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第五話 異界からの脱出! その4

 私が通う○○県立光桜学園には、七つの確証のない都市伝説のような話がある。


 その一、真夜中の天才ピアニスト。

 その二、旧校舎の紳士。

 その三、黒魔術殺人事件の主犯格、清水祥子の隠し遺産。

 その四、屋上の大天使。

 その五、真夜中のグランドを駆ける幽霊アスリート。

 その六、旧校舎の座敷童。

 その七、新校舎と旧校舎の間に生える杉の木に住まう悪魔の蝙蝠。



 ――とまあ、ヘンテコリンな話も入り混じったヘンテコリンなモノだったかな? さて、その七である新校舎と旧校舎の間に生える杉の木に住まう悪魔の蝙蝠の話は実話だったようだ!



「私がしゃべっちゃ不思議なわけ? ああ、名乗っていなかったね。私は清水祥子。こう見えても数年前までは人間だったのよ」



「え、清水祥子って、あの事件――黒魔術殺人事件の主犯格と同じ名前っすよ、師匠!」



「それは判る。ご本人かは判らないけど……」



 私の目の前に舞い降りてきた蝙蝠は、元は人間で、あの清水祥子と同じ名前!? うーん、獣のクセにしゃべることができるあたりから考えると、私や茜、それにサマエルと同じく、自力で獣の姿に変身できる魔法少女なのでは――。



「なんだか勘違いしている連中が多いのよねぇ。あの事件の主犯格は、この私じゃなくて――と、それはさておき。ついさっきまで、この杉の木の下にいた変な女なら、新校舎の校門がある方向へ向かったわ」



「あの女が新校舎の校門へ!? 沙希ちゃん、追いかけよう!」



「もちろん! あの女を逃がしてなるものかっ! 私達も新校舎の校門がある方向へ向かうわよ!」



「ああ、そうだ。私も一緒に行くわ。あの変な女から嫌な気配を感じたのよ。それが気になっているし――」



「まあ、別にいいけど……」



 しゃべる蝙蝠こと清水が一緒ついて来る――と言い出す。あのアウストリアって女から、嫌な気配を感じ取り、それが気になってのことらしいわね。



「ところでアンタ達は魔道書の類を持っているんでしょう? 恐らく、アンタ達が探している女も所持しているはずだわ――というか、この赤い空と赤い花が咲き乱れる異界へと、光桜学園の新校舎および旧校舎を転移させた張本人でOK?」



「う、うん、そうみたい……」



 ご名答、勘が大当たり! あの女の仕業っぽいのよね。この世界へ転移してしまったのは――。



「私の経験から考えると、あの女が所持する魔道書を奪うことができれば、この世界から脱出できると思う」



「ふむ、あの女が所持する魔道書を奪えばいいわけね」



「沙希ちゃん、生け捕り作戦だね!」



 なんだか簡単そうで難しい問題ね。まあ、とりあえず、あの女が向かった新校舎の校門へと私も向かってみよう。生け捕り作戦だ!



               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 私達の目の前に広がる光景――幻覚作用のある香気を放つ真っ赤な花が咲き乱れる花畑は、無限に拡大し続け果てなんて存在しない混沌の宇宙のようだ。



「校門の外に出て初めて気づいたんだけどさ。赤い霧のようなモノも発生していない?」



「うお、なんすか、この霧は……うおおっ! 化け物が赤い空を飛んでいるっす!」



「むぅ、ヤスが幻覚を見始めたわ……は、この赤い霧は、足許で咲き乱れているあの花の香気かも!?」



 私達がいる新校舎の校門付近に立ち込める赤い霧の正体は、恐らく――いや、間違いなく、足許で咲き乱れる赤い花の香気だ! ほら、その証拠とばかりに、ボコンボコンと蠢きながら、赤い粉末状の物体を放出している。



