第十二話 魔法少女と強欲魔王 その5
「わらわに二度も同じ攻撃を受けるほどのマヌケではない!」
「ならば、コイツも同時の食らえィィ!!」
「は、今度は躱してやる! いや、食べればいい……む、甘みがないぞ!」
狼姫はヒラリと紙一重のところでショートケーキ兵が振りまわすイチゴ型鉄球の一撃を回避する――で、同時に放ってきた無数の生クリームの弾丸を口の中で受け止める。食べちゃったわけだが、どうやら甘みがないようね。
「わらわは甘いお菓子が大好きだ――だが、甘くないお菓子は大嫌いだ! イライラしてきた……ワオオオオオンッ!」
狼姫がキレたっぽいわ。つーか、甘くないモノを食べさせたって、くだらない理由ね。それはともかく、狼姫がけたたましい咆哮を張りあげる。
「な、なにィィ! 俺の身体を覆う生クリームがァァ~~!」
「ん、コイツ……ケーキのかたちをした着ぐるみの上に生クリームを塗ったくって本物に見せかけていたのね!」
「し、しまったァァ~~!」
「さあさあ、真の姿を見せてもらうわよ! うらあああっ!」
狼姫の咆哮は衝撃波である。そんな衝撃波な咆哮のよってショートケーキ兵の身を覆う生クリームが、ドババッと四方八方に飛び散り、その下に隠された真の姿である無地のケーキ型の着ぐるみが露わとなる! とまあ、そんなショートケーキ兵――いや、命を持つお菓子で編成された黄金騎士団の中核を成し、延々と雑兵共を送り込ませるリーダー的存在である着ぐるみ野郎を私は右手の熊爪で引き裂く……さあ、見せてみろ、真の姿を!
「グ、グギャバアアアッ!」
「引き裂かれたケーキ型の着ぐるみの中から人間型の異形の生物が飛び出してきた!」
「大きな頭に牛のような尻尾、そして青肌という薄気味の悪い輩だね。あ、武器かは判らんけど、でっかいスプーンを持っている」
私の右手の爪によって引き裂かれた無地のケーキ型の着ぐるみの中から、そんな薄気味の悪い異形の人間型生物が飛び出してくる。
「うおおお、俺の鎧がァァ~~! ゆ、許さんンン~~!」
「お、まだやる気か? 狼姫、タッグでコイツをボコるわよ!」
「よし、やってしまおう!」
「ぬぅぅっ! 返り討ちにしてやる! このウコバクの必殺の一撃……首狩りスプーンで斬首してやる! おらあああ、死ねやァァ、クマ公、そしてワン公……グボベラァァ!」」
ショートケーキの着ぐるみの中の潜んでいたモノはウコバクと名乗り、携えている巨大なスプーンを頭上でブン回す――が、その刹那、私の姿に戻った私と、人間の姿に変身した狼姫が同時に繰り出したドロップキックがクリーンヒット! ウコバクは仰向けに吹っ飛びゴトンと後頭部を強打し、昏倒する。
「お、おい、リーダーが敗北したぞ!」
「どうする、どうする、どっおっする、君ならどうするぅ?」
「おい、ふざけてないでどうにかしろ!」
「お、俺的には一旦、退却した方がいいと思うんだが……」
「そ、それもそうだな! お前、頭いいな!」
「てか、もう逃げてる奴らもいるぞ! 俺らも続くぞ!」
リーダー的存在のウコバクが昏倒してしまったことをきっかけにお菓子兵達は、ドッと散り散りに退却する。
「待てっ! わらわはまだ食い足りん!」
「まあ、落ち着きなさい」
「てか、ウコバクって名乗った悪魔クンをどうするか考えましょう」
「それもそうねぇ……」
さて、逃げ出したお菓子兵のことはともかく、気絶しているウコバクの奴をどうするか考えなきゃいけないわね。
「そいつを僕の家に運ぼう。そこで尋問をやっちゃいなよ」
「そうさせてもらうわ」
「てか、沙希、動かなくなった他のお菓子兵をどうする?」
「うーん、そうね。丁度いいコを呼んでみるか――」
尋問するかはともかく、気絶しているウコバクを一旦、助兵衛一家の自宅に運んでおくとしよう。それと並行して助兵衛達、砂夜鬼が住む黄金の集落のあっちこっちで再起不能と化し、ピクリとも動かなくなったお菓子兵共をどうするかね。狼姫や砂夜鬼達が食べてしまったモノを抜かすと、大部分が無傷のままの状態だしね――とまあ、コイツら再び動き出した時のことを考えなくちゃいけない気がするのよね。ま、とりあえず、腹ペコな〝あのコ〟を召喚してみようかしらね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「んじゃ、早速、呼んでみるわ」
「沙希、誰を呼ぶのよ?」
「ん、アーたんを呼ぶ。きっと、腹ペコだと思うから、すぐに来ると思う」
「スマホ? わ、なにか来た!」
私はアーたんを呼び出す。あのコはホント不思議だわ。〝どこ〟にいても、私が呼び出すと、ほぼ確実にやって来る。ここが現界ではないけど、例外なくね。
「ん、呼んだ? あ、美味しそうな食べ物のニオイがする!」
バリバリバリッ――と、私の頭上の空間に風穴が開き、そこからひょこっとアーたんが顔を出す。まったく、何者なのかしらね。とりあえず、人間の姿をした〝別の生き物〟ってことだけは判っているけど、その他は不明すぎるわ。
「ねえ、これ全部、食べていい?」
「うん、どうぞ、どうぞ」
「わーい♪ それじゃ遠慮なく……いっただきぁぁす!」
クワッと三日月のような笑みを浮かべるアーたんは、手始めに私の側で倒れている動かなくなったお菓子兵に襲いかかる。
「す、すごい食べっぷりだなぁ!」
「あの食べ方を見ていると、私のSAN値がガリガリ下がってしまう!」
「ねえ、ツァトゥグアを呼んでもいい? ひとりじゃ食べきれないしねぇ~☆」
「OK、好きにしちゃっていいわ」
と、砂夜鬼達が、アーたんの食べっぷりに恐れおののいている。まあ、確かに、すごい食べっぷりではあるが――え、ツァトゥグアを呼ぶ? そいつは確か邪神だったような……。
「んじゃ、コイツを僕の家に運び入れるよ」
「うん、とりあえず、手足を縛っておくか――」
今はアーたんのことは放っておいてもいいだろう。んじゃ、ウコバクを助兵衛の自宅の中に運び込んで尋問と洒落込みましょうかねぇ。




