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マジかよ(アルベルト視点)

 俺はアルベルト。冒険者ギルドのギルドマスターをやっている。


 若い時にはA級まで上り詰めた冒険者でもある。その時の経験や人脈を頼られ、こんな大役を任された訳なんだが……。


「やっぱ、柄じゃねぇよなぁ……」


 現役の時はリーダーを務めていた。とは言え、俺は剣士で戦闘が得意。決して頭が良い方では無かった。


 そんな俺でも何とかやって来たが、グリムへの対応では下手を打った。『黄金宝珠』の解散は、全て俺に責任があると言っても過言ではない。


 無論、領主様へは報告したし、何なら責任取って辞職をと進言した。けれど、それは困ると全力で止められてしまったのだ。


 俺に代わって、グリムの相手を出来る奴がいないのだ。誰もがグリムを怖がって、まともに会話をしたがらない。


 相手を出来る受付嬢も、俺の娘のヘレンくらいだろう。娘は俺に似て負けん気が強いので、怖がらずに対応出来ているが……。



 ――コンコン。ガチャ。



 ノックの音がしたと思うと、すぐに扉が開いた。俺の返事を待ちすらしなかった。


 そんな対応をするのは一人しかいない。視線を向けると、そこには娘のヘレンが立っていた。


「ギルドマスター、ご報告があります。少しお時間宜しいでしょうか?」


「ああ、別に構わんよ。お前が来るって事は、グリム関連の案件か?」


 娘は部屋に入りながらコクリと頷いた。俺が中央のソファーへ移動すると、ヘレンも移動して向かい合って座る。


 改めて見るが、娘のヘレンは美人だ。年齢は今年で十八歳。ストレートの赤毛と、切れ長の目は母親似である。


 厳つい俺に似なくて良かったな。そんな事を考えていると、娘はスパっと要件を切り出して来た。


「まずは、グリム様の活動実績です。先ほど戻られましたが、地下四階を狩り尽くしたそうです。当面はリザードマンの出現数が激減するだろうとの事です」


「マジかよ。明日は朝一で周知しといてくれ。一部の奴等からはクレーム入りそうだな……」


 中層である地下四階は、中級魔石を一番楽に稼げる階層なのだ。C級の多くが、地下四階で小遣い稼ぎをしている。


 その小遣いで準備を整え、彼等は地下五階への攻略準備を行う。入念な準備は必要となるが、その先へ進めないなら冒険者としてはソコソコで終わってしまうからだ。


 そんな地下四階が、しばらく使えなくなる。何組かのパーティーは活動が止まり、地下三階で日銭を稼ぐ日々を過ごす事になるだろう。


「それと明後日から、地下八階を目指すそうです。攻略の申請は受理してあります」


「そっちもマジかよ。本気で嬢ちゃんの準備が整ったってのか……?」


 地下七階を覗くだけなら、グリムとペローナの二人だけでも可能だろう。疲れが出れば、地下六階へ戻るか、帰還のスクロールを使えば良いからだ。


 しかし、地下八階へ進むなら、地下七階で数日過ごす事になる。仮眠も取れずに何日も戦い続けるのは余りに非現実的である。


 あそこは奇襲を得意とするレッドキャップの階層だ、一人が仮眠を取り、一人で全てを捌くのは厳しい。必然的に子兎の嬢ちゃんも戦えないと話にならない。


 しかも、この街の深層は他のダンジョンと違う。難易度S認定の高難易度エリアだ。他のA級冒険者も寄り付かない場所なのである。


 グリムと言う変わり者でなければ挑もうとしない。そんな場所を、あの嬢ちゃんが本当に挑んで大丈夫なのだろうか……?


「ああ、ペローナさんも太鼓判を押していました。アリスさんの実力は問題ないかと思います」


「……今、顔に出てたか? まあ、ペローナまで言うんなら、本当に大丈夫なんだろうがな~!」


 グリムの言葉を疑う訳では無いが、奴は天才過ぎて理解出来ない所がある。けれど、ペローナは常識人なので、普通・・に考えても大丈夫と言う事だろう。


 それはそれで、この短期間でどうやってと思わなくはない。けれど今の状況を考えると、それは望外の結果だと言うしか無い訳なのだが……。


「そして、ギルドマスターの懸念事項ですが、少し不味いかもしれません……」


「は? それってどういう意味だ……?」


 俺が顔を顰めると、ヘレンは一枚の報告書を手渡して来た。俺はその報告書にさっと目を通す。


 そして、書かれている内容に頭を抱える。娘の言いたい事が十分に理解出来たからだ。


「……これ、もう時間の問題じゃないか?」


「はい、そう思います。絶対に来ますね」


 娘は真顔でコクコクと頷く。感情を押し殺してはいるが、嫌そうな雰囲気は滲み出ていた。


 俺は天井を見上げて大きく息を吐く。そして、心の底から思った言葉を口にする。


「俺、ギルドマスター、すっげぇ辞めてぇんだが……?」


「駄目です。他の誰に対処出来るって言うんですか?」


 いや、俺にだって対処出来る自信なんて無いぞ? そう思いはしたが、娘の眼光に俺は思わず口を噤んだ。


 絶対に逃がさないと言う、強い意志が感じられた。こういう所まで、母親に似なくて良かったんじゃなかろうか?


 俺はもう一度報告書に目を落とす。そして、『王国の魔女』の記載に、泣きたい気持ちで一杯になった。

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