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日常を色鮮やかに

作者: ゆう
掲載日:2026/02/15

彼女の葬式の日、空はやけに青かった。


世界は何も変わらず回っているのに僕の中だけが静かに壊れていた。焼香の煙がゆらゆらと揺れて、まるで現実を隠すカーテンみたいに視界をぼかす。誰かが泣いている声が近くで聞こえるのにそれが誰のものなのか分からない。


遺影の中の彼女は、僕の知っているどの笑顔よりも綺麗だった。


こんなふうに笑う人だっただろうかと一瞬思う。いや、違う。こんな笑顔を向けられる資格が僕にはなかっただけだ。


最後に交わした言葉は、思い出したくもないほどくだらない喧嘩だった。


仕事が忙しいだの、時間がないだの、疲れてるだの。

どれも間違ってはいなかったのに、どれも正しくなかった。


「もういい」


彼女がそう言って背を向けた瞬間のあの小さな肩の震えを僕は見ないふりをした。


それが最後になるなんて思いもしなかった。


もし時間をやり直せるなら...


夜景の下で、くだらない話をして笑っていたあの夜に。


――耳鳴りのような音がした。


焼香台の前で立ち尽くしていたはずの足元がふっと消える。息が詰まる。視界が白く弾け、心臓を誰かに掴まれたみたいに強く引っ張られる。


次の瞬間、冷たい夜風が頬を打った。


「寒っ……」


聞き慣れた声が隣で笑う。


そこにいたのはまだ何も失っていない彼女だった。


コートの袖をぎゅっと握りながら夜景を見て目を輝かせている。街の光が瞳に映って宝石みたいに揺れている。


「ねえ、見て。あそこが家じゃない?」


彼女は子どもみたいに指をさす。


僕は寒さではなく全身に力が入る


この景色を、この夜を僕は遠い光みたいに甦った。


喉の奥が焼けるみたいに熱くなる。泣きそうになるのを必死で堪えながら、震える手で彼女の指先に触れる。


温かい。


生きている。


「どうしたの?」

彼女が笑う。

「変な顔してるよ」

 僕が困惑してるのをじっとみておかしく笑ってる彼女を見て寒いはずの体の血がゆっくり巡り始める。


 失う未来があったとしても過去にに新しい色を塗ることが出来る。

今度こそ、全部色鮮やかに覚えておく。

彼女の笑い声も、触れた温度も。


第一章

 「ひ、久しぶり...」

咄嗟に出た言葉だった。

 「何言ってるの? ずっと会ってるじゃん!」

彼女が笑ってるのを見ると目に熱いものを感じる。

 「何泣いてるの! 遼!今日おかしいよ 見て!夜景綺麗だよ!」

 皿倉山の光は並んでいるのに、まだ色になっていなかった。

心がそこまで届いていない気がした。

 「そうだね!本当に来てよかったな!また来よう」

 「うん!じゃ、帰ろうか!遅くなるし」

 帰りの車窓でもこの世界は色がないし心だけが置いていかれてる気がする。

その思いと同じくらいこれから紗良と同じ時を過ごすことを考えると心が小さく跳ねるのを感じる。

 「紗良!これからどこ行こうか?」

 嬉しさを隠しながらも紗良の行きたい所を聞く。

 「うーん...そうだね!2人で計画して決めよう!その前にこの間はごめんね。心配してくれて病院行けって言ってくれたのに怒ってしまって」

 少し考えて前日に彼女の体調が良くなかった事から病院に行く行かないで喧嘩した事を思い出す。

 「ううん、俺も紗良が仕事忙しいのに頭ごなしに病院行けってごめんな」

 「それで今度病院行こかなって考えてるの!遼も付き合ってくれる?」

 何故か未来では頑なに病院行かなかったけどそう提案してきた。

 「あーもちろん!着いていくよ!心配だしな」

 ただ俺には穏やかな気持ちではいられなかった...

一時間ほど運転して家路につき突然の世界のズレに驚きつつも夢でない事を願いながら眠りに落ちる。

 次の日彼女と違って俺は緊張してる。

 「紗良さん!七瀬紗良さん!」

 看護師さんから呼ばれて2人で診察室に入った。 

 医者は真剣な顔して言った。俺は体全体に力が入る。紗良も少し表情が強張っている。

 「落ち着いて聞いて下さい。紗良さんは膵臓癌です。かなり進行しています

正直に言うと、時間は長くありません」

 急に音が静かになる...周りも急に暗く色がない...

