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002話

2話で終わりかな……。


※注意事項


この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。



【宇宙暦6409年3月31日 シュレヒト共和国 チュウオウ宙域 装甲駆逐艦 兵舎】


任務は成功した。


私の役割「帝国軍貨物船アハトウントアハツィヒの入港支援」は、完全に遂行された。


管制塔のシステムを掌握し、艦に安全な着陸許可を出し、共和国側の防衛反応を10分遅らせた。

その10分間で、全てが終わった。


私は確かに、軍人である。

誓った。父のように、国家のために尽くすと。

祖国を、再び偉大にするために。


だけど。


あれは、戦争ではなかった。

あれは「虐殺」だった。


火炎放射器で、子どもたちが逃げる道を塞ぐ意味があっただろうか?


カフェで泣いていた少女が、どんな「軍事的脅威」になった?


老人を背負って逃げようとしていた男に、なぜ連続射撃が必要だった?


私は、管制室の片隅でそれを見ていた。


映像越しに。音声越しに。


通信機越しに、爆発音と悲鳴が何十回も届いた。


…耐えられると思っていた。訓練では、覚悟はしていた。


だけど、それは「敵兵」だと思っていたからだ。


市民を射殺する突入部隊が、冷笑を浮かべていたのを見た。


市街地を「掃除した」と報告してきた兵士の声に、誇りが滲んでいた。


私は今、帝国軍の中にいて、帝国に仕えている。

でも、あの瞬間、胸の奥に何かが音を立ててひび割れたのを感じた。


タンシュタイン少佐に再会した。昔と変わらず、あの人は冷静で、優しく、そして正しい人だった。


でも、作戦中のあの声。「目に入った者を殺せ」と、何の躊躇もなく命じた声。


あれが、あの人の「今」なんだと、理解した。


それでも、私はあの人を憎めない。軍人としても、人間としても、尊敬している。


でも、尊敬と正義は、もう一致しないのかもしれない。


昨夜、艦内の食堂では祝杯が上がっていた。戦果を祝う声、笑い声。


だけど私は、食堂の端で水だけを口に含み、早々に席を立った。


カップの底に、共和国の子どもたちの顔が映る気がして。


帝国のために働くことに、迷いはなかった。だけど、今は少しだけ怖い。


この国が「勝利」を重ねるたびに、私たちが何かを失っていくのではないかという、根拠のない恐怖。


私の手は血に染まっていない。


だけど、命令を受け入れたその瞬間から、私はもう、ただの「良い兵士」ではいられない。


朝から胃が重く、何も喉を通らなかった。


昨夜の記録を見直す勇気も出ず、ただ兵舎の天井をぼんやりと見上げていた。


私が眠った間に、何人の「共和国市民」の名が死亡者リストに加えられたのだろう。


何人の子どもが、家族を探してあの焦土をさまよったのだろう。


私たちの作戦は「成功」と記録されている。


帝国軍本部からの第一報では、「敵軍に心理的衝撃を与え、共和国防衛網を撹乱した意義ある先制攻撃」と評価された。


それを聞いて、吐き気を覚えた。


今日、私はタンシュタイン少佐に面会を申し入れた。


正式な軍務報告ではなく、「個人的な相談」として。


私は弱いのだろうか?


こうして感情に左右され、正義とは何かをぐるぐると考えてしまう私は、帝国軍人として失格なのだろうか?


でも、どうしても少佐と話がしたかった。少佐なら、私の葛藤を聞いてくれる気がした。


◇◆◇◆◇◆◇


艦長室。


ノックの音が自分の心音と重なっていた。


扉が開けると、タンシュタイン少佐が顔を上げた。


変わらない瞳。


けれど、昨日とは違う空気があった。


作戦を指揮した者の顔。命令を下し、血を流させた責任者の顔。


「ネーベルシュタイン中尉。」


静かにそう言われて、私は正面の椅子に腰を下ろした。


言葉が、なかなか出てこなかった。


息を整えるふりをして、ほんの少しだけ目を伏せた。


そして、思い切って言った。


「……少佐。昨日の作戦の件ですが、私は……自分が正しい行動をしたのか、わからなくなっています。」


少佐はすぐに返答しなかった。ただ、私の言葉を否定せず、最後まで聞いてくれた。


「子どもも、母親も、武器を持っていない人たちも――撃たれて、焼かれて、街ごと壊されて……。それが、戦争だと分かっていても。私、あれを誇れる任務だったとは……言えません。」


言葉が震えていた。でも、泣かなかった。泣きたくなかった。


タンシュタイン少佐は、しばらく沈黙の後、ゆっくりと言った。


「私も同じだよ、中尉。」


その言葉に、張り詰めていたものが少しだけ緩んだ。


「あれは作戦だった。だが、人間として胸を張れるものではない。我々は勝つために戦っているが、それがいつしか壊すためになってしまうなら――それは、帝国にとっても毒になる。」


