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第六話 邪神降臨! その3

 白い蛇や白い狐などなど、白い生き物は時として神の化身という扱いを受ける場合があるわけだ。いわゆる神獣って存在ね。


 さてと、そんな白い生き物――古代エジプトの少年王ツタンカーメンの豪華絢爛な黄金の副葬品などなどを連想させる豪奢な首飾りを身に着けた真っ白な一匹の猫が、私の足許にいる。猫の神バステトの化身を自称するカイムという名の猫である。



「沙希、君のことを少し調べさせてもらった」



「え、えええ!? プライバシーの侵害だわ!」



「ハハハ、まあ、そこらへん謝罪するよ。さて、ジョーと朱莉からも協力を要請されたようだね。私からも改めて協力を要請したい! マダム弓子の仇を、そしてこの惑星の明日のために!」



「む、むぅ……」



「ところでさ、君の胸は小さすぎてあるのかないのか判らないね」



「うおー、それは余計だァァ!」



 ピョンッ! と、足許にいるカイムが私の胸に飛びついてくる。胸がちっちゃいは余計だー!



「ねえ、協力を要請とか、その前にアンタ達の組織名、それにあの人達は何者なのか説明してほしいところだわ」



 マダム弓子こと天宮弓子の仇を討ちたいのは判るけどさ。まずは組織名、主だったメンバーを紹介してもらいたいわね。



「ああ、それもそうだね。んじゃ、教えておこう。私達の組織名は聖なる猫の会。そして紹介と洒落込もう。dあのメイドさんはエイラ。執事さんの方はクリストフ。んで、そこのソファで眠りこけている雉飼狂奈こそ雉飼探偵事務所の主さ」



「あ、そうそう、お嬢様の本名は雉飼狂奈(きじかいくるな)ではありません。正確には天宮葵。マダム弓子の忘れ形見です」



「へえ、そうなんだ……ちょ、マダム弓子の忘れ形見!?」



 と、メイドさんことエイラが、ピンッと右手の人差し指を立てながら、そんな説明を――ふーん、あの怠け者って感じの探偵さんがマダム弓子とやらの忘れ形見なんだぁ。



「そんなわけで我々――聖なる猫の会のリーダーになってもらおうと思ったのですが、あんな感じで寝てばかり……」



 うーん、ある意味、リーダーに据えるならもってこいの人物だよね。でも、寝てばかりいるんじゃ……先が思いやられるわね。つーか、容姿端麗な美人だけど、正反対なダメダメ臭が漂っているんだけど、私の気のせいかなぁ?



「ふう、死んだ母さんの呪縛から解き放たれるのは、いつになることやら……面倒くせぇ!」



「あ、起きた! 寝たふりをしているんじゃ? ああ、また寝転がった。うえ、もう寝息を立ててる……」



 狂奈さんがソファから身を起し、そんな独り言をつぶやく――むぅ、でも、またソファにドサッと寝転がる。うお、もう眠っている! まったく、眠ったふりをしているのか、それとも本当に眠っているのか……。



「狂奈はあんな感じだけど、自分の立場を十分すぎるほど理解しているはずさ。だから、警察官を退職し、自由気ままな私立探偵となったようだし――」



「ふーん、そうなんだ」



 へえ、そうなんだ。でも、狂奈さんご本人から聞きたい言葉ね。本音として――。



「あ、タツからメールだ。何々、あの花がまだ光桜学園のグランドに咲いている!? ちょ、あの女の凝り固まって実体化した異界は消滅したはずじゃ!?」



 ん、タツこと太田辰巳からのメールが届く。むぅ、とにかく、光桜学園でなにかが起きているようだわ。こりゃ行ってみるっきゃないわね。



「沙希、行こう!」



「わ、アーたん、アンタいつから!?」



 ムムムム、雉飼探偵事務所内を跳梁跋扈する元人間であり、マダム弓子率いる邪神討伐機関のメンバーだったらしい猫達と戯れるアーたんの姿が……ちょ、アンタいつの間に!?



