第七話 ライバルは魔法少女! その3
バテレンよりもたらされたおぞましき秘術が記された魔道の書物を敵対勢力の武将らの手に渡らせていけない! ――と危惧するとある戦国武将の一言が、あの連中こと魔道創生会が結成されることとなった理由だってカイムから聞く。
へぇ、織田信長、武田信玄、上杉謙信といった名立たる戦国武将達が、天下統一を目指し、日々、戦に明け暮れていた群雄割拠の時代である戦国時代から活動しているんだ。何気に古い歴史がある組織のようね。
あ、だけど、カイム曰く、一年前、マダム弓子が組織していた邪神討伐機関XXXが這い寄る混沌ニャルラトホテプのおぞましい千の化身達によって壊滅した際、あの連中も一緒に壊滅したらしいわ。水面下で対立していたらしいけど、表向きは協力関係にあったようだし――。
――ということは、ミスティアって名前の魔法少女に窃盗容疑を着せて指名手配しているのは、あの組織の生き残りってことになるのかな?
「おっと、名乗っていなかったな! 俺の名前は正義の魔法少女ミスティア! 魔道創生会の工作員め、覚悟しやがれっ!」
「あ、ちなみに、このコの本名は松浦さ……ぐえっ! いきなり空手チョップはないじゃん!」
「ファ、ファム! 余計なことを言うんじゃねぇ!」
「ウフ、いいじゃん、気にすんなって♪ あ、私はコイツの使い魔の女性型夢魔のファム・ニーよ」
「気にするよ! 知られたくないじゃないか、俺は元々は……う、危ねぇ! 思わず口にしちまうところだったぜぇ!」
口の悪いコだなぁ、まるで男子みたいだ。見た目は可愛いのに、それを台無しにしているわ、このコ……。
「てか、アンタらってお笑い芸人?」
「「ち、違うぅぅ!」」
うーん、相槌を打つ正義の魔法少女を自称するミスティアと使い魔の女性型夢魔を自称するファム・ニーの様子を見ていると、コイツらはボケとツッコミを交互に繰り返すお笑いコンビかって思うんだけど? てか、そっち系の方は彼女らにはお似合いのような気がしてきたわ。
「さてと、正義の名の下に貴様を倒す!」
「ちょ、やる気?」
「無論っ! さあさあ、どこからでもかかって来い! ああ、最初に言っておくぜ。俺にどんな攻撃も通じんぞ。金剛石の身体はすべてを防ぐってヤツだ! 遠慮なく鉄拳をブチ込んでみろよ、オラァァ!」
ダンッ! と、激しく右足を地面に叩きつけながら、ミスティアはファイティングポーズを……てか、金剛石の身体って言っちゃってるし、防御力には並々ならぬ自信があるっぽいわね。
「じゃ、お言葉に甘えて遠慮なく……うお、先走んな、サマエル! あ、思いっきり吹っ飛んだ!」
むぅ、またサマエルに先を越されたわ、ぐぬぬぬ! さて、そんなサマエルのお尻に蜥蜴や鰐といった爬虫類の鱗の生えた尻尾が出現する。んで、それをブンッと思い切りブン回し、ミスティアの小柄な身体を薙ぎ払う。
「なんだかイラッとしたんで先走っちゃったわ♪」
「うわ、今度は下半身が蛇に……爬虫類大好きだね、サマエル」
サマエルは爬虫類が大好きな様子だ。それを物語るように、今度は下半身を大蛇に変化させたわ。部分変身ってヤツね。ああ、サマエルの尻尾攻撃で吹っ飛んだミスティアといえば――。
「痛ェェ! いきなりなにをしやがる、この蛇女ァァ!」
ドババッと大量の鼻血を左右の鼻孔から飛び散らせながら、奇声のような声を張りあげるミスティアは何事もなく立ちあがる。金剛石の身体って自称していたわけだし、中々のタフガールね。
「ギャハハ、鼻血を垂らしながら怒鳴り散らすミスティアの姿って超ウケるんですけど♪」
「おいィィ! 笑ってる場合か! お前もアイツらをフルボッコにする手助けをしろよ!」
「お断りよ! なんで私のようなか弱い夢魔が暴力を振るわなきゃいけないのよ!」
「か、か弱いだぁ? どこがだよ、このチビスケェェ!」
「ムッカァー! アンタだってチビじゃん! それに貧乳だし!」
「ぐ、ぐおー! それは余計だァァ~~!」
「イラッ……」
「ん、沙希? なんで怒っているんだ?」
「べ、別に怒ってなんか……ギリリッ!」
コイツらって仲がイイのか、それとも悪いのか? まあ、とにかく、魔法少女というよりお笑い芸人向きだなぁ……てか、貧乳って聞くと何故だろう、イライラするんだけどッッ!
