第三話 謎の少女アーたん その4
七年だったか八年前の話だ。私が通う○○県立光桜学園の先輩が、そりゃもうトンでもない事件を起こしちゃったのよね。
え、どんな事件かって? 後日、黒魔術殺人事件と呼ばれることとなる殺人事件のことよ。日本の犯罪史上、稀に見る凄惨な殺人事件だったって言ってる人もいるようだ。
ああ、そんな黒魔術殺人事件だけど、あの名井有人曰く、悪魔崇拝者な輩が行うという神を冒涜することを旨とした儀式である黒ミサを学園内でやっちゃった、みたいな―-。
さて、ここから問題なのよね。名井有人の話では、件の黒ミサを行っていた先輩達は本物の生贄を悪魔に対し、捧げていたらしい。
始めのうちは中身が中空状態の頭が牛で胴体が人間という牛頭人身の異形の像の中に、折り紙や粘土でつくった人形放り込んで燃やす程度であったけど、それが段々と猟奇的な方向へとエスカレートし、前述したとおり、本物の生贄を捧げるにいたったとか―-。
んで、遂に惨劇という名の忌まわしき宴に発展してしまう。それが件の黒魔術殺人事件らしいわ。ああ、ちなみにだけど、犠牲者はひとり、行方不明者は三人、そして唯一の生き残りが、危なく生贄として殺されそうになったところを乗り込んできた警察官によって救われた私の姉、山崎早苗である。
ああ、そういえば、首謀者である清水祥子も行方不明なのよね。つーか、彼女の秘宝なるモノが光桜学園のどこかに隠されているってウワサ話があったと思う。一体どんなモノなのかしらね?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
私はヘルメスと狼姫を連れて、自宅の二階にある私室へと移動する。ちなみにだけど、そんな私に私室の中には、一年のほとんどを外国で過ごしているお父さんが送ってきた奇妙なモノが、あちらこちらに飾ってある。例えば、中に猫ミイラが入っているらしい(?)バステト神像とか、中身は空っぽのリュシムナートという被葬者の名前と思われるヒエログリフで刻まれている色彩豊かな木棺とか、古代エジプト絡みのモノが大半を占めている。それに私が作成したバルザイの偃月刀などなど、死霊秘宝に載っていた魔術道具が加わったので、さらに奇妙で歪な場所と化してしまっているのよねぇ――。
変な趣味かもしれないけど、リュシムナートの木棺に私は話しかけることがある。ある意味、エア友達みたいな感じだしね。つーか、たまに誰かに見つめられている錯覚を覚えるんだけど気のせい? ま、それはともかく――。
「『清水祥子は銀の鍵とかいう不思議な道具を使って夢幻郷に逃げたって話もあるんだな、これが(^^;』……ほぇ~妙な話ねぇ」
名井有人曰く、黒魔術殺人事件の首謀者である清水祥子とやらは、銀の鍵を使って夢の世界へ逃げたらしい。ハハ、まるでクトゥルフ神話に出てくるランドルフ・カーターってキャラクターみたいじゃん。まあ、私は信じるかなぁ。
「理性の下に隠された野生が表に出ちゃうと人間は悪魔のような行為におよんじゃうんだねぇ」
「むぅ、否定できないかも……」
とまあ、そんなヘルメスの皮肉っぽい物言いを否定できないかなぁ? 私個人の考えでは、人間は理性によって自分自身を制御しているんだと思う。だが、ある条件化において、そんな理性のタガが外れ、深層心理に眠る獣性が目覚めちゃうのよね。猟奇殺人をやってのける狂気的な輩は、大体そんな感じなんだろうか?
