第七話 ライバルは魔法少女! その4
「わお、お嬢ちゃん達って獣人と蛇人間? 人間社会に溶け込んでいる連中がいるっていう話は本当だったのね!」
「「ち、違うわ、断じてっ!」」
ちょ、それが違うわ、断じて! まったく、獣人だなんて酷い物言いだわ! 私は、そんな質問をしてきた魔道創生会の工作員Nをキッとにらむのだった。
「え、違うの? 動物園にいる熊さんのニオイがしたらさぁ……」
「ちょ、それは獣臭ってヤツでしょう! 私は毎日、お風呂に入っているわよ!」
うわ、ひどっ! てか、いくら私がホッキョクグマに変身できるからって動物園にいる洗ってない熊さんと一緒にするなんて――ッ!
「わ、私は蛇人間じゃないわっ! ムカーッ!」
「ぐ、ぐわぁー苦しいィィ!」
蛇人間って言われたサマエルはキレた。うーん、真に受けることもないのに……って、おい! 工作員Nと一緒にやって来た大男のひとりの身体に八つ当たりとばかりに巻きついちゃってるし!
「じょ、冗談よ、許してあげて! それはともかく、そいつがなんで女のコに性転換してしまったのか? その理由を知りたくはない?」
「そりゃ当然!」
む、むぅ……なんだかんだと気になるのよね。ああ、そういえば、自称、正義の魔法少女ミスティアは魔道書の無名祭祀書と使い魔のファム・ニーが相乗効果(?)で性転換しちゃった元男らしいわね。
「お、おい、言うなァァ!」
「そう言われるとバラしたくなるのが、私の性分だったりするのよねぇ、ニヒヒ♪ ちなみに、そいつと私の関係だけど、魔道創生会に雇われたアルバイト魔術師同士ってところかな? ま、そいつは裏切って逃走したわけだけどさ」
「ア、アルバイトの魔術師!?」
「あの組織の内部事情はイマイチなんだけどさ。どうやら正規の会員がひとりかふたりしかいないみたい。つーわけで大部分の会員が、私みたいなアルバイト人員みたいよ」
「へぇ、人間社会って判らないもんだね、沙希」
「うーん……」
なんだか複雑な事情が孕んでいるわね。魔術師の世界というか、大人社会ってヤツは、他もこういうものなのかな?
「あ、どうでもいいけど、あのコがいなくなっている! お姉さんがせいよ!」
「ちょ、私のせいにすんな!」
む、なんだかんだと、工作員Nの話を聞いている間に、フッとミスティアと使い魔のファムがいなくなっている! うぬぅ、隙を突かれた!?
「沙希、捕まえておいたぞ! ガオオオー!」
「おお、狼姫、サンキュー!」
「ぐえええ、でっかいワンコに捕まった!」
「うみゅー、梟に捕まったぁ!」
わお、最高のタイミング! 狼姫が自慢の脚力を活かし、ガッとミスティアに対して飛びかかり、押し倒すかたちで拘束し、真っ白な梟のアテナが鋭い鉤爪の生えた両足でファムを鷲掴みにするかたちで拘束しているわ。ふう、逃げられずに済んだわ。
「う、動けんっ! ななな、何故だ!」
「フフフフ、わらわの肉球は生命力を吸収するのだァァ~~!」
ちょ、生命力吸収かい!
