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第十一話 悪魔と天使と新人魔法少女 その16

登場人物紹介


・阿部力也――ヒーローを自称するパンダ少年。


・ヘパイストス――アライグマの姿をしたオリンポス十二神の一柱の分身。


・若本美雪――多重人格者な魔法少女。

「うおおお、地面のあっちこっちからも腕が飛び出してきたぞォォ~~!」



 ボゴォ! バゴォ! と、地面から生える地獄の亡者共の腕を見て悲鳴をあげる阿部クンのSAN値がヤバいわね。今にも正気を失って発狂しそうな勢いだわ!



「やれやれ、ちと分が悪いですね。地面に隠れ潜んでいる不死者共がすべて地上に出てきてしまったは面倒なので、ここから早々と離れましょう」



「ですネ! さっさと、ここから離れた方が無難かもしれません!」



「は、はい、そうしましょう! わあああ、ゾンビが地面から続々と――っ!」



「てか、地面から出てくると同時に、頭の天辺に花がっ……プルートニアが咲いたぞ、おい!」



 地面から生える数多の腕の正体―は花屍鬼(フラワーゾンビ)ではなく普通(ノーマル)の――とにかく、全身が腐敗していたり、身体の一部が白骨化した禍々しい姿のゾンビ共だ。へえ、普通のゾンビもいるのか……ムム、そう思った直後、連中の腐った頭の天辺にパアアッと可憐な黒い斑点のある白い花ことプルートニアが咲き乱れる! ちょ、なんだかんだと花屍鬼じゃん!



「ヒュー、麻呂は地獄の光景を見ているようでおじゃる」



「う、うん、確かに、地獄をみているわね……」



「お、おい、しゃべってないで早く逃げないと!」



「みんな! 廃墟の教会の裏にある森を抜けた先にお城っぽい建物があるよ! そこに一旦、逃げ込もう!」



「そうですネ。それじゃ、そこへ逃げ込みましょうカ!」



 ん、ヘパイストスが戻ってくる。ふむ、廃墟の教会の裏手にある森の奥にお城のような建物があるねぇ――と、その話を聞いたミカエル先生達は、ダッと地面から続々と這い出してくる禍々しい花屍鬼の群れから踵を返し、廃墟の教会の裏手の森の中へと駆け込むのだった。目指すは、その奥にあるお城のような建物だ!



                   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「うわあああん、ヘパイストスとはぐれちゃった! わああああん!」



「ふう、困ったぜ。美雪や雪美ならともかく、泣き虫の雪奈の人格が出てくるとはなぁ……」



「まあ、仕方がないじゃん。とりあえず、ここに隠れていようぜ、しばらくの間――」



「しかし、多重人格って困ったものね」



 ふう、多重人格者の美雪には困ったもんだわ。ここぞって時に行動派の人格である雪美が眠り、泣き虫でヘタレの人格である雪奈が表に出ちゃったわけだしねぇ。



「沙希はどこへ行ったんだ? 俺達以外は、どこへ行ったのやら……」



「他は沙希と一緒なのかしら?」



 と、それはともかくタツとツチグモ、早苗姉ちゃんとミスティア、それに美雪は、蒸し暑く、そして鬱蒼とした東南アジアの熱帯雨林が完全再現された異世界こと謎の悪魔の固有結界――名無しの悪魔の歪んだ庭園内にドンッとそびえ立つ廃墟のお城の中に身を潜めている。ああ、私はここにいないわよ。ま、どこにいるかは後程ってことで~☆ さて、ミカエル先生や阿部クン達から進む物語から、タツやツチグモの側に物語を移行(シフト)させるわね。



「この城の中は無人みたいだ」



「人の気配がまったく感じられないしね」



「だが、妙な視線は感じる!」



 タツの使いの魔の黒狐のクロベエ、早苗姉ちゃんの使い魔である男装女子な女性型夢魔(サキュバス)のレイン、それにツチグモの使い魔である古代ローマ帝国の皇帝のような名前の雄鶏のヴァレリアヌス、ミスティアの使い魔である女性型夢魔のファムが偵察から帰還する。ふむ、タツ達が身を潜めるお城は無人なのか――が、妙な視線を感じたヴァレリアヌスは、ぐるりと怪訝そうに周囲をうかがっているわね。



