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第四話 迷宮学園 その6

 タツ曰く、天宮弓子の遺品のひとつである炉の御霊というランプは学校から帰宅時に拾ったモノらしい。ふ~ん、盗まれたとかそういう理由で紛失したわけじゃないようね。我が家に運び込まれる以前に、どこかで落っこちたってところかな? んで、それをタツが――あるぇ? もうひとつ我が家にはない天宮弓子の遺品があったような気がしたけど、なんだったかな?


 さて、タツの魔術の師匠ことエリザベート・ナイトレイドの正体は、拾った炉の御霊を自宅に持ち帰った際、玄関に飾ってあった等身大の球体関節人形に宿ったヘスティアというかまどの女神の分霊とのこと――。



 んで、そんなタツに触発されるかたちでゴスロリな衣装にはまっちゃったようだ。ああ、ちなみにだけど、神の力ってホントすごいわ。球体関節人形が生き物に――人間に転生しちゃうあたりとか! おっと、それはともかく、敵かもしれないヘンテコリンな女が現れたのよね!



「お嬢、鼻血が出てますぜ」



「な、なんですって!? ひゃああああ、許さないっ! 絶対に許さないわ! 三日後、百倍返しなんだからァァ! 大人の女をナメるなよ、小娘ェェ~~!!」



 ちょ、なんだか八つ当たりされてるんですけど……うざっ!



「おっと、名乗っていなかったわね! 我名はアウストリア・ネフレンカス! この世に存在するすべての禁忌の書物――魔道書の蒐集する者ですわ、オ~ッホッホッホ♪」



「え、アウストラロピテクス?」



「があああ、誰が猿人よ! 私の名前はア~ウ~ス~ト~リ~ア・ネ~フ~レ~ン~カ~スだァァ~~!!」



「あ、ゴメン、始めの四文字の語呂が似ていたもんで……」


 

 我々、人類の遠い遠い祖先である猿人のアウストラロピテクスに似た名前だわ。まあ、とにかく、お笑い芸人かもしれない場違いな青いドレスを着た女の人こと霧島先生の大学時代の友人、弘子さんは魔道書の蒐集家を自称する。



「変な人ですね」



「う、うん、大学時代は目立たない地味なコだったんだけどなぁ。佐藤弘子さんは……」



 だ、大学時代は地味だったねぇ。てか、苗字も佐藤か、こっちも地味だなぁ。



「ガルルルッ……あの女から異様な邪気を感じるぞ!」



「うむ、魔女は沙希、お前が持っている死霊秘法(ネクロノミコン)と同じ禁忌の書物を保有しているはずだ!」



「あの魔女は嫌いだ! 嫌な気を感じるし!」



「確かにな。魔道書以外にも、あの魔女は〝なにか〟持っているぞ!」



「な、なんでヤンスか! とにかく、あの女は恐いでヤンス!」



 狼姫(ろき)とアポロン、それにキョウタロウ、クロベエ、タヌキチら動物達が全身の毛を逆立てながら警戒している。あの女も魔道書の他にも動物達が警戒するような〝なにか〟を保有している!? どんなモノなのかしら? 気になるところね。



「さてさて、私は平和主義者だから、血生臭い真似はしたくないよねぇ。クククク、ここは円満に取引と洒落込みましょうか――」



「円満に取引ですって!? つーか、なによ、そのエレキギターは!」



「そうよ、取引よ。フフフ、優しいでしょう♪ ヒャッハァァァ~~!」



 円満に取引だと!? 絶対にそうは思えない。子分である黒ずくめの男から手渡された赤い派手なエレキギターの弦を激しくかき鳴らしながら、ヘンテコリンな声を張りあげちゃってるし……。



「単刀直入に言うわよ。死霊秘法を渡しなさい! そうすれば、迷宮化した光桜学園旧校舎の外に出してあげるわ」



 アウストラロピテクス……いやいや、アウストリアは、鬱陶しい爆音のような音波を放つエレキギターの弦をかき鳴らしながら、そんな取引を持ちかけてくる。



「ん~最低でも五億円ね。それだけの大金と取引じゃないと話にならないわ」



「ちょ、五億円ですって!? 宝くじで一等を当てなきゃ得られないような多額の金を要求する気! この金の亡者ァァ!」



「当然でしょう? アンタ馬鹿? 死霊秘法は最低でも億単位の値段がついて当然だからね。てか、アンタは多額の金銭と引き換えに死霊秘法を、私らは無事に旧校舎の外へ――ね、円満な取引でしょう? 私も平和主義者だからさぁ、暴力沙汰になるような真似はしたくないのよねぇ、クククク」



「ちょ、私が要求する側! アンタは要求される側だァァ! 勝手に話を進めるな、小娘ェェ!」



「フフフ、なぁ~んてね! 冗談に決まってるじゃん。どんなに札束を詰まれようが絶対に交換(トレード)なんかしないっつーの!」



 さてさて、なんだかんだと死霊秘法は絶対に手放す気はないわ。どんな多額のお金を出されようが断固、断る! コイツは金で買えるようなモノじゃないしね!



