表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/118

第四話 迷宮学園 その3

 後日、聞いた話だけど、私が所属するオカルト研究部は、あの黒魔術殺人事件を起こしたっていう黒魔術部が前身らしい。そのせいで活動内容を怪しまれていたりするのよね。主に生徒会の連中に――。



「しかし、旧校舎(ここ)はマニアックな部活の部室がたくさんあるねぇ、サマエル」



「うむ、だけど、兄さんと同じ部活で良かったわ。お隣の旧視聴覚室を使っている連中は同人誌研究部だし、ちょっとついて行けない……」



「アハハ、でも、連中の絵はすごく上手いんだよ。連中の先輩の中には人気のラノベの挿絵を描いている人もいるらしいわ」



「ほう、それはすごい!」



「でも、旧校舎で活動中の部活に所属する連中は、体育会系を除くと皆、例外なく新校舎を追われた連中ばかりなのよねぇ……って、私達も例外なく」



 さてさて、私が通う○○県立光桜学園の旧校舎内に生徒会の陰謀(?)によって新校舎を追われた部活の連中がひしめき合っている。活動内容がマニアな方向へ傾いているからって、そりゃないでしょって言いたくなるけど、ここはなにかと自由が利くので、私は好きかなぁ? それに私達マニアックな部活に所属する者を目の敵にしている生徒会の連中の監視下では新校舎ではないのがいいね♪



「み、みんなァァァマジでゴメンッッ! 副会長の田村さん達に押されて、なにも言えなくなってしまったんだァァァ~~!」



「うお、新山じゃないっすか、師匠! 生徒会長の新山がなんでここにィィ!」



「ああ、男子がもうひとりいたのを忘れていたわ。つーか、新山春人――通称ニッチは、我が部の部員のひとりなんだ。ああ、でも、副会長の田村達は、そのことを知らないんだよねぇ……」



「いつバレるか心配だよ。ああ、お腹が痛くなってきた……」



 おっと、天城先輩と同じく忘れていたわ。男子がもうひとりいたことを―-と、通称ニッチこと生徒会長の新山春人(にいやまはると)は、お仲間である生徒会の連中には秘密にするかたちでオカルト研究部に参加している仲間でもある。しかし、弱腰なのよねぇ、そんなわけで副会長の田村達の傀儡



「ニッチは昔から弱腰な性格が祟っているよね。打って変わってお母さんは超がつくほどガミガミ五月蝿くて強腰なのに……」



「むう、涼子ちゃん、そりゃないよ! てか、ママをそんな風に言わないでくれ!」



 ちなみにニッチは痛々しいくらいマザコンなんだよなぁ。イケメンで女子から人気があるんだけど、そこが残念なところだ。



「でも、ここに移って正解だわ。旧図書館は宝の宝庫だしねぇ♪」



 と、部員のひとりである加藤涼子が、クイッと右手の中指で愛用の赤縁の眼鏡を押しあげながら、ニヤリと微笑む。ああ、彼女はニッチとは幼稚園の頃からの幼馴染らしい。



「うむ、それに関しては同意だ! ここには私の愛読書であるヘンリー教授シリーズが全巻そろっているしな。それに月影書房の幻想図鑑シリーズもすべてあるわけだしな!」



「どっちもマニア受けの本だね。私も何気に愛読しているわ」



「ああ、それはそうとヘビメタ部の井原と柴田が言っていたんだが、また出たらしい〝旧校舎の紳士〟が――」



「ん、兄さん、なぁにそれ?」



「フフフ、ありていに言うと、この旧校舎に潜んでいる怪人だ」



「おい、ありゃ旧校舎の紳士っつうモノは怪人というか妖怪の類だろう? 仮に遭遇したら異次元に連れ去られるって話があるしな!」



 サマエルの兄ラファエル、それにツチグモこと土屋出雲が言う旧校舎の紳士とは、旧校舎に潜んでいる妖怪だ――と言われているけど、私はまだお目にかかっていないのよね。



『旧校舎の紳士? 何者かは知らんが、旧校舎(ここ)に入ってからずっと奇妙な気配を感じているぞ』



『うむ、貴様も感じたか! この建物にはなにか〝いる〟ぞ――人外の類が!』



 むぅ、狼姫とアポロンがそんなことを言い出す。旧校舎の紳士かはともかく、なにか〝いる〟のか、この旧校舎内に――。



「姉ちゃん、まさかアイツらじゃないよな?」



「アイツら? ひょっとして、あの黒ずくめな連中が、ここに? んで、放課後紳士はそいつらの――」



 悠太がそんな杞憂を口にする。ふう、嫌な連中のことを思い出したわ。私の死霊秘宝を狙ってきた魚と蛙の混合生物のような異形の面構えの連中こと深きもの(ディープワン)のことを――。



「ふう、重かったわぁ……っと、新部室ってここ? まったく四階だなんて面倒くさいわねぇ!」



「ううう、重いよぉ、麗華ちゃぁぁぁん!」



 ん、白い豪奢なソファを重いィィィと悲鳴をあげながら、オカルト研究部の新部室である旧図書館内に運び込む女のコがふたり現れる。つーか、いらないと思うんだけど……。



「うわ、高そうなソファ! 流石はリア充!」



「お父様のお古よ。てか、二十年前に購入した時の値段は八十万円だったってお父様が言っていたわ」



「…………」



「うう、リア充は死ねって言いたくなる……」



 そんな中古とはいえ、元の値段は八十万円という代物であるソファを持ち込んだリア充の名前は蔵内麗華(くらうちれいか)、そしてもうひとりが和泉杏子(いずみきょうこ)。ちなみにだけど、和泉杏子は夏休みに入るちょっと前に○○県の地方都市から転校してきた者である。んで、転校初日にワガママな麗華の目をつけられて無理矢理、舎弟に――とまあ、そんな運の悪いエピソードがあったりするのよね。