「一体、誰が、このお城を……」



「んなもん決まっているだろう? 自主制作アニメ部の部室とやらをこんな異界に変貌させて根城として巣食っている、あの謎の悪魔に――」



 とりあえず、説明だけでもしておく必要があるわね。今、彼らが今いる場所は無人のお城だ。つくったのは、光桜学園旧校舎の旧視聴覚室こと自主制作アニメ部の部室を根城にしている謎の悪魔なんだろうと推測――ここは奴が私達が住む現界に上書きするかたちでつくった固有結界内だし、間違いないだろう。



「あ、そうそう、この先の部屋に面白いモノがあったよ」



「面白いというか、〝アレ〟はご馳走だな。もう一度、行きたいところだ。肉が食べたいしな」



「うむ、余は空腹だからのう。ついつい、ご馳走に手をつけてしまったのだ」



「ヴァレリアヌスが骨つきのフライドチキンを(くちばし)にくわえている……と、共食いじゃないのか、おいィィ~~!」



 ヒョイッとツチグモの頭の天辺に飛び乗るヴァレリアヌスの嘴には、ホワホワと湯気のあがる揚げるたてのフライドチキンが――ちょ、共食いだ! てか、そんなフライドチキンなどの食べ物が用意された部屋があるらしいわね。



「わああ、本当にご馳走が用意された部屋があるわ!」



「でも、誰もいないわね。ふええ、お腹が空いたから、なにか食べちゃおうかな~♪」



 ふむ、ファムやレイン、それにフライドチキンを嘴に加える共食いな状態のヴァレリアヌスらの言うことは本当のようね。早苗姉ちゃん達が足を踏み入れた部屋の中央には、和洋中問わずに超がつくような豪勢な料理が並べられたテーブルが見受けられる。



「おおお、美味そうだ! ああ、急に腹の虫が成り始めたぜ!」



「よし、誰もいないことだし、食べちまおうぜ!」



「毒は入っていないようだ。食べても大丈夫だ!」



「マジか! よし、食べるぞ、うおおおー!」



「お、俺も食べるぜ!」



「ああ、八雲クン、それに辰巳君、油断しちゃダメよ! これは悪魔の罠かもしれないわ!」



「ん、美味ぇ! 毒は入っていないぜ。沙希の姉さんも食べようぜ!」



「そう言われてもなぁ、う~ん……」



「わあ、このカレーライス最高! えぐえぐ……」



「むぅ、美雪さん……今は雪奈さんか? 泣きながらパスタを本当に食べちゃってる……本当に大丈夫なのかしら?」



 タツとツチグモ、それにミスティアと美雪――いや、雪奈は、今いる部屋に中央にあるテーブルの上に並べられた豪勢な料理に飛びつく。んで、躊躇なく料理に手をつけ始める――が、一方で早苗姉ちゃんは料理に手をつけず腕組みをしながら、眉をひそめてジッと料理を見つめている。



「ホントに毒なんか入っていないよ、早苗」



「この肉、美味いな。なんの肉だ?」



「余はワインを所望したいところだ」



「ア、アンタ達まで!」



 使い魔達もテーブルの上に並べられた豪勢な料理に手をつけ始める。うへぇ、ヴァレリアヌスは鶏肉のから揚げを――共食いOKなのかよ! んで、ワインが飲みたいとか言い出す。



『あああ、クーティ姫のお食事に手を出している奴らがいる!』



『お、おィィ! なに食べているんだよ、ゴルァァ!』



『ま、でも、クーティ姫は滅多に起きてこないし、食べ物を投げずに済むよね』



『うむ、そうだが万が一のこともありえる!』



『そう? クーティ姫をここ一週間くらい見かけてないぞ?』



「ムグムグ……うく、変な声が聞こえる!」



 三つの声が交錯する。ひょっとして早苗姉ちゃん達がいる部屋の中心にあるテーブルの上に並べられている豪勢な料理をつくった料理人か!? さて、クーティ姫という名前が――この城の主のこと?



「捕まえたぞ!」



「わ、ノエルが捕まったァァ~~!」



「うわ、蛾の妖精だ!



「が、蛾じゃねぇよ! 私はクーティ姫専属の料理人のひとりで洋食専門の料理人ノエルだー!」



 クロベエがダッと跳躍し、なにかを口にくわえる――ん、それは頭にクシ状の触覚、背中には木の皮のような地味な一対の翅の生えた金髪碧眼の欧米人の姿をした小さな人間型の生き物だ……ひょっとして蛾の妖精? でも、そいつが蛾の妖精じゃないと否定し、クーティ姫とやらの洋食専門の専属料理人を自称する。

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