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魔法の訓練(アリス視点)

 ダンジョン攻略から戻った翌日。わたしはペローナさんと共にダンジョンへ訪れました。魔法の訓練を行う為です。


 地下一階と二階は冒険者が多く、訓練には向かないそうです。そして、地下四階もB級冒険者のメインの狩場となっているとの事でした。


 なので、比較的人の少ない地下三階。オークの出現する階層で、わたし達は魔法の訓練を開始します。


 ペローナさんは静かにわたしを見つめています。わたしはそんな彼女に尋ねてみました。


「ペローナさん。どうすれば魔法の上達は早くなるのでしょうか?」


「魔法の上達だと? 地道な反復が一番だが、そうだな……」


 ペローナさんは腕を組んで考え込みます。目を細めて、何かを思い出そうとしているみたいでした。


 ペローナさんも一流の冒険者です。グリム様の隣に立てる、数少ない魔法使いなのです。


 グリム様とは違った視点で、何かしらのアドバイスが貰えるのではと、わたしは期待しています。


「……そう、明確なイメージ。私はグリムからそう教わった」


「明確なイメージですか? それはどういう意味でしょうか?」


 わたしは首を傾げます。ペローナさんの説明がピンと来なかったからです。


 そんなわたしにペローナさんは小さく頷きます。そして、真剣な眼差しで説明を始めました。


「グリムの使う魔法は、過程をとても大切にしている。一般的な魔法使いの様に、結果が同じならそれで良いとは考えないんだ」


「結果が同じならそれで良い?」


 わたしはまだグリム様に魔法を教わっていません。教わらないままに、魔法を使えてしまっているのです。


 だからこそ、グリム様と他の魔法使いとの違いがわかりません。ペローナさんはわたしに対して、一つ一つ丁寧に説明してくれます。


「例えば私の『弱体』の魔法。これは相手の生命力を消失させる効果がある。では、生命力の消失とはどうして起こる?」


「生命力の消失は、どうして起こる……?」


 わたしはペローナさんの問いに目を丸くします。わたしからすれば、そういう魔法だからとしか思えなかったのです。


 わたしが答えられないでいると、ペローナさんはそのまま続けて答えを口にしました。


「私の魔法は精神系の魔法だ。生きる意志を奪う魔法なのだ。辛い事が起きた時に人は『死にたい』と思う事がある。その状態を強制的に引き起こしていると言える」


「『死にたい』と思う、状態ですか……」


 ペローナさんの魔弾に撃たれた事がありますが、わたしはそんな状態だったのでしょうか? 体に力が入りませんが、わたしに『死にたい』と言う気持ちはありませんでした。


 しかし、わたしが戸惑っていると、ペローナさんは頷きながら説明を続ける。


「そう、本来なら感情に作用させる魔法。しかし、グリムは敢えてそれを、肉体だけに適用させる魔法へと変えた。それは、受けた相手が何が起きたかわからず、混乱させる為にだ」


「――あっ……」


 確かにわたしも混乱しました。急に体に力が入らず、何が起きたかわからなかったのです。


 もし、それが魔法の知識がある人ならば? 未知の魔法と勘違いし、より混乱したのではないでしょうか?


「私の魔法は『弱体』魔法のアレンジ。効果範囲を肉体に限定し、消費魔力も抑えたものだ。実践の中で考え続け、私に合わせてカスタムした魔法。それが出来たのは、魔法の理屈をしっかり理解していたからだ」


「つまり、わたしの『加速』や『風の障壁』も……?」


 わたしの問いに、ペローナさんは頷きます。それはつまり、わたしにも自分に合ったアレンジを、魔法に施す事が出来ると言う事です。



 ――糸口が見えてきました!



 魔法の上達がどうすれば良いか、先ほどのわたしは迷っていました。しかし、今ならばその答えがハッキリと理解できます。


 沢山の魔法を覚えるのでも、威力の高い魔法を覚えるのでも無い。わたしに適した魔法を覚える事が、何よりも重要なのだと。


「……ちなみに、わたしに適した魔法って、どうやって見つけるものでしょうか?」


「それはひたすら戦うしかない。戦う中でもどかしく感じたら、そこを弄る感じだ」


 ザックリとした説明ですが、それはぐうの音も出ない正論です。どうやら今のわたしに必要なのは、魔法の訓練よりも実戦経験みたいです。


「今日は一先ずオーク狩りで良いだろう。明日はアリスの苦手とする、地下四階が良いだろうがな」


「……そ、そうですね。今日は初日なので、無理せず行きましょう!」


 地下四階は沼地です。足場の悪いあの階層は、わたしとの相性が最悪ですからね。


 訓練に良いのは間違い無いですが、どうしてもあの階層は嫌悪感が出てしまいます。それを明日にしてくれたのは、ペローナさんなりの優しさなのでしょう。


「何かあればフォローする。好きな様にやると良い」


「はい、わかりました! ありがとうございます!」


 ペローナさんは本当に頼りになります。グレーテルさんとも違ったタイプだけど、本当に姉の様に面倒を見てくれます。


 ふと、お姉ちゃんと呼ぶと喜ぶかなと、わたしの脳裏に過りました。


 けど、それをすると訓練にならなくなる気がします。わたしはそのアイデアを破棄し、目の前の訓練に集中するのでした。

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