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02_世界の構造

またまた誤字を修正。

ヤヒロ世界の専門用語というか造語を説明しないまま使っているのはわざとです。

(ファルシのルシがコクーンでっていう感じなのは意図的です)

第二章 世界の構造


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天を支える柱


侵入後第5年、春。標塔の麓の集落「ハシラネ」に滞在中。


ハシラネという名前は、そのまま「柱の根元」という意味だ。


集落の中央広場から少し歩くと、草原の向こうにそれが見える。

直径40メートル。地面から空へ向かって、まっすぐ、ただまっすぐに伸びている。

表面は滑らかな金属光沢で、雨が降っても錆びず、誰かが傷をつけようとしても傷一つつかない。


住民たちは「標塔」と呼ぶ。「天柱」とも言う。

「神々が建てた柱」「世界を支える柱」「不滅の証」——人によって呼び名は少し違うが、誰もが畏敬を込めて話す。


この集落の長老に「なぜ標塔はあるのか」と聞いてみた。


「天が落ちてこないようにするためだ」と彼は言った。「神代に建てられた。誰も登ったことがない。壊せる者もいない。これが証拠だ——神代の技は今も生きている」


私は手帳に何かを書くふりをしながら、苦笑いをこらえた。

正確すぎる答えだった。本当に天が落ちてこないように(あるいは大地が天に落ちないように)しているのだから。


【調査局注】標塔(正式名称:ピラー)の実態:

ヤヒロには1,692本のピラーが均等に配置されている。地表から上空を貫き、外殻から大地の遥か下のMTMシールド層にまで届く全長約110kmの構造体。地表から見える部分は10〜20kmに過ぎない。残りは大気の霞みの中に消え、肉眼では見えない。


機能は多岐にわたる——MTMの転送路、大気循環のノード、重力場の精密調整、そして船体の球殻全体を一体の構造として支える骨格。破壊できない理由も明確だ。外殻・ピラー・内部シールド層は幾何学的に一体の構造物であり、非活性状態のMTMアロイ構造体である。局所的な衝撃はそのまま光の速度で全体に分散される。どんな力を集中させても、全体で受け止めて逃がしてしまう。


試したことがある。フロディアスも同じ構造の船だからピラーも同じように存在していたが(フロディアスに居た頃は直接触ることを許される立場ではなかったからつい嬉しくなって)記録装置の外装(フロディアスの高硬合金製)で叩いてみた。

ピラーは反応しなかった。私の手が痛かった。


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世界の仕組み——七つの層

侵入後第5年、春。ハシラネ滞在中。


ヤヒロがどういう構造をしているか、外から知っている私には当然わかっている。でも実際に「中から」感じると、また違う実感がある。


地面の下には二十キロの岩盤と地下水脈と遺跡がある。

その下には、今の私には絶対に届かない謎めいた層がある。

そして上を見れば、五十キロの大気の果てに、さらに壁がある。


ここは宇宙船の中だ。でも「宇宙船の中にいる」という感覚は、まるでない。


【調査局注】ヤヒロの七層構造(外側から):


第1層(外郭防御層)——厚さ35km

宇宙に面した外壁。推進システム・センサー・防空システムが収まっている。現在は推進システムが完全停止しているが、防空システム「カグツチ」は今も稼働中だ——私たちが侵入した際に10名が命を落としたのもこのシステムのせいだ。材質はMTMアロイ。2000年経っても劣化していない。


第2層(疑似天体層)——厚さ15km

人工太陽が軌道を巡る真空の空間。住民には「天の領域」として認識されている。


第3層(大気層)——厚さ50km

空気がある層。地表から上を見上げると「空」に見えるのはこの層だ。上空50kmに達するとほぼ真空になる。


第4層(居住層)——厚さ20km

住民たちが暮らす層。地表の岩盤・土壌・山地・海洋がある。深さ5〜20kmに遺跡・格納庫・配管網が眠っている。


第5層(MTMシールド層)——厚さ20km

第4層を内側から守る遮蔽層。ここがあるおかげで、下層のMTMエネルギーが直接住民に届かない。


第6層(超圧縮重金属層)——厚さ260km

木星から採掘した金属を超高密度に圧縮した層。ヤヒロの質量の大部分を占め、重力の源でもある。MTMが大量に備蓄されているが、現在は誰も制御できない。


第7セントラル・コア——半径150km

クストスが眠る中枢。重力発生装置、核融合炉、予備システム群「セカンド」。そして35名の技術者がコールドスリープしたまま2000年を過ごしている——ヤヒロを設計・建造した技術と同じ知識を持つ人間が、まだ眠っている。誰も起こし方を知らない。


