第五話 異界からの脱出!
登場人物紹介その4
・エリザベート――太田辰巳が所持する球体間接人形に宿った女神の分霊。真名は古代ギリシャのかまどの女神ヘスティア。
・アウストリア・ネフレンカス――沙希が持つ死霊秘法を狙うアラサー魔女。ちなみに、本名は佐藤弘子。
・黒川――アウストリアの子分その1。
・瀬戸――アウストリアの子分その2。
「ニャハハハッ♪ なにが起きたのかな、かな?」
「うわ、変な音がするっ……ふ、不快な音だ!」
「ぎゃあああ、これは黒板を爪で引っかく音だ!」
「ちょ、やめっ……あの音だけはァァァ!」
アーたんはゲラゲラ笑いながら、オカルト研究部の新部室である旧校舎四階の旧図書館内を駆け回る。それはともかく、部室の外から奇妙な音が響きわたる――ちょ、黒板を爪でギィィと引っかいた時の不快な音に似た音だわ、ぎゃあぁぁー!
「ふ、ふう、ふう……沙希ちゃん、大丈夫?」
「うん、一応ね……わああ、悠太が口から泡を吹いている! し、死ぬなァァ~~ッ!」
「か、勝手に殺すなよ、ブクブクブク……」
「ちょ、ニッチが白目を剥いちゃってる! 杏子ちゃん、麗華ちゃん、涼子ちゃん、霧島先生は、すでに意識を……あ、でも、無事ね。息はしているし」
「ふ、ふう……まったく、あの音はなに!?」
トンでもなく不快な音だ。私、茜、悠太、サマエルはなんとか耐え抜いたけど、杏子ちゃんや麗華ちゃん、それに涼子ちゃんと霧島先生はなんて気絶しちゃってる――ああっニッチが白目を剥いちゃってるよ! とはいえ、単に気絶しただけのようだわ。ホッとしたわ。
「く、あの音はなんだ、一体!?」
「があああ、キツい音だったわ」
「師匠なんすか、あの不快な音は!?」
「うぬ、なんとか絶えられたけど、ありゃキツい!」
「ハハハ、しっかし、嫌な音だったなぁ……」
タツと天城先輩、それにヤスとツチグモ、ゆかりんとラファエルも耐え抜いたようだ。
「恐らく、次元が捻じ曲がった時に生じた音だ」
「次元が捻じ曲がる音!?」
そう説明するアポロンは、あの不快な音によるダメージを受けていない様子だ。ちなみに、狼姫、ヘルメス、エリザベート、クロベエ、タヌキチ、キョウタロウも無事な様子を見せている。
「ねえ、あの音すっごくイイ♪ もう一回、聞きたいかも!」
「…………」
むぅ、アーたんにはむしろ心地の良い音だったようだ。ちょ、どういう感性をしているのかしらね、コイツ?
「やれやれ、お嬢もひっでぇな。俺達まで巻き込むなんて……」
「まったくだぜ! 俺達をなんだと思っているんだ!」
「う、アンタ達も一緒なわけ!?」
ムムム、気づけば、あのNEET魔女――アウストリア・ネフレンカスの子分である黒ずくめの男、黒川と瀬戸の姿が部室内に!? 出方次第では、コイツをフルボッコにしてやる。私は未だにホッキョクグマの姿のままだしね。
「待てよ。俺達は別にアンタ達と敵対する気はねぇよ」
「死霊秘法なんてクソ危ねぇ本なんて要らねえっつーの! アレを欲しがっているのは、物好きなお嬢だけさ」
「フ~ン、本心かしらね? とりあえず、信じてあげるわ」
一応、信じておくとしよう。だけど、油断は禁物ね。あの女の子分なわけだし――。
「お嬢は、まだ近くにいるっぽいな」
「え、あの女は、まだ旧校舎内にいるの!? でも、何故、行方が判るわけ?」
「ああ、俺のスマホのGPSがお嬢のスマホの位置を捉えているぞ。恐らく、この建物のどこかに隠れているんじゃないか?」
「そういうわけね。んじゃ、後で捕まえに行くかな」
「そうしてくれよ! てか、お嬢を捕まえに行くなら手伝うぜ」
アウストリアは、まだ旧校舎内にいるっぽいわね。子分の瀬戸のスマホのGPSアプリが、あの女の現
在位置を示しているっぽいし――。
「沙希、部室の外に出るなら気をつけた方がいい」
「気をつけた方がいい!? 別世界につながっているとか?」
「その〝まさか〟さ! ほら、部室の窓の外を見てごらんよ」
「ちょ、マジで!?」
ちょ、適当に言ったつもりだったけど、まさかビンゴとは!