いくら未来を知ってたとしても現実で突きつけられると心が重くなると同時に紗良の反応が心配になった。

 「紗良...大丈夫..か?」

 「う、うん!大丈夫!ごめんね遼...」

 彼女は少し涙目になりながら謝ってきた。

 「謝る必要なんてない!俺が早く気づいて連れてこれらばよかったんだ...」

 過去に戻ってもこの病気の未来は変わらない...

 「治療の方は..」

「いえ!治療はしません。遼との時間に使っていきたいです。」

 俺の言葉を遮って彼女が言う。彼女は真剣そのものでどこか覚悟してる気がした。

 病院の診察が終わり車に戻り一息つく。

 「ごめんね...バチが当たったのかな!仕事ばかりして遼の言う事聞かないで...」

 彼女の方が辛いはずなのに俺の事を気にかける。

俺がしっかりするべきだと心に誓い紗良の目を見て言う。

 「紗良!行きたい所があるんだ」

 

第二章

「遼!あれが猫の島!相島じゃない!」

 彼女は明るく元気に言ってきた。今思い出の最初の場所として相島に一緒に来ている。彼女は猫が好きで俺が提案した。

 「そうだね!もう少しで着くね!」

 フェリーに乗って15分くらいして相島に着く。フェリーが進む度に景色に色が付いていくのを感じる。

 フェリーから降りた所で早速猫がお出迎えしてくれていた。

 「きゃー!猫がいっぱいだよ!」

 彼女は飛び跳ねるように猫に近づく。

 彼女は猫におやつをあげたり、触ったりと忙しそうだった。彼女を見つめふと未来の事が頭をよぎる。

 近くにいるはずの紗良が遠くに感じ焦る。

 「紗良!」

 「遼? どうしたの?」

 突然の叫び声に紗良と猫たちも俺の方に視線が集まる。俺はハッとして本来の目的を忘れて感傷に浸っていた。

 「ご、ごめん...俺にも猫触らして」

 彼女はすぐに猫とじゃれ合う。シャッター音が何度もなる度に彼女の笑い声が耳に残る。

 「あー今日楽しかったねーまた行きたいなぁ」

フェリーに乗り彼女が言った言葉を聞いて俺はなにも言えなかった。それを察してか彼女は慌てて言った。

 「はは!ごめん!そんな顔しないで!つい楽しくてまた行きたくなって...」

 「また来よう!明日は大分に行こう!」

 咄嗟に出た提案だったが彼女は嬉しそうに言った。

 「うん!大分かーサファリパークと温泉に行きたい!」

彼女の顔が明るくなり世界がまたさらに色づいた気がする。


 次の日昨日約束した大分旅行に朝から車で出発した。彼女は景色を見るために右左へと車の中を移動する。

 「わー緑がいっぱい!綺麗だよ!」

 遠ざかる景色はどれも名残惜しいのに、不思議と寂しくない。

前にはまだ見ぬ色が待っていると知っているから、そう思うと前向きになれた。走る音に合わせて鼓動まで明るくなり、自然が今日という日を祝福しているように感じる。

 1時間ほど運転してようやくサファリパークに付いた。

 「あー着いたー!」

 車から降りて背伸びをする。紗良も降りて背伸びをし2人で笑う。

 「さ!行くぞ!色んな動物見て帰りには動物博士になろうぜ!」

 彼女は呆れて笑う。

 「何!動物博士って笑 」

そうして色んな動物を見たり、エサをやったりして途中ジャングルバスで聞こえてくる動物の豆知識に耳を傾けながら本当に動物博士になる僕を横目に彼女が笑っている。

 「あー楽しかったね!本当に動物博士になりそうだったね」

彼女もその気でいたみたいだ。

 「だろ! キリンはほとんど寝な...」

 「いいって!豆知識は!笑」 俺の豆知識を遮ってきた。

 「本当に今日も楽しかったね。紗良とこんなに笑える日が来るなんてね..」

 「そうね...喧嘩ばっかりしてさ!次の日には忘れてるの笑」

 喧嘩してたあの時でさえ今笑って話せるのは今この瞬間に色鮮やかな思い出が増えてるんだと実感する。

 色んな思い出を重ねながら色鮮やかになっていく世界を感じると同時に違和感も感じる。この時はその違和感に何も感じない。

