第十二話 魔法少女と強欲魔王 その4
「ミノタウロス……私をクマ公って呼んだことを後悔させてやるわ!」
「フン、かかって来い、クマ公! 貴様の攻撃など軽く受け止めてやんよ……ぐぼべらっ!」
おっと、大人げなかったかな? もう冷めたけど、私は一瞬だけキレた――と、そんなわけでドンッと猛襲し、ミノタウロスの顔面目がけて怒りの熊マグナムを打ち放つ。
「わ、ミノタウロスの顔が砕けた! コイツも生きたお菓子なのか? まあいい……もう一丁!」
わお、ミノタウロスの顔面が砕け、ぽっかりと風穴が開く。むう、コイツもお菓子だったのかな? ま、それはともかく、私はミノタウロスを追撃する。熊マグナム、そして熊ファントムを交互に繰り出し、奴の身体に風穴をつくり出す!
「沙希、あの牛男はカリントウだぞ。美味ぇぇ~!」
「ウガアアア、この狼! 俺の角を返せェェ~~!」
ミノタウロスの正体は、命を持ったカリントウらしいわね。狼姫が角を噛み砕いてバリバリ食べ始めたわ。
「お、覚えていろォォ~~!」
「ミノタウロスが逃げ出した! 追うぞ、沙希!」
「いいわ、放っておいて――それより、他の黄金騎士団のお菓子兵共を叩き潰すわよ!」
カリントウのミノタウロスが逃げ出す。ま、放っておいてもいいかな。さてと、コイツより、他の黄金騎士団のお菓子兵を叩き潰す必要があるわね。
「うげぇ~、もう食べられない……ギ、ギブアップ!」
「清水さん、こっそり食べてたのね……」
「わらわはまだ食えるぞ!」
「うーん、まだ食えるっつーか、黄金騎士団のお菓子兵達がゾロゾロやって来るぞ。これじゃキリがない!」
確かに、これじゃキリがないわね。黄金騎士団のお菓子兵の増援が倒して倒してもキリがないくらい教霊山からやって来るわ。
「沙希、雑兵のリーダーがいるんじゃないかな?」
「雑兵のリーダー?」
「うん、あくまで私の予想だけど、そいつを叩けば、増援が来なくなると思う!」
「うん、それじゃ探してみよう!」
と、天城先輩が言う――うん、ありえる話だわ。んじゃ、探してみようかしらリーダーを……なにか特徴はないかしら?
「うーん、司令塔っぽいお菓子兵が、どいつなのか特徴があればいいんだけど、イマイチ、そんな特徴がないわね」
「空から押し寄せてくる連中の様子をうかがってみたけど、どいつが司令塔なのかさっぱりだわ」
例えば、リーダー的存在の証であるハチマチやバンダナ等の目印を身に着けたお菓子兵がいるとか――むう、いないわね。清水さんが空中から連中の様子をうかがったようだけど、リーダーっぽいお菓子兵の姿は見当たらずってところだ。
「コイツを食らえ!」
「クマ公をぶちのめせェェ~~!」
「鬱陶しいわね。ゾロゾロと現れやがって――っ!」
まったく、数で攻めてくる輩は、ホントに鬱陶しいわ! さっさとリーダーをボコって増援をこれ以上、増やさないようにしなくちゃ!
「ん、このニオイは!?」
「狼姫、どうしたの?」
「甘いお菓子のニオイに混じるかたちで汗の酸っぱいニオイを感じるんだ!」
「汗の酸っぱいニオイが感じるですって!? むぅ、まさか……」
お菓子兵達が放つ砂糖の甘い香気の中に、酸っぱい汗のニオイが混じっている――と、狼姫が鼻をひくひくさせながら言う。流石はワンコ……いやいや、狼だわ! ん、まさか、酸っぱい汗のニオイを放っているモノがリーダーなのかも!?