「間違いないわね。てか、濃度が濃いわ! 私達でも何分持つか……」



「ぎゃううう、鼻が痛いぞ! 鼻栓はないのかァァ~~!」



 むぅ、ここへ来てヤスが幻覚を見始める。とりあえず、私や茜、それにサマエルと狼姫、ついでに清水さんは、まだ無事だけど、ここらへんの香気の濃度は特に濃い気がする。



「常人よりは耐性があるつもりだけど、ここに長居はできないわね」



「う、うん……あれれ? 沙希ちゃん、変なモノが見え始めてきたよ……うわっ! でっかい……山のように大きな猫はいるわ♪ モフモフしたい!」



「ちょ、どんな幻覚を……って、茜、大丈夫!?」



「ああ、巨大なステーキがあるわ! いっただきまぁ~す♪」



「ちょ、サマエル!」



「あ、なんだか私も……で、でかい林檎が転がってくる! ヒイイイッ!」



「ああ、清水さんまでっ!」



「ぐぬぅ、鼻は痛い! だが、わらわは幻覚を見ちゃいないぞ。しかし、長くは……」



 ちょ、私と狼姫以外は幻覚を見始めたようだ。く、ヤバいわね。一旦、ここを離れるべきか――く、あの女を生け捕りにしたいけど、私達の状況は最悪に近いかもしれない!



「みんな即席だが、幻覚防止マスクをつくってきたぞ!」



「私に感謝するんだな。ほら、早くつけろ!」



「お、タツ! いいところに……うう、頭がぼんやりしてきたわ!」



 そ、即席の幻覚防止マスク!? ナイスなタイミングでタツとエリザベートがやって来る。た、助かったぁ~♪



「ふう、なんとかなったぜ」



「これで探索できるね、沙希!」



「あ、ヘルメス。いつの間に!?」



 ついさっきまでいなかったヘルメスが、ブ~ンという羽音を立てながらやって来る。ん、小さな幻覚防止用マスクを着用しちゃっているわね。



「うーん、僕は触れると、何故か枯れちゃう! むぅ、腑に落ちないなぁ……」



「ア、アーたん! ちょ、花畑の一部が枯れている!?」



「う、うん、なには起きたのやら……」



 気づけば、私の足許に寝転がるアーたんの姿が――あ、あれぇ? そんなアーたんが寝転がってる周辺だけ、真っ赤な花が真っ黒く変色し、枯れ始めているわ!?



「うう、それはともかく、幻覚防止マスクを!」



 アーたんのことはともかく、幻覚防止用マスクを着用しなくちゃ!



「ふう、助かったわ……ん、建物!? 塔のような建物が薄らと見えるわよ、みんな!」



「あ、ああ、本当だ。なんだろう、あの塔は――」



 タツとエリザベートには心の底から感謝したいわ! と、幻覚防止用マスクのおかげなのかはともかく、今、私達がいる新校舎の校門の周辺に発生している赤い霧の中に、天を貫く巨大な塔のような建物のシルエットが、ぼんやりと浮かびあがる。



「沙希ちゃん、あそこへ行ってみない?」



「いいね♪ 私もそう思っていたところよ!」



 茜が、件の塔のような建物へ行ってみようって言い出す。ヒュー流石は、私の親友だわ♪ 同じことを考えているとか♪



「うーん、あそこへ行く前にさ。あの女をどうにかしないといけないわね」



「え、あの女!? ああ、あの女がいるっ!」



「でも、なんかヘンだぞ。あの女、奇声をあげて踊ってるしな」



 あの塔のような建物へ行く前に、あの女を――アウストリア・ネフレンカスを生け捕りにしなきゃいけないわね! てか、そんなアストリアの姿が校門の外に……ん、奇声を張りあげて踊っているわね? アイツの足許で咲き乱れる真っ赤な花の幻覚作用がある香気にやられちゃったのかな!?



「フヒャハハハッ! あの生意気な小娘を脅かしてやろうと思って、この世界に引きずり込んでみたけど、まさか私まで引きずり込まれるなんてっ……でも、ここは天国! 可愛い天使が飛び回っているゥゥ~~!!」



「完全にイッちゃってる……」



 えええ、天使が見える!? とにかく、アウストリアは恍惚とした表情をつくって踊り続けている――生け捕りにするなら今じゃね?



「沙希、蛇神鞭(ダシンシベン)を持ってきたよ!」



「お、タイミングがいいね♪ んじゃ、早速……うりゃあああっ!」



 ヘルメスったら都合がいいなぁ。さて、ヘルメスが持ってきた蛇神鞭の詳細をありていに説明するなら、死霊秘法に記されていた作成法に基づいてつくった〝蛇〟の力を宿した鞭である。とまあ、そんな説明はともかく、私は蛇神鞭をあの女を目がけて振り回す――絡め取って捕縛だ!

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