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恋が怖い剣士の私、 わんこ系の最強年下冒険者に距離ゼロ溺愛されています  作者: 風谷 華


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第5章 誰も死なせたくないから

 紅蓮洞窟の深層は、空気そのものが怒っているようだった。

 熱い。いや、熱いを通り越して“顔を平手打ち”されているみたい。


「ちょっ……クルト、その汗どうしたの? びっしょりというか、もう服の色変わってるけど?」

「暑さで溶ける! 俺の筋肉が煮える! ミーナ、俺が溶けたら骨だけ拾ってくれ!!」

「やめなさいよ不吉な……あ、溶けてマッチョが崩れていくのは見たいかも」

「お前ほんと辛辣だな!? 俺の精神が溶ける!!」


 ランスはランスで、「湿気で髪が……」と自分の後れ毛と戦い、

 エリオットは――

「カミーユさん、これ以上奥行くの危なくないですか!? 熱いですよ!? 僕の脳みそも煮卵になってしまう!!」

「あなたは元々半熟卵みたいなとこあるから大丈夫よ」

「えっ!? えっ!? 嬉しい…いや嬉しくない!半熟卵みたいってどういうこと……!?」

「落ち着け」


 ほんと賑やか。

 でも、その喧騒の中――私は別のものに集中していた。

(……うん。やっぱり、嫌な気配)

 胸の奥に針が刺さるような違和感。

 治癒師だった頃の“勘”なのかもしれない。


(奥に……誰かいる。傷ついてる。しかも深刻に)

 歩みを早める。

 エリオットも、私が速く歩けば速くついてくる。

 犬か、あんたは。



 最奥についた瞬間、洞窟の温度が一気に変わった。

 床に、深刻なダメージを負った冒険者が倒れている。


「クルト、ミーナ、ランス! 手分けして生存者確認!」

「了解!」

「はいはい、動くわよランス!」

「ひぃっ!? ぼ、僕もですか!?」


 私は一歩前に進み、

 その“巨大な影”を見た。

 天井に届くほどの巨体。

 溶岩のような皮膚。

 灼熱を孕んだ呼吸。

《マグマ・ビースト》


(……やっぱり来てたのね)

 炎の魔物の中でも最強格。

 ここにいるは予定外だわ。


「やるしかないみたいね」

「カミーユさん、俺も行きま――」

「エリオットは下がってなさい」

「えっなんで!? 僕だって戦えるし、カミーユさんの役に立ちた――」

「あなた後で必ず怪我するでしょ?」

「ぐっ……図星……!」




 戦闘は最初、順調だった。

 私は剣で足元の関節を狙い、

 ミーナが矢で魔物の弱点を射抜く。

 ランスが回復補助。

 クルトはでかい声で挑発し、魔物の注意を引きつける。


「おいデカブツ!! こっち向けぇぇぇ!!」

「よしよし、そのままよクルト! 頑張って死なないで!」

「応援が陰険なんだよ!!!」


 エリオットは、私の後ろで動きを真似ながら剣を構えている。

「カミーユさんの剣筋、全部見えてきました!!」

「真似しようとしないで。あなた、すぐ指切るでしょ」

「あああ図星です……!」



 私が守らないと、本気で死ぬだろう。

(ここまでは……想定内)


 だが次の瞬間――。

 魔物の背が“爆ぜた”。

 溶岩と熱気の噴出。

 巨大な火柱が四方八方に広がり、

 熱風が私の頬を切り裂いた。


「きゃっ!?」「うおっ!?」「ぎゃああああ!!!」

「ミーナ、クルト!!?」

 吹っ飛ぶ仲間たち。


 私はすぐに駆け戻ったが――

 魔物の動きが速い。

 溶岩の塊が、エリオットの頭上に落ちる。

(間に合わない――!?)


「エリオット!! 下がりなさい!!」

「カミーユさんが危ないなら、俺が守る!!」

「バカ、やめ――」

 エリオットは私を庇って前に出た。

 ズシャッ……!

 焼け焦げる音。


「……っぐぅぅ……!」

 彼の背中が、溶岩で裂けた。

 血と焦げた匂いが混じり、

 私は呼吸が止まった。


(やめて……もう……誰も……!)

 過去の光景が一瞬、脳裏をよぎる。

 母の怨念に支配され、親友を呪い、私が人を傷つけたあの日。


(守れなかった。

 大切な人を自分が傷つけるなんて……

 死んだ方がマシだった)

 

 でも――

 目の前の少年は、

 震える足で私の前に立とうとしている。

「カミーユさん……俺……まだ動ける……」

「動くな!! バカ!!」

 本気で叫んでいた。


(私は……もう誰も失えない)


 気づいたら、手が勝手に動いていた。

「全員伏せなさい!!」

 洞窟に私の声が響く。

 魔物が吠え、炎が渦を巻く。

 

 私は、右手をゆっくり掲げた。

(ずっと封じてきた魔法……もう隠す意味なんてない)

「――《氷結魔法・展開》」

 空気が冷たく震える。

 洞窟の熱気すら、私の周囲で止まった。


「《氷槍・連陣――アイス・ブレイク》!!」

 白い光が走り、

 マグマ・ビーストの身体に鋭い氷の裂け目を刻む。


 さらに、私は左手を振り下ろした。

「《氷牙乱舞》!!!」

 氷の牙が雨のように降り注ぎ、

 炎の巨体を切り裂く。


 最後に私は、心臓の奥から叫んだ。

「砕け散れぇぇぇぇ!!」


 ――轟音。

 氷と炎が激突し、

 マグマ・ビーストは粉々に崩れ落ちた。



 静寂が訪れた。

「カ、カミーユさん……今の……何……?」

「高位魔法……攻撃……!? ……魔導士……?」

「え、え、え……え???」

 仲間たちが目を丸くして固まる中、

 私はエリオットのところへ駆け寄った。


「エリオット、我慢しないで」

「……カミーユさんが無事なら……」

「もう黙りなさい……」


 私はそっと彼の背に触れた。

「《癒光・包環――ヒール・サークル》」

 水色の光が広がり、

 焼けた皮膚がゆっくりと再生していく。

 肉が戻り、皮膚の色が戻り、

 最後に痛みがふっと消えた。


 エリオットの表情が安堵に揺れる。

「……カミーユさん。

 俺、もう……だめかと思った」

「勝手に死のうとしないで。許可してないわよ」

「うん……怒ってるカミーユさんも好きだ……」

「黙りなさい!!!!!」

 でも顔が熱くて誤魔化せない。


 ミーナが横でニヤニヤしている。

「ねぇエリオット。あんた、完全に恋ね」

「だから言ったじゃん、俺カミーユさんが好きだよ」

「ふえっ!?」

「最初から自覚してるよ?」

「さ、最初から!?!?」


 私はエリオットの口を手で塞ぐしかなかった。

「も、もう……だめ。黙りなさい。今は……」

(今は……

 あなたが無事でよかった。それだけ)



 仲間の治癒を終え、

 エリオットはぴったり背後に立った。

「カミーユさん。俺……今度はカミーユさんを守るから」

「だから、あなたは守られる側なのよ」


「でも、好きなんだ」

「……こ、言葉の重さを――」

「理解してるよ。好きだよ、カミーユさん」

「もう、ダメだってば!や、やめてーーー!!!」

 必死で叫んだが、

 胸の奥が、痛いくらいにあたたかい。


(……怖いのに。

 失うのが怖くて、

 恋なんて絶対しないって誓ったのに……)


 少年の手のぬくもりが、

 その誓いを静かに溶かしていく気がした。


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