第八話 魔法少年としゃべる獣達
今回は主人公、山崎沙希の弟、悠太を主人公に据えた外伝のような話となります。
・登場人物紹介
・三嶋愛梨――山崎悠太の同級生。そして彼が気になっている女子。
・田所健太――山崎悠太の同級生で友人その1
・後藤恵一――山崎悠太の同級生で友人その2
・野田光一――山崎悠太らとは違う学校に通う友人
・沙羅――元人間を自称するカラス。
・逢坂美月――先生と呼ばれるメスライオン。
・神倉真理――元人間で先生の弟子であるチーター。
・芦沢修也――元人間で先生の弟子、その二であるユキヒョウ。
「狐さん、こんにちはー!」
「お、おう……って、俺は狐じゃねえよ!」
「え、違うの? 私の目に狂いはないんだけど……」
「うう、腑に落ちねぇ……」
俺の名前は山崎悠太。学力も運動神経も、なにもかもが普通のどこにでもいる中二男子だ。あえて他人と違うところがあるとしたら、動物と会話できることと、ミス・ネクロノミコンと呼ばれることもある魔法少女の姉から教わった変化の術で狐に変身できるところかなぁ。とまあ、そんなせいもあってか話しかけてくるんだよ――野良猫やカラスなどの獣達が……。
「なんだか腑に落ちないって感じの表情ね」
「そりゃそうだ! 俺は変化の術で狐に変身できるだけであって決して妖狐の類じゃないからな!」
さてと、自称、元人間だっていう沙羅と名乗る一羽の図々しいカラスに目をつけらてしまったようだ。俺が自宅の外へ出る度の現れて、なんだかんだと絡んでくるんだ。ひょっとしてストーカーの類なのか!?
「ねえ、どこへ行くの? ねえねえ?」
「友達と会うんだよ。そこの公園で――」
「えー、お前も来るのかよ!」
「ふむ、私も行こう」
「ボクも行くよー!」
「うげ、アポロン、それに安里さん! いいい、いつの間にィ――っ!」
「アーたんでいいよぅ♪ 沙希の弟クン、大好きぃ~♪」
「わあああ、抱きつくなァァ~~!」
ムムム、いつの間にかフェレットのアポロンと安里澄子さんことアーたんが、ドンッと俺の背後に――ちょ、お前らも一緒に来るのかよぉ!
「むぅ、ついて来るのはいいけどさ。俺の友達の前でしゃべったりするなよ、特にアポロン!」
「ムムム、何故、私がしゃべってはいけないのだ!」
「そりゃさぁ、フェレットが普通はしゃべらんし……」
「なにィィ! それは差別じゃないのか、貴様っ!」
「いや、差別っつうかマジでしゃべらないでしょ、普通! てか、ついて来るなら物陰からこっそりな!」
「じゃあ、私はしゃべってもいいんだよね?」
「お前もダメ! カラスなんだし、ペチャクチャしゃべるわけがないだろ!」
「アハハ、獣って大変だね♪」
「てか、アーたんは姿を消していてくれ! 姉ちゃんから穏行の術を学んだんだろう?」
「えー、なんでさー!?」
「むぅ、変な誤解をされちゃ困るからだよ!」
まったく、非常識な奴らだな。普通、獣はしゃべらんでしょ! アーたんの場合、人間の姿をしているけど、その中身は別系統の生き物っぽいし……てか、彼女が一緒だと変な誤解を招きそうなんだ。今から会う友達っていうのは!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おっす、久しぶりだな!」
「てか、三日ぶりだろう?」
「え、そうだっけ?」
「そうよ、三日前もみんなで会ったじゃん」
「あー、そうだったな! 三日前にみんなでプールに行ったな」
あれ、そうだっけ? うーん、忘れてた――ったく、俺は忘れっぽい性格だなぁ。それはさておき、俺、山崎悠太は光桜学園中等部の同級生であり、友人でもある三嶋愛梨、田所健太、後藤恵一の三人と浪岡自然公園という名の公園の北側、出入り口の前で合流する。
「よぉ、塾のせいで遅れちまったぜ!」
「遅いぞ、野田ぁ……ん、中嶋は一緒じゃないの?」
「中嶋は呼びに行ったけど、ネットで知り合ったエティなんとかってヤツからもらった洋書の翻訳で忙しいんだってよ」
「ふ~ん、そうなんだ。しかし、洋書の翻訳とは物好きだなぁ」
ああ、別の学校に通う友人の野田光一と中嶋文貴とも合流予定である。だけど、野田の話じゃ中嶋は趣味の方面で忙しいようだ。
「洋書っつうと姉ちゃんがいつも持ち歩いている〝あの本〟も確か……」
「ん、なんの話だ?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
