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第十一話 悪魔と天使と新人魔法少女 その19

 説明していなかったけど、ツチグモこと土屋出雲が落っこちたクーティ姫の食事が三料理人によって用意されていた部屋は、食糧保管城の三階にある部屋だ。そんなツチグモだけど、落っこちた先が畑だったので、なんとか無傷で済んだようだ――が、正確なところアイツの異常なまでの頑丈な身体のおかげだったってところかな? ついでに、魔法少女になったことで頑丈な身体が、さらに頑丈になったのかもしれない。



「う、うわああああっ! こっちに来るなっ……来るなァァ~~!」



 それはともかく、この世の終わりを見てしまい正気を失い発狂寸前といった感じの絶叫を張りあげるツチグモの目の前には、一体の腐臭を撒き散らす全身が腐敗した禍々しい人間型の化け物が――ゾンビが、ズルリズルリと右足を引きずりながら、幽鬼のように迫ってきている!



「危ねぇ! これでも食らえ、ゾンビ野郎!」



 ゾンビの禍々しい腐敗した右手の五指が獲物を求めてツチグモに襲いかかる! ――が、上手い具合に駆けつけたミスティアの光輝く左ストレートが、バゴォとツチグモに襲いかかるゾンビの頭を粉々に吹っ飛ばす!



「ふ、ふう、助かったぜ!」



「おいおい、まだまだいるぜ、ゾンビ共は! お前も戦え――死にたくなかったらな!」



「た、戦えだって!?」



「アイツらは頭が弱点だ。ほら、頭に咲いている黒い斑点のあるチューリップに似た白い〝あの花〟が弱点らしいぜ」



「あの花に名前はプルートニア――死体を苗床にする禍々しい花よ。んで、あの花が咲いた死体は一時的に蘇る!」


 タツと相棒のエリザベート、それに使い魔のクロベエも現れ、ゾンビ共を蹴散らす。さて、食糧保管城の外で蠢くゾンビ共の頭の天辺にも、あの花が――プルートニアが咲いている! ミカエル先生達が遭遇した花屍鬼(フラワーゾンビ)と同種の不死者のようね。



「ふむ、頭の天辺に咲いている花を刈っちまえばいいんだな?」



 ミスティアは右手の人差し指が青白く光り輝く。で、そんな青白く光り輝く右手の人差し指をクルクルと頭上で回転させる――ん、青白い光の戦輪(チャクラム)ができあがったわ。



「新人君、これが魔術の系統の一つである光術だ! おりゃー!」



 そういえば、新人研修も兼ねていたわね。そんなわけでミスティアは、見本とばかりに青白い光の戦輪をつくったわけね。んで、青白い光の戦輪をゾンビの一体に対し、投げ放つ――狙うは頭の天辺に咲く黒い斑点のある花ことプルートニアだ!



「うおおお、ゾンビが動かなくなった! やっぱり、あの花が弱点なのか?」



「そうそう、あの花さえ刈っちまえばタダの屍に戻るんだ」



「なるほど、私の鋼鉄巨蟹腕で捻りつぶしてやんよ!」



「この獅子型万能装甲(レオ)は、どうやって使うのかしら? てか、灰色熊(グリズリー)に変身してボコった方が早くない?」



 美雪と灰色熊に変身した早苗姉ちゃんも駆けつける。だけど、闇夜に包まれる鬱蒼とした熱帯雨林からゾロゾロと出てくるゾンビ共――花屍鬼の数が圧倒的に多いわね。これは分が悪い気がする。



「暇だから協力してやんよ、オラァー!」



「ん、この声はクーティ姫!? わお、ゾンビが八体、頭上から一度に頭を串刺しにされた!」



「上だ、クーティ姫は頭上に――っ!」



「ひゃ、まぶしい! つーか、どう? わらわの必殺技――八足魔槍は!」



 クーティ姫も現れる。ミスティアが真っ暗闇の熱帯雨林を照らすために放った光球が彼女の姿を照らす――頭上だ! 魚の(ヒレ)のような一対の翼で空を飛んでいるわ! で、タコの八本足のタコの下半身から繰り出される一撃で花屍鬼を八体、同時に始末する。



「あ、足がたくさんあるって便利ね……」



「足だけじゃないぞ! わらわにはこういう攻撃もできる、ふんぬーっ!」



 他にも技が!? ズギュウウウン――と、地上に舞い降りたクーティ姫のイカの食腕のような形状をした両腕の二の腕からの下の部位が五倍ほど伸びる。



「うりゃあ、獄殺魔海鞭だー! オラオラオラーッ!」



「ちょ、危ないっ! みんな逃げろォォ~~!」



「痛ぇ! 俺まで巻き添えかよ、うぎゃー!」



 クーティ姫は通常の五倍の長さに拡張したイカの食腕のような両腕をメチャクチャに振り回す――ムムム、間一髪、早苗姉ちゃんやミスティアは回避したけど、ツチグモは巻き添えを食らってしまう。



