第4章 年下男子の恋は隠す気ゼロ
紅蓮洞窟の深層部は、いつもより蒸し暑かった。
湿った赤土と、硫黄の匂いが混ざり合う。
私は単独で最深部へ向かっていた。
だが──
「カミーユさーーん!! 待ってぇぇ!!」
……あの声。
なんでいるのよ、あの男。
「なんであなたたちがここにいるの?」
振り返ると、エリオットのパーティー三名も背後に揃っていた。
まるで「きれいに迷い込みました!」と自己紹介しているような顔で。
クルト(兄貴肌戦士)が頭をかき、
ミーナ(弓手)が盛大にため息をつき、
ランス(魔導士)は申し訳なさそうに俯いていた。
「いやぁ……道を間違えてたら、カミーユさんの気配を見つけてね!」
「追跡魔法でも使ったの?」
「ううん! 愛の力!」
「黙りなさい」
即答で弾き返すと、クルトが肩を震わせて笑った。
「ははっ! エリオットの“愛の力”って便利だな!」
「クルトやめて!? 俺、ガチなんだから!」
「それが一番めんどくさいのよ」
ミーナは眉間に皺を寄せながら言った。
「ていうかエリオット。あんた、最近ずっとあの人の話しかしないじゃない。
“今日もカミーユさん、めっちゃ剣の振りが美しくてさ~”とか」
「言ってない!」
「言ってたよ?」
「言ってました……」ランスが小声で補足。
エリオットは耳まで真っ赤になった。
「だって……好きなんだもん!」
「即答!?」
私も思わず振り返ってしまった。
ミーナが呆れながら問い詰める。
「……なんでそんなにはっきり言えるわけ?」
「えっ? 好きだから?」
「恋の自覚が強すぎる……!」
エリオットは照れる様子もなく、まっすぐに言った。
「カミーユさんってさ……いつも一人でいるじゃん。
でも、それって本当に“平気”って顔してるだけで……
たぶん本当は、すんごく寂しがりなんだよね」
「は?」
私は剣を落としかけた。
彼は続ける。
「俺さ……そういうの、放っとけないんだよ。
あの人、背中がいつも痛そうでさ。
誰にも頼らないで立ってんの、なんか見てられなくて」
「……」
「だから……気づいたら好きになってた」
ミーナ「さらっと言うなぁぁ!!」
クルト「いや、でもこれは重症だぞエリオット!」
ランス「恋ですね……完全に……」
やめなさい、全員。
なぜその場で“恋診断”が始まるのよ。
私は無表情を保ちながら、洞窟の奥へ歩き出した。
(やめて……本当に……心臓に悪い……)
奥へ進むと、洞窟の空気が急に熱を帯びた。
「出るぞ!」
クルトが剣を構える。
巨大な炎トカゲが三体、地面を揺らして現れた。
パーティーは慌てふためく。
「ぎゃー!? でかい!?」
「ミーナ、下がって!」
「ランス、結界!」
「む、無理ですぅぅ!」
……この子たち、本当に大丈夫?
私はため息をつき、前へ出た。
剣を抜く。
「下がって。全員まとめてやつけるわ」
「カミーユさん!? 一人で!? 危ないよ!」
「黙って見てなさい」
炎トカゲが炎のブレスを吐いた瞬間、
私は踏み込み、一閃。
「……え? 一撃?」
「ま、まじ?」
「すご……」
三体は同時に倒れ、どさっ、と地に崩れ落ちた。
三人は酒場並みにざわついている。
エリオットは目を輝かせて叫んだ。
「カミーユさん最強ーーーーー!!」
「騒がないで」
「だって! すごかったんだもん!」
ミーナが呆れた目で言った。
「……ねぇエリオット。あんた、絶対守られる側じゃん」
「うん、守ってほしい!」
「開き直ったわ!!」
クルト「カミーユさんの方がよっぽど強いよな……」
ランス「惚れるのもわかります……」
「聞こえてるわよ。全員」
三人「す、すみません!!」
エリオットだけは嬉しそうだった。
(ほんと……厄介すぎる男)
洞窟の最深部に近づいた時だった。
地鳴りと共に、奥から不気味な魔力の揺らぎが伝わってきた。
「なに……この感じ」
胸の奥で、なぜか“治癒師の勘”が疼いた。
私はしばらく魔法を使っていないのに。
(……こんな感覚、久しぶり)
エリオットが心配そうに覗き込む。
「カミーユさん、どうしたの? 顔色悪いよ?」
「……大したことないわ」
本当は胸騒ぎが止まらなかった。
何かが起きる。
嫌な予感が、骨の奥まで響く。
(この奥には……もっと危険な何かがいる)
私は剣を強く握りしめた。