「ん、そういえば、あの木箱の中身が気になるんだけど?」
さて、ブーンと背中の昆虫の翅を羽ばたかせながら、ヘルメスはベッドの横にあるフタの開いた木箱のところへ移動する。
「あ、ああ、お父さんがいつだったかもらってきたモノよ。なんでも、〝亡くなった友人〟の遺品なんだってさ。ちなみにだけど、この死霊秘宝も、あの木箱の中に入っていたわ」
「ふ~ん、なるほどね。どうりで気になったわけだ。中にあるモノは、どれも見たことがあるモノがたくさん見受けられることだし――」
「え、どういうこと!?」
「あの木箱の中身は、先代の死霊秘宝の持ち主―-天宮弓子の遺品だからさ」
「じゃ、じゃあ、お父さんの知り合いっていうのは、その天宮弓子?」
「ご名答! しかし、何故、幸いだった。弓子を殺した連中に奪われることがなくて――」
「こ、殺された!?」
むぅ、先代の死霊秘宝の持ち主である天宮弓子は、ヘルメスの話を聞いているかぎりでは、何者かに殺害されてしまった様子がうかがえるわね。
「ああっ……〝ない〟ぞ! 弓子の遺品がいくつかない!」
「え、ないものがあるって?」
「うん、炉の御霊と豊穣の果実というモノだよ! 炉の御霊はハート型のランプだ。そして豊穣の果実とは石榴のかたちをした緑色の宝石だ」
「うーん、そんなモノは入ってなかったけど……」
「どこで紛失したんだ? むぅ……」
炉の御霊という名のハート型のランプと豊穣の果実という名の石榴のかたちをした緑色の宝石なんてモノは、あの木箱の中に入っていなかったと思うんだけどなぁ。そういえば、早苗姉ちゃんも一緒にフタを開けていたし、もしかして持ち出したんじゃ!?
「ふむ、どうやら、この家の中にはないようだ。仮にあれば、気配を感じることができるしね」
「え、この家の中にはない?」
「そういうことさ。ああ、弓子の遺品には、彼女の趣味に関係し、僕と同じ君達が古代ギリシャの神々の分霊が宿っているんだ」
「そ、そうなんだ! じゃあ、あの木箱の中にあるモノには、すべて――」
「いや、すべてがってわけじゃないよ。とりあえず、この太陽を模ったアクササリーのついた首飾り(ネックレス)には……ん、すでに宿っていた分霊が外に出てしまったようだ」
ふむ、木箱の中に入っている天宮弓子の遺品のすべてにヘルメスのお仲間である古代ギリシャの神々の分霊が宿っているわけではないようだ。さてと、太陽を模ったアクセサリーのついた首飾りに宿っていた分霊ってもしかして!?
『わあああ、なんだ、おまえはっ!』
『小僧、お前とは無礼な物言いだな! この私を誰だと思ってい……ぶべらっ!』
ん、今、悠太の声が聞こえた気がする。お友達でも来ているのかな? てか、その前に聞き覚えのない声だなぁ。
「アハハ、弟君にも僕のような従者ができたようだね。魔法少年に選ばれたのかもね♪」
「魔法少年ねぇ……ギャハハッ!」
悠太が魔法少年か……ふ、吹いたじゃない! でも、まあ、流石は私の弟だわ。
「あ、メールだ。茜からね。何々……『天城さんがオカルト研究部の部員全員集合だってさ。もちろん、光桜学園の部室にね。それじゃ後で一緒に行こう~☆』」
ああ、天城さんとは、私が所属する部活の部長さんだ。うーん、なにかイベントでも行おうっていうのかな? とりあえず、行ってみるか。
「もちろん、僕も行っていいよね?」
「わらわも行くぞ。文句はないだろう?」
「う、うん、まあいいけど、大人しくしていてよ!」
ちょ、お前らも来るわけ!? まあ、大人しくしていればいいんだけどなぁ。さて、支度でもするかな――バルザイの偃月刀と死霊秘宝だけは持って行こう!
「僕も行く! 君に拒否権はないぞ!」
「わ、アーたん! いいい、いつの間にっ!」
気づけば、私室のベッドにアンパンを口にくわえたアーたんが横たわっている。ちょ、一緒に来るって……ううむ、連れて行っても大丈夫かなぁ? 嫌な予感がするんだけどっ!




