第七話 ライバルは魔法少女! その2
古代エジプトで崇められた猫の神バステトの化身である神猫カイム曰く、私が住むS市以外はアイツが組織した邪神討伐機関である聖なる猫の会の管轄外らしい。要するに、カイム達はS市のみを守っているってわけ。
そういえば、隣町のO市は別の邪神討伐機関の領域らしい。そんな理由もあってか、聖なる猫の会のメンバーを隣町へ派遣し、仲間集め等などの行動を下手に行うことができないんだってカイムの部下であるシャム猫の霧崎ジョーから聞く。同じ邪神討伐機関同士で敵対しているのかしらね?
「うお、なんか来た! く、黒い影が空を舞いながら……ん、清水さん?」
「あ、白い梟も一緒だよ、沙希」
夜空で煌々と輝く満月を背に舞い降りてきたモノは、光桜学園の新校舎と旧校舎の間に生えている杉の木に住まう蝙蝠の清水祥子だ。ん、真っ白な梟が一緒のようだけど、お仲間かしら?
「あら、偶然。こんなところで会うなんて♪」
「ん、一緒にいる白い梟はアテナ様かな?」
「え、アテナ? じゃあ、ヘルメスのお仲間である古代ギリシャの神々?」
「いかにも、私はオリンポスの神々の一柱である戦女神アテナです――とはいえ、その分霊であることは周知のことだと思いますわ」
真っ白な梟は、古代ギリシャの戦女神であるアテナの分霊のようね。じゃあ、マダム弓子の邪神討伐機関XXXの中核をなしていたメンバーかしらね?
「ガルルルッ……あの梟を見ていると、何故かイライラするぞ! こういう時はなにか食えばいい……と、昔から言われていたはずだ。そんなわけだ、肉まんを所望するぞー!」
ん、狼姫の様子はなんだか変ね。真っ白な梟ことアテナの姿を見るなり、スッと私の背後に身を潜めてガルルルと唸っている。てか、なにか食べたところでモヤモヤした不快な気分が晴れるわけ?
「はて、そこのワンちゃんと知り合いだっただろうか? うーん、記憶にありませんねぇ……」
「わらわも記憶にないぞ! だが、なんだ、このモヤモヤした不快な気分はっ!」
こりゃ、狼姫がどこからやって来たのか!? その起源になにか問題がありそうね。つーか、私の予想だけど、アイツの起源はギリシャ神話にありそう気がするわ。
「それはともかく、清水さん、それにアテナさんはなにをしていたんです?」
「ああ、見回りよ。ウチらは夜の住人は、こうして見回りが役目みたいなものだからね」
「ちなみに、私は我らは邪神討伐機関XXXから派生した組織のひとつである天空守護者の夜間組のリーダーを務めています」
「へえ、派生組織ねぇ……」
今は亡きマダム弓子が組織した邪神討伐機関XXXが壊滅した際に派生した邪神討伐機関は、全部で七つあるってヘルメスから聞く。そのひとつが、神猫カイム率いる聖なる猫の会だってことは言うまでもないかな? さて、当然なのかどうか微妙だけど、天空守護者のメンバーの中にも人間はひとりもいないようだ。
「人間っていないんだよね、メンバーの中に?」
「それは当然です」
「は、はぁ……」
即答ですか、戦女神さん! むぅ、やっぱり人間がひとりもいないのね。てか、人知れずS市の平和を守っている者達が、私達、人間ではなく獣達だって知ると複雑な気分になるわ。
「ああ、天空守護者のメンバーは元人間です。一年前、マダム弓子がお亡くなりになった際、元の身体を――人間の身体を失った者達です」
「そうなんだ。てか、動物の身体に魂を移す方法は死霊秘法に載っていない秘術だからさぁ」
死霊秘法は最凶にして最悪の魔道書である。ここぞとばかりに使える細かな魔術から、ありとあらゆるおぞましい外法の秘術が記されている――が、万能ではない。別の生き物に魂を移す秘術などは何気に載っていなかったりするのよねぇ……。