「うにゅにゅ、不覚っ……」
「ああ、それ以上、生命力を吸収したら、そのコが死んじゃう!」
「お~う、危なかった。危うく必要以上に生命力を吸い取ってしまうところだったぞ、ワハハハ♪」
笑って済ませちゃってもいいのかな? 否、済ませちゃいけないわ。今のミスティアは山菜を採りに山の中の入り、運悪く遭難し、飲まず食わずのまま数日間、彷徨い歩いた人が捜索隊に発見された時のような衰弱しきった状態だしねぇ。
「はわわわ、ミスティアがあんな状態だし、逃げるが勝ちかも……」
「そうはさせませんよ、妖精さん」
「痛っ! 絞めつけないで……っつーか、私は夢魔よ! 妖精なんかじゃないんだからねェェ!」
ミスティアが狼姫の生命力吸収され行動不能状態というわけで、こりゃ不味いとばかりに逃げ出そうとするファムだったけど、案の定、アテナの鋭い鉤爪の生えた両足によって拘束された状態なので、逃げ出すなんて無理な話である。まったく、主を放置して逃げるだなんて人情とか友情とか、ついでに従順意識がゼロって感じだわね、コイツ。
「よし、彼女と妖精さんを連れて帰るよ、沙希」
「う、うん、狂奈さんの事務所でいい?」
「OK、あそこが私達、聖なる猫の会の仮の本拠地だからね」
「ああ、私達、天空守護者のメンバーは雉飼探偵事務所が入っている建物の屋上の鳥小屋が本拠地です」
「そ、そうなんだ。まあ、とりあえず、連れて行こうか……」
「んじゃ、私が、この大蛇な下半身で拘束した状態で!」
「ちょ、私らを無視するなァァ~~!!」
ムム、忘れていたわ。私達以外にも、自称、正義の魔法少女ミスティアに用事がある存在――魔道創生会の工作員Nと三人の大男のことを! そんなわけで魔道創生会の工作員Nが、ブンッと両手を振りあげて怒鳴る。
「あ、お姉さんもコイツに用事があるんだっけ?」
「そうよ! だから連れて行くなんて許さないわ!」
「ん~どうしようか、カイム?」
「そうだね。こういう場合は……逃げるのが一番さ!」
「に、逃げるの!? うーん……」
「逃がさないわよ。コイツで行く手を阻むわ!」
ま、カイムがそう言うなら逃げる方を選択するかな――と、思ったけど、そうそう上手くいくわけがないのよね。逃がさないっ! と、叫ぶ工作員Nが持ち合わせていた古ぼけた本の表紙をガッと勢いよく開き呪文のような言葉を詠唱する――ちょ、あの古ぼけた本は魔道書で、なにか呼び出す気!?
「う、くさっ……な、なに、この悪臭は!?」
「うう、この強烈な腐敗臭はまさか……」
「肉が腐ったニオイだ! ぐおお、わらわもこのニオイだけは耐えられんっ!」
「沙希、あの女は死霊使いだ。使い魔はゾンビのようだしね!」
「う、うえぇ、ゾンビが三体!? あのお姉さんはミイラ軍団を組織していたナイ牧師って名乗る女みたいなものかな? と、とにかく、不死者は勘弁してほしいわ!」
工作員Nの使い魔は、どうたら死霊使いの心得のある人物のようだわ。んで、その使い魔っていうのは、彼女が行使する操屍術で強制的に操る腐敗した人間の死体――ゾンビが三体出現する! まあ、動くミイラを見たことがあるので、工作員Nが召喚したゾンビのグロテスクな姿を見ても特に驚きはしないけど、この周囲に漂うトンでもない腐敗臭だけは勘弁してほしいわね。
「コイツらを使って、お嬢ちゃん達の行く手を阻ませてもらうわ!」
「てか、姐さん、自分だけ防臭マスクをつけるなんてひどいっすわ!」
「俺らの分はないんすか? 臭くてたまらねーよ!」
「キッツゥ~! 俺の靴のニオイより強烈だァァ!」
「お黙りっ! ミスティアをあのお嬢ちゃん達から奪い取るまでの間よ。それまで我慢!」
「「「ちょ、姐さぁぁぁん!」」」
「そういうわけよ! ゾンビ共を使ってミスティアを奪い取るわ……って、おいィィ! 主である私に襲いかかっちゃらめぇぇー!」
「ありゃりゃ……」
主への反逆ってヤツ!? 工作員Nが使い魔として呼び出した三体のゾンビ共は、クルッと踵を返し、不気味な唸り声を張りあげながら、主である工作員Nに襲いかかる。あの様子だと、ゾンビ共を完全に操れていないようね。
「あ、姐さん! ゾンビを操る方法は記されているっつう妖蛆の秘密をちゃんと最後まで読んだんすか?」
「当然よ……あ、でも、読んでいる途中で居眠りしちゃったかも、テヘ♪ ヒィィ、こっちに来んなァァ!」
「やれやれ、これだから初心者の死霊使いは……おっと、なんでもないっすわ」
初心者の死霊使い!? ああ、なるほどね。そんなわけでゾンビを上手く操れないわけかな? てか、実践経験はないけど、私も操屍術を使える。だけど、使いたくない系統の魔術だわ。あの女――ナイ牧師と名乗るニャルラトホテプの化身のひとりに操られたミイラ軍団を見てマジでそう思ったわ、ふう……。
「沙希、あの本が気になっているみたいだね? 隙あらば僕が、アレを――」
「お、判った? フフ、確かに気になっているわ。死霊秘法以外の魔道書もGETしたいなぁって思っていたところだしね。さ、助けてやるついでに奪うのもいいわね、クククク♪」
フフフ、なんだかんだと気になるのよね。さて、工作員Nが持っている古ぼけた本の名前は、どうやら妖蛆の秘密という魔道書のようね。ん~とりあえず助けてやろうかなぁ……と、隙を突くことができればヘルメスと協力して、あの妖蛆の秘密を奪っちゃおうか♪




