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第五話 異界からの脱出! その6

 私、山崎沙希が持つ死霊秘法は、最凶の魔道書として恐れられているけど、あくまで写本の一冊にすぎないよね。ああ、そういえば、ヘルメスの話じゃ原本である真の死霊秘法(キタブ・アル・アジフ)は失われて久しいらしいわ。



「なるほどね。あのインスマス面の男――山田&そのお仲間は、アンタの子分じゃないわけだ」



「そうよ! あんなおぞましい連中のひとりを誰が子分になんかするもんですかっ!」



 キッとアウストリアは、そう言い返す。ん、そういえば、コイツの子分である黒川と瀬戸は黒ずくめのいかにも怪しい男だが、普通の人間みたいだわ。



「ふ~ん、一応、信じてあげるわ。さてと、アンタにはその他にもいくつか質問があるのよね」



 ま、とにかく、アウストリアには聞きたいことがいくつかあるのよね。例えば、この赤い空と赤い花が無限に咲き乱れている花畑という異界についてなどなど。



「んじゃ、この世界についてのことを教えてもらおうかしら?」



「沙希ちゃん、あの塔についても訊いてみようよ」



「私もアレについて気になっていたわ」



 私と茜、そしてサマエルがアウストリアに問う。この世界のこと、そしてあの塔について――。



「ここは恐らく、この私の妄想が実体化した世界だと思う……」



「も、妄想が実体化した世界!?」



「その本には、術者の妄想世界を実体化させ、そこへ犠牲者――つまり、アンタ達を引きずり込み隔離する方法が記されているわ。しかし、効果が及ぶ範囲が広大すぎたわ。光桜学園の新校舎と旧校舎まで引きずり込んでしまったわけだし……てへ☆」



 むぅ、アウストリアの話が本当なら、ここはコイツの実体化した妄想世界――一種の固有結界ってところだろうか? 赤い空、そして赤い花が咲き乱れる花畑といった感じの大地は、なにもかもがアウストリアの心象風景なのか?



「ここはアンタの妄想が実体化した世界ねぇ。意外とロマンチックじゃない」



「それって皮肉? いい年こいて少女のような夢を見んなやって本音が、アンタの顔に彩っているわ!」



「え、そう?」



「ん~それはともかき、今、気づいたんだけど、この異世界は大学時代に弘子さんが参加していた美術サークルで描いていた絵にそっくりだわ」



「ちょ、なんでそんな昔のことを覚えているわけ!」



「昔といっても十年ほど前の話じゃないですかぁ♪」



「おィィ! そこは忘れるところだろうがァァ!」



 そういえば、アウストリア――本名、佐藤弘子とオカルト研究部の顧問を務める霧島先生は、確か同じ大学に通っていた同級生だったわね。



「おっと、ついでに訊くけど、あの塔はなんだ? ほら、ここからもぼんやりとだけどシルエットが見えるだろう?」



 とりあえず、あの塔のような建物についても訊いてみなくちゃね。ああ、そんな塔みたいな建物は、私達が今いる旧校舎四階の旧図書室ことオカルト研究部の窓からぼんやりとだが見えるわけだ。



「知らないわよ! ここは私の妄想が凝り固まった世界であるはずなのに、なによ、あれはっ!」



「ふ~ん、アンタの知らないってわけね。フフフ、ますます興味が湧いてきたかも……」



「ヒイィ! な、なにもしないから、いい加減、熊さんの姿で脅かすのをやめてェェ~~!」



「フン、まあいいわ。今のアンタは無力っぽいし、人間の姿に戻っても大丈夫かな」



 さて、いつまでもホッキョクグマの姿のままでいるわけにもいかないかな? アウストリアはともかく、この姿を怖がって黙っちゃってる部活のお仲間もいるしね。



「しかし、不思議なこともあるもんだなぁ……」



「どんな方法でホッキョクグマに変身したのかが気になる……」



「てか、変身方法を教えろよ!」



 新山春人ことニッチと加藤涼子、それに三島紫ことゆかりんの三人が、ジ~ッと私を見つめている。そんなに不思議かなぁ? 



「あれ、そういや杏子ちゃんと麗華ちゃん、それにラファエルがいないわね。どこへ行ったのかしら?」



「ああ、あの三人なら売店へ行ったはずだよ、姉ちゃん」



「ふ~ん、売店ね」



「ところで沙希。ウソモウの書を一通り読んでみたが、元の世界に戻る方法がどこにも記されていないんだが……」



「ちょ、天城先輩、そりゃどういう……えっ!? その本を読んでも平気なわけ?」



「うん、まあ……」



「沙希ちゃん、ひょっとして……」



「彼女には才能があるのかもね、魔法少女の――」



 あくまでヘルメスから聞いた話なんだけど、私達人間が知ってはいけない禁断の叡智が記されている魔道書の類を読んだ者は、高い確率で狂うらしい。その内容に精神がついて行けなくなるってところだろうか? んで、稀に読んでも平気な者もいるらしい、この私のように魔法少女の才能がある者のように――てことは、天城先輩も!?



