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第八話 魔法少年としゃべる獣達 その4

 ハイエナなど夜行性の野獣が蠢いていそうな夜のサバンナ――それが俺、山崎悠太が取り込まれた固有結界の中の風景だ。さて、そんな固有結界を形成しているのが、先生と呼ばれるしゃべるメスライオンこと逢坂美月である。そういえば、固有結界内の風景は彼女の心象風景に影響されるらしい。



「わ~、真っ暗でなにも見えないよぅ! そんな時は秘密兵器を……ジャーン、暗視装置(ナイトビジョンデバイス)が内蔵されたゴーグルだァァ~~!」



 どこからそんなモノを!? カラスの沙羅は、いつの間にか暗視装置が内蔵されているゴーグルを身に着けている。むぅ、俺も欲しいなぁ……。



「まあ、暗いけど、目印とばかりに、これから行く山の頂上が光っているから迷うことはないかなぁ……」



「それは悠太君達、夜でも目が利く動物だからでしょう? 私にはキツいわぁ!」



 おっと、忘れていたぜ。ここにいるメンバーで三嶋が唯一の人間だったな。暗視装置が内蔵されたゴーグルを身に着けているカラスの沙羅はともかく、彼女の眼というか人間の眼は暗い夜には対応していないわけだ。人間って、ある意味で不便だなぁ。



「アハハ、暗い場所もいいね。あ、この先に大きな木があるから気をつけてね、悠太♪」



「うお、ホントに大きな木があるなぁ……」



 アーたんは見た目は人間だけど、別系統の生き物である。そんなわけかは知らないけど、夜行性の動物と同じく夜目が利くようだ。



「仕方がない。夜目が利かないその娘のために、この私が照明となろう」



「あ、ありがとう! フェレットさん……わ、眼が光っている!」



 ヒョイッとアポロンが跳びあがり、三嶋の首にスルリと巻きつく。おお、眼が光るフェレットの襟巻だ! うげ、でも、ちょっと不気味かも。



「あうあうぅ~みんな走るのが早いよぉ!」



「ああ、悪い悪い! てか、人間の姿なのは三嶋だけだったな」



 ふむ、人間の時より、今の姿――狐の姿の時の方が倍の速度で走ることができる。おまけに夜目が利くし、こういう時だけは狐に変身できることに感謝しなきゃな!



「あ、そうだ! この人形からヘンな声が聞こえるんだけど、空耳だよね?」



「え、変な声!?」



「むぅ、目覚めたっぽいぞ、悠太」



「め、目覚めた? な、なにが?」



「そんなことより、みんなっ! なにかが近づいてくるわ!」



 む、むぅ、朱莉の両目がキラーンとなにかに反応するかのように光っている! な、なにが近づいているんだよ! 



「光だ、光る物体が高速で近寄ってくる!」



「ひょっとして、あれは自動車では!?」



 確かに、光る物体が高速でこちらに……ん、あれは自動車!? ああ、なるほど、そんな自動車らしき物体の前照灯の光を受けた朱莉の両目がキランと反射し、光っていたのかな?



「ん、ジープ!? ん、探検隊の衣装を着た眼鏡の女の人が運転しているのか?」



「ああ、先生よ、悠太」



「え、先生……う、あの逢坂美月と名乗るメスライオン!?」



 ひ、光る物体――いや、一台のジープが、キキィというブレーキ音が奏でながら停車する。ん、そんなジープを運転しているには、白い探検隊の衣装を身に着けた眼鏡の女の人のようだ。さて、朱莉曰く、あの先生と呼ばれるメスライオンこと逢坂美月のようだけど……って、おい! 人間に変身できるのか!


 

「あら、まだそんなところに? フフフ、私は一足先にあの山の麓に行っている。んじゃ、シーユーアゲイン♪」



「ぬあぁぁ、乗せてってくれよ!」



 お、おい、あの頂上が光る山の(ふもと)へ先に行っているだと!? そう言うと先生は、ニヤリと微笑ながら、ガッと運転するジープのアクセルを思い切り踏み込みエンジン全開で勢いよく俺達の目の前から立ち去るのだった。お、おィィジープに乗せてってくれてもいいじゃないかァァ! 



「うわ、先生、ひどっ……ん、またなにか近づいてくる!」



「んん、この感じはGかな?」



 チーターの神倉真理とユキヒョウの芦沢修也が、キッと勢いよく背後を振り返る。またなにかやって来たのか!?



「Gってなんだ? う、よくは判らんけど、なにかが近づいてきているのは確かだな」



「ああ、間違いない。しかも、この感じは――」



「G……幽霊が近くにいるわっ!」



「え、えええ、幽霊!? ひっ……」



 Gとは幽霊(ゴースト)の頭文字!? んで、そんなGこと幽霊が近づいている――と、朱莉がそう叫ぶと同時に三嶋は、ヒィッと喉の奥で悲鳴をあげて尻餅をつく。幽霊か、実体化がない厄介な存在だけど、倒せない存在ではないって姉の沙希が言っていた。よ、よし、やってやるぜぇ!