その瞬間、私はこの人がまだ“正気”であることを確信した。


私は思い切って、上層部に報告書の補足意見を添える提案を持ちかけた。


非戦闘員の識別強化、民間施設の被害最小化手順の整備、心理戦と実戦の境界線の明確化……。


少佐は少し考え、こう言った。


「それは軍務としてではなく、人間としての発言になる。覚悟はあるか?」


私は頷いた。それしか、答えられなかった。


今日の会話が、私の中に一本の「杭」を打ち込んだ。


この杭を軸にして、私はもう一度、何のためにこの軍にいるのかを考え直そうと思う。


少佐が背負っているものの重さを、私はほんの一部しか知らない。


だけど、この人となら――私は、少しずつでもただの破壊者ではなく、守る者でいられる気がする。


希望はまだ、捨てていない。


◇◆◇◆◇◆◇


【宇宙暦6409年4月1日 ヘーラウスラーゲント帝国 首都星 帝国軍第八装甲駆逐艦隊 旗艦アハツィヒ】


本日、予定通り帝国首都星第一基地へ帰還した。


着艦後、私は第八装甲駆逐艦隊旗艦のアハツィヒに出頭した。


「客室でお待ちください。」


司令官の副官(大尉)が私に言った。


「はい。」


私は客室に入室した。


さて、何から話すか? 私は考えた。


数分後、ノックがあった。


「入るぞ。」


司令官のクルト・アーベル大佐が入室した。私はすぐさま敬礼をした。


「タンシュタイン少佐、先の任務は見事だった。」


司令官のクルト・アーベル大佐が満足そうに言った。


「ありがとうございます。」


私はそう言って、報告書を渡した。


「少佐、君に良い知らせを伝えよう。」


アーベル大佐が言った。なんだろう?


「昇進だ、少佐から中佐へだ。」


昇進、まさか20歳で中佐になるなんて……。


駆逐艦の艦長の階級は、大尉、少佐という決まりがある。ということは、中佐になった私は異動になるのかな?


「それでだ、異動がある。戦艦ラーベンブルクの艦長だ。」


「はい。」


戦艦の艦長か……偉くなったな…。


ヴァイゼの副官から昇進して少尉から大尉へ二階級特進。


艦長の仕事を頑張って大尉から少佐に。


そして、今回の任務で少佐から中佐に。


「タンシュタイン中佐、私と会うのはこれで最後だと思う。何か言いたいことはあるか?」


「お世話になりました。」


これでお別れか……。


「そうか、私は貴官に言いたいことがある。中佐、無理して戦果を取るよりも、生きて帰る方を優先しろ。死んだら、残った家族が悲しむ。戦果があっても、勲章があっても死んだら意味がない。私は、生きて帰ることの方が名誉だと思う。戦争が起きても、生き残るんだぞ中佐。家族のことも考えるんだ。」


「はい……。」


生き残る……か。


私は戦死の方が名誉だと思う。生きて帰ることよりも、命をもってお国の為に戦死する方が……。


まぁ、アーベル大佐の言っていることにも一理はあるが……。


家族のことも考える……。


私がいなくなったら、悲しむか?


「葬儀費が高い」とか言ってイライラすると思うが……。


「話は以上だ。」


アーベル大佐がそう言った。


「失礼しました。」


私は客室を退室した。


◇◆◇◆◇◆◇


【宇宙暦6409年4月1日 シュレヒト共和国 宇宙要塞チュウオウ 要塞司令室】


「この惨状を、一時的被害と言えるのか?」


チュウオウ回廊方面軍司令官兼チュウオウ要塞司令官のマキハラ・ユウイチ元帥がそう言った。


私は、モニター越しに映る第8宇宙港の姿を、ただじっと見つめていた。


辺り一帯に立ち上る黒煙。火災を抑えきれず、いまだ燃え続ける燃料プラント。負傷者の収容が追いつかず、離着陸場の上に並べられた数百の遺体。


チュウオウ要塞の誇る高度防衛網が、この奇襲に対して無力だったという事実だけが、鉄の味を持って胸に突き刺さっていた。


「閣下。現時点で確認された死傷者は要塞市民を含めて6万2千以上。要塞の機能自体は健在ですが、第8宇宙港と港湾施設群の壊滅により、補給能力は63%まで低下しています」


