第三話 謎の少女アーたん
登場人物その3
・アーたん。死霊秘法に挟まっていた黒い硝子状の破片から生まれた謎の少女。
「わぁ、いるいる――同じ穴のムジナであるオカルトマニア達が!」
「みんな物好きだなぁ……」
「ん、もしかして心霊写真を写す気っすか?」
「心霊写真? なんだ、それは? 食べ物なのか?」
現時刻は午前三時半。なんだかんだと余計な時間を食ってしまったわ。それに東の空が明るくなってきているし――。
「後三十分しかないわね。写せるかしら?」
さて、私達が訪れた浪岡自然公園内にある姫神塚古墳周辺には、八月の半ばのみという期間限定な幽霊が出没するわけだ。んで、そいつを撮影しようと目論む物好きな連中が多いのよねぇ。
「あ、沙希ちゃーん」
ん、茜だ。フフフ、流石は同じ穴のムジナであり親友だわ。同じ目的で、ここへやって来ているみたいだし♪
「ん、ところで沙希ちゃん。一緒にいるツンツン頭の男子は誰?」
「俺はこの御方で弟子の安田靖彦っす! ヤスって呼んでほしいっす!」
「え、弟子!? うう~ん、まあよろしくね、ヤス」
「はいっす!」
「てか、嫌いなタイプの男子だわ。不良っぽいし……」
「わあああ、初対面でそれはないっす!」
別に嫌いとか、そういうわけでないけど、ヤスはうざい系かな? 声がでかいし、馴れ馴れしいし……。
「ああ、タツとゆかりんも来ているわよ」
「え、タツも? お、ウワサをすれば――」
タツとは、私が通う学校――○○県立の私立校であり、中高一貫性を敷く光桜学園の同級生である。んで、同じオカルト研究部の仲間でもある。さて、ウワサをすれば影とばかりに赤と黒で基調したゴスロリな衣装を身に着けたツインテールの女のコが駆け寄ってくる。
「うへぇ、また女装? でも、似合いすぎて本物の女のコを見間違えるわ!」
「フフフ、もっとホメてくれてもいいんだぜぇ、クククク」
ああ、ひとつ言っておく。赤と黒で基調されたゴスロリな衣装を身に着けたツインテールの女のコだけど、実際は女装男子である。んで、名前は太田辰巳。通称、タツである。
「師匠、コイツは女装男子……男の娘なんすか!? 嘘っすよね?」
「いや、本当だから……」
「ええ、マジっすか!? 信じられねぇっす!」
太田辰巳ことタツの容姿は、一見すると本物の女のコと見間違えるほど容姿端麗なのよねぇ。完全に女のコになりきっているって感じ……。むう、私は容姿にちょっとは自信があるつもりなんだけど、タツの奴に負けている気がするのよねぇ。なんだかすごく悔しい気分なんですけど!
『むうう、さっきから狐の気配をずっと感じているでヤンス!』
『タヌキチよ、よ~く目を凝らすのじゃ! 赤いスカーフを首に巻いた黒い狐が、あの女装男子の足許にいるではないか!』
『はぁ、なにを言っているでヤンスか? そんな狐なんてどこに!』
『う、いなくなっている!? わしの目はおかしくなったのか?』
(赤いスカーフを首に巻いた黒い狐? それはともかく、一瞬だけど、タツの背後に月桂冠をかぶった白いワンピース姿の女のコの姿が見えたんだけど……)
そういえば、星のアルカナカードと一体化している茜の使い魔こと仙狸のタヌキチのことを忘れていたわ。あ、ついでに父親のタヌゾウのことも――それはともかく、タツの背後にいた女のコは何者? 私は幻を見たんだろうか?