その35名は、目覚めたら何を感じるのだろう。

「少し寝ていた」つもりが、2000年後の世界になっている。


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天の光


侵入後第5年、夏。ハシラネから移動し、平野の農村に一週間滞在。


毎朝、東の空が明るくなる。


「日の出」の30分前から、空がじわじわと明るくなり始める。そして太陽が顔を出す——地球の太陽と見分けがつかない。大きさも、光の色も、じっくり観察しなければ同じだ。


農村の老婆が私に言った。「太陽は神代の力で動いておる。毎日同じ時間に昇り、同じ時間に沈む——神代の技が今も生きている証じゃ」


その通りだ、と私は思った。

ただし「神代の技」とは、核融合炉を積んだ光熱発生装置が時速128kmで軌道を周回しているという意味だ。


【調査局注】人工太陽の実態:

ふと「天動説」という言葉が思い出された。母星の地球では「地動説」とか「天動説」というスケールの大きいおとぎ話のどちらが正しいのか話し合われていたことがあったらしい。

地表から見ると「太陽が動いている」ように見える。実際、第4層(地表)は静止していて人工太陽が軌道を移動している。軌道半径は約507km——地表から約57kmの上空を巡っている計算になる。


発光しているのは軌道全体ではなく、約80〜100kmの区間だけだ。残りは暗い。地表から見ると「一つの明るい点が東から西へ移動する」ように見える。


軌道面は年間で傾斜角が変わる。これが季節を作る仕組みだ。傾くと、北半球と南半球で日照時間が変わる。北半球の夏は南半球の冬、北の冬は南の夏——設計として美しいと思う。


昼間、太陽を直接見てはいけない。地球を「太陽系」につなぎ留めていたとされる本物の太陽と同じだ。その光は網膜を火傷させる。いくらナノマシン達が治してくれるとしても。

2000年間、休まず動き続けている機械を、私はつい尊敬してしまう。


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動かない星々


侵入後第5年、冬。農村にて。


夜になると、星が出る。


満天の星だ。密度が高く、天の川もくっきりと見える。美しい。

住民たちは「星は永遠に動かないもの」だと知っている。星座に名前をつけ、ヤヒロ内の航法に使い、季節の目印にしている。


でも語り部の夜に、老いた語り部がこんな話をした:


「——世界が止まる前、星は動いていた。祖先たちは動く星を見ながら、星の海を渡ってきた。今の星はただの絵だ。でも、あの時の空は本物だった——」


子どもたちはきょとんとしていた。「星が動く」という概念が想像できないようだった。

私には、その「本物の空」が手に取るようにわかる。


【調査局注】星空の実態:

第1層内壁面(第2層疑似天体層の最も外側)の星空投影パネルが、外部宇宙の映像を投影している。正確に言えば「していた」——2000年前の事故発生時点の星空で完全に静止している。


航行中はリアルタイムで外部の星空を映していた。だから「星が動いていた」という伝承は完全に正確だ。ヤヒロが進むにつれて、星は動いて見えた。


現在はその映像が2000年間、一フレームも動いていない。


そして、少しずつ暗くなっている。船体全体を襲ったすさまじい事故を経て更に2000年間メンテナンスされていないため、パネルが次々と機能停止していく。住民が「失われた星座」と呼ぶ暗い領域——現在で全天の5〜10%が暗転している。


「失われた星座」が拡大していくのを、私は毎晩記録している。

終わりに向かっているカウントダウンを、住民たちは「終末の予兆」と呼んでいる。

名前は違うが、指しているものは同じだ。


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重力という当たり前


侵入後第6年、春。山岳集落に滞在中。


山の上から見ると、世界の曲率がわかる。


地平線が——緩やかに、だが確かに——弧を描いている。

視界の左右が下がっている。だが、地球のそれより急らしい。

当たり前だ。フロディアスもヤヒロも第4層は地球を模倣はしているが、球体の直径は地球の半分程度なのだから。


これがおかしい、と気づく住民はほとんどいない。

「世界は広い」「地平線や水平線の向こうにも大地か大海が続く」——それだけだ。


多くのヤヒロの住民には「世界は平らなのか球なのか」という議論すらない。地平線があって、空があって、足元に大地がある。それが世界のすべてだ。


【調査局注】重力の仕組み:

ヤヒロには自転がない。重力は遠心力ではなく、MTMによる人工重力場で生成されている。場を生み出しているのは第7層の中枢だ。


地表での重力は約1G——地球とほぼ同じ。設計通り。


ただし、人工重力システムは動的MTMを消費し続けている。ヤヒロのMTMが枯渇すれば重力が弱まる。設計上の「枯渇後の重力」は計算上0.13G——フワフワと歩ける程度だ。


0.13Gでも生きていくことはできる。でも、それまでに農業が死ぬ。水が逃げる。大気が薄くなる。

重力だけの問題じゃない。

——考えすぎないようにして、手帳を閉じた。


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