隣にいるシオリが、冷静にマキハラ元帥に報告した。


「それだけの被害を、健在とは言わん。」


ユウイチ元帥は語気を強めた。


「……すまないユガワ大佐。怒っているわけではない。ただ……悔しい。」


「はい。」


私は、報告書に視線を戻した。


ツム・エルステン・マル級装甲駆逐艦88番艦アハトウントアハツィヒ


帝国に偽装されたあの装甲駆逐艦が、この要塞に着陸してからわずか23分間で、チュウオウ要塞の表面構造の一部を地獄に変えた。


民間人への無差別攻撃。港湾爆破。施設への徹底的な破壊行動。


そして工作員の存在……帝国軍による予告なき開戦が、これほど洗練されているとは想像だにしなかった。


「これが宣戦布告でないなら、何なのだ」


ユウイチ元帥は再び呟くように言った。


「試し斬りでしょう」


「試し斬り?」


シオリが顔を上げ、静かに言った。


「共和国の反応を見たんです。この要塞がどの程度の被害を受けるか。艦隊はどれだけの速度で動くか。政治はどう動揺するか。そして……」


「報復の意志があるかどうか、か。」


シオリは静かに頷いた。


私は顎に手をあて、思索に耽った。共和国議会は今回の件で既に臨時会議を開いており、「全面戦争回避」のために帝国との外交ルートの再確認を指示している。しかし…


「戦争は、始まっている」


その言葉を呟いた瞬間、司令室内の空気が凍った。


数分後。


司令室の大型通信スクリーンに、元帥旗のマークが点灯する。


通信元は、共和国軍総司令部、総司令官のカワベ・シゲキチ元帥。銀河大戦の英雄であり、今なお現役で共和国軍を統べる老将だ。


『マキハラ元帥、状況報告を頼む。』


「はい。帝国軍の装甲駆逐艦アハトウントアハツィヒによる奇襲は、明確な帝国軍主導の軍事行動と断定。第8宇宙港は、壊滅的被害を受けました。港湾網および補給拠点の約40%が損壊。要塞自体の防衛能力はまだ維持可能ですが……現状では、持ちこたえるのがやっとです。」


『よくやった。要塞が陥ちなかっただけでも奇跡だ。』


「……ですが、このままでは次はありません」


マキハラ元帥の声は低く、かすかに震えていた。


カワベ元帥の声が返る。


『それを回避するために命令する。新たに共和国軍第三、第四、第五、第二十一艦隊をチュウオウ回廊に集結させる。』


司令室内がざわついた。

その場にいた人たちが次々と顔を見合わせる。戦力のほとんどをナカタ地方に集中。それは戦術ではなく賭けだ。


「敵がチュウオウ回廊以外のから同時侵攻を仕掛けてきた場合…。」


私は敢えて問うた。カワベ元帥は一瞬間を置いて、答える。


『今、動かねばならん。帝国に対し、シュレヒト共和国は屈せぬと示す必要がある。』


通信が切れると同時に、戦略マップが更新された。


第三、第四、第五、第二十一艦隊。続々と艦隊の目標地点がチュウオウ回廊へと引かれていく。共和国の艦隊が一ヶ所に集結しつつあった。


「何が今、動かねばならんだ。」


私はそう言った。


戦力の集中なんて、これは明らかに愚かだ。


今回の事件は、我々の目をナカタ地方に注目させるための作戦という可能性もある。


別の回廊からの侵攻されたら、対処できるか?


特にバウアー回廊だ。


バウアー回廊から侵攻された場合、応戦できる戦力は首都防衛軍(2個艦隊、40個師団)とインテリゲント伯爵国駐留軍(1個艦隊、10個師団)だけだ。


たった、3個艦隊。


敵が全力で侵攻したら、確実に首都星は陥落するだろう……。


マキハラ元帥は銀河大戦の英雄と聞くが、有能なのか?


もう高齢だから、ボケたのか。


「閣下のご命令だ。何か策があるのだろう。」


マキハラ元帥がそう言った。



to be continued…





◎共和国軍の編成(宇宙歴6409年4月1日)


◯チュウオウ回廊方面軍

・15個艦隊

(第三、第四、第五、第六、第七、第十一、第十二、第十三、第十四、第十五、第十六、第十七、第十八、第十九、第二十一艦隊)

・91個師団 

(第43〜133師団)


◯ミタ方面軍

・1個艦隊

(第十艦隊)

・2個師団

(第134、第135師団)


◯ナカタ方面軍

・2個艦隊

(第八、第九艦隊)

・7個師団

(第136〜142師団)


◯ユーメー国駐留軍

・8個師団

(第143〜150師団)


◯ナカミヤ方面軍

・2個艦隊

(第41、第42師団)


◯首都防衛軍

・2個艦隊

(第一、第二艦隊)

・40個師団

(第1〜40師団)


◯インテリゲント伯爵国駐留軍

・1個艦隊

(第二十艦隊)

・10個師団

(第151〜160師団)

ここはこうした方がいいなどのアドバイス、誤字脱字があればぜひ感想欄に。

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