方針会議
双子のとりなしの後、真っ先に口を開いたのはオドゥだった。オドゥはびしょ濡れになった髪を拭きながら、嫌気のこもった苦々しい声音で話し出す。
「天導教も一枚岩じゃない。利権やら政治やらの生臭いことで対立してくれてりゃ付け入るのも楽だったんだが、どの派閥も人類を救済するって目的は一致している。そのせいで内部工作もできやしねえ」
「……師匠、なんでそんなに詳しいの?」
天導教の内部事情は簡単に掴めるようなものではない。首を傾げるナデシコへ、オドゥはひらひらと乱雑に手を振ってごまかした。
「コネがあるだけだ、気にすんな。ともかく、奴らは各々がそれぞれの立場から活動する。教皇すら天導教の全体図は把握できていないだろうよ」
「……イウリィ、君の意見は?」
「私もオドゥさまの見解に賛成です。私が見ていた限りではあの男、教皇という割に接する人間が限られていましたから」
イウリィが肯定すればオドゥも頷く。教皇の隠し子と密偵。異なる立場でも一致している意見は強い説得力を持っていた。
クエリは腕をとんとんと指先で叩きながら、厳めしい表情で思案にふける。
「たとえ教皇のそばに置かれていても、派閥の関係によっては手に入らない情報もある」
「まさに陛下のおっしゃる通り。加えて今の教皇が属するハーゼン派はせいぜいが中堅規模だ。情報戦に回せる人手もないだろうよ」
「オドゥ殿の方で首謀者を掴んでいるようなことは?」
「悪いが報告を優先したもんで、そこまで悠長にしてられなかった。ただ、当てならある」
「それは?」
クエリの問いかけに、オドゥはすぐには答えなかった。オドゥはいつも通りのぶっきらぼうな声で、ナデシコに呼びかける。
「おい、ナデシコ」
「ん? なによ」
「お前、天導教の根城に乗り込む度胸はあるか?」
ガタンと二つ、小さくても動揺を露わにした音が立つ。ナデシコがオドゥの意図を飲み込むよりも先に反応していたのはネオンとエンラだった。
「――オドゥ。どうしてナデシコにそんなことを?」
「ナデシコにやらせた方が上手くいく理由があるんだよ。王子様もとりあえず座ってくれ」
「……ええ」
ネオンは促された通り、反射的に浮かした腰を下ろす。けれどその表情は、戦場に立っているときよりもよっぽど強張っていた。
ネオンとエンラの動揺。その様子を見て、ナデシコの心臓はひそかに跳ねていた。ネオンが心配してくれたことが嬉しくて、父が止めようとしていることに驚いて。だからこそ、エンラに対しては言葉で表現しがたい不安を覚えてしまう。
見限られていたわけではないらしいという安堵と、それが勘違いだったらどうしよう、という根拠のない恐怖。ナデシコは意識して普段と同じ雰囲気を作っていたが、幼い日の無念と怒りは今も確かに、ナデシコのうちに影を落としている。
一方、ナデシコのそんな内心をよそに、オドゥの説明は始まっていた。
「天導教にはドラキュリア派っていうとんでもねえ変わり者たちがいる。一応は正式に認められているんだが、所属者は確か……今のところ三人だったか」
「あら、それは妙なお話ね。とうてい派閥の体を成せる人数じゃないわ」
「つまりそのドラキュリア派にも何らかの事情があるということ?」
「ああ。ナデシコに行かせた方が良いってのもそいつらの主義絡みでな。ドラキュリア派は竜との融和を唱えているんだよ」
「……オドゥ、僕もそんな団体のことは初めて聞いたんだけれど」
「そりゃそうだろうよ。思想を後継に伝えるのが精いっぱいで、実際に行動に移せるほどの力は持ってないんだ。まあ、信じがたいのは、そんな体たらくなのに天導教でも相当な古参らしいってことなんだが……」
オドゥが呟く横で、ナデシコは考える。敵対しているはずの竜と融和しようとするドラキュリア派と、天導教の領域に乗り込むというオドゥの提案。ここまで言われれば、オドゥが何をさせようとしているのかは理解できる。
「そう。向こうからすれば、会いたいのに会えなかった竜が自分から来てくれるってことになるわけね」
「おうよ。その後は交渉次第だが、今回の件を主導した派閥がどこなのか聞き出せる可能性もある。もしかしたら天導教の目的そのものも、な」
じっとナデシコを見据えるオドゥの視線。口調は挑発交じりのようで、けれど瞳はナデシコの実力への信頼を物語っている。言葉がなくても、そのくらいのことはわかるほどの時間を一緒に過ごしてきた。
ナデシコは一度だけ吐息を落とすと、真正面からオドゥの視線を受けた。
「わかったわ。ドラキュリア派とやらに会いに行ってあげる。案内よろしくね、師匠」




