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第五話 異界からの脱出! その2

「よし、着替え完了! フフフ、流石だわ、私。まさかの時に備えての着替えを持ち込んでいるとか☆」



 見た目は美人だけど、それとは真逆なお笑い芸人を連想させる三枚目な雰囲気の方が断然、強い――と、そんな感じのヘンテコリンな女は、旧校舎の体育館にある女子更衣室の奥にある鏡の前で右手を腰に、左手の人差し指と中指を目許に当てたアイドルのようなポーズをビッと決めながら、グフフフと怪しく微笑む。



「あれ、誰っすか? 見かけない人だけど……」



「あ、ひょっとしてたまに旧校舎の体育館に練習に来るママさんバレーの人じゃね? 三十路超えてそうだし」



「どうでもいいけどさ。ウチの母ちゃんと同じくっせぇ香水のニオイがプンプンするぜ」



「うお、メチャクチャ失礼なことを言われているような……ちょ、ここは女子更衣室では!?」



「前はあったけど、今は女子更衣室は旧校舎の体育館にないっす」



「な、なんだってー!! じゃあ、私の着替えを見ていたわけ?」



「あ、悪いっす! 全部見てました……」



「あ、あじゃぱぁぁ~~ッ!」



 さて、女の背後には、気まずい場面に遭遇してしまったって感じの後悔の念がズズーンと表情に彩った坊主頭の男子が三人。ああ、ここは女子更衣室改め男子更衣室である。ちなみに、女子更衣室が旧校舎の体育館からなくなったのは本当の話しである。去年だったか一昨年、盗撮を目的とした不届き者が仕掛けた隠しカメラが発見されたからだとか――。



「ア、アンタ達、私にエッチな悪戯をする気でしょ!」



「うお、いきなり変なことを言い出したぞ、あの人……」



「エロい漫画の見すぎじゃね? 俺達は年上に興味はないっす! 変な妄想やめてください!」



「つーか、早く出てってくださいよ。俺達は着替えたいんですからっ!」



 あははは、確かにエロい漫画等の見すぎだわね。さて、女は坊主頭の男子三人組に女子更衣室改め男子更衣室の外に追い出されてしまう。



「ちょ、なにをするのよ、このハゲ少年共ォォ~~ッ! く、この学校の先輩であり、偉大な魔術でもあるアウストリア・ネフレンカス様を馬鹿にした罰を受けてみろぉっ!」



 ギリギリと歯軋りを奏で、おまけに般若の形相をつくる女――アウストリア・ネフレンカス(本名、佐藤弘子)の右手に轟々と燃え盛る火炎を生み出す。まさか、それを男子更衣室内に投げ込む気では!?



「ん、弘子? 佐藤弘子だよな?」



「わ、井上クン! 大学の卒業式の時以来ね……うお、なんで、ここに――ッ!?」



「なんでっていうか、俺はこの学校の教師だしっつーか、弘子こそここでなにを?」



「ええ、先生なの、井上クン!? ああ、私はあのその……」



 ん、アウストリアに声をかける者が現れる。光桜学園に勤務する教師のひとりである井上先生だ。ふむ、どうやらふたりは同級生の間柄っぽいなぁ。



(うう、ここへ出張った理由を言えるわけはないじゃんっつうか言ったところで井上クンには理解できる話しじゃないし……)



 と、胸中でつぶやくアウストリアは、プイッと気まずそうに井上先生から視線をそらす。



「そういえば、さっき黒板に爪を立てた時の嫌な音が聞こえなかったか?」



「さ、さあ?」



「うーん、俺の空耳だったのじゃな? それはともかく、外がなんか変じゃないか? 空は真っ赤だし、おまけに地面には真っ赤な花が咲き乱れているし……」



「アハハ、本当ね。なんだろう、あれは……」



「ああ、ついでにだけど、俺が受け持っている卓球部に所属している生徒達が何人か突然、気絶しちゃってなぁ。まったく、なにが起きたんだか……」



(このトンでもない世界に旧校舎および新校舎を転移させたのは、この私だ、ワーハッハッハー♪ と、言っても信じないでしょうね。さて、どうしよう……)



「あ、井上先生! うお、あの女がいたわ、みんな――ッ!」



「の、のわぁ――ッ!」



「あの女の姿が突然、消えたぞ! く、魔女めっ!」



 まあ、確かに信じないだろうね――う、アウストリアの姿が消え失せる。私、山崎沙希らが男子更衣室前にやって来たんで血相変えて逃げたな! まったく、逃げ足がトンでもなく速いわね。



                ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 私達、オカルト研究部の部員以外の光桜学園の生徒達、それに先生達も、この空も大地も赤い歪な世界に転移してしまったようだ。



 今は夏休みとはいえ、部活の練習、補修授業などなど――様々な理由で光桜学園の新校舎および旧校舎へとやって来てのが、彼らに不幸を招いてしまったのかもしれない。



「けっこう人がいるっぽいね、沙希ちゃん」



「うん、私達を含めて百人は確実にいるだろうね」



 恐らく、新校舎および旧校舎にいる生徒達、それに先生達+αを加えると百人は間違いなく、この歪な世界に来てしまっているだろう。



「わああ、なんだよ、ここは!?」



「おいィィ! グランドが真っ赤な花畑になっているぞ!」



「てか、空が真っ赤だわ! 校舎の外はそんな真っ赤な花」



 むぅ、旧校舎の玄関へ移動すると、けっこうな数の生徒が、そんな旧校舎の玄関の外に集まってきている。みんな突然のことに驚きを隠せない状態だな。早く状況を打開しないと混乱する者も現れるはずだわ。そうなったら大変なことになりそうだわ――てか、すでに状況は最悪かもしれない。



「うおおお、顔のない真っ黒な鬼のような化け物が空を飛んでいる! あれれ、消えたぞ!」



 ツチグモと同様、あの花の香気を吸った数人の生徒が幻覚を見始めているようだ。



「沙希ちゃん、みんなに旧校舎内に戻るように忠告すべきだよ」



「う、うん、そうだね!」



 私は茜も旧校舎の玄関の外へと移動する。そんな旧校舎の玄関から一歩外に出ると、そこは赤々とした幻覚作用のある香気を放つ〝あの花〟が咲き乱れる広大な花畑だ。ヒュー……間近で改めて見ると、幻想的な一方で私のSAN値が思わずズギュウウンと下がってしまうくらい不気味だわ。



「みんな校舎内に戻って! あの花の香気を吸っちゃダメよ。変な幻覚を見ちゃうからね」



 さて、私は旧校舎の外に集まっている連中に玄関の中へ戻れ――と、忠告したのだけれど……。



「なんかヤベェ雰囲気がするし、そうさせてもらうぜ」



「う、うん、判った!」



「賢明な判断ね」



「あ、でも、何人か帰宅するって言って出て行ったぞ」



「「な、なんだってー!」」



 ええ、何人か帰宅するって旧校舎を離れた!? ちょ、ここは異界よ! 帰宅なんて無理だ。どうするのよ、まったく!



「帰宅するって出て行ったのは同じクラスの井川、福島、それに柴田の三人だった気がするよ、山崎さん」



「あ、納田君。うーん、級友かよ! とりあえず、探しに行ってみようか、茜」



「もちろん! なんだかんだと、私達と同じクラスの仲間だしね!」



 ムム、同じ二年B組に在籍する同級生の納田君と玄関で出会う。ふむ、ここが異界と知らずに帰宅するために旧校舎の外へ出て行ってしまった三人――井川君、福島君、柴田君も同じ二年B組に在籍する同級生だったりするのよねぇ。仕方がない同じクラスのよしみってことで連れ戻しに出張るか、旧校舎の外に――。



「あ、でも、戻ってきたみたい」



「ちょ、なにっ……頭や顔面に黒い花が咲いているわよ。あの三人組!」



 帰宅するといって旧校舎から立ち去った井川君、福島君、柴田君が戻ってくる。あああ、そんな三人の顔面を含めた頭のあちらこちらに黒い花が生えている!?



「助けてくれェェ~~!!」



「ぎゃうう、身体が熱いッ! あががっ!」



「ああああ、痛いッ……全身が痛いィィ~~!!」



 井川君、福島君、柴田君は悲鳴をあげる。ああ、黒い花は彼らの身体の内側から皮膚を突き破って生えているのか!? 顔面が血まみれだ。



「人体に寄生し、血液を餌に急激に成長し、宿主の皮膚を突き破って開花する危険な植物も咲いているのかもしれないわね。この紅蓮の炎のように咲き乱れる真っ赤な花畑の中には――」



「う、うええ、マジですか、ミカエル姉様!?」



 ミカエル先生、アンタもいたんですか!? とまあ、そんなミカエル先生がサマエルと一緒にやって来る。



「さてと、とりあえず、三人を新校舎の保健室へ運ぶわよ」



「は、はい!」



 ムムム、井川君、福島君、柴田君の三人を新校舎の保健室へ運ぼう。旧校舎とは通路でつながっているしね。ああ、ボコッと柴田君の額が裂け、そこから新しい黒い花の蕾が――ッ!

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