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グリムの判断

 地下八階の攻略が完了してしまった。感知可能な範囲で、全てのギガンテスが消滅したのだ。後は地下九階への階段を探すだけである。


 正直、今回は地下八階を攻略する気は無かった。というよりも、出来ないと考えていたのだ。アリスがここまで戦えると知らなかったからな。


 けれど、百以上は居た巨人が全て狩り尽くされた。アリス一人の手によって、数時間の内に全てだ……。


「グリム様、戻りました! この階層は制圧済みです!」


 虐殺を終えたアリスは、笑顔で俺の前へと戻って来た。その表情を見る限り、俺に褒めて貰えると思っているのだろう。


 しかし、俺はペローナに視線を向ける。そして、先に彼女へと指示を出した。


「ドロップの回収を頼む。放置するとダンジョンに吸収されかねん」


「ああ、任せて貰おうか。私もそのくらいは貢献させて貰わねばな」


 ペローナは静かに頷き駆け出した。アリスの戦闘を見ていただけなのが、彼女にとっては申し訳ない気分だったのだろう。


 俺は再びアリスに視線を戻る。アリスは俺の表情に何かを察したらしい。緊張した面持ちで、静かに俺の事を見上げていた。


「アリス。ギガンテスの事を初めから知っていたのか?」


「い、いえ……。あの敵の事は、何も知りませんでした……」


 アリスは慌てて首を振る。俺に何かを疑われていると感じたのだろう。その瞳には、ジワリと涙が浮かんでいた。


「ならば何故、一目で特性を見抜いた? お前は何故、あそこまで的確に動ける?」


「わ、わかりません……。敵を見た瞬間に、理解出来たとしかわからないんです……」


 アリスは怯えた様子で身を震わせている。俺に問われるこの状況が、彼女にとっては酷く恐ろしく感じるのだろう。


 そして、アリスの性格上、嘘を付くとは思えない。俺に何かを隠していたなら、必死で謝罪をしているはずだ。


 つまり、彼女の言葉は真実。本当に見た瞬間に理解出来たと言う事なのだろう。


「……お前は何故、魔物達を敵と呼ぶ?」


「え? だって、魔物は敵ですよね?」


 俺の問いにアリスはポカンと口を開く。質問の意味がわからないと言った表情だ。


 つまり、アリスには自覚が無いらしい。深層に入った辺りから、自分の意識が変わった事に。


 それまでは魔物に対して、敵と言う言葉を使っていなかった。魔物は魔物と呼んでいたのだ。


 しかし、深層に入ってから魔物を敵視する様になった。まるで魔物が憎き存在であるかの如く、狩り尽くさんとしている事に気付いていないのだ……。


「……アリスもドロップの回収に行け。この階層のマッピングが済めば、すぐに帰還するつもりだ」


「え……? 地下九階には下りないのでしょうか……?」


 俺の言葉にアリスは呆然としている。何故だか彼女は、地下九階に降りるのを当然と考えていたみたいだった。


「地下九階に降りる予定は無い。それは今回の計画には含まれていない」


「け、けどすぐです! 地下への階段でしたら、先ほど見つけました!」


 空を自由に駆けるアリスなら、階段の探索も片手間で出来たらしい。それ自体は素晴らしい仕事であると言える。


 しかし、ここまで必死なのは何故だ? どうしてアリスは、そこまで地下に降りたがる?


「……俺達の持つ帰還のスクロールは、地下八階までしか発動出来ない。いざと言う時の保険が無い以上、危険を冒してまで降りる理由が無い」


「そんな……。せめて、一目見るだけでも……」


 アリスは上目遣いに懇願する。その瞳には焦りが滲み、冷静な状態には見えなかった。


 俺はゆっくりと首を振る。そして、アリスに対してキッパリと告げた。


「駄目だ。これは決定事項だ。俺の指示に従え」


「は、はい、グリム様……。わかり、ました……」


 アリスは肩を落として渋々と頷く。どう見ても納得している様子ではない。


 けれど、この態度で俺は更に疑惑を深める。今のアリスは正常ではない。これ以上先へと、進めさせてはいけないのだと。


 アリスは未練がましく俺に視線を送る。しかし、俺が睨み返した事で諦める。彼女は意気消沈しながら、ドロップの回収へと跳び出して行った。


「……アリスに何がおきている?」


 俺は小さくなったアリスの背中を見つめる。しかし、今は情報が足りない。ここで考えていても答えが出るとは思えなかった。


 俺は小さく息を吐き、渋々と思考を中断する。そして、魔力の波動によって、この階層のサーチを始める。


 この階層の地図を用意し、冒険者ギルドへと提出する。それが出来れば間違いなく、この階層は攻略済みだと公式な記録に残るだろうからな。


 残す階層もあと僅かである。焦る事無く、じっくりと進めて行けば良いだろう……。

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