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夜の番人(ペローナ視点)

 私の名はペローナ。狼人族に生まれた、黒毛の異端児。そして、狼人族から追い出された女だ。


 けれど、それはもう過去の話。今の私はA級冒険者であり、アンデルセンの街では『夜の番人』として親しまれている存在だ。


 そう呼ばれる所以は、私の使う闇魔法『覗き見』が関係している。私は日が沈んだ夜の世界では、闇を通して街中を覗き見る事が出来るからだ。


「……怪しい奴がいるな。警告しておくか」


 私はグリムから貰った部屋の中で、ベッドに横たわった状態だ。それでも、街に怪しい動きが無いかを覗き見る事が出来る。


 そして、今日は夜遅くに貧民街で怪しい動きがあった。真っ黒なフードとマントで身を隠し、こそこそと貴族街へと向かう者達がいるのだ。


 私は『覗き見』越しに『威圧』を放つ。怪しい男達はビクリと身を震わせ、慌てて周囲を確認し出した。


 恐らくは強い魔力を持たない者達だ。私の『威圧』により、今は強い恐怖を感じているはず。


 これで引き返すなら良し。そうでないなら、直接現地に赴いて、私が手を下す必要が出て来る。


 しばらく様子を見ていると、男達は貧民街へと引き返して行った。どうやら、何かしらの悪事は未然に防げたらしい。


「うむ。今日も平和が守られたな」


 悪者を何度か叩き潰したお陰で、こういう馬鹿者は減った。最近はアンデルセンの街で、犯罪率が減少したと噂される程である。


 私が夜に予定が無い時だけなので、こういう見回りは毎日出来る訳では無い。けれど、夜に悪事を働くと、ペローナがやって来ると悪人には認識され始めている。


 それは裏の世界だけでなく、表の世界でも知られ始めた。このまま行けば、私は街の皆にとってのヒーローとなれるだろう。


「ふっ、悪くないな……」


 グリムの口癖を真似る内に、私も良く口にする様になったフレーズだ。だけどこれは悪くない。グリムは本当にクールでカッコイイからな。


 けれど、グリムは人を寄せ付けようとしない。悪く受け取られ、誤解される事が多い。私はそれが悲しく、もどかしかった。


 だから、グリムの弟子であり、右腕である私がヒーローとなる。そうして少しでも、グリムの悪評を打ち消して行きたいと思っている。


 今の私があるのはグリムのお陰。この偽りの平和も、人間と言う立場も、全てグリムが私に与えてくれた物なのだ。


 私はこの幸せを失いたくない。もう二度と辛い過去には戻りたくない。だから、私はグリムの側で、グリムの日常を守らないと行けないのだ。


「……けど、私だけでは駄目だ」


 アリスがグリムの奴隷となり、その世話役にグレーテルがやって来た。それからのグリムは雰囲気が変わった。微かにだけど、良く笑う様になった。


 かつてのグリムは、いつも張り詰めた空気を漂わせていた。その空気を恐れて、多くの人々がグリムを避けていた。


 今のグリムは優しい。私も側に居て心が落ち着く。以前のグリムもカッコ良かったけど、私は今のグリムの方が好きだ。


 だから、私が守る日常には、アリスとグレーテルも必要だ。私は皆の事を守って行かなければならない。


 それは私がやるべき務めである。何でも出来るグリムと違って、私に出来るのは敵を倒す事だけなのだから……。


「――っ……?! 今のは、誰だ……?」


 私の『覗き見』に干渉があった。恐らくは同系統の魔法が、私の魔法と接触したのだろう。


 その感触は一瞬で、すぐに消えて無くなった。警戒度を一段上げるが、街中を探してもその気配はどこにも無かった。


「誰かが、この街を探っていた……?」


 今のは恐らく不意の接触だ。相手もこちらの『覗き見』に気付き、慌てて魔法を解除したのだろう。


 私が街を見守るのは公然の秘密。今更バレたとしても、それで困る事は無い。


 しかし、私が守るこの街に、土足で踏み入る者がいる。それは私の縄張りを荒らす敵だ。私への宣戦布告でも無ければ、身元がバレて困るのあちら側だ。


 つまり、何らかの事情で、何らかの情報が欲しかった。しかし、監視している事を、私には知られたくない者が居ると言う事だ。


 それと同時に、最悪はバレても何とかなると考えている。だから私の存在を知りつつも、今回は魔法による情報収集に踏み切った。


「念の為、グリムへ報告せねばな……」


 まあ、それは明日の朝で良いだろう。グリムも今は眠っている、敵が行動に移さぬ限り、今すぐ伝える必要はあるまい。


 そして、私は徹夜に慣れている。朝まで監視を続ける事に問題は無い。相手がやる気であれば、何日だって付き合ってやる。


「さて、何者だろうな……?」


 私はニヤリと笑う。グリムと私を相手に、喧嘩を売る程の相手だろうか?


 もしそうなら、楽しい時間となりそうだ。狼人族の本能なのか、私は強者との闘いには血が滾るタイプらしかった。

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