俺の姉、沙希が肌身離さず持ち歩いている本がある――死霊秘法だ。あの本も洋書の類だった気がする。だけど、読み者に応じて言語を返還するという魔道の書物でもあったなぁ。てか、あの本に選ばれた者ではない俺には読むことができない。表紙を開くと、なにもかもが白紙なわけで……。
「野田君、塾で忙しそうね」
「ああ、そりゃ忙しいよ。ウチの両親は、俺を隣町のO市にあるW大学付属の進学校へ進学させようって企んでいるんだ。そんなわけでくそみそに五月蠅くてさぁ……」
「アハハ、野田も光桜学園に受験すりゃ良かったのにな。S市にある近場な進学校だしな」
「うう、マジでそうすりゃ良かったぜ! 悠太でさえ合格できたんだし……」
「うお、聞き捨てならん言葉だなぁ!」
ムムム、一瞬イラッとしたかも……。さて、俺が通うS私立光桜学園は中高一貫制を敷く進学校だ。そんなわけでエスカレーター式で進学できるところだけは勝った! と、両親の進めもあるらしいがW大学の付属校へ進学しようと考えている日々、受験に備えて忙しい野田に対し、言えるかもしれない。
「そういや、集まってどこへ行くんだっけ?」
「動物園よ、悠太君。忘れちゃった?」
「あ、ああ、そうだったな」
「てか、ペットを連れて来たのかよ、お前?」
「な、なにを言っているんだ? ペットなんて連れ来るわきゃねぇだろ……うお、増えてる!」
「増えている?」
「コ、コイツらは公園に住み着いている野生動物だって! ほら、ここは自然豊かな浪岡自然公園なんだし……」
「あ、ああ、言われてみれば、そうかも?」
「キャー、そんなことよりフェレットと猫ちゃん、それに黒い狐……か、可愛い♪」
おおい、アポロン! ついて来るなら物陰からこっそりって言ったじゃないか! ったく、堂々と俺の足許をうろちょろしやがって……うお、カラスの沙羅と同じく元人間を自称する我が家の居候であるアメショーの神崎朱莉、それに姉の沙希の友人、黒狐のクロベエまでいつの間に!? あ、あれ? クロベエは姉の沙希の友人、太田辰巳さんの使い魔のはずなのに、なんで一緒に?
「まさか狐まで住み着いているとはな。ちょっと意外かも……」
「そ、そうだよなぁ、意外だよな!」
おっと、説明していなかったな。今、俺がいる公園の名前は浪岡自然公園。S市の繁華街である浪岡商店街アーケード&駅前から徒歩で数分の場所にある広さを例えるなら東○ドーム約ふたつ分くらいある大きな背の高い原生林が生い茂る自然豊かな公園だ。ああ、ついでに言っておくけど、この公園内には心霊スポットとして有名な姫神塚古墳なんてモノもある。つーか、鳴神姫って名前の目撃した者になんらかのご利益があるというウワサの幽霊が出るんだよなぁ、ここ――てか、俺は恋愛絡みでなんらかのご利益があってほしいかも♪ だから、同級生で友達の気になる女子、三嶋愛梨も誘ったってわけだ。
「この間、狸を見たぜ」
「狸もいるんだ! 流石は自然公園だね、悠太君」
「お、おう!」
田所が狸を目撃したって言い出す。むぅ、その狸って、もしかして姉ちゃんの友人の蓮田茜さんの使い魔である仙狸のタヌキチのことでは!? ま、まあ、気のせいだろう!
「ん、ところで山崎君の背後から首に手をまわしたかたちで抱き着いているお姉さんは誰?」
「わ、アーたん!」
ちょ、いきなり現れて背後から首に手をまわしたかたちで抱き着くないよ、アーたん! うわ、みんなの視線がズギュウウンと突き刺さるゥゥ!
「こんにちはー♪ ボクは安里澄子。悠太ン家に居候している者だよぉ。ちなみに、悠太の彼女とかそーゆー関係じゃないよ」
「お、おいィィ! と、とにかく、本当に関係ないんだ! タ、タダの居候なんだァァ~~!」
「へ、へえ、そうなんだ?」
「ひゅ~悠太も罪に置けないねぇ♪」
「う、ううう……」
う、田所や後藤、それに野田のことはともかく、三嶋から冷めた視線を感じるぜ。へ、変な誤解を受されている気がするなぁ、アハハハ……。
「と、とにかく、動物園へ行くぞ! うおおー!」
「お、おい、いきなり走り出すなよ!」
ぐぬぬぬ、気まずい雰囲気が……い、今はこの場を一刻も早く離れた方がいい気がする。そんなわけで俺は走った。浪岡自然公園の北側、出入り口のところから徒歩で十分かそこらの場所にある動物園へ向かって――。




