最終章 青い髪の剣士が、本当の名を取り戻す時
朝の光が差し込む仮設食堂は、
戦いの翌日とは思えないほど明るくて賑やかだった。
昨日、私が魔力を限界まで捻り出して放った治癒魔法が、
どうやら想像以上に効きすぎたらしい。
クルトは食堂入口で全力ストレッチ中。
「いやぁ、体軽っ! 昨日あれだけ吹っ飛ばされたのになぁ!」
と腕をぐるぐる回している。
ミーナはテーブルをぽんぽん叩きながら、
「ほらカミーユ、さっさと座んなさいよ」と急かしてくる。
ランスは既にスープ二杯目で、
「はぁぁ……回復って素晴らしい……」
と早くも三杯目に手を伸ばしていた。
……ほんと、ピンピンしてる。
治癒魔法って便利ね。いや、便利すぎて若干怖い。
席に座ろうとした瞬間、
エリオットがすっと私の前に立った。
「こっちです! カミーユさん、僕の隣! 空いてますから!」
……“隣”は譲れないらしい。
「なんであなたが私の席を決めるのよ」
「だって、隣がいいですから!」
真剣な顔をしていて、それがまた可愛い。
真顔で言うな。それが一番ダメージあるのよ。
ミーナが、ため息交じりに笑う。
「はぁ……もう周囲からそういう目で見られてるの分かってる?」
「どういう目よ」
「はい出ました。本人たちだけ気づかないパターン」
クルトもランスもニヤニヤしていて、
スープをすすっている間に勝手に恋バナモードへ。
やめてほしい。
私はただ、みんなが生きているのが嬉しいだけ。
それだけなのに――
心が浮つくのは、きっと前でニコニコしている年下男子のせいだ。
……ほんと、心臓に悪い。
一通り朝食を食べ終わると、クルトが言った。
「にしてもよカミーユ。昨日の戦い、剣士じゃねーよ。攻撃魔法めっちゃ強かったじゃん」
ミーナもうなずく。
「むしろ上位魔導士レベルだったわよ?」
ランスなんて、「弟子入りしたいです」とか言い出す。
(……嫌な流れ)
実際は私は“治癒師”。
昨日の攻撃魔法は奇跡みたいな出来事だ。
でも、みんなには知られたくなかった。
ミーナが首をかしげる。
「なんか言いたくなさそう?」
クルトがひそひそ声で言う。
「お、おい……触れちゃいけねぇやつか?」
ランスも胸を張る。
「僕は空気を読みます!」
読みながら喋るタイプなのよ、あなたは。
(……もう誤魔化せないわね)
「ちょっと外の空気吸ってくるわ」
食堂を出た私を追いかけるように、
エリオットがついてきた。
「行きます。カミーユさんのそういう顔……放っておけないんです」
「どんな顔よ」
「寂しそうな顔です」
……ほんとこの子、よく見てる。
外の空気はひんやりしていて、
昨日とは違う静けさがあった。
私はひとつ息を吸って、
エリオットに真実を伝えた。
自分が治癒師であること。
剣も攻撃魔法も本来は得意じゃないこと。
そして、母の怨念のせいで親友を呪って殺そうとしたこと。
その影響で魔法を使うことが怖いこと。
全部話した。
エリオットは、
私が震える指先まで、静かに受け止めてくれた。
「カミーユさん」
「なに?」
「僕は、弱いあなたが嫌いじゃないです。
どんなあなたでも……好きです」
その言葉は、
戦いよりも感情よりも何よりも強く、胸を貫いた。
「昨日、僕……あなたを失うのが怖かったです。
だから強くなります。
あなたの隣に“ふさわしい男”になってみせます」
まっすぐで、優しくて、少しだけ不器用な言い方だった。
胸が温かくなって、
息が震えた。
「……好きにしなさい」
そう返すと、エリオットは嬉しそうに笑った。
「はい。好きにし続けます」
「言い方がおかしいわよ」
「えへへ」
……ばか。
でも、愛しい“ばか”だ。
そして、食堂へ戻る。
朝の光が差し込む仮設食堂は、
昨日とは別の世界みたいに明るかった。
クルトは相変わらずストレッチしながら、
「おっ、戻った戻った!」と手を振ってくる。
ミーナは呆れ顔で、
「二人とも顔赤いんだけど?」と指摘してくる。
ランスはスープをよそいながら、
「今日の空気、なんだか甘いですねぇ」とか言ってる。
……ほんと、もうやめて。
でも。
この賑やかさが、
こんなにも愛しいと思える日が来るなんて――
少し前の私は想像もしていなかった。
エリオットが、目の前で柔らかく笑う。
その笑顔が、
これからの旅路を照らしてくれるような気がした。
「カミーユさん、これからも……隣にいていいですか?」
「……好きにしなさい」
「はい!」
焚き火の残り香が微かに漂う朝。
戦いの翌日なのに、空はどこまでも青い。
新しい日常が、ゆっくりと始まっていく。
──完──
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この物語は
『孤児の私を救ってくれた“外交官”は、本当は帝国皇太子。
そのくせ溺愛してくるなんて……ヒドイです!』
のスピンオフ作品になります。
前作を読んでくださった方はご存じのとおり、
カミーユは――あの物語で “主人公リアを呪い殺そうとした悪役” でした。
けれど、悪意だけで人を傷つけた少女ではありません。
“彼女のひび割れた心”が、
五年後の世界でどんな形で癒えていくのか。
そして彼女にも、やさしい未来は訪れるのか。
カミーユをハッピーエンドにしてあげたい。
そんな視点から生まれたのが、
このカミーユ主人公のスピンオフです。
「悪役だったあの子が、こうして少しずつ前に進んでいくのを見届けたい」
そう思ってくださった方が、もし一人でもいたら嬉しいです。
前作をまだ読まれていない方は、
リアとゼクスの甘くて温かい恋の物語も
ぜひ覗いてみてください。
あの物語があるからこそ、このカミーユの物語が生まれました。
今後もたまに、この同じ繋がった大陸で、少しずつ物語を広げていけたらと思っています。
また別の物語でもお会いできますように。
そして今日もあなたの世界が、優しさで包まれていますように。




