第一話 使い魔との出会い その2
ヒッチハイカーの金髪碧眼の外国人少女ことサマエルは、アメリカ合衆国のマサチューセッツ州にあるアーカムという都市からやって来たようだ。
何故、日本にやって来たのか!? そんなサマエル曰く、留学生として○○県S市にある彼女が通っていたミスカトニック大学付属高校とやらの姉妹校に編入するためだとか――。
「へ~留学生なんだ」
「そういうわけよ。ま、なんだかんだと日本にはずっと来たかったから丁度いいかなぁと思っているわ」
「ふ~ん、そうなんだ。でも、この先にある村は○○県の辺境だけど、観光かなにかで行くのかな?」
「いいや、調査かな?」
「調査?」
サマエルはなにかしらの調査のために世羅江野村に!? うーん、なんだろう。気になるなぁ……。
「ねえ、なんの調査を行うの?」
「秘密よ。どうせ話したところで理解できないだろうしね」
むぅ、サマエルは秘密――と、即答する。それに、なにが理解できないって言うのよ!
『ねえ、沙希ちゃん。あのコ、怪しいと思わない?』
『う、うん、なにか得体の知れないモノを感じたわ』
私と茜は、同じく死霊秘法に選ばれた者というわけで思念のみで語り合うことができる超能力の一種であるテレパシーを会得している。
『あのコには警戒すべきね』
『うん、目的が判らない謎の人物だしね』
とにかく、サマエルには警戒しておこう。でも、悪人という感じはしないんだよなぁ……。
「姉ちゃん、なんだかんだと世羅江野村に到着したぜ」
「え、もう?」
はうっ! もう到着したの? 悠太にそう言われてやっと気がついたわけだ。お爺ちゃんが住んでいる世羅江野村に到着したことに――。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
私のお爺ちゃんこと山崎源三郎が住んでいる世羅江野村の風景は、私が生まれる以前の世の中――今は去りし昭和の匂いを漂わせる一昔前の日本って感じだ。村の中に入ってすぐのところに建っている古ぼけた煙草屋って感じのお店があるし、おまけにそんな煙草屋の駐車場には停車してある三輪自動車が今も現役のご様子だしね。
「しかし、ここへ来るなんて何年ぶりだろう? 相変わらずの緑豊かな田園風景だわ!」
「姉ちゃんは仕事で来れないことが重なってたよね、そういえば」
「ん~昨年のお盆も、一昨年のお盆もだけど、私は仕事の都合で……と、それより相変わらず古臭い建物が多いわね」
世羅江野村ののどかな田舎の村という雰囲気は、私的には大好きだな。それに緑豊かな美しい田園風景も都会じゃ味わうことができない醍醐味のひとつだしね。
「あ、そろそろ降ようかと思うんですけど?」
「あら、こんな場所でいいの? あと二、三分でウチらの頑固爺さんの家に到着するわよ」
「いえ、私はあの山へ行きたいんです。だから、ここで降りた方が近いと思うんで……」
「あの山に? ふむ、判ったわ」
ん、サマエルが降りたいって言い出す。そんなわけで早苗姉ちゃんは急遽、愛車を停車させる。しかし、今いる地点のすぐ近くに山はあるけど、草木が鬱蒼と生い茂っておる手付かずの山のはずだけど……怪しいわね。
「ありがとうございます!」
「いえいえ~っと、気をつけてね。この村の周辺にはフツーに熊が出没するから」
「大丈夫ですよ。あたしは熊より強いですから!」
「は、はあ……とにかく、山の奥へは行かないようにね」
「は~い♪ それじゃ、また会いましょう――沙希ちゃん」
「むっ!?」
私達に対し、ペコリと一礼するとサマエルは、シャッと勢いよく愛猫のキョウタロウと一緒に早苗姉ちゃんの愛車の外へと飛び出す。そして近くの山へと向かって立ち去る……んん、待てよ? 彼女に対し、私は名乗ったっけ?
「あ、あれぇ? あのコの姿が消えた!?」
もう一度、立ち去るサマエルの方向に私は視線を向ける。だけど、フッとその姿が消え失せる。愛猫のキョウタロウも一緒に――。
「まあ、いいじゃん。機会があれば、また会えるわよ」
「そ、そうだねぇ。うん……」
そうだよね。突然、姿を見失ったとはいえ、機会があれば再会できるはずだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「うへ、相変わらず古臭い家だなぁ」
「そりゃ築二百年らしいから仕方がないわよ」
「え、築二百年!? 沙希ちゃんのお爺ちゃんの家は江戸時代に建てられたってことだね! すごいなぁ、歴史を感じちゃう♪」
さてと、私達が乗り込む早苗姉ちゃんの愛車は、祖父、山崎源三郎の家の前に到着する。しかし、古臭い家だなぁ……ああ、早苗姉ちゃん曰く、築二百年らしいわ。茜の言うとおり、歴史を感じちゃうかも!
「誰だ、古臭いって言ったのは!」
「うわわ、お爺ちゃん!」
ズドーン! 轟く雷鳴のような怒鳴り声が響きわたる。あはは、そんな声の主は祖父の源三郎だ。んで、赤いトラクターに乗って現れる。
「お爺ちゃん、お久しぶり~♪ 家は古臭いっていうのは冗談よ、冗談! ん~風流があっていいなぁとか、先人の文化が色濃く残ってて素晴らしいってマジで思うよ!」
家が古臭い、と言ったことが腑に落ちなかったのか、ギロりと私をにらむお爺ちゃんに対し、とりあえず、そんな言い訳を――。
「フン、判ればいいんだ。さあ、家の中におあがり、西瓜を冷やしてあるから一緒に食べよう」
ニイイとお爺ちゃんは、シワだらけの真っ白なヒゲ面に満面の笑みを浮かべる。ふう、ホッとしたかも……。