               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 私は再び光桜学園へやって来る。タツがメールで伝えてきたことが本当なのか、それを確認すべく! さ、とりあえず、新校舎にでも行ってみよう。



「アンタ達も来るとはね」



「つーか、光桜学園は私の家みたいなもんよ」



「暇なんでついて来た」



「同じく!」



「フフフ、君達が気になってね。ついて来ちゃった☆」



「にゃはは! 猫ちゃん達が一緒だー♪」



 光桜学園の新校舎と旧校舎の間に生える杉の木を(ねぐら)にしている蝙蝠の清水さんはともかく、ジョーと朱莉、それにカイムまでついて来た。それに――。



「怪事件が起きているようね。面白そうじゃん」



「珍しいですね、お嬢様が自ら動くだなんて……」



「きっと、予期せぬ大雨でも降る予兆かもしれませんぞ、フフフ」



 怪事件発生中――というわけで私立探偵として探究心が疼いた狂奈さん、それにメイドのエイラと執事のクリストフまで一緒に――。



「うお、いつの間にか男女共学校になっているじゃん! あたしが、この学校の生徒だった頃は女子高だったのに!」



「ん、狂奈さんって、ひょっとしてウチらの先輩なんですか? ああ、男女共学校になったのは、あの黒魔術殺人事件が起きた翌年からだったような……」



「まあ、そうなるわね。ところでさ、黒魔術殺人事件って、そこにいる清水が首謀者だって騒がれた殺人事件のこと? つーか、お嬢ちゃんはあたしの警官時代の後輩の山崎早苗の妹だったわね? なんだかんだと、あのコが巻き込まれて危うく殺されかけたんでしょう?」



「う、うん、詳しいことは判らないけど、みんな清水さんが早苗姉ちゃんを殺そうとしたって言ってます」



「ふ~ん? 清水、友達を殺そうとしたのか?」



「ちょ、狂奈さん! 私だって、あの事件の被害者なんです! 変な言いがかりはやめてくださいよ! くそぉー真犯人が判れば疑いが晴れるのにっ!」 



 狂奈さんは私や茜の先輩にあたるようだ。そういえば、早苗姉ちゃんより二歳年上だった気がする。さて、清水さんは自分は濡れ衣を着せられた? みたいな物言いをしているけど、じゃあ、あの黒魔術殺人事件の真の首謀者は何者なんだろう?



「ん~あの事件の真相をついでに解き明かすのもいいわね。光桜学園にこうしてやって来たわけだし――」



「ちょ、行動が遅すぎ! もう何年も前から依頼していたのにっ! てか、興味がなかったから、今まで動かなかったとか言うんですか?」



「興味があるor興味がない? それは七対三の割合ってところかなぁ?」



「ちょ、おまっ! ぐぬぬぬ……ふざけんなぁぁ!」

 


 興味がないから今まで動かなかったのは確かかもしれない。つーか、それって探偵業を営んでいる者のやり口なわけ? ある意味、狂奈さんって酷い人だわ。



「ん、タツとエリザベート!」



 新校舎の玄関からタツとエリザベートが出てくる。ん、タツは金魚鉢のようなガラスの入れ物を抱えているわ。



「あ、誰かと思ったら葵じゃない。お久しぶり~♪」



「もしかしてヘスティア? それはともかく、一緒にいる女のコみたいな華奢な少年は抱えている金魚鉢の中に入っているモノは、ひょっとして赤い花?」



「わ、沙希ちゃん、あの花だよ!」



「あ、僕が触るとボロボロに崩れてしまう、あの花だ!」



「む、むぅ、あの女の――アウストリア・ネフレンカスの妄想世界の産物だわ! 何故、アレが……消えてなくなったんじゃ!?」



 ムムムム、タツが抱えている金魚鉢のようなガラスの入れ物の中に入っていたのは、一時的に私達は取り込まれたあのアウストリアの妄想が実体と化した世界に存在した吸うと幻覚作用を引き起こす香気を放つ〝あの赤い花〟だ! メールの内容がまさか本当だったとは……ん、でも、おかしいな? アスペリウスとかいう迷宮図書館とやらからやって来た鳥人間が使った次元修復石のおかげで消え失せたはずなのに!? うーん、ただならぬ事件が起きる予兆だったりしなきゃいいけどなぁ。

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