「うおおお、赤い空に赤い大地!? なんだ、ここはァァ~~ッ!」
「おいおい、なんだよ! 俺達はどこへ来てしまったんだァァ~~ッ!」
ん、タツとツチグモが部室の窓を開け、そこから見える光景に対し、驚愕の声を張りあげている。赤い空に赤い大地!?
「ああ、本当だ! 旧校舎が……ああ、新校舎も一緒に異界へ転移してしまったっぽいわ!」
「ああ、見てよ、沙希ちゃん! 旧校舎も新校舎も、真っ赤な花に囲まれているよ!」
「空の色はともかく。大地が赤く見えたのは、あの咲き乱れる真っ赤な花のせいか! あ、イイ香り♪」
私と茜も部室の窓を開け、外を覗き込む。なるほどね。大地が赤く見えたのは、旧校舎と新校舎の主意を取り囲むように咲き乱れる真っ赤な花が原因のようだ……ん、清々しい香気が部室内に入り込んできたわ。あの花の香りかしらね?
「うわああ、空に化け物が飛んでいる!」
「え、化け物? なにもいないぞ、ツチグモ?」
「う、嘘だ! ほら、あそこを見ろよ? ほら、ほら――ッ!」
「はぁ? お前はなにを言っているんだ?」
ツチグモが化け物が空を飛んでいるって悲鳴をあげる。だけど、一緒に窓の外を見渡すタツには、そんなモノが見えていないようだ。ああ、私の双眸に映り込む赤い空と真っ赤な花が咲き乱れる赤い大地のどこにも、そんな化け物のシルエットなんてどこにも……。
「おい、化け物ならいるだろ!」
「うおおお、こっちに来るんじゃねェェ~~!」
「ちょ、アンタ達までなにをっ!」
アウストリアの子分である黒川と瀬戸にも化け物が見えるようだ。うーん、私にはなにも見えないんですけどっ!
「沙希ちゃん、私にもなにも見えないわ。ツチグモ君や黒ずくめの男達は、一体、〝なに〟を見ているんだろう!?」
「私にも見えないわ。アイツらは奇妙な世界に転移したことで気が狂っちゃったのかしら?」
「ハハハ、どんな化け物がいるっていうんだい? 僕も見てみたいなぁ~♪」
「ちょ、兄さん、ふざけないで!」
茜とサマエル、ついでにサマエルの兄ラファエルにもツチグモ、それに黒川と瀬戸には見えているはずの〝化け物〟が見えていないようだ。
「原因は、この香気だよ、沙希!」
「え、この香気が原因!?」
「うぐ、イヌ科の動物にはくそみそにキツいニオイだ! ガアア、鼻が痛いっ……窓を閉めるぞ。あの花の香気には幻覚作用があるっぽいからな」
え、この清々しい香気に幻覚作用がある!? さて、鼻が痛い――と、苦しそう眉をひそめる狼姫は、ボンッという軽い爆発音とともに金髪碧眼の美女の姿に変化し、ツチグモとタツが開けた部室の窓をピシャリと勢いよく閉める。
「この植物は地球上に存在するモノじゃないな。他の星系、或いは幻夢郷や魔界――異界かもしれないな。この建物の外は――」
「わ、エリザベート! いつに間に外へ!」
ムム、いつの間にかエリザベートは花束を抱えている。ちょ、ひょっとして例の幻覚作用はある香気を放つ〝あの花〟では!? それはともかく、地球上に存在しない花だって? じゃあ、やっぱり、ここは……。
「わ、そんなモノを持ってくるなって!」
「あ、でも、急に枯れちゃった……」
ああ、真っ赤な花の花びらがズギュウウンと突然、真っ黒く変色し、ボロボロに崩れ落ちる……ちょ、枯れるの早くないか!?
「ん~摘まれると、短時間で枯れてしまうのが痛いな。こりゃ生け花には適しない花だなぁ」
「それより、私達も外へ出てみない?」
「お、イイね! ちょっと探索しに出張ってみよう!」
「そうか、なら私も行こう。探索は私達――魔法少女が適任だしね」
「ついでに、あの女を捕まえなきゃね」
なんだかんだと、旧校舎の外――異界を探索してみなじゃいけない気がする。ついでに、アウストリアって女を捕まえなきゃ! 子分の瀬戸曰く、旧校舎内のどこかに隠れているっぽいしね。




