシャの美神アフロディーテを自称するアヒルは、再び三嶋と一体化する。うえ、また始まったよ、一人漫才が……。
「お前ら、遊んでいないで戦え! コイツらけっこう強いぞ!」
「アハハハ、蹴飛ばした途端、実体化を解いてしまうよ、コイツ♪」
別に遊んでなんかいない。ちょっとだけ休憩していただけさ! さて、クロベエは人間の変身できないが二足歩行形態――獣人形態には変身できるようだ。んで、アーたんと一緒にHGに攻撃を仕掛けたようだけど、攻撃がHITした瞬間、フッとHG共は実体化を解いて再び実体にない幽霊へと戻るようだ。むぅ、厄介だなぁ、まったく!
「グフォフォフォ、我々ハ無敵ダ! 倒セルノハ、ソンナ我々ノ主ダケダ!」
「ソウイウコトダ! ボコボコニシテヤル! ウガアアアッ!」
くぅ、その身の実体の有無を自由に変化させられるからって調子に乗ってるな、コイツら! は、そういえば、さっきアフロディーテと名乗るアヒルと合体(?)していた状態の時、実体のない状態のHG共にも攻撃をHITさせていたような?
「グ、グフォッ! コ、コイツハ危険ダゼ! 実体ナイ状態ノ俺達二攻撃ヲ仕掛ケテクル!」
「イタタタッ! ナンダ、コノ女ハ!」
「ニャハハ♪ そらそら、どいた、どいたァァァ!」
「わーん、アフロディーテさん、私の身体から出てってよー!」
「だが、断る!」
「わあああん! 助けてぇー!」
ムムム、アヒルのアフロディーテと一体化している今の三嶋は、一人漫才をしているお笑い芸人のようだ。でも、どこから持ってきたのかは定かだけど、右手で握る鞭をぶん回しながら、実体のないHG共を薙ぎ払っている。
「うむ、このままでは拉致が明かないわね。ブーストーモードで一気に叩くとするかぁ~♪」
「ちょ、ブーストモードってなによ!? ああ、身体が熱いィィィ……ヒギィィ!」
ブ、ブーストモードってなんだ? つーか、三嶋と一体化しているアフロデューテはなにをする気なんだ? うお、三嶋の身体が赤い閃光を放つ……うお、三嶋の外見が変化している! 長身痩躯でスタイル抜群なグラビアアイドルのような感じに成長しちゃいないか!? 要するに三嶋は、地味な眼鏡の女のコから妖艶な美女に変身してしまったわけだ!
「わああ、私の身体がっ! な、なに、この胸……こんなに大きくないはずなのに!? それに背も伸びたような気が……」
「フフン、この美の女神アフロディーテさんと一体化しているんだ。相応しい容姿になってもらわんと困るじゃなぁ~い♪」
「ちょ、私の身体を勝手に弄らないでよ!」
「ハハハ、細かいことをいいのよ。つーか、アンタって魔法少女なんでしょう? 魔法少女っつうと変身すると子供の姿から大人の姿に変身するのが相場でしょう? さ、幽霊共をフルボッコにするわよ、たぁー!」
「うわああん! もういい加減にしてェェェ!」
三嶋は魔法少女というか、その才能があるだけの普通の女のコなんだが? てか、魔法少女は変身すると子供の姿から大人の姿に変化するだって!? な、なんだよ、その往年の魔法少女もののアニメのような理屈は!
「フ、やるな、アフロディーテ! ならば、この私も……グオオオオッ!」
「ア、アポロンが巨大化した!? ガ○バのノ○イみたいだァァァ!」
一体化している三嶋の身体を成長させパワーアップ(?)させたアフロディーテに対抗するように、ズモモモとアポロンの身体が肥大化していく! ああ、巨大なフェレットの怪獣になった! フェレゴンと命名しよう。
「ウオ、アノ小動物ガ巨大化シタゾ! ドウスル、オ前ラ?」
「対抗シテ俺ラモ巨大化スレバイインジャネ?」
「オ前、頭イイナ! ヨシ、合体シテ巨大化シヨウゼ!」
「「「ガオオオオー!」」」
「は、はわわ、アイツら合体して巨大化したぞ、ヒィィ!」
巨大化したアポロンに対抗するように、ガオオーと一斉に咆哮するHG達が合体を始める。ああ、あっと言う間に巨大なハイエナの姿として実体化したぞ! むぅ、怪獣対決だな、こりゃ!
「フフフ、君の巨大化する?」
「ちょ、悠太君を巨大化させるわけ!?」
「ちょ、おまっ! 俺は巨大化なんて……うぐおお、身体が熱いィィ!!」
ぬううう、三嶋――アフロディーテの眼がキランと赤く光る。その刹那、身体が突然、熱くなる! なにが起きたんだ……お、俺の身体を巨大化させる気なのか!?




