第一話 使い魔との出会い その1
私――山崎沙希が住む○○県S市の歴史は古い。
なにせ奈良時代以前の集落の遺跡が、市内のあちらこちらで見つかるくらいだし、おまけに規模はそんなに大きなものではないけど、あの大仙古墳と同じ前方後円墳もあったりするしね。
さて、親友の蓮田茜にメールを送る――面白い本があるよってね。つーか、三十分も経たないうちにやって来たから驚いたかも!
「沙希ちゃん、ついに手に入れたのね! ずっと欲しがっていた魔道書を!」
「うーん、ずっと欲しがっていたっつーか、偶然的にね」
まあ、なんだかんだと、そんな茜の言うとおりだったりするわけだ。私はずぅぅっと欲してわけよ、魔道書という禁断の書物を――。
「あ、そういえば、魔道書の類を読むとさ……」
「え、読むと……なに?」
「気が狂うらしいわ。沙希ちゃん、頭は大丈夫? てか、正気?」
「う、うん、正気よ、くそみそに正気よ。むしろ、さらに元気になった気がする!」
魔道書と呼ばれる書物の中には、その禁断の内容を危惧する時の権力者によって発禁、そして焚書という扱いを受けてしまったモノも多々、存在するのよね。故に、現存しているものが少ないのも、また然り。
ああ、ついでにだけど、読んだ者は、その大体が精神を破壊されてしまうという。だけど、私はなんともなかった……選ばれし者だから!?
「そういえば、沙希ちゃんは田舎に住んでいるお爺ちゃんのところへ行く予定なんだっけ?」
「うん、そうだよ。メールにも記載しておいたけど、使い魔となる動物でも探そうかなぁと思ってね」
「なるほど! てかさ、この本って洋書なの? 一通り読んでみたけど、全部、日本語だよ?」
「え、読めるの!? じゃあ、茜ちゃんも……」
『ヒュー……まさか、その本に選ばれし者が、こうも簡単にもうひとり出現するなんて予想外だよ』
「な、なに、今の声は!?」
ちょ、茜も死霊秘法に選ばれたわけ!? ん~謎の声の主もびっくりしているわ!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
私のお爺ちゃん――父方の祖父、山崎源三郎が住んでいる世羅江野村がある地域は、○○県の辺境にある緑豊かな里山の村である。そんなわけで、都会の煩わしさを一時的に忘れることができる場所であることは言うまでもないかな?
「しかし、姉ちゃんも一緒に来るとはね」
「フフフ、この日のための公休を取ったのよ。お盆ってことで、ご先祖様のお墓参りもしなきゃいけないし、おまけにお爺ちゃんの顔を今のうちに拝んでおかないとね♪」
「ちょ、それってもうすぐ死ぬみたいな不吉な物言いじゃん!」
「冗談よ、冗談♪ つーか、悠太まで来るとは意外だわ」
「うっせえな! 俺が一緒が悪いっつうのかよ!」
さてさて、世羅江野村には姉の早苗の愛車に乗って向かっているわけだ。つーか、悠太も来るとは意外だったわ。田舎なんて大嫌いだ! 今年は絶対に行かないぞ! なんて騒いでいたクセに……。
「あれ、なんか人混みができてる。こんな山の中に村でなにがあったんだろう?」
「テレビ局の人っぽう連中もいるな。ほら、○○テレビって腕章をつけているしね」
舗装された道路から砂利道へと変わる。そろそろお爺ちゃんが住んでいる世羅江野村へ到着かな――と思った時だった。私達は集団と遭遇する。どうやら地元の○○テレビの報道番組のスタッフのようだ。
「あのぉ~なにかあったんですか?」
なんだかんだと気になったので、私は訊いてみるのだった。
「ああ、この近くで日本狼らしき動物が目撃されたんですよ。そんなわけでウチの局が急遽、報道番組を製作して――」
「へえ、日本狼ねぇ……ちょ、マジっすか!!」
日本狼が目撃されたって!! ちょ、ビックニュースじゃん! そんな日本狼は明治時代に絶滅したはずの動物なわけだし……ちょ、本当なのかしら?
「一種のUMAってヤツだな」
「まあ、そうなるよね。日本狼はすでに絶滅した動物なわけだし……」
「でもさ、なんだかんだと夢があっていいよね!」
日本狼はネス湖のネッシー、ヒマラヤ山脈のイェティなどなど、UMA――未確認生物の仲間と言っても間違いないと思う。
「日本狼かぁ……ああ、思い出したわ。一週間くらい前だったかしら? 金色の狼に襲われた――なんて被害届が来たわ。確か、そんな被害者はここらへんで襲われたとかどうとか言っていたわ」
「き、金色の狼!?」
私の姉、早苗は警察官である。さて、そんな姉の早苗が務める警察署に奇妙な被害届があったようだ。金色の狼の襲われたとか、マジで胡散臭いなぁ……。
「さてと、そろそろ行くわよ!」
「うん、そうだねぇ……あ、今度はヒッチハイカー?」
「金髪碧眼の外国人だ!」
日本狼が目撃されたらしい現場を離れようとした時、突然とばかりにヒッチハイカーが現れる。黒猫を抱いた白いワンピースと鍔の広い麦藁帽子という格好の金髪碧眼の外国人の少女だ。年は、私や茜と同世代かな?
「ああ、良かった! まったく日本人はケチくさいわね! さてさて、この先にある世羅江野村へ行きたいんだけどさ。もし良かったら乗せてくれる?」
「う、うん、良いけど、あんな田舎になんの用事があるのさ?」
むぅ、流暢な日本語だわ。それはともかく、外国人少女も私達と同じく場所――世羅江野村へ行きたいようだ。ま、とりあえず、乗車OKかなぁ。
「ありがとう! ああ、コイツも一緒なんだけどOK?」
「黒猫!?」
「私の愛猫のキョウタロウよ。んじゃ、乗せてもらうわね。ああ、私はサマエル、よろしくね♪」
ペットの黒猫も一緒のようだ。ん~なんで日本人みたいな名前なんだろう? ともかく、外国人少女はサマエルと名乗り、早苗姉さんの愛車の後部座席に乗り込んでくるのだった。