「ん、ところで沙希ちゃん。ひょっとして隣町からやって来たフリーの魔法少女を探しに、ここへ来たんでしょう?」
「う、図星! てか、よく判ったわね」
「当然っ! 件のフリーの魔法少女は、こんな感じで指名手配されているしね」
「し、氏名手配!? ふむ、魔道創生会って連中から指名手配されているっぽいわね」
さて、件の隣町からやって来たフリーの魔法少女が魔道創生会とかいう連中に指名手配されている証拠とばかりに、清水さんは背負っているリュックサックのジッパーを器用に口を使って開け、そこから一枚のチラシを取り出し、それを私に口を使って渡す。
「ふむ、罪状は魔道書の窃盗容疑ね。つーか、聞きたいんだけど、大天使教会って組織はマダム弓子が組織していた邪神討伐機関の派生組織?」
「それは違うよ、沙希。連中は別の存在で太古の昔から歴史の裏側で暗躍し続ける人間の魔術師集団だ。一応、私達の味方だけど、実際は水面下では対立関係にあったよ。そんなわけで、あの連中より先に件のフリーの魔法少女をスカウトし、保護したい意図もあるわけだ」
「あ、カイム!」
いつの間にか、私の足許にカイムの姿が……なるほどね。件の隣町からやって来た魔法少女をスカウトしようという目的に裏には、そういう事情も孕んでいたわけだ。
「魔道創生会? あまりイイ話を聞かない組織ね。なあ、表向きは正義の刃と自称する邪神討伐機関らしいけど……」
「え、そうなの!? うえー邪神討伐機関にも色々あるんだなぁ」
「ん~そういう話も聞くね。さてと、ウワサをすれば影って言うだろう? ほら、例の魔法少女っぽいのが現れたよ、沙希」
むぅ、私の右肩に座っているヘルメスが背中の小さな昆虫のような翅を羽ばたかせながら、ブーンと私の頭の上に移動すると、ビッとなにかを指差している。
「ん、なにか来たわ! コンビニの袋を持った女のコ?」
私が今いる自宅の近所にある公園は、S市内にある心霊スポットのひとつ姫神塚古墳がある浪岡自然公園ほどじゃないけど、そこそこ広く鉄棒や滑り台といった遊具や公衆トイレ、飲料水の自動販売機なんかもあり、おまけに道路を挟んで向かう側にはコンビニもあるので、ちょっとした休憩に立ち寄るなら最適な環境が整っている公園である。ま、それはともかく、缶ビールに焼酎瓶、イカの燻製といったいかにもオッサンが好みそうな晩酌セットという感じの組み合わせの飲食物が入ったビニール袋を右手に持った状態でルンルンとスキップをしながら公園内にやって来たのは、白とピンクで基調された某魔法少女のような恰好をした私と同世代の金髪の小柄な女のコだ。コイツが件の隣町からやって来たフリーの魔法少女かしら?
「ヒィッ……こ、このニオイは!? お前ら、まさか魔道創生会の工作員じゃないよな?」
ムムムム、失礼な! 目が合った途端、ヒィと喉の奥で悲鳴をあげるなんて――ま、とにかく、交渉と洒落込もうじゃない。
「ちょっと、アンタが――」
「アンタなんでしょう? 隣町からやって来た魔法少女というのは?」
「うお、なんでバレたんだァァ!」
ちょ、サマエル! それは私が訊こうと思ったことなのに……え、図星? じゃあ、こいつが!?
「ミスティア! コイツらは魔道創生会も工作員よ! 無名祭祀書を奪い取りに来たんだわ!」
「な、なんだってー! ぐぬぬぬ、やっぱりお前らは、あの連中の仲間なのかァァ~~! 正義の味方として許すわけにはいかないィィ!」
「うお、悪魔っ娘みたいな妖精! てか、勝手に話を進めないでよ!」
ふーん、ミスティアって名前なのかな? てか、悪魔っ娘みたいな妖精の物言いに触発されるかたちで勝手に話を進めちゃってるわね。私達が悪人の仲間という筋書きの……。