「――で、どうする? 強引に奪おうっていうなら、こっちにも考えがあるわよ」



 とりあえず、私は脅しもかねて純白の巨獣――ホッキョクグマに変身する。あの女の出方次第では、即、熊パンチを顔面に叩き込んでやる! え、下手したら死ぬって? アハハ、そこらへんは大丈夫じゃないかな? あのアウストリアって女は魔女だ。熊パンチを叩き込んだ程度じゃ失神程度で死にゃしないって♪



「うーん、なんだか獣だらけですね。それはともかく、あの弘子さんは無職だから金銭での取引は無理だと思いますよ、山崎さん」



「……てことは、あの人ってNEETってわけ?」



「はい、間違いなくNEETですね。あ、何故、知っているかというと、先生が通っているスポーツジムには、あの弘子さんのお母さんも通っていましてね。そこで聞いたんですよ。弘子さんが仕事をしないでネット三昧な生活を送っていると――」



「ぬあああ、NEETって言うなやァァァ! ぐぬぬ、お母さん、余計なことを!」



 あの女はNEETなの? アラサーで無職、一体、ナニをして生活を……ああ、親の脛を齧って生きているのか? うーん、ああいう大人にはなりたくないなぁ……。



「プーックックック……お前らひっでぇこと言うなぁ」



「まあ、でも、お嬢がNEETなのはマジな話なんだけどな」



「ちょ、黒川、瀬戸、アンタ達ィィ~~!! キィィィ、みんなで私を馬鹿にしてェェ……絶対に許さないわっ!」



 アハハ、子分にも馬鹿にされちゃってるなぁ、あの人……ってか、エレキギターの弦を狂ったようにかき鳴らし始めたわ! み、耳が――ッ!



「もう謝っても許さない! 取引は中止よ。死霊秘法なんていらないィィ! 真・死霊秘法(キタブ・アル・アジフ)を手に入れればいいことだし!」



「真・死霊秘法!? う、姿が消えた!」



「ああ、弘子さんがいなくなった!?」



「あの年増は穏行の術で姿を消したの?」



 取引は中止だぁ? は、こっちは最初からそのつもりよ! はわわ、どうでもいいけど、子分の黒川と瀬戸を残すかたちで、アウストリア・ネフレンカス(本名、佐藤弘子)の姿が突然、私達の視界から消え失せる。



「フン、姿を消そうが、この私は誤魔化されないぞ!」



 ん、エリザベートがゴスロリな衣装の裾から包丁のような刃物を取り出し、四階と三階の間にある空間――踊り場に向けて投擲する! 



「よっしゃ、エリザベート。流石だぜ!」



「だが、あの女ではなかったな。チッ逃がしてしまったか――」



「てか、羽目玉って感じの異形の生物だ。姉ちゃん、なんだよ、コイツは!?」



「私が知っているわけがないじゃん!」



 ドシャッ! と、エリザベートが投擲した包丁が踊り場に潜んでいたアウストリアとは別の奇妙な生き物に突き刺さる――黒い羽の生えた目玉のような生き物だ! な、なによ、あの生き物は!?



「ん、あれはグヴァルマだっけ?」



「ああ、お嬢がどこからか連れて来た奉仕種族だったな」



「ちょ、アンタ達! なによ、それは――」



「なによって言われても、俺達もさっぱりなんだ。お嬢は〝ああいう生き物〟を召喚したり、探しに行くことができる能力者だからな」



「ちなみにクヴァルマは、監視用生物という以外、まるで判らん生物だ」



 羽目玉の名前はクヴァルマというらしいわ。でも、あの女の子分である黒川と瀬戸も、あの生物の詳細に関しては監視用というだけで、その他はイマイチのようだ。



「あの女はクヴァルマって生き物に私達の様子を監視させる隙を見て死霊秘法を奪おうとか企んでいるのかしらね?」



「さあ、どうだろう? でも、高い確率でそんな気がするけど……」



「どうでもいいが、周囲の空気に変化が――ペルセポネー! 友人達を図書室の中へ!」



「お、おう! みんな図書室へ――オカルト研究部の部室へ駆け込むんだ!」



「なにが起きているかはなんとなく判る! 判ったわ、部室に――ッ!」



 キュピーン! と、なにかしらの変化を察知したエリザベートが、タツに向かってそう言い出す。わ、判るわ……第六感的なモノが、今いる下の飼いへ通じる階段の周辺へいない方がいいって警告している! よ、よし、エリザベートの言うとおり、オカルト研究部の部室へと非難だァァ~~!!

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