「ところで沙希、忘れちゃいないかい? あのお笑い芸人……いや、魔法少女を聖なる猫の会にスカウトすることを?」
「わ、忘れてなんかいないわっ! むぅ……私達は別段、敵対したいわけじゃない。話合わないかしら? つーか、魔道創生会とかいう組織の人間じゃないんだからね!」
イライラするけど、とりあえず説得だけは行っておこう。
「え、魔道創生会のメンバーじゃないの? おいおい、それを最初から言えよ!」
「そうだそうだ! それを早く言えー!」
「つーか、お前がじゃんかよ! アイツらは魔道創生会の工作員だぁぁ――って、言ったのは! だから思いっきり勘違いしたんじゃないかァァ!」
「え、そうだっけ?」
「…………」
ふう、コイツらのやりとりってホントお笑いコンビのボケとツッコミみたいだわ。でも、笑えないのよねぇ……。
「さて、私達はアンタをスカウトしにやって来たってわけ。だから敵対する気なんてないわ」
「だが、そこの半人半蛇みたいな外国人娘が俺を……イライラッ!」
「それは遠慮なく鉄拳をブチ込めって言ったから……」
「勘違いから始まったことだ。痛み分けで終わらせよう!」
「うぬぅ、そういうわけにはいかねぇだろ!」
「ミ、ミスティア! 来たわよ! 今度は本当の――ッ!」
あはは、勘が違いから始まった痛み分けで済むわけがないよなぁ。まあ、このまま戦い続ける気なら、私にも考えが――ん、誰か公園内にやって来た? ミスティアの使い魔であるファムが忙しなく空中を飛び回っているし……まさか!?
「うおー、あのお洒落な赤いパンツスーツの女はっ……はうう、魔道創生会の工作員N!」
ん、筋骨隆々の大男を三人引き連れた赤いパンツスーツを着こなす凛とした感じの女の人が現れる。魔道創生会の工作員N!? とにかく、ミスティアが悲鳴をあげ、ゴトンと尻餅をつく。さっきまでの強気な態度はなんだったのよ、一体!
「ミスティア……いや、松浦定春、見つけたわよ! 無名祭祀書を返してちょうだい! プンスカー!」
む、むぅ、見た目は凛とした感じなのに、その中身は正反対って感じだわ。両手を振りあげ、地団駄を踏んで怒り出したし――てか、松浦定春って誰?
「あ、あのぅ? 松浦定春って誰? つーか、私の叔父さんと同じ名前だわ」
「うみゅ、それはそこにいる女のコのことよ!」
「「えっ!?」」
「そいつは元々は男なのよ! 無名祭祀書とそこの悪魔っ娘みたいな使い魔のせいで女のコになってしまったってわけよ」
「へぇ~そうなんだ。いわゆる性転換ってヤツね、あははは……」
へえ、ミスティアは元々は男だったんだ。〝ああなってしまった〟のは、使い魔のファム・ニーと無名祭祀書という魔道書が原因なわけね。