「狐君、幽霊は一体や二体じゃないと思う」



「な、なぬ!?」



「あー、この感じは先生に使い魔の〝霊団〟かも……」



「れ、霊団!? 要するに、幽霊の集団が迫っているわけ?」



「うん、そのまさかだ!」



 うげぇ、霊団だと!? 一体や二体じゃ済まない幽霊の大群が迫ってきているのかよ! うっがぁ、厄介だなぁ。やってやるーって思ったのも束の間の出来事になりそうだぞ!



「き、来たっ!」



「き、来た!? わあああ、身体が透けて見えるほのかに光る犬のような生き物がたくさん現れたよ、悠太君!」



「あれは犬じゃない! ハ、ハイエナだァァ~~!!」



 ほんかに光る身体が透けた奇妙な犬のような生き物―――ハイエナの群れが現れる! あのハイエナ達が件の霊団なのか!?



「グフォフォフォ……俺達ハ美月姐サンノ命令デオ前達ヲ試スタメニヤッテ来タ!」



「ソンナワケダ。覚悟シロ!」



「アア、実体ガナイカラッテ甘ク見ルト……死ヌゼェェ!」



 先生の命令で俺達を試すためにやって来た!? それが霊団――ハイエナの姿をした幽霊の大群の目的だというのか? まったく先生も嫌な試練を……く、どうする、俺!



「狐君、もちろん戦えるよね?」



「お、おう! 魔法少女の姉――沙希からもらった木彫りの短剣が役に立ちそうだ!」



 戦えるか、と芦沢が訊いてくる……もちろんだ! 姉の沙希がつくった魔道書の死霊秘法に記されていた呪文が刻まれた木彫りの短剣もあるし、なんとかしてみせる! み、三嶋を守るためにも――ッ!!



「ん、この気配!? チッ……この娘の精神を乗っ取ったな!」



 三嶋の首に襟巻のように巻きつくアポロンが、そんな奇妙なことを言い出す。ん、精神を乗っ取った……ひょっとして三嶋の!? 〝なにか〟が憑依したとでも?



「あらん、バレちゃった? じゃあ、仕方ないわねぇ……オラアアアアッ!」



「グ、グワアアッ! 先制攻撃ッテヤツカヨ! ズルイゾ、貴様ァァ!」



 うお、なにが起きたのかさっぱりだぜ! ニィィと三日月のような笑みを浮かべながら三嶋が、ダッと先制攻撃とばかりにハイエナの姿をした幽霊達に対し、突撃を……〝何者〟に操られているのかァァ!?



「わーん、身体が勝手に動くよぉ~! 助けてぇ、悠太君!」



「あら、完全に精神を乗っ取ったつもりだったのに……やるわね♪」



「はわわ、今度は勝手に口がぁぁ!」



 む、むぅ、三嶋はまるで一人漫才をやっているような……と、とにかく、三嶋は霊団ことハイエナの姿をした幽霊(ゴースト)達――略してHG(ハイエナゴースト)を鞭のような長い獲物で薙ぎ払う! ちょ、待てよ。アイツらは幽霊だ。実体がないはずなのに、何故か三嶋の攻撃がボコスカ命中しているんだが……!?



「これぞ、神の力!」



「わぁぁん、なにがなんだか判らないわぁ!」



「グエエエ! コノ人間、強イゾ! 実体ガナイ俺達ヲボコボコニニスルナンテ――ッ!」



「ダガ、コノ程度デハ、俺達ハ倒セン! ウガアアアアッ!」



「「きゃああああっ!」」



「あああ、三嶋ぁ! クソ幽霊共がぁ!」



「ん、今、白いナニかが、あのコの身体から分離したよ、悠太?」



「な、なにィ!? ああ、マジだ……な、なんだ、あれは? 白い鳥のように見えるんだが……?」



 実体のないHG共に対し、攻撃をすることができる! そんな油断が招いたのか、HG共の一体が一時的に実体化し、三嶋の華奢な身体に体当たりを――ん、弾き飛ばされた三嶋の身体から、なにか白い鳥のような生き物が分離したぞ!?



「ア、アヒル!?」



「違う、私は白鳥だ!」



 三嶋の身体から分離したのは、首に黄色いマフラーを巻いた一羽のしゃべるアヒルだ。つーか、白鳥だって言ってるんだが……。



「アフロディーテだな、お前?」



「左様、すぐにバレるなんて意外だったわ、アポロン」



 アフロディーテといえば、アポロンと同じオリンポス十二神と呼ばれる古代ギリシャ神々の一柱で美の女神だったような? しかし、白鳥を自称するアヒルとは笑えるかも……プーックックッ♪



「アンタ達、遊んでないで戦いなさい! 奴らが襲いかかってきたんだし!」



「お、おう! あ、あれ、人間の姿に戻れないっ……く、仕方がない!」



 HG共が本格的に動き始めたぞ! ん、そういえば、人間の姿に何故か戻れないぞ!? このまま狐の姿で戦うしかないなぁ――と、とにかく、この状況を切り抜けなくちゃ!

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