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第四話 迷宮学園 その5

「わーん、ドロドロした液体がかかった! 気持ちが悪いよォォ!」



「しかし、なんなのよ、この液体! 無臭だけど、ドロドロしてて毒々しいわね」



 アハハ、ちょっとアクシデントってヤツね。しかし、なんなの、埴輪の中に詰まっていた黒々とした液体は――む、無臭なのが幸いかもね。とはいえ、毒々しいドロドロした液体には変わりはないわ。



「沙希、それに茜。アンタ達ならショゴスを知っているわよね?」



「う、うん、まあ……」



「南極に住んでいる不定形の生物だよね? どんな姿に変身できるんだっけ?」



「まあ、そんなところかな? てか、あの黒々とした液体の招待は、そんなショゴスだ!」



 あんまり詳しくはないけれど、件のショゴスとは、遥か永劫の昔、南極に住んでいた古のものという連中によって生み出された粘液状生物である。さて、埴輪の中に詰まっていた黒々とした液体が、件のショゴスだってサマエルが言う――てか、なんでそんな生物が埴輪の中に!?



『きっと埴輪が壊された時に備えての第二の罠だろうね。でも、死んじゃってるね、コイツ』



 と、ヘルメスが言う。ショゴスは死んでいる!? しかし、油断はできない気がするなぁ。



「私が浄化してやる! ふんぬぅー!」



 むぅ、私の足許にいるアポロンの両目がカッと輝くと、その刹那、ズドーン! と、青い光線が発射され黒々とした液体――ショゴスの死体を焼き払うのだった。



「わ、なんだ、そのフェレットは!?」



「す、姿が見えているわよ、アポロン!」



「ああ、いいんだ。もう隠れる必要はないだろう?」



「そ、そう? わあ、狼姫も姿がぁー!」



「お、いつの間にか穏行の術が解けているなぁ、グフフフ……」



 アポロンは穏行の術を解いている。ああ、狼姫もいつの間に! てか、わざとらしく笑っているぞ、コイツ!



「目からビームを放つフェレットとは、なんという奇怪な……お、階段が現れたわ!」



 天城さんが奇怪だっていう。まあ、確かに――お、埴輪が砕け散ったせいかな? 私の目の前の空間に亀裂が入り、パキーンと砕け散り、下の階に通じる階段がスゥと出現する。元の空間に戻ったのかな?



「よし、下の階へ行けるぞ!」



「うん、とりあえず、降りてみよう」



「「「こら、置き去りにすんな!」」」



「わ、悠太! それに部活のみんな!」



 悠太、ラファエル、ニッチ、涼子ちゃん、杏子ちゃん、麗華ちゃん、ゆかりん、それに霧島先生が部室の外に出てくる。むぅ、なんだかんだと一部始終、見ていたっぽいなぁ。



「沙希、お前は人外だったのかァァァ!」



「ちょ、変な冗談はやめれ!」



「いや、きっとクトゥルフ神話に出てくる名状しがたき邪神の仲間だわ!」



「うお、さらに嫌なモノに例えられたんですけどっ!」



 むぅ、嫌なモノに例えるなよ、バッキャロー! 私は宇宙的恐怖(コズミックホラー)な連中に例えるなっつーの!



「フフフ、まあ、サマエルの同類がいることは知っていたんだけどねー♪」



「ちょ、兄さん、まさか……」



「フフ、サマエル、それに沙希と茜。君達は俗に言う魔法少女だろう?」



 ラファエルがニィィと微笑む。ちょ、サマエル、兄さんであるラファエルに魔法少女だってことがバレちゃいない!?



      ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「どうでもいいけど、エイボンの書とナコト写本をミスカトニック大学に返還した方がいいんじゃないかな? てか、その黒猫(キョウタロウ)を使って、こっそり持ち出すなんてクレイジーなことをするねぇ、クククク♪」



「ギョッ……バレてる!」



 エイボンの書とナコト写本? 魔道書の一種かな? 私が持っている死霊秘法と見比べるとレア度はどんな感じなんだろう? 気になるところだわ。



「ふむ、その二冊は弓子の遺品ではないようだね。僕の仲間が宿っていないようだし……」



「あ、いつの間に!? か、返してよ!」



 ん、気づけば、私の足許に積み重ねられた古ぼけた本があり、その上にヘルメスが座っている。ひょっとしてエイボンの書とナコト写本?



「ああ、山の妖精さんシリーズのミルちゃん!? わお、動いているわね……か、可愛い♪」



「むぅ、アンタまで穏行の術を解いたわけ?」



「アハハ、沙希ちゃん。もう隠し事が出来ない状況だよ、絶対……」



 山の妖精さんシリーズという人形の紅一点であるミルちゃんの人形にヘルメスが宿ったことによって、本物に小妖精(ピクシー)のようなモノと化している。体温があり、柔らかいしね。それはともかく、茜の言うとおり、もう隠し事はできない状況だわ、絶対。



「そうだ、俺もみんなに隠し事をしていたんだ、ゴメンッッ!!」



「タツ、隠し事ってナニ!?」



 え、タツも隠し事を? う、どうでもいいけど、いつの間にか可愛らしいゴスロリな衣装に身を包んでいる。ちょ、女装癖があるとはいえ、アンタいつの間にって感じだ。



「実は俺は魔法少年なんだ!」



「「「な、なんだってー!」」」



 ちょ、なにを言い出すと思ったら、自分は魔法少年だぁ? タツの突然な告白に私は本気で驚いてしまう……ほ、本当のことなのかしら!?



