第七話 ライバルは魔法少女! その6
「ふ~ん、このコがカイムの言ってた隣町からやって来たフリーの魔法少女ねぇ……てか、元男ってのが笑えるわね。あ、トランクス穿いてる♪」
「ちょ、スカートをめくっちゃダメですってば、狂奈さん! うお、ホントにトランクスを穿いてる!」
私達は自称、正義の魔法少女ミスティア&使い魔のファムを雉飼探偵事務所へと連れて行く。前述したと思うけど、ここが神猫カイムが率いる邪神討伐機関――聖なる猫の会の本部(仮)だったりするのよね。
「よし、脱がしてみよう」
「え、脱がす!? ちょ、それはさらにダメですってばぁぁ!」
「なるほど、本当に女のコなのか確認するのね。コイツは元は男だったらしいし、ニヤリ♪」
「で、でも、気になるわよね。ドキドキ……」
「うぉい、ナニを脱がすって! てか、ここはどこなんだよ!」
チッ目を覚ましちゃったか! まあいい、とりあえず、ここがどこであるかを説明しておくとしよう。事態を上手く飲み込めずにいるっぽいしね。
「な、なるほど、ここは安全ってわけか! ふうう、アイツらに捕まっちまったと思ったぜぇ……」
「右に同じく! アイツらに捕まったらナニをされるか判らないからねぇ……」
「「てか、なにか食わせろぉぉ!」」
ミスティアとファムは、ほぼ同時にふぇ~と安堵の嘆息を……おいっ! 安心したと同時に食べ物を要求するとか生意気だわ。
「とりあえず、ラーメンが食いたいぜ。味は味噌で厚切りチャーシュー三枚、追加でっ!」
「私はビーフシチューとサラダね。ああ、ドレッシングはイタリアンで頼むわ」
「そんなモノはない。ああ、キャットフードならたくさんあるけど?」
「「それはいらねぇー!」」
アハハ、ここは猫喫茶みたいな場所だし、キャットフードならたっくさんあるのよねぇ。
「ハハハ、妥協しろ。食ってみれば意外と美味いぜ」
「うお、猫がしゃべった!? ばばば、化け猫だァァ~~!」
「化け猫ちゃうわっ! あたしらは元は人間だったから、こうしてしゃべれるわけよ」
「え、えええ、そうなのか!?」
と、ミスティアの足許にすり寄ってきたペルシャ猫がしゃべる。シャム猫の霧崎ジョーとアメショーの神崎朱莉以外も、やっぱり元人間なわけね。
「ちなみに、あのワン公以外はみんな元人間だぞ」
今度は赤い首輪をつけたロシアンブルーがミスティアに語りかける。そういえば、雉飼探偵事務所内には一頭だけワンコがいる。狂奈さんの愛犬である柴犬のランスロットだ。んで、柴犬のランスロットが唯一、元人間ではないようだ。
「さてと、君の名前はミスティアだったかな? それとも松浦定春?」
「うう、もうどっちでもいいよ。俺の正体がバレちまってるわけだし……」
「それじゃミス春と呼ぶことにするよ。おっと、それは置いておいて、私達の仲間のならないかい? もし応じてくれるなら、特製のお菓子を用意するよ?」
「……OK!!」
さてさて、私にミスティアをスカウトするように依頼してきたカイム自らが、そうミスティアに協力を要請する――ちょ、お菓子の誘惑にまんまと釣られちゃったわ!
「あ、私も私もっ!」
「ひゃ、三段積みのでっかいチョコケーキがキタァァァ!」
むぅ、ファムも釣られてOKしちゃったわね。食欲が誇りを凌駕したようだ。食べ物の誘惑は怖いわねぇ……あ、すっごく美味しそうな三段積みのでっかいチョコケーキを狂奈さんの執事を務めるクリストフさんが奥の部屋から運んできたわ!
「ジュルル……アレを見たら絶対OKしちゃうよね。すげぇ美味そう!」
「み、右に同じく……」
「あれはクリストフがつくったケーキね。ああ、彼は洋菓子職人の資格を持っているわ。腕前は私が超がつくほど保証するわ」
「いえいえ、お嬢。それは謙遜です。私の腕前など、カイム殿の足許におよびませんよ、ハッハッハ♪」
「え、猫なのに洋菓子職人の資格を持っている!? す、すげぇ……」
狂奈さんの執事を務める好々爺な外国人クリストフは洋菓子職人の資格を持っているようね。あのでっかい三段積みチョコケーキは、どうやら彼がつくったもののようだ。それはともかく、猫なのにカイムはクリストフを上回る洋菓子職人としての腕前を誇っているっぽいわね。なんだか信じられない話を聞いた気がする。
「こんな美味しそうなケーキを食べさせてくれるんじゃ仲間になるっきゃないよね。改めてOKと言っておくぜ……うお、先に食うなや、ファム!」
「お先に~♪ うお、超美味ぇ最高!!」
「うう、私も食べたい……」
うく、私も食べたい! で、でも、ここは我慢だっ!
「さて、アンタ達と一緒にいれば、魔道創生会の連中から守ってくれるんだろうな?」
「それは保証するよ。それに連中も下手に手を出せない状態にあるはずさ。君もそこらへんの状況を判っているんだろう?」
「あ、ああ! 俺と工作員Nくらいしかまともな魔術師がいないからな。一年前に崩壊しかかったって聞いたぜ」
「一年前の組織が崩壊しかけたのは、ウチらも同じさ……」
そういえば、聖なる猫の会の前身であるマダムNが組織していた邪神討伐機関XXX、それに魔道創生会も一年前――あのナイ牧師ら邪神ニャルラトホテプの化身達によって崩壊したんだったわね。
「ま、そんなわけで人員不足も兼ねていてね。君のような有能なフリーの人物の勧誘に明け暮れているのさ」
「そ、そうなのか? まあいいや、よろしく頼むぜ! てか、その貧乳、小娘……お前を俺のライバルと認めてやるぜ!」
「ちょ、いきなり、なにを!?」
「ギャハハ、そういえば、ふたりとも貧乳じゃね? 超ウケるんですけど♪」
「「うっさいっ!」」
「うぎゃー!」
貧乳は禁句だァァ~~! 私とミスティアは、ほぼ同時にファムに対し、空手チョップを放つ! うーん、それはともかく、いきなりのライバル視されるとは――フン、まあいいわ。いつでも決着をつける準備はできているしね!
「ああ、そうだ。魔道創生会にスパイを送り込んである。そんなスパイからの情報だと、あの連中のボスは小柄な女のコらしい」
「なんだか意外な気がするわね」
確かに意外だ。ボスキャラといえば、凶悪なまでに強いイメージがあるんだけど、まさか小柄な女のコとは――。
「もしかすると、君と同じタイプかもしれないね、沙希」
「そうかなぁ?」
と、ヘルメスが――私と同じタイプか……同じ死霊秘法を持っている魔法少女だったりして!? アハハ、そんな予想が当たらないことを願いたいわね。