「く、逃げたところでゾンビ共はゾロゾロと現れやがる!」



「爆弾くらい用意すればよかったわ!」



「とにかく、ここを切り抜けて城の中に逃げ込むわよ!」



 クーティ姫の近くにいては巻き添えを食らってしまう! 早苗姉ちゃん達は安全地帯である食糧保管城の中へ逃げ込もうと壁伝いに駆ける――が、すぐに花屍鬼の群れが追手とばかりに現れる。



「うは、元に戻ってしまった!」



 そんな折に早苗姉ちゃんは灰色熊の姿から人間の姿に戻ってしまう。パワーダウンは必至ね。



「沙希のお姉さん! 今こそアレを――獅子型万能装甲を起動させてください!」



「え、これを!? でも、どうやって……」



「うーん、とにかく、なんでもいいから頭の中でライオンの姿をイメージしてください!」



「う、うん、それじゃ……でっかいライオン……でっかいライオン!」



「おおお、でかいライオンだ! なんだよ、そんな切り札的なモノを持っていたのか!」



「し、知らないわ! あのライオンの人形が突然……」



「そんなことはどうでもいいわ! 早く背中に乗って、この場を離れましょう!」



 今こそ獅子型万能装甲の出番だ! そう美雪が言う。んで、なんでもいいから頭の中でライオンの姿をイメージしてみて――と、早苗姉ちゃんは巨大なライオンをイメージしたようだ。とまあ、そのイメージが反映されたのか、手の平に収まるほどの大きさのライオンの人形こと獅子型万能装甲が、カッと赤い光を放ちながら、そんな早苗姉ちゃんのイメージのとおりの巨大なライオンに変化する。ちなみに、その大きさは約十メートルだろうか? 百獣の王の風格を備えた雄々しき姿だ。



「沙希のお姉さん、今はアナタがそいつの主です。さ、命令を――っ!」



「うん、それじゃ……ライオンさん、この城の出入り口へと向かってくれる……かな?」



『心得タ! デハ、行キマス! ガオオオオン!』



 慌てながらも早苗姉ちゃん達は巨大なライオンの姿に変化した獅子型万能装甲の背中に騎乗する――ん、早苗姉ちゃんの命令に対し、機械音のような声で返事をしたわ。



「うおお、振り落とされる!」



「危ねぇ!」



「お、おお、悪いな、タツ!」



「気にするなよ……つーか、ゾンビ共を蹴散らしながら、沙希の姐さんの命令通り食糧保管城の出入り口へと向かっているようだな」



「お、着いたわ! みんな入って入って!」



「わお、BIGなライオンさんが元の人形に戻った!」



 巨大ライオンと化した獅子型万能装甲は花屍鬼共を蹴散らしながら、早苗姉ちゃんの命令通りに食糧保管城の出入り口へと到着する。それと同時に獅子型万能装甲は、再び赤い光を放ちながら、元の手の平サイズの小さなライオンの人形に戻るのだった。



「わあああ、ゾンビ共が追いかけて来た!」



「ヒュー、執拗な奴らだな!」



「そんなことはどうでもいいわ! さっさと扉を閉めるわよ!」



「「お、おう!」」



「わ、ゾンビの腕が一緒に入り込んじゃったわ!」



 花屍鬼共は執拗だな! ま、とにかく、押し寄せてくる連中の腐った手を払い除けながら、食糧保管城の中へと駆け込む早苗姉ちゃん達は、それと同時に出入り口の扉を閉める。ふう、これで花屍鬼の魔の手から――うあ、足許のビクンビクンと蠢く腐った人間の左腕から下の部位が! 一体の花屍鬼の左腕を扉を閉める際に巻き込んでしまったようだ!



「う、うわっ! どうするんだよ、おい!」



「燃やしちゃえばいいんだよ。コイツをぶっかければ燃ちゃうんだなぁ、大抵の不死者は――」



「そ、そうなんだ――って、誰だ、お前は……う、神父の格好をしたカンガルー!?」



 ビクンビクンと釣った直後の活きのいい魚のように蠢く花屍鬼の左腕の二の腕から下の部位に対し、ブワッとなにかしらの液体をぶっかける神父の格好をしたしゃべるカンガルーが一緒にいるんですけど!? な、何者なのかしら!

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