「ん、、沙希ちゃん、どうしたの?」
「いや、タツの背後に誰かいたような気がして……」
「気のせいじゃないかな? タヌキチが妙なこと言ってるけど、私にはなにも見えないし……」
うーん、首に赤いスカーフを巻いた黒い狐も、月桂冠をかぶった白いワンピースの女のコも幻覚だったのかなぁ? 茜にはなにも見えていなかったようだし……。
「さて、早いとこ〝鳴神姫〟を撮影しようぜ!」
「う、うん、そうだね! 時間切れ(タイムリミット)の午前四時になっちゃうね!」
さて、グダグダやっている暇はないわね。時間切れとなる午前四時になってしまうわね。
「鳴神姫って、件の幽霊の名前だっけ?」
「うん、そう言われているけど、他にも有力説があるから、その正体が定まっていない謎の幽霊なのよねぇ……」
その鳴神姫とは、件の幽霊の名前である。んで、姫神塚古墳の被葬者の幽霊という説が有力説として出回っているけど、その一方で戦国時代において私達が住む○○県S市周辺を支配していた戦国大名の姫君の幽霊では? なんて説も聞いたことがあるわ。そういえば、後者の場合、悲劇的伝説があった気がするしね。詳しく覚えてはいないけど、ロミオとジュリエット的な話だったはずだ。
そういえば、姫神塚古墳は五世紀後半から六世紀半ばにかけてつくられたものだって話を聞いたことがある。とはいえ、三十年以上前に一度だけ調査が行われただけである。おまけに江戸時代以前に盗掘被害に遭っているらしく被葬者が何者かを示すような副葬品は見つからなかったようだ。ちなみに無事だった副葬品は、翡翠の勾玉が数点、割れた銅鏡、刀身が錆びて朽ちてしまった剣の柄だった覚えがある。
「そういえば、鳴神姫を撮影できたら、金運上昇、就職内定率上昇、そして結婚率上昇ってジンクスがあるらしいぜ」
「うん、聞いたことがある。でも、実際にそんなイイことがあった人なんているのかなぁ?」
タツがそんな話をするけど、実際のところはどうなんだろう? 金運上昇とか就職内定率上昇、それに結婚率上昇なんてご利益があった人がいるのかどうか怪しいレベルだと思う。むしろ災難に遭遇する率の方は上昇するんじゃないかと……。
「そういや、ここで心霊写真を撮影したAという不良が翌日、ヤクザの自動車と追突事故を起こし、Aは間違いなく被害者側なのに何故か加害者側に回されて、挙句の果てには数百万円も金をブン取られたみたいな話を知り合いから聞いたことがあるっす!」
「アハハ、それは運がものすごく悪いだけの偶然の産物じゃないかなぁ……」
「そうっすかね? 俺にはむしろ撮影したら呪われる気がするんすけど……」
「それはともかく、あそこで騒いでいる連中がいるぞ、姉ちゃん」
「鳴神大権現の祠のところだね。うん、行ってみよう!」
お、なにか騒ぎが起こっているようね。とりあえず、野次馬の中に混じってみるとしよう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
鳴神大権現とは、浪岡自然公園内にある姫神塚古墳の側にある祠に祭られた神様の名前である。さてと、そんな鳴神大権現の祠の前で騒いでいる連中がいるわけだ。まったく、朝っぱらからなにを――神様もうぜぇーって文句を言ってそうだわ。
「ひゃっはぁぁぁ♪ 鳴神姫を撮影できたぜぇぇぇ!」
と、赤いデジカメを首から提げたボサボサ頭の太った男が歓喜の声を張りあげている。ほう、鳴神姫を撮影できたのか、ラッキーね。なるほど、騒ぎの元凶はアイツっぽいわね。
「ち、ちくしょー! ラッキーだなぁお前!」
「へへへっ♪ これで俺にも彼女ができるー!」
「おいおい、そう上手くいくのか?」
「うっせぇ! 鳴神姫を撮影できりゃ、そんなご利益があっても当然だろうがァァ~~!」
ああ、騒いる連中は、あの太った男のお仲間にようだ。なるほど、仲間内で鳴神姫を撮影しようと目論んでいたわけね。しかし、運のイイ男だわ。
「とはいえ、彼女ができるかは判らないよね。なんかこうモテる要素が……」
「沙希ちゃん、あの男、気持ち悪い……あっ!」
あらら、思わず口にしてしまった。だけど、事実だから仕方がないわ。かっこ悪いし、おまけにちょっと汗臭いし……。
「な、なんだ、お前はっ……が、がはっ!」
「え、なにが起きたの!?」
太った男が食ってかかる。まあ、当然かなぁ――が、その直後、突然、苦しみ始める。なにが起きたわけ!?




