第2章 年下男子は距離が近い
紅蓮洞窟へ向かう道中。
私は黙々と歩いていた。
隣では、エリオットがなぜか“同じ歩幅”でついてくる。
……いや、本当にぴったり同じ歩幅。
こっちが少し速度を上げても、合わせてくる。
「ちょっと。あなた、歩くの速くない?」
「カミーユさんが速いんだよ。俺は合わせてるだけ」
そう言って、またにこっと笑う。
(……なに、その万能スマイル)
「合わせなくていいわよ。別に、会話する必要もないし」
「えー? 仲間なのに?」
「“形だけ”って言ったでしょう」
「うん。でもさ、形だけでも仲間は仲間じゃん」
……なんでそういうことを、ためらいなく言えるのかしら。
私の胸が、少しだけざわついた。
「それにさ、剣士同士、仲良くしたいなって思って」
「私は孤独が好きなの」
「俺はカミーユさんが好きなんだけど?」
「やかましいわね」
はい出た。
こういう直球の言葉が一番困る。
私のペースがぐらっと乱される。
(きっと、深い意味なんてない。年下男子特有のノリだわ……)
「ねぇ、カミーユさん」
「何」
「俺のこと、少しくらい気にした?」
「……してないわ」
「そっかぁ。じゃあ、今日の目標は“ちょっと気にされる男になる”だね!」
「私の意思はどこに行ったのよ」
ひとりで盛り上がらないでほしい。
でも、気づけば会話してしまっている自分にも腹が立つ。
この男……話すテンポがうまいのよ。
「でさ、カミーユさんって、何で魔法使わないの?」
ぶっ――。
足が止まりかけた。
「……どうして、そう思うの?」
「だって、あんまり使う気配がないし。
本気で戦う人って、無意識に魔力が揺れるんだよね。でも、カミーユさんは……完全に“無風”」
「……ただの体質よ。魔力が少ないの」
「えっ!? じゃあどうやってあんなに強いの!?
努力!? 天才!? 生まれつきの剣筋がエグいの!?」
大げさに両手を振って騒ぐエリオット。
「ちょっと、道の真ん中で跳ねないで」
「だって! すごすぎて! 俺なんて魔力強化がなかったら、絶対剣ふるの遅いよ!? カミーユさんはなんでそんなに動けるの!? 妖精!? 鍛錬の化身!?」
「騒がないで」
「はいっ」
素直なのが腹立つ。
いや、別に怒ってはいない。
ただ……むずがゆい。
「カミーユさんさ」
「……何」
「魔力少ないのにあれだけ戦えるなんて、めちゃくちゃかっこいいよね」
「…………」
さらっと言うな。
そういうのは、もっとこう……
黙って横顔を見つめて、夜の焚き火の前とか……
そういう雰囲気で言うものじゃないの?
「な、何? 黙ると逆に怖いんだけど」
「別に」
私はつい視線を逸らした。
……顔が熱いのを悟られたくなかった。
「ねぇカミーユさん」
「しつこい男は嫌われるわよ」
「大丈夫。嫌われてもついていくから!」
「迷惑よ」
「ひどい!」
道中、こんな調子だった。
やがて紅蓮洞窟の入口が見えてきた頃。
「さて。ここから別行動よ」
「え? 一緒に入らないの?」
「あなたたちはあなたたちのルートで。私は私のルート」
「……ふーん」
珍しく、エリオットの声に影が落ちた。
「ひとりで行きたい理由……いつか教えてくれる?」
「教える必要性を感じないわ」
「そっか。でもさ」
彼は、なぜか柔らかく笑った。
「カミーユさんが“誰かと一緒にいてもいい”って思える日が来たら、その時は教えてよ」
「…………」
何、その言葉。
私の心の奥に、気安く触らないで。
でも、その優しさが――
ほんの少しだけ、胸に刺さって離れない。
(だめ。揺らいじゃだめ)
私は無表情を保ったまま、洞窟へ向かって歩き出した。
その後ろで、エリオットが手を振っている。
「じゃあ、無茶しないでね! カミーユさんが死んだら、俺、泣くから!」
「死なないわよ」
「返事した! やった!」
遠くのほうで、なぜかガッツポーズしているエリオットの声が聞こえた。
……うるさい男。
でも。
ふと、口元が緩んだのを、私は自分で誤魔化すように咳払いして隠した。
(……ああもう。本当に厄介な男ね)
そう思いながら、私は洞窟の闇へと足を踏み入れた。