 11月11日色んな計画をして思い出作るなかでこの日は2人の出会って最初に行った皿倉山に行く事にした。

 彼女は窓にもたれたまま、景色ではなく自分の呼吸を数えているみたいだった。

信号で車が止まるたび、小さく肩が上下して、そのたびに笑顔を作り直す。気づかれないようにする仕草だけが、やけに上手だった。

 「大丈夫? どこかコンビニ寄ろうか」

 皿倉山行く途中でなぜか彼女の様子に違和感を感じるが分

 「大丈夫だよ!気にしないで」

笑顔でこちらを見る彼女を見て無理に笑ってるのを感じ心が落ち着かない。

 皿倉山に着いて2人分のケーブルカーのチケットを買った後上を見ると広告に「時を超えて、輝きを増す風景がある」という文言が目に入り嬉しくなる。スロープカーから見える景色を見て彼女は楽しそうにしてる中俺はまだ何かが迫ってくる気がしてならない。

 「遼はさ!私がこの先居なくなるの悲しい?」

 突然の質問に驚く。

 「どうした?何故そんな事聞く?」

 「ごめん、ごめん!やっぱ悲しんでくれるよね!11月11日って喧嘩して最後になったんだよね...今日が何の日か覚えてる?」

 俺は何を言ってるのか理解出来なかった..喧嘩? 最後? 心臓の鼓動が早くなる。

 「ど、どうしたの?喧嘩?最後?」

 自分の中で違和感の正体を感じ始め体が熱くなる...11月11日未来で喧嘩して最後の別れになった日だ。

 彼女は次の言葉を考えてるようだった。

「ごめんね!上に着いてからまた話そう」

 心臓がドクドクとスロープが上がるにつれ大きくなる...

 「着いたよ...行こう..」

 そんな気分じゃなかった。11月11日のこの日以降に彼女は倒れて亡くなっているからだ...

 2人で屋上へ行き景色を見る。

 「わーいつ見にきても綺麗!」 彼女は目をキラキラしながら笑っている。

俺は少しずつ色づいでいた世界がだんだんと暗くなる感覚がして感情が落ち着かない。

 「紗良...体調は大丈夫か?」

 「うん!大丈夫だよ!倒れたのはこの日じゃないから」

 感情が抑えきれなくなり涙が頬を流れ体が震える。

「俺、未来から来たんだ...」

 この先のことを考えれば考えるほど頭が熱くなるのが分かる...知っていた未来なのに...

「うん...知ってるよ...遼が...私のために動いてくれてること...そして私も同じ...」

 彼女も俯き言葉が続かない

「2人ともあの日を境にタイムリープして今ここにいるみたいだね...」

 驚いて言葉でない...涙が溢れて目の前が見えない...夜景の明かりが涙でぼやけて見える

 嗚咽で言葉が詰まる...イピューも同じなのか沈黙が続く

 「うん!本当に楽しかったよ...また遼と出会えて私のために必死になってくれて...」

 顔をあげ涙を拭い上を見ると世界が色鮮やかに輝いて見える...彼女が笑顔でこっちを見る。

 「遼……約束して。私を忘れてもいい。

でも、あなたの毎日は明るく生きてね」

 「そんな事でき..」

言葉が続く前に耳鳴りがする...

 「嫌だ...離れたくない...」 

彼女も泣きながらそれでも笑顔でうなづく

 泣きながらお互い抱きしめる。だんだんと彼女の重さが消える感覚になっていく。

 耳鳴りが強くなり目の前が真っ暗になる...

 目の前には紗良の遺影があった。

笑顔で、いつも通りにこっちを見ている。


「戻ってきたのか…」


やはり未来は変わらなかったらしい。

胸の奥が静かに痛む。それでも、前とは違った。


葬式が終わり、外へ出る。

見上げた空は、痛いほど綺麗な青だった。

紗良の最後の言葉を思い出す...いつ前を向けるか分からない....


ただ、今日をちゃんと生きる。

それだけで世界は色づく。


僕は前を見て色づく世界の方に歩き出した。

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