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メイドのアリス

 俺はアリスとグレーテルと共にテーブルに着く。朝食はパンと野菜のスープとミルクである。


 俺はスープの野菜を口に入れる。しっかり火が通り柔らかい。恐らくは家で調理し、ここでは温めれば食べる状態にしていたのだろう。


 こんな朝早くから、随分と手を掛けている。俺は呆れながらも、無言で食事を取り続けた。


「そんでグリムさん。アリスちゃんをどうするつもり?」


「どうするとは?」


「何かお仕事を任せたりしないの?」


 グレーテルの問いに俺はしばし考える。大まかな予定はあるが、直近でどうするかは決めていなかったからだ。


 というのも、今のアリスには体力が無い。こんな状態ではダンジョンに挑む所か、冒険者の基礎を叩き込み事すら難しい。


 当面は回復に務めさせ、俺は俺で溜まった研究を消化するつもりだった。はっきり言えば、休ませる以外に仕事なんて考えていなかった。


「決めて無いなら、私が料理を教えようか?」


「何だと? 料理を教える?」


「そうそう、家事は出来た方が便利でしょ?」


 俺は手元の朝食に視線を落とす。普段は朝を食べない事も多い。昼にどこかの店で食べ、夜も食べたり食べなかったりだ。


 無論、必要最低限な栄養は摂取している。しかし、食事に出かけたり、準備するのは手間だと考えていた。


 それを人に任せられるのは正直助かる。その分の時間を、検証や実験に費やす事が出来るのだから。


「他にも掃除、洗濯、買い物なんかも教えてあげるよ♪」


「……ふむ、悪くない提案だな」


「なら決まりだね! 私がアリスちゃんを立派なメイドへと育成してあげる!」


 メイドと言うのは貴族に仕えてる女性の名称だな。まあ、一般市民の家政婦と同じと思えば問題無いか。


 俺はチラリとアリスに視線を向ける。何故だか彼女は、何かを言いたそうにもじもじしていた。


「何だ、アリス? 言いたい事があるなら話せ」


 俺が声を掛けると、アリスはビクリと肩を震わせる。そして、顔を赤らめると、グレーテルへと問いかけた。


「家事を覚えたら、グリム様のお役に立てますか……?」


「立てる、立てる! すっごく喜んでくれると思うよ!」


 ニコニコと笑顔で答えるグレーテル。その返答にアリスは嬉しそうに笑みを零した。


「なら、覚えたいです。わたしに家事を教えて下さい。……お姉ちゃん」


「教える、教える! 手取り足取り、みっちりと教えてあげるね♪」


 はぁはぁと荒い息で応えるグレーテル。そこはかとなく不安もあるが、仕事はキッチリこなすだろう。何せヘンゼルの妹だしな。


 俺は食事を続けつつ、二人のやり取りを横目で眺める。だが、ふっとグレーテルの視線がこちらに移った。


「つきましては、アリスちゃんにはメイド服を着せたいと思います!」


「メイド服だと? そんな貴族が仕立てる服を、簡単に入手出来るはずが……」


「そう思って作って来ました! 私のお手製メイド服を三着用意してます!」


 グレーテルはそそくさとリュックに手を伸ばし、その中から一着の服を取り出した。それは間違いなくメイド服であった。


 黒をベースにした布地に、白いエプロンとフリルが縫い付けられている。そして、何故かスカートが短い。あの長さでは膝上までしかないだろう。


「これをアリスちゃんの普段着にする事を推奨します!」


「貴様は馬鹿なのか? どうして、わざわざ作ってまで……」


「それはこの街で暮らすのに、必要だと思ったからです!」


 グレーテルの言葉に俺は食事の手を止める。そして、アリスへと視線を向けた。


 彼女は奴隷である為、鋼鉄の首輪が付けられている。これは奴隷である事を示す物で、国の許可なく外す事は出来ない。


 そして、彼女の頭部には兎の耳が生えている。一目で獣人とわかり、一部の者達から差別や暴力を受ける可能性がある。


 それを防ぐ為には、アリスが身分ある者の所持品と示す必要がある。目を付けられると不味い、高い地位を持つ者が主人であると。


 アリスがメイド服を着ていれば、多くの者達は彼女が貴族の所持品と誤解する。そして、あからさまな差別や暴力を受ける事は無くなると言う事である。


「ふん、悪くない提案だ。お前の好きにすると良い」


「やったね、アリスちゃん! 私が可愛く飾ってあげるね♪」


「は、はい! お姉ちゃん、ありがとうございます!」


 事情はわかっていないが、アリスは嬉しそうな笑みを浮かべている。新しい服を貰える事が嬉しいのだろう。


 まあ、普段着についてはグレーテルに任せれば良いか。俺からすれば、アリスの服装なんて何でも良いのだから。


 だと言うのに、グレーテルは底抜けに明るい笑みで、こんな事を宣言し出す。


「ようし、絶対にグリムさんに可愛いって言わせるぞ~! 一緒に頑張ろうね、アリスちゃん♪」


「わ、わかりました! グリム様に気に入って貰える様に頑張ります!」


 グレーテルに触発され、気合を入れるアリス。そんな彼女の反応に、グレーテルは嬉しそうに何度も頷く。


 俺は飽きれて大きく息を吐く。俺に可愛いと言わせる事に何の意味があると言うのだ?


 やはり、俺には愚者の考えはわからない。さっさとこの騒動が収まってくる事を祈るばかりである。

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