「ちょ、みんな大変だよ!」



「と、鳥人間がやって来たァァァ!」



 鳥人間!? と、そんな感じで騒ぎながら、和泉杏子と蔵内麗華が売店から戻ってくる。



「沙希、来客のようだよ。この世界の住人らしい、フフフフ」



「あ、兄さん。てか、鳥人がやって来たってどういうこと!?」



 サマエルの兄ラファエルも売店から戻ってくる。この世界の住人が来客したってわけ!? しかも鳥人っておいおい……。



「うーん、とにかく、その鳥人がいる場所へ案内してちょうだい!」



「OK! てか、そいつなら職員室にいるっぽいよ」



「ふ~ん、職員室ねぇ。まあ、とりえず、行ってみましょう」



 とりあえず、この世界の住人だっていう来客者――鳥人に会いに行ってみるかな。杏子ちゃんの話じゃ、職員室にいるっぽいしね。ああ、そんな職員室は新校舎の二階にあったわね。



               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 私が住んでいる世界の時間軸では、学生にとって有意義な日常を送れる夏休みの最中である。私的には、そんな夏休みが永遠に続いてくれればいいなぁと思っているけど、そうも言っていられないのが現実なのよねぇ。



 それはともかく、私達オカルト研究部の部活メンバーは、顧問の霧島先生に誘われるかたちで光桜学園新校舎二階の職員室へと赴くのだった。



「職員室って入りにくいよね」



「なにを言っているんです? さ、入りますよ、皆さん!」



「ねえ、どうでもいいけど、なんで私まで……ム、及川先生、まだいたんですかっ!」



 うーん、マジで入りにくい部屋よね、職員室ってさ。そうそう、蛇神鞭で拘束したままの状態でアウストリアも職員室へと連れて行く。そういえば、この学校の卒業生らしいわね、この女。



「ん、山崎じゃないか! 丁度良かった。あの鳥人間をどうにかしてくれ!」



「ちょ、及川先生、なんで私に対処を任せるんです! ま、まあいいわ。その鳥人間に会わせてよ」



「そいつなら職員室の奥にある校長室にいるぞ」



 まったく、なんで私がっ――まあいいや、私は職員室の奥へ移動し、校長室の扉をキッと意を決して開けるのだった。



「校長先生、入りますよ! あ、いない……ん!?」



 とりあえず、校長先生がいるかもしれないので声をかけなくっちゃね。あ、いない……ん、でも、奇妙なシルエットが!?



「うお、沙希ちゃん、本当に鳥人間がいるっ!」



「う、うん、古代エジプトのトート神を連想する姿ね」



 奇妙なシルエットの正体は、件の鳥人間である。むぅ、本当に鳥人間がいるなんて! そんな鳥人間の容姿だけど、首から上は朱鷺(トキ)、首から下の胴体は黒いタキシードという恰好である。そういえば、右手に湯気の立ったコーヒーカップ、左手には皿を持っているわ。



「お初にお目にかかります。私はアスペリウスと申す者です。こう見えても普通の人間ですよ」



「は、はあ、私は山崎沙希よ」



 鳥人間の容姿を見て古代エジプトの知恵の神トートを連想する。それはさておき、そんな鳥人間はアスペリウスと名乗る。お、礼儀正しいヤツじゃん。



「ああ、私はこの部屋からもぼんやりと見える〝あの塔〟からやって来ました」



「え、ええ、あの塔から!?」



「はい、ちなみに迷宮図書館と呼ばれています。誰が最初にそう呼んだのかは定かですが――」



「迷宮図書館ねぇ……ってことは、あの塔の中は複雑に入り組んでいて一度入ると外に出るのが困難な迷宮と化しているってわけ!?」



「ご名答です。あそこに住んでいる者も迷子になるくらいですから、非常に困っております」



 ちょ、なんでそんな場所に住んでいるわけ!? 変な連中がいるものねぇ……。



「そんな迷宮図書館がどんな場所なのかを簡単に説明すると、アナタ達が住む世界とは時間軸のズレた平行世界、地球という惑星から何光年、何十光年、それ以上、離れた遥か宇宙の彼方にある惑星……などなど、様々な次元や銀河を渡り歩く移動する建物なのです。今回は、この妙な世界へ移動してしまったようです」



「そ、そうなんだ……」



 何気にすごいぞ! 様々な次元を移動するってのは――。



「ああ、忘れるところでした。この〝赤〟に彩られた世界が、そろそろ消えてなくなります。そんなわけで物好きな私は助けに馳せ参じたのです」



「わお、それはありがたい! え、この世界が消えてなくなる!?」



「はい、この世界はなにかしらの力によってアナタ方が住む世界の中に強引につくられた歪な世界です。次元の寄生虫と言ってもいいでしょうね。そのせいかは定かですが、構築度に問題があり、脆く壊れやすい――と、私の仲間であるイシュタルという者が言っておりました」



「脆くて壊れやすい? 私の妄想世界って一体……」



 うーん、この世界は脆くて壊れやすいかぁ。アウストリアの妄想が凝り固まった世界なんだっけ? 何気にショックを受けちゃっているわね。



「では、これをアナタに授けましょう。次元修復石です」



「わあ、綺麗な宝石……ん、中が光っている!」



 アスペリウスから次元修復石とやらを私は授かる。私の親指と同じくらいの大きさの半透明の水晶って感じかな? んで、中がキラキラと光っている。



「わ、光が広がっていく!」



「ふむ、始まったようですね。次元の修復が――」



「じ、次元の修復!? まぶしくて目をあけていられないっ!」



「さ、沙希ちゃん、その光はなに!?」



「判らないよ! とにかく、なにか始まったようだわ!」



「すごい光ですが、ご安心ください。アナタ方、次元の迷い人を〝元の世界〟へと導く光ですので――」



 次元修復石が突然、光り始める……す、すごい光だわ! うう、核ミサイルが目の前で爆発でもしたのかァァ~~! 目を開けていられないような光量だ! ああ、なにが起きたのかさっぱり判らないけど、私達は元の世界に戻れるっぽいわね。

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