「蔵内、私物を持ち込むなって言ったでしょう!」



「いいんですよ、細かいことは――てか、みんな私物を持ち込みじゃん!」



「うえええ、みんなっ……勝手なことを!」



 ムム、気づけば、部員達の私物があっちこっちに――てか、本棚のひとつに飾ってあるお大きさ六十cmかそこらのいかにもお手製な衣装に身を包み可愛い人形(ドール)は、誰の所有物なんだろう?



「あ、可愛い! 一万円払うから、同じヤツをつくってよ、天城先輩♪」



「ちょ、リリスはたった一万円じゃつくれるような代物じゃないわ! 最低でも五万は――」



「むぅ、先輩だって私物を持ち込んでるんじゃん。矛盾してるぅぅ……」



「む、むぅ……」



 あの人形は天城先輩の所有物だったわけね。てか、あの手の人形は素体であってもけっこうな値段がするのよねぇ。



「そういえば、黒ずくめの変な連中とすれ違ったんだけどさ。コスプレ部の人達かな?」



「く、黒ずくめ!? ちょ、ビンゴかもしれないわね、悠太」



「う、うん……」



 黒ずくめの連中とすれ違った!? と、杏子がそんな目撃情報を―-奴らがここにいるわけ? でも、何故……まさか!


(沙希ちゃん、その黒ずくめの連中ってメールで教えてくれた山田って怪しい男の仲間?)



(ありえない話じゃないわね。つーか、ここへ現れたのなら狙いはやっぱり死霊秘宝?)



(そういえば、アンタは死霊秘宝を持っていたわね。つーか、アレを狙ってる連中がいるわけ!? 面白そうじゃない、クククク……)



(ちょ、サマエル! 面白がらないで!)



 とまあ、私と茜が交わす心の中の会話にサマエルが割って入る。そんなサマエルも魔法少女だったわね。超能力の一種であるテレパシーを使えて当然だし、割って入ることも当然できる。



「皆さん、集まっていますね! うわ、私物だらけじゃないですかっ!」



 顧問を務める霧島綾(きりしまあや)先生がやって来る。ちなみに、彼氏いない暦三十二年と十一ヶ月を順調に更新中である(笑)。うーむ、しかし、美人なのに何故か男運がないんだよなぁ、この人……。



「霧島先生が来たことだし、イベントを始めるわよ、諸君ッッ!!」



「ええ、イベント!? ひょっとして先生も参加予定なわけ?」



「無論です!」



「うう、嫌な予感が当たったわ……」



「まあ、とにかく、イベントってなんなのさ? 詳細よろしく、天城先輩!」



「うむ、よくぞ聞いてくれた! んじゃ、簡単に説明する――清水祥子の遺産を見つけ出すイベントだァァァ~~!!」



「ちょ、それは一種の都市伝説のような……」



 うーん、清水祥子の遺産というか財宝なんてモノに関しては一種の都市伝説だと思っている。アレを見つけ出そうとしている連中もいるけど、果たして見つかるかどうか……。



「ま、とにかく、新オカルト研究部発足を記念してのイベントよ! なにか文句ある?」



「文句なら……あ、ないない! 文句なんて微塵もない!」



 そのイベントに物申す! と、ばかり文句を言おうとしたツチグモだったけど、ギロリと天城先輩ににらまれ拒否できなくなってしまう。ふう、情けないなぁ。



「とりあえず、あの事件の舞台となった旧校舎内を探せば、きっとなにか見つかるはずよ」



「そうかなぁ、うーん……」



 あの事件とは黒魔術殺人事件のことである。事件の舞台となったのは旧校舎だし、探せばなにか見つかる可能性はちょっとはあるかなぁ、開かずの間もあるしねぇ。



『おい、どうでもいいが、この本だらけの部屋の外から邪気のようなモノを感じるぞ!』



『なにか起きている可能性があるね。ちょっと覗いてみてよ、沙希』



『さっさと実行しろ! なにか起きてからでは遅いぞ!』



「う、うん……」



 天城先輩がやろうっていう清水祥子の遺産だか財宝のことはともかく、狼姫やヘルメス、ついでにアポロンが部室の外を覗いてみろって急かす――まったく、邪気がどうとかってなにか起きているのかな、本当に?



「う、ううっ……この感じは!?」



 うう、空気が重い!? ズギュウウウンと部室の出入り口の扉を開けると同時に、私の全身に悪寒が駆け巡る――な、なんの一体!?



「シャアアアッ! 嫌な気配を感じる!」



「あ、キョウタロウ! な、なにかいるの!?」



「キョウタロウも反応しているわけだし、なにか起こっているはずだわ!」



 む、私の足許でサマエルの使い魔である黒猫のキョウタロウが唸り声を張りあげている。な、なにかいるのかしら……勇気を出して覗いてみるか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