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07_用語集

第七章 用語集・覚書


ライラ・フォス個人の覚書として。随時更新。


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重要用語


因果のいんがのあわ

ヤヒロ全体を封じ込めている時空の閉じた系。2,000年前の事故で形成された。内部時間は外部の10倍速。住民は存在を知らない。正体は航行シールド「ラプラス・ヴェール」が制御を失って球体化・固定化したもの。


ラプラス・ヴェール

ヤヒロが亜光速航行中に進行方向へ展開していた因果切断面。重力ではなくMTMの特性で作られた「面状のイベントホライゾン」。現場の航宙担当師たちは「フロントシアー」と呼んでいた。事故により球体化し、現在の因果の泡になった。


MTMメタ・タキオン・マテリアル

ヤヒロのすべてのシステムを動かすエネルギーの源。「仮想的な物質」として扱われるが実体は現象・場。住民には存在すら知られていない。静的・動的・拡散の3状態がある。現在の残存量は約33%。


クストス(Custos)

ヤヒロの統括管理AI。2,000年前の事故で主系が破損・停止。住民には「神代の守護者」として神話化されている(実体は知られていない)。予備系「セカンド」がセントラル・コアに待機中。


ラプラスエンジン

クストスのサブシステム。MTMの生成・制御を担当。クストスと同時に停止。これが再起動すれば、因果の泡を制御できる可能性がある。


語りかたりべ

ヤヒロの口承文化を担う職能者。事故直後から「記憶を守る者」として社会的地位が高まった。伝承を管理・継承し、集落間を旅して物語を交換する「旅語り」も存在する。


標塔ひょうとう/ピラー

居住層から外殻まで伸びる巨大な支柱。全長約110km。1,692本存在。住民には「天を支える神の柱」として崇拝される。実際はMTM転送路・大気循環ノード・構造支持材。


こく

物の価値を相対的に表す基準単位。重さではなく価値の単位。「小麦1穀=基準の価値」として使われるフレーバーテキスト。実際の経済は各集落・各隊商の裁量による。


花歴はなごよみ

特定植物の開花サイクル(120日周期)で季節を数える暦。「あの花が3回咲く前に戻れ」という使い方をする。文字による年号記録は断絶しており、正確な年数は不明。


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外の世界についての覚書——いつかパートナーに話す日のために


この世界を知り尽くしているパートナーができたとき、私は外の世界の何をどう伝えるべきか。

技術的な正確さよりも、相手が受け止められる言葉を選ばなければならない。

以下は、そのための草稿だ。


フロディアス

ヤヒロと同じ時代に建造された、もう一つの移民星。ヨーロッパ・アメリカ文化圏をベースにしている。私はそこで生まれ育った。ヤヒロとは姉妹船のような関係で、設計思想は共通している——つまり、フロディアスにも標塔があり、人工太陽があり、クストスに相当するAIがいる。

ヤヒロの事故を感知したのはフロディアスのAI「ヤヌス」だ。フロディアスも亜光速で航行し続けているため、ヤヒロ内部の2,000年がフロディアス側では数十年にしか見えていない。


「遠い親戚の船」と伝えるのが一番わかりやすいかもしれない。


レインボーファルコン

フロディアスが派遣した調査船。私たち調査隊25名を乗せてここまで来た。現在は因果の泡の外側、ヤヒロの境界付近で停泊中。乗組員は約20名が待機している。

ただし、中にいる私たちとは一切通信できない。因果の泡が遮断するからだ。彼らは今、私たちが生きているかどうかすら確認できないまま、外で待っている。


これをパートナーに話すとき、どんな顔をするだろう。

「外に人がいる」という事実は、衝撃が大きすぎるかもしれない。


調査隊

私を含む25名でヤヒロに侵入したグループ。侵入時にカグツチの妨害で10名が亡くなり、現在15名がヤヒロ内部で活動中。帰還派・共生派・救済派の三つに分かれて対立している。私はどのグループにも属していない。

全員がフロディアスから来た人間だ——ヤヒロの住民からは「空から来た旅人」くらいにしか見えていないはずだが、実際には外の世界から目的を持って送り込まれた存在だ。


「あなたたちを助けに来た」と言えれば簡単なのだが、まだそう言える立場にない。


潜入艇

調査隊がヤヒロに侵入するために使った小型の船(全長約50m)。現在はヤヒロの深い森の中に着陸したまま、調査隊の基地として使っている。飛行機能はカグツチに破壊されて動かせない。住民には「神代の遺物」に見えるだろう。