「狼姫が酸っぱい汗のニオイがするって言ってるけど、そこらへんから考えて連中のリーダーは着ぐるみを着ているのかもしれない」
「着ぐるみかぁ、あれを着ると汗だくになるって聞いたことがあるわ。でも、どいつ着ぐるみなのかしら……って、わああ! この野郎!」
リーダーはお菓子兵の着ぐるみを着ているのかもしれない。でも、どいつなんだろう? 見分けがつかないわね。判別する方法があればいいのだけど――。
「こうなったら狼姫の〝鼻〟に頼るしかないか――」
「なにィ、わらわの鼻に頼るだって? まあいいだろう……クンクン、どいつだ、どいつだ……お、発見! あのでっかいショートケーキが怪しいぞ!」
続々とやって来るお菓子兵の増援の中には、ショートケーキ、モンブラン、チーズケーキといった洋菓子に手足が生えた滑稽なモノの姿も、多々、見受けられるわ。ちなみに、コイツらは特にでかい! 他のお菓子兵が精々、私達人間と同じくらいだけど、ケーキの兵隊はホッキョクグマに変身した私と同じ三メートル近い大きさだ。
「これ美味しいね。酒泉郷へ持って帰ろうかな~☆」
「ちょ、こんな時になにやってんの!」
「あ、沙希も食べる?」
「当たり前よ! うえ、乗せられたぁー!」
あ、デュオニソスの姿がチーズケーキの兵士を食べちゃってる! はう、そんなデュオニュソスのノリに私は合わせてしまった私は、グシャッと手足の生えたモンブランを熊パンチで抉ってムシャムシャ食べ始めてしまう、ふう……あ、でも、美味しい☆
「ま、とにかくだ。わらわの鼻に狂いがないか確かめてみる! ウガアアアッ!」
狼姫の鼻が黄金騎士団の雑兵であるお菓子兵を続々と召喚しているリーダーを発見したようだわ。間違いがなければ、そいつがショートケーキの着ぐるみを装着し、自身の存在をカモフラージュしているはずだわ!
「う、うおおお、なんだ、貴様は――っ!」
「お前がコイツらのリーダーかどうか確かめさせてもらうぞ!」
「こ、小癪なワン公だ! さあ、来いやァァァ!」
「わらわをワン公呼ばわりした罪は重いぞ! ガウウウーッ!」
狼姫と手足の生えたショートケーキの戦いが始まる。見てて滑稽だな――と、それはともかく、先手を打ったが手足の生えたショートケーキことショートケーキ兵だ。鎖で自身の身体とつながったイチゴ型の鉄球を狼姫目がけてブン回す。
「うらあああ、イチゴ型鉄球をぶっ潰れろやァァ~~!」
「うお、コイツーっ!」
「躱したか! 生クリームの目つぶしだ!」
「うぎゅ! め、眼に生クリームが……ギャ、ギャイイン!」
狼姫は紙一重でイチゴ型鉄球を回避する――が、その刹那、ドババッとショートケーキ兵の身体から生クリームの弾丸が四方八方に拡散するかたちで発射され、それの一発が狼姫の顔面を直撃する――ムムム、その隙を突くかたちで再びブン回したイチゴ型鉄球が狼姫を薙ぎ払う!
「こ、このケーキ野郎! だが、これで確信できたぞ! コイツを食らえ!」
ブルブルと身を振るわせながら、身体中にこびりついた生クリームを払い除ける狼姫は、ガッと大口を開けた状態で身構える。
「狼姫は、なにをする気なのかしら、沙希」
「なるほど、私になんとなく、アイツの魂胆が判ったわ」
「え、判った? 興味深いわね、教えてよ!」
「うん、ありていに言うと、“咆哮”で、あのショートケーキ兵の全身スーツをぶっ飛ばそうとしているんだと思う」
狼姫の魂胆は判った。多分、私の予想通りかな? アイツの咆哮は、一種の衝撃波だしね。
「もう一度、必殺のイチゴ型鉄球を食らえィィ!」
そうこうしているうちにショートケーキ兵が、再びイチゴ型鉄球を振り回し始める。