「証拠を見せてやるよ! おい、姿を見せてやってくれよ、エリザベート」



「ペルセポネーがそう言うなら……ってか、師匠と呼びなさいと何度言えば判る!」



「ペルセポネー? ん、タツがもうひとり現れたァァ~~ッ!」



 ペルセポネー? タツのアダ名? それはさておき、そんなタツと同じ可愛らしいゴスロリな衣装を身に着けた瓜二つの可愛らしい人物が現れる。ぶ、分身した? でも、エリザベートって呼んでいた気がするんだけど……。



「沙希ちゃん、あのコはタツと同じ女装癖のある男子だったりするのかな?」



「さ、さあ?」



「初めまして、皆様。私はそいつの魔術の師匠を務めるエリザベート・ナイトレイドと申します。ああ、言っておきますけど、私は本物の女のコです! ペルセポネーこと太田辰巳と同じ女装男子って言ったヤツは死ね!」



「「…………」」



 ちょっと痛い人物かも――まあ、容姿はタツそっくりだけど、本物の女のコだってことは判るかなぁ? 小柄だけど、胸がちょっと大きめだし……イライラ。



「ん、エリザベート・ナイトレイド? なにを言っている。貴女はヘスティア様では――」



「お前はなにを言っているんだ?」



「き、気のせいか? むぅ……」



 ヘスティアって、古代ギリシャのかまどの女神!? それがエリザベート・ナイトレイドの真名? ともかく、ズギュウウウンと、そんなエリザベートににらまれたアポロンは、蛇ににらまれた蛙のように動けなくなり、シーンと黙りこくってしまう。



「ん、炉の御霊のニオイがするぞ! あれはやっぱり……」



「それって紛失した天宮弓子の遺品のひとつだっけ? じゃあ、タツがあれを――」



 天宮弓子の遺品には、そんな天宮弓子の趣味が反映するかたちでヘルメスやアポロンといった古代ギリシャの神々の分霊が宿っていたらしいわね。さて、炉の御霊は紛失したハート型のランプらしいけど、アレをタツが所持しているっぽいわね、ヘルメスの話じゃ――。



「俺のことを忘れるな、タツ」



「わ、今度は赤いスカーフを首に巻いた黒い狐が現れた!」



「ああ、コイツは俺の使い魔のクロベエだ」



「うお、やっぱり、あの気配はクロベエのものだったでヤンス! ここで会ったが百年目! 宿命のライバルであるタヌキチ様、参上!」



 ドンッ! と、軽い爆発音とともに茜の使い魔である仙狸(せんり)のタヌキチが、歌舞伎役者を連想させるポーズを決めながら姿を現す。むぅ、タツの使い魔だっていう黒狐のクロベエとは好敵手(ライバル)の間柄なのかな?



「うわ、また変なのが現れた!」



 アハハ、ごもっともである。



「さて、なんだかんだと下の階へ降りてみよう」



「ですねぇ、降りましょう!」



 天城先輩が下の階へ降りようって言う。なんだかんだと、あの埴輪がなくなったことで旧校舎の四階から下へ移動することが可能になったわけだし――。



「ちょっと、誰かあがってくるわ。ああ、さっきの黒ずくめの男だわ!」



「場違いな青いドレスを着た女の人が一緒だね、麗華ちゃん……てか、なんだか嫌な予感がする!」



 ん、黒ずくめの男と場違いな青いドレスを着た女の人? 麗華ちゃんと杏子ちゃんがさっき目撃したっていう……まさか山田の仲間か!? やっぱり狙いは――。



「フフフ、迷宮結界を破るとはね。流石は、魔法少女……ぶべらぼぎゃー!」



「あ、青いドレスを着た女の人が階段から落っこちたわ……な、なんなの、一体!」



 一瞬、場違いな青いドレスを着た女の人の周囲に大物臭を感じさせるゴゴゴゴゴって擬音が見えたんだけど、その刹那、そんな場違いな青いドレスの女の人が、階段から足を踏み外し、奇妙な声を張りあげながら、ズドドドッと豪快に転げ落ちる……ちょ、なんなの、この人!?



「お、お笑い芸人?」



「きっと、そうだよ、うんうん……」



 階段からの豪快な落下とか、笑いを誘うお笑い芸人のコントかなにか? しかし、あの山田の仲間っぽい黒ずくめの男が一緒だ。やっぱり、コイツらって……。



「あ、誰かと思ったら弘子さん」



「うお、綾ちゃん!」



「ん、霧島先生。あのお笑い芸人と知り合いなわけ?」



「うん、大学時代のお友達ですよ」



「ち、違うわ! 私はあんな女は知らん!」



 場違いな青いドレスを着た女の人は、霧島先生の大学時代のお友達? むぅ、だけど全力で拒否ってないか?

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