内部には翻訳システムが動いており、ヤヒロの言語をリアルタイムで処理できる。


「遠くから乗ってきた乗り物」とだけ伝えれば、あとは相手が想像してくれるかもしれない。


ナノマシン

目に見えない極小の機械。私の体内に数億単位で動いている。怪我をすれば修復を助け、毒を中和し、病気を抑える。フロディアスの技術だ。ヤヒロの住民は持っていない。

これがあるおかげで、一人旅でも危険生物に対してある程度安全でいられる。ただし限界はある——鎌爪竜の群れに囲まれたらどうにもならない。


「体の中に小さな守り手がいる」という言い方が一番伝わりそうだ。

住民の感覚に近い何かに例えられないか、考え中。


ドローン

てんとう虫のサイズの小型飛行機械。夜間に展開して広域を監視・記録する。私の「目」だ。昼間は記録装置の中に収納されており、外からは見えない。これのおかげで一人でも広い範囲の情報を集められる。

住民には絶対に見せられない——「神代の道具を持っている」と思われたら、旅商人の正体が怪しまれる。


これだけは、パートナーにも当分秘密にしておくべきかもしれない。

いや——本当に信頼できる相手なら、いつか話せるはずだ。


記録装置

私が常に持ち歩いている「手帳」の正体。見た目は古びた革表紙の手帳だが、中身は音声・映像・データを記録できる高性能な装置だ。書くふりをしながら実際には声で記録していることも多い。

パートナーには「特別な手帳」と伝えるつもりだ。細かい仕組みは説明しなくてもいい——「書いたことを絶対に忘れない手帳」という説明で十分伝わると思う。


ただ、一度だけ覗こうとした隊商の親方がいた。咄嗟に「呪いがかかっている」と言ったら引き下がってくれた。

嘘をつくのは好きじゃないが、あの時は助かった。


翻訳システム(バベル)

潜入艇に搭載されているシステムで、ヤヒロの言語をリアルタイムで処理・翻訳する。私が侵入直後からヤヒロの言葉を話せたのはこのおかげだ——正確には、ヤヒロ内の言語統括システム「コダマ」とリンクさせておいた。現在は記録装置にも簡易版が入っており、聞き慣れない方言や古語も大体は理解できる。


パートナーには「幼い頃から言葉を勉強した」と伝えている。嘘ではない——準備に2年かけた。


コールドスリープ

意識を失わせたまま体を極低温で保存し、時間を「飛ばす」技術。私たちがフロディアスからここまで来るのにも使った。目覚めると「少し眠っていた」感覚しかないが、外では長い時間が経っている。

ヤヒロのセントラル・コアに、この状態のまま2,000年を過ごしている技術者が35名いる。彼らはまだ生きている——ただ、眠っているだけだ。


「生きたまま時を止める」という概念は、この世界の言葉では説明しにくい。

「神代の眠り」という言い方が一番近いかもしれない。


セカンド(予備系ラプラスエンジン)

クストスのサブシステムで、MTM制御を担うラプラスエンジンの予備系。セントラル・コアの奥深くで2,000年間待機し続けている。これが起動できれば、因果の泡を制御できる可能性がある——つまり、この世界の「終わり」を止められるかもしれない。

到達する方法がわかっていない。古い設計図のどこかに経路が記されているはずだが、その設計図を誰も持っていない。


これがこの旅の、最終的な目的地だ。

パートナーにはいつか、正直に話さなければならない。


DNA設計

生き物の設計図(DNA)を意図的に書き換える技術。ヤヒロに乗り込んだすべての生き物——植物も、家畜も、人間も——この技術で調整されている。改良稲が年に2回収穫できるのも、甲羅牛の甲殻が岩のように硬いのも、人間が平均90歳まで生きられるのも、すべてこの設計の結果だ。


「なぜこの世界の生き物はこんなに変わっているのか」とパートナーに聞かれたとき、どこまで答えるか。

「神代の人たちが設計した」という答えは——嘘ではない。


地球ちきゅう

ヤヒロの祖先が生まれた星。ヤヒロから約5,000光年離れた場所にある。今もそこに人類が生きているかどうか、私にはわからない——フロディアスを出発したとき、地球との連絡はすでに途絶えていた。

語り部の伝承に「母なる星」として残っているあの星が、これだ。


「母なる星」は実在する。ただ、誰も帰り方を知らない。

パートナーが「行けるのか」と聞いたら、なんと答えよう。


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地名覚書(随時追記)

ナギサ:最初に滞在した大きな集落。温帯域。人口約800人。

ハシラネ:標塔の麓の集落。標塔崇拝が盛ん。

-(随時追加)

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人名覚書(随時追記)

オリ:ナギサの語り部。五十がらみの女性。鋭い目。声が美しい。

ゴウ:隊商「黄金の轍」の親方。「旅は足で考えるものだ」が口癖。

-(随時追加)

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この用語集は、いつか現地のパートナーに説明するときのためでもある。

どう話せば伝わるだろう。どこまで話すべきだろう。


まだ、答